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古本屋日誌
住吉の長屋に暮らしていた中学生時分に、同じ長屋に競輪の選手をしていた後藤さんがいた。
長屋なので六畳2間に台所、玄関のすぐ右に二階に上がる階段がありそこも同じような作りだった。家の中には競輪用の軽快な自転車が並べてあった。
周りの人が言うには「後藤さんはなあ、スゴイんやで、日本一に二回もなってんねんで」
日本一になっているにしては貧相な長屋住まいだと小学生でも思ったことは思った。
競輪の選手なのにえらいこえていて、夕方になると家の前に床几を出してどっかと座り、パンツ一丁、上半身は裸で酒を飲んでは町内の悪ガキに目を光らせていた。
プライバシーなどない時代なのであることないこと全て筒抜けで、小学生の時には虫歯を治すように言われていたが、歯医者が怖いのでいつまでもぐずぐずしていたら、後藤さんのおばさんに無理やり自転車の後部座席に乗せられて膝の上にロープをかけられて歯医者に連行された。
中学2年の11月に倒立前転を失敗して右足を骨折して入院した折には「正月は家に帰らんとな」と病院まで自転車で迎えに来てくれて、わざわざ住吉警察署の前をゆっくりしたスピードで走った。
警察署の前に制服姿、樫の棒を両手で持つ警官はハッとした顔つきになってこっちを向いてなんか叫んでいる。
「あれはな、2ケツはあかんゆうとんねん」と涼しい顔で通り抜ける。
その後藤のおっちゃんは酒で身を持ち崩して肝硬変になってしまい、入院先の病院で死んでしまった。葬式も済んでしばらくたった真夏の午後おかしな出来事があった。
右手に以前池があったが、埋め立てられその時はもうモータープールとなっていて、正面に国道26号線に向かう東西の道左手に安立小学校へ向かう南北の道がある辻のところに、真夏のギラギラ照りつける太陽の中、西側から突如として自転車に乗った後藤さんが現れた。
赤錆びたいつも乗せてもらっていたやつで後藤さんは上はシャツを着ていたが下は相変わらずパンイチだった。
ゆっくりしたスピードで驚愕する私の前をニヤニヤしながら通り過ぎた。
これまで生きてきて幽霊を現認したのはこれが唯一だ。
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