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古本屋日誌

2023-01-30 10:02:00

今回の芥川賞は仙台のジュンク堂書店の店員を務める佐藤厚志が受賞した。

 

 

その前に候補作となった『象の皮膚』も面白い。

 

 

主人公はやはり仙台の書店に勤務しているのだが、幼い頃からアトピーで、皮膚が痒くてたまらない。

 

肉体的な苦痛もあるが、ささくれて黒ずんだ皮膚を好奇の眼で眺める周りも気になって長らく一人で苦しんでいた。

 

 

物語はそこからの解放をテーマにしているのだが、それはさておき、面白いのは仙台の書店にやってくる迷惑な客の話だ。

 

 

俺の印象では対面販売は、直接面と向かってやりとりをするわけだから、いくらなんでも遠慮がはたらくし、周囲のお客さんや店員の目も気になるだろうから、そんなにひどい話はなかろうと高をくくっていた。

 

 

逆に通販では、顔が見えない気楽さも手伝って、遠慮会釈ない乱暴で失礼な物言いが横行すると思っていた。

 

 

しかし実態はそうでもないようだ。

 

 

バックパッカーのなりで、カウンターにやってきた男が、レシートもないのに、ボロボロの雑誌の返品を迫る。

 

 

QUOカードで購入した本を持ってカウンターにやってきて

「先月号と間違えて買った」から返金してくれと言い張る。返金されたら差額の僅かな金を儲けようという魂胆なのだ。

 

 

 

電話してきて「これから探して欲しい本のタイトルをゆうから、確認のために続けて読み上げてくれ」といい、エロ本のタイトルを次から次へと読み上げる。

 

 

客だけではなく、従業員も無責任な人がいて、ややこしい客に絡まれている時に、助けることもせずに、雲隠れしてしまう。

 

 

さらに例の2011年の東日本大震災が襲いかかり、店の本は散乱し、自宅マンションの電気、ガス、水道といったインフラはストップしてしまう。

 

そのためアトピーは悪化して床に入っても寝られないくらい痒い。

 

10日後、いち早く店が再開すると、ものすごい数の客が押し寄せてきて、レジには大行列ができる。

 

 

レジ待ちの列に並ばず、「ここに金を置いておくから」とパズル雑誌を持ち帰ろうとするジャージの男がいる。

 

 

「お客さま、困ります。列にお並びください」と頼んでも言うことを聞かない。あげく握りしめた小銭を投げつけてきた。

 

あとで床に散らばった小銭を集めたら130円しかなくて、代金の590円には遠く及ばない。

 

そんなとんでもない話が綴られていくのだが、主人公はぐれもせず、目の前の業務に懸命になる。

 

下村湖人の『次郎物語』ではないか、面白いし、心打たれる。