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古本屋日誌

2020-12-19 12:26:00

雑誌「フリースタイル」には山上たつひこが長らく「大阪弁の犬」というエッセイを連載している。

高校を出て安堂寺にあった貸本の出版社日の丸文庫に入社して編集の仕事に携わるかたわら、自らもいろんなジャンルの作品を描いていた1960年代後半の話だ。

当時山上が下宿していた安下宿のオーナーは下宿人の世話をさせるために女中を雇っていたが、この女が頭のいかれたやつで時々仕事をほったらかして行方不明になってしまう。

1、2週間してふらりと舞い戻ってくるのだが、哀れに思ったのかオーナーは首にせずに使い続ける。

この女は正月が過ぎて春にもなろうというのに下宿人に会うと「明けましておめでとうございます‼️」と無気味な挨拶をしてくる。

山上も初めは聞き流して応じていたが1月末のある時例によって「明けましておめでとう‼️」と言われてムカッときて

「やかましい‼️明けましてとちゃうわい‼️」と怒鳴りつけてしまう。

それからこの女は山上に出会っても話しかけなくなりやれやれと思っていたら、ある晩遅く山上が灯りを落として机で執筆していたらそろそろと窓が開けられて、例のバカ女の手が伸びてきて窓際にあるガス栓をひねってガスを出しっぱなしにしてまたそろそろと窓を閉めて行ってしまった。

何をとち狂ったか山上の殺害を狙ったのだが、彼は騒がず、さっさと元栓を閉めて終わりになった。

普通なら大問題だし、女を訴える事態なんだが、その時山上は特に気にもならず女の責任を追及することもなく、また下宿を引き払うこともしなかったというのだからよくわからない。

山上にはバカな人間と共存できる術があったのか、それともこの程度は悪戯みたいなもんだから大したことないと見切っていたのか本心はどこにあったのだろうか。

しかし夜遅く起きていたからよかったものの、ひょっと疲れから寝ていたとしたらそのままお陀仏になってしまっていたのではなかろうか。

そうなれば天才、山上の諸作品を拝むことも出来ず、それにインスパイアされた秋本治がデビューすることもなかったかもしれない。

バカの問題は実は深刻だ。




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