Welcome

古本屋日誌

2025-08-09 22:18:00

岩波現代文庫の『未来からの遺言』が今月重版となった。10年以上前に出て、品切れがずっと続いていて、今回2刷。

 

現代文庫の帯には8月13日にNHKがもっくん主演でこの作品をドラマ化して放送する旨の宣伝が載っていた。なかなかNHKも思い切ったことをするものだ。

 

というのも、この作品は被曝者神話を解体する側面を持っているからだ。

 

 

元々1980年に青木書店から単行本が出たのだが、すぐ品切れとなって古書価も5000円くらいしていた。

 

 

内容は長崎で8月9日に被爆した吉田さんから聞き取った話で、彼は当時小学生だったが、防空壕から出たところ強い光を浴びて被曝し、両親や兄妹は姉一人を除いて亡くなった。

 

 

被爆した二人は、入退院を繰り返して、苦しい中姉が仕事をして吉田さんの面倒を見てくれていたが、その姉も間も無く亡くなってしまう。

 

 

吉田さんは一人頑張って働く中、原水爆禁止運動に目覚めて、人々に被爆の恐ろしさを伝える活動もしている。

 

 

こういうものなんだが、原爆という赤ん坊も老人も含めて全員を抹殺しようとする兵器に対して、生き残ることはそれ自体が原爆への抵抗だろう。吉田さんの場合はさらに、原水爆禁止の活動に目覚めているわけだ。

 

 

しかし、後からそれは作り話で、吉田さんはそもそも被曝しているのかどうかも疑わしいとわかってくる。

 

被爆者となって、求められるままに話していくと、世間の注目も浴びることになって、一種の張り合いのようなものも生まれるのではないか、と著者の伊藤清彦は記している。

 

 

ここまでの話なら、かなりとんでもない偽装であって、批判されるべきだとも感じる。

 

しかし伊藤はそうは言わない。

 

 

長崎を訪れて、原爆の恐ろしさに心底ショックを受けた人は、たとえその体験が5年後、10年後であろうとも、その人は被爆者と呼んでいいのではないかというのだ。