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古本屋日誌

2024-07-13 18:15:00

先日、阪急の六甲近所のお宅にお邪魔して、蔵書を見せてもらった。

 

 

ここは坂の上に神戸大学があって(山口組の本部もあるのだが)いい本を持ってる人がいるのだ。

 

 

それにしても駅の北側にはバスやタクシーの発着するロータリーがあるのだが、そのわずかな平らなスペースを除いてものすごい坂が続いている。

 

神戸の人は何が嬉しゅうてこんなややこしいところに住んでるんやろ。

 

 

雪が積もったら、延々と下りのゲレンデとなって、JRの六甲道駅を経て、さらにダラダラと阪神電車の新在家までスキーで滑り降りられるだろう。

 

 

その北側にお宅はあって、ご主人(75)が亡くなられたので蔵書を見てほしいということなのだ。

 

奥さん「もうね、主人のこれはね、病気みたいなもんですわ。

 

 

こないこないして、こうてきよった本を本棚に並べられへんようになってもうて、畳の上にね、横に積み上げてまっしゃろ。

 

 

そないなことしたら、どこに何があるやらわからんようになってしもて、また本屋でこうてきよりましたんや」

 

 

「奥さん〜それはようあることなんですけど、頭痛いこってすな。

 

でもこのへん積んである本見してもうたら、大江健三郎のがようさんおますな。『死者の奢り』(文藝春秋新社)は初版で、上に油紙もかかった状態で、あんまり見たことないいい本です。

 

それから『夜よゆるやかに歩め』(中央公論社)は私もほとんど見たことがない珍しい単行本ですよ。初版だし、佐野繁次郎のカバーもきれいだし、上に油紙もついたままというのも好印象。」

 

「そうなんや、うちは本のことは何もわからんさかい」

 

「大江はね、私が一番好きな作家なんです。

 

紫式部に唯一引けを取らない1000年に1人の作家や思うんですわ。そのコレクションで、これだけいい本集めてはる方はなかなかいませんよ。ご主人はすごいセンスのいい方や思いますわ」

 

「そうですやろか〜」

 

「そら間違いない。だってほらこの『死者の奢り』やけど、裏に鉛筆で「初版、300円」て書いてあるやろ。この珍しい本が300円で古本屋に並んでたのは昭和30年代半ばだけやから、その時からご主人は大江の素晴らしさをチャーンとわかってはったわけよ」

 

「そうですやろか、そやったら、嬉しいわ〜」

 

「他にもこのへんの野呂邦暢の単行本は帯も付いてるし、初版のうえにコンディションもええので欲しいゆう人がようさんおる思いますで。ほんまにセンスのいいお人やった」

 

「そうですか、そう言うてもうたらうちもなんやら褒められてるような感じになってきますわ」