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古本屋日誌
2022-07-04 20:03:00
今年亡くなった石原慎太郎の「わが人生の時の時」が新潮文庫で復刊となった。
この本はずいぶんプレミアがついていて一時は5000円以上していた。
石原慎太郎はつまらない小説が多すぎるのだが、この作品については素晴らしくて心打たれる。
それは確かにフィクションの形をとってはいるが、実は私小説であり、石原の実体験に裏付けられているからだろう。
冒頭にあるのは「漂流」と題された作品だ。
これは伊豆の大島でヨットを浮かべてボンベをせたらい潜って魚を銛でついて取るところから始まる。
たくさん仕留めて、エアーが少なくなり、海面に上がってきたら、頼みの綱のヨットが遥か遠くに浮かんでいる。
おまけに相手が風上なので声を張り上げても届かない。
「…するうち船は何を勘違いしたのかさらに遠ざかり、暫く探していたがやがてあきらめたのかそのまま走っていってしまった。」
男は漂流するのだが、運良く漁船に救助された。
しかし、腹の虫が収まらない。
帰ってしまったヨットのメンツのところに出かけて
「俺が黙って近づき首にまいてたレギをテーブルの真ん中にほうりこんで飛び乗ったら、金田の野郎が立ち上がって、
『なんだお前、生きてたのか』いいやがった。
俺は黙っていきなり力まかせにあいつの顎を殴りつけた。
(中略)
金田がまわりをとめて、『悪かったなあ、どうしようもなかったんだ』
いったよ。
俺は何かもっといいたいことがあるような気がしてたけど、でもそれっきりにしておいた。
『なぜだね』私は聞いた。
この男は頭に血がとぼると全く向かうみずに喧嘩をするのでも仲間内に知られていた。
しかしなぜかその時、彼は肩をすくめながらいった。
『まあ、海じゃよくあることだしな」」