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古本屋日誌
冬場の風呂は危険だよなあ。
ぬくいところから脱衣所で、裸になって血管が収縮したところに、今度は湯船に浸かって一挙に血管が拡大して血圧も上がり倒れてそのままになってしまう人がたくさんいる。
俺の大学時代の友人の久保くんも、まだ62なのに風呂場で亡くなってしまった。
彼は鹿児島の出身で1981年に京都大学農学部に入学し、熊野寮に入った。
宵っぱりで、朝起きることができない学生だった。ファミコンの勃興期で人気のあったドラゴンクエストの研究を夜中ずっとしていたのだ。
ある時、夜中に久保さんの部屋を訪ねてみたら、(彼の部屋にはアラーキーの写真集がたくさんあるのだ)部屋の電気は落としてあって真っ暗な中、彼の机のところだけに、ぼんやり蛍光灯がともり、広げた紙面に一心不乱、何やら書き込んでいる。
「久保さん〜何してはんの❓」
「これ、ダンジョンの見取り図作ってる」という。
モンスターが潜み、落とし穴がたくさんある高層のダンジョンの地図を、試行錯誤しながら作成しているわけだ。
「そないなもん、要らんで。2、3回やったら落とし穴の場所やらなにやら、覚えてしまうやん」
彼は照れ笑いするだけ、凝り性なのだ。
金がないものだから、近くの琵琶湖疏水に出かけてブラックバスを釣ってきていた。
「この魚は、刺身でたべようとしたけど、臭い。焼いたら大丈夫やったわ」という。
金が本当にないなら、普通はアルバイトをしたり、先輩に借りたりする。でも彼は心底、仕事が嫌いなのだよ。
熊野寮の学生には、貧乏なふりをするくだらないやつもたくさんいて、俺はずっと不快だった。
学生は仕事をしていないのだから、金を持たないのは当たり前で、貧乏自慢などそもそもくだらない話だと思っていた。
経済学部の学生の吉村は法経館の大教室の講義に出ていて、終わってから教室で教授も交えて雑談していたが、教授が机の上に置いてある袋に入ったパンの耳の束を手にして
「これ誰のん❓食べもんよのうにも見えるな。吉村くんのんちゃうんか❓」と言いながら、ほーいと彼の方に放り投げた。
吉村くんはえらい怒り出した。「これはわしの昼飯ですわ。それを食べ物みたいとはひつれいだろう。先生はええもん召し上がっておられるやろけど」とバカなことをいう。
パンの耳はパン屋でタダでもらえるから、学生がよく昼メシにしていたことくらい、教授もよく知っている。
冗談も通じないし、おそらくこの先生が共産党のシンパのような本を書いていたのが気に入らなくて、難癖つけようとしたのだろうと思うが、いずれにしても頭が悪いし、全然スマートでもない。
久保さんは真の髄から怠け者だった。根性が入っていた。
夜中に1人懐中電灯を手に叡山登山をしていた。ようそんな怖いことできるよね。
「山ん中で、前を白い服着た女が歩いてんのよ。不思議や思って、早足で追いかけたんよ。でも小走りになっても、走り出しても、全然距離が縮まらへんのよ。あれは不思議やった」という。
あんたが不思議だよ〜