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古本屋日誌
2022-09-09 12:00:00
今はもうないが、上六に「一色文庫」という古本屋があった。
ここは老後の長い時間をどうつぶしていくかの試みをしているように思えた店だ。
客は年齢を重ねて足腰に不調が出て、本屋で立ったまま本を選ぶのがえらくなってくる。
そこで、この古本屋は、本は三方の壁際に集めて、店の真ん中にはたくさんのソファーを配置していた。
ゆっくり腰掛けて本を選んでくださいという配慮だ。
ブックオフほどではないが店内は整理整頓されていて、床に本が山積みになっていて、通るのもやっとなどということはない。
また置いてある本も最近のやつではなくて30年、40年、と年月の試練を経た、客には若い頃の思い出を呼び覚ましてくれる懐かしいものがそろえてある。
キネマ旬報が毎月出していた『蒸気機関車』、文藝春秋がだいぶ前に出した3巻本の『向田邦子全集』。
かなりたくさんの本に、カバーの上から透明なシートをわざわざ掛けてくれていた。もともときれいな本だが、さらに美しさが際立っていた。これも客への細やかな配慮だ。
もちろん客から最近出た本も譲り受けるのだが、それはAmazonで販売して、店には置いていなかった。
店の真ん中にはテーブルが置いてあって、普段は上に単行本が並んでいる。
しかし、時折それを囲んで、読書会をやっていた。
コーヒーやら紅茶、お菓子を食べながら「じゃりン子チエ」や「嵐が丘」について、関心のある数人の年寄り連中がああでもない、こうでもないと楽しいひとときを過ごすのだ。
店にはたくさんの客がいつもいて、繁盛しているように見えた。
しかし去年の年末、何の予告もなく閉店。
未だに未練が残る。