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古本屋日誌

2022-06-04 21:02:00

西村賢太の「暗渠の宿」の初版本を入手しました。豊崎由美、坪内祐三、福田和哉の3人のコメントがある帯もきれいなので、ぜひお求めください。

 

この本は芥川賞を取るより5年も前の2006年の刊行だ。

 

「けがれなき酒のへど」が収めてある。

 

これは西村が同人誌に掲載したもので、それがその年度の同人誌優秀作と認められて、2004年12月の「文學界」に転載された。

 

内容は、黄白抜きで女と付き合いたいと願っている貫多が、ソープの女に入れ上げて、なんとか店外デートにこぎつける。

 

貫多は女のサラ金などへの借金80万を貸してやって、店をやめさせ、彼女と旅行に行く段取りとなるのだが、借金に加えさらに10万も渡したら、女は約束の時間に現れない。

 

携帯も通じない。結局は金は持ち逃げされ騙されてしまったのだ。

 

その後例の、七尾にある藤澤清造の菩提寺に法要で訪れる。

 

地元の篤志家の皆さんとの打ち上げでしたたか酒をきこしめして、貫多は堪えきれなくなり浜辺に出てへどをつく。

 

このシーンはこうなっている。

 

「今は他になすすべもない私は、むせる程の夏草の精液のそれを思わせる濡れ湿った匂いの中に汗まみれとなり、ただ死体のよう蹲って、最後の逆流がくるのをじっと待っていた。」

 

ややこしい異臭のはずなのに、「むせる程の夏草」てな、ちょっとは嗅いでみたいような青臭い表現になっている。

 

これは亡き藤澤清造の御霊を慰めたいという、弟子としての真心からの法要であり、その打ち上げで飲んだ「けがれなき酒」であるからなんだよなあ。

 

 ソープ女に渡す金を作るために、貫多は神田の古本屋に渡して積み立てていた師匠の全集作成資金に手をつけてしまっていた。

 

そういう、汚れ切った己の諸行も「けがれなき酒」で清められるという救済の話だ。