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古本屋日誌
2020-08-09 08:24:00
「山田稔自選集 3」が編集工房ノアから出た。1930年生まれの著者の年譜も添えてある。この3巻目はフランス留学中の話を中心にしたものだ。
山田はパリの高級住宅街に下宿していたが、それは金持ちの年寄りが税金対策としてやっていたことで、確かに賃料は相場よりずいぶん安かったという。
山田は下宿で大半の時間を過ごし鬱々として楽しまなかったが、オーナーの老人が時に散策に連れ出してくれることがあった。郊外の森を散歩して楽しんだのだが、ふと気がつくと老人の姿が見えない。
取り残されたとか、悪戯というのではない。気をつかって誘ったわけだからサービス精神があるわけだ。
山田にも心当たる節があって人と過ごしていてもなぜかふと自分だけの世界にこもってしまうことがある。
しばらく道を戻ってみたら木々のあわいさに老人が佇んでいるのが見えた。取り立てて慌てる風にも見えないし、悪戯を見つけられた悪ガキのようでもないし、もちろん相手への違和感に耐えているように見えない淡々としている。
山田はこれが人が死んで見えなくなってしまう世界みたいなものではないかという。
若い頃は人間関係の煩わしさについそれが表情に出てしまうことがある。嫌われた方もそれを感知して「だったら最初から誘わなかったいいだろうよ」との思いを禁じ得ない。
しかし老いが広く深くわだかまりを包み込んでくれることがあるという話なのだ。
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