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古本屋日誌

2021-11-07 21:47:00

京都大学の熊野寮に住んでいたことがある。

この寮は1970年ごろに建てられた鉄筋コンクリート4階建ての棟が東西方向に3つ並んでいるもので私が入寮した時はまだ建ってから10年ちょっとしか経たない頃だった。
3棟並びのうち真ん中のB棟の一階に農学部の山本くん(仮名)が住んでいた。
彼は鹿児島出身で坂が強く、全く講義に出ることもなく日がな居室にこもってその頃発売された「ドラゴンクエスト」に夢中だった。
ある夜更け山本くんを訪ねてみたら12畳くらいあるモルタルタイルの居室は真っ暗で相部屋で彼の同僚の学生はもう舟を漕いでいる。
山本くんの机のところだけがほのかに明るい。
近づいてみたら机に置いたテレビ画面を見つめて鉛筆を握りしめて何やら紙片に書き込んでいる。
「山本くん❗️山本くん❗️何してんの❓」
「今ね、ダンジョンのな、各階ごとのな、見取り図を作ってんねん」
画面を凝視しながら机上に広げた紙に鉛筆で丁寧にダンジョンの構造が書き込まれている。
どこに落とし穴がある、どのコーナーにモンスターが潜んでいる、どの宝箱は本物だ等のデーターも細かい字で書いてあるのだ。
その作業を進めるために、コントローラーを少しずつ動かして試している。
落とし穴とかがあってなかなかクリアできない人もいるようだが、何回かやったらさすがに危険な箇所はわかるし、実に無駄な作業だ。
また、彼は真夜中に登山するのが好みだった。
銀閣寺の脇から大文字山に登りそこからさらに足を伸ばして比叡山まで行くのだ。
「あのな、夜中やから海中電灯持ってな山道を歩いて行くねんけど道の少し前にな白い着物着たひとが歩いてるねん。誰なんやろな〜て気になるやろ。せやさかい早足になって追いついたろ思て、思いっきりせかせか歩いたってん。せやけどどないしてもその白衣のやつには追いつかれへんねん。あれは不思議やわ」
勉強に身が入らないだけでなく、アルバイトもめんどくさくてやらない。どうしても腹が減った時は寮から少し南に歩くと琵琶湖疏水が流れている。
ここにたくさんブラックバスがいるのだ。
適当な餌でなんぼでも釣れる。
「初めにな刺身で食べてみたろ思たんやけどな、くそうてくそうて無理やったわ。ほんで焼いておしょゆうかけてみたら充分食べられたわ」との報告を受けた。


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