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古本屋日誌
1980年代初頭に蓮實重彦が草野進というペンネームで「プロ野球批評宣言」を冬樹社から出した。
なんでもお茶の家元だとかいう触れ込みだったが、東大の先生がプロ野球にタッチするのは憚られたのかなあ。
蓮實の主張はプロ野球の醍醐味は家のテレビでプレーを見て、後追いのつまらない解説を聞くことではなく、球場に出向いて「あ❗️❗️」と息を呑むようなプレーを見ることにあるということだ。
だから彼女(一応、女という話になっている)は三塁打の魅力を縷々語っている。
ツーベースは少し条件が揃えば容易に成し遂げられるが、スリーベースは打球の着地点、守備のプレーヤーの位置や足の速さ、中継の選手の機敏さ、そして何よりも打者の足などさまざまな条件が満たされた時に初めて出現する類い稀な現象で、その魅力は球場に足を運ばないと味わえないというのだ。
確かに蓮實重彦の言うこともわかる。
神宮にせよ東京ドームにせよ狭過ぎて、こすっただけの外野フライが容易に本塁打になってしまう。
こんなバカな事はない。
球場が野球規則どおりに作ってあれば、スリーベースが生まれる確率も上がり、よりスリリングなプレーが展開されるような気もする。
しかし、そもそも、球場に来る人たちは、間違いなくどちらかのチームのファンで、球場では応援歌を歌ったり、ヤジや飛ばしたり、ビールを飲んだりしている。
プレーをきちんと見ているわけではない。
敵のチームのファインプレイなどを目にしたら一層イライラがつのるのだ。
こういうファンのあり方に、蓮實は異を唱えようとしているのだ。
騒いでないで、ちゃんとプレーヤーを楽しもうよという提言なのだが、そんなものはファンからしたら全く説得力はない。
それはさておき、この本は当初冬樹社から単行本ででたのだが、間もなく評判となり新潮文庫となった。(続く)