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古本屋日誌
上原隆が双葉社文庫で『ひそかに胸にやどる悔いあり』を出した。
上原はボブグリーン風のルポライターで、その辺の大衆の何気ない日常や大変な遍歴を明るい文体で綴ってゆく。
いわゆる有名人や著名人の自伝などまったく面白くない。どれもこれも、ワンパターンで、若い頃苦労したけど、今はこうなりましたというだけの話だ。
有名人はストーリーテラーとしてはなんの才能もない。
ものの価値もわからない取り巻きやバカにおだてられているだけで見苦しい。
その点、凡人の山あり谷ありの人生はわれわれの想像を絶するもので、内容も深いし、考えさせられるし、心打たれる。
その魅力的な大衆の人生と日常に、しっかり根を下ろしたルポを書いたのは猪瀬直樹が有名だ。
『日本凡人伝」シリーズは今読んでも実に面白い。
ただ猪瀬の取り上げた凡人は、まだまだ凡人と一括りにできないような才能の持ち主だった。
稲作で反あたり収穫量が日本一になってマスコミにも取り上げられて、田圃の畦道に見学者がスズナリになるオヤジとか、東大の生協の地下で長年時計の修理に勤しんでいるベテランの職人などが取り上げてあるからだ。
その点、上原が取り上げる凡人は、紛うことなき平凡な人たちだ。
書店員の中年男性で、同じ職場の女と相思相愛となって、デートも重ねて、ある時女が自宅に泊まることになった。
ところが男の方はキスをしたり、裸で抱き合うだけで終わってしまう。そういう経験がなかったのだ。
女の方は期待していたのに裏切られたような、物足りなさを感じたわけだ。
普通なら失敗に懲りて、風俗残業に出向いて教えてもらうとか、本を読んで勉強するとかするだろうよ。
ところが凡人だから、何もしない。
つぎのおうちデートでも、そのつぎのデートでも単に抱き合うだけなのだ。
もちろん女にあっさりふられて関係は終わるのだが、男の方は女々しくいつまでも電話をして着拒にされてしまう。
あげく「なんでこうなってしまったのか、あんなに話も合って楽しかったのに」と上原相手にして愚痴るんだから、笑わせるぜ。
失敗から学ぶことができない人はたくさんいる。
逆に一度の失敗でもしっかり原因を分析して、つぎはやり遂げる連中もいる。
そして両者が競争したら、後者がかならず勝ってしまう。これは能力差が元々あるわけだから、競争させるのは本来は不当なことなんだが、今のところあんまり問題にはなっていない。