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古本屋日誌
2023-12-02 11:26:00
大江健三郎が岩波書店の『図書』に連載していた「親密な手紙」がようやく岩波新書で出た。
連載は2013年に終わっていたのに、長らく上梓されなかったのは不思議だったな。
亡くなる前の10年ほどの大江は、原稿に手を入れることがままならないほど、体調がすぐれなかったということなのだろう。
福島の原発事故以降、大江は反原発の集会に参加して、積極的に発言している。
この本にも岸田衿子を追悼するなかで
「原発の電気エネルギーなしでは、偉大な事業はなしとげられないと申す人々も居られます。それはうそであります。原子力によるエネルギーは、必ず荒廃と犠牲を伴います」と渡辺一夫をもじった文を書いている。
このあたりを読むと、大江健三郎が穏健な、市民運動の側の人間という感じは確かにする。
かつて『セブンティーン』や『政治少年死す』や『奇妙な仕事』『個人的な体験』などというおよそ市民道徳からも常識からもかけ離れた暴力的な、鮮烈な作品を矢継ぎ早に発表していた大江を知っているだけに微笑ましい。
そもそも大江は「天皇制を認めないから」として文化勲章を拒否するようなところがあるひとだ。
その片鱗が今回の本にもある。
皇后が仙台の宮城区を訪ねた際、被災者の女性から、自宅の庭に咲いていた水仙をもらって帰った。
実は16年前に皇后は皇居の水仙を持って見舞いににきたことがあったのだ。
大江は、つまりこれは前の水仙の返礼だと考えて「この国の文化のなかでの新しいものに感じられる人と人との対等の関係を、小さな黄色の花がかざっているように私は感じる。」と書いているのだ。
確かに、民主主義のこの世の中、身分制度であり、平等を否定する天皇制は不思議な存在だよな。