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古本屋日誌
歴史の分野では従来の通史を補うものとして個人の日記が援用される。
古本屋はそういうものも扱ってきたが、せいぜい明治時代に書かれたもので、戦後の日記なんかは、商品化せずほかしてきた。
ただ、戦争中の個人の日記はかなりの数が残っているようで、特注のノートに万年筆で楷書で丁寧に書かれたものも多い。そういったものはかなりの値段もついているのだ。
その人が亡くなってからも、故人の思い入れがあったことを遺族もよくわかっていて、そのまま保存していて、かなり経ってから古本屋に処分、引き取りを頼んでくる。
俺は日記はかなり好きだな。
自分でもパソコンに15年くらい毎日膨大な量を書いていたこともあって、日記なら誰にも明かしていないことも、自由に書いてしまうことを知っている。
だから、たとえ亡くなった人だといっても、人の触れてはいけない部分を覗き見るような、いけないことをしている感触もあって、それがそそるのだ。
先日は昭和6年つまり1931年の「軍用日記」を手に入れた。
軍用といっても、戦地で書かれたものではなく、陸軍が一般向けに日記帖を販売していて、各所にこれまでの陸軍の戦争での記念日や人事の沿革なんかを添えてあるものだ。
書いたのは大阪市東成区在住の20手前の若い男なんだが、読んでいくと、面白い。
正月3日に自分の会社である鐘紡に同僚の畑中と行ったとある。
そこで客から(なにを売ったのかは書いてない)代金1円を受け取ったのだが、その金を畑中はすぐに自分の懐に入れてしまった。
それで、この日記の主の、篠原くんは「今のは一円やったんちゃうか❓」
「いや50銭やった」
「しゃあけど、50銭銀貨が擦れあう音したけどね」
畑中は色を成して「ほたら、お客さんに聞いてみたらええやないか‼️」てな話が延々と書いてある。