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古本屋日誌
2022-05-16 10:44:00
個人全集を集めるお客さんがいる。
俺はいくら大した作家だとしても、その著作の大半はレベルの低いものでしかないと思っているから、そんなものを含む全作品など馬鹿げているとしか思えないな。
先日亡くなった西村賢太の著作が今月立て続けに刊行の運びとなる。
「本の雑誌」での追悼特集に続いて、講談社文庫で「瓦礫の死角」が出た。
これは帯に西村賢太の写真を掲載したものなのだ。以前の精悍な顔立ちではなく、何か困ったような、仕方なくコートを着て佇んでいるような老けた写真で、もう賢太はこの世にいないことを実感させるのだ。
それはそうとその短編の中に主人公が森鴎外全集を買い求めるくだりがあった。
「(なぜ森鴎外全集を持っているのかの説明)いや、それもはなは清造絡みだったんですよ。そもそもね、二十年前にあの揃いを四、五万円だかで購めたのは、清造が鴎外の文章に心酔していたことを、一時期清造と同じ下宿屋にいた大木雄三が書いていたんで、それで入手しておいたんでさあね。実際、大正十一年の七月だったかのの鴎外の葬儀にも参列してますし」
自分の好きな作家が褒めていた、葬儀にも出ていたから、全集をこうたということだ。
たしかに鴎外の散文は超一流なんだが、何も全集をこうてまで確かめるものではなかろうと、思うのだ。
新潮文庫の「舞姫」でも「阿部一族」でもかまわないのに、全集を大枚はたいて買うんだから困ったもんだよなあ。