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古本屋日誌
2020-07-25 13:17:00
編集工房ノアから出た山田稔の「幸福へのパスポート」は著者のフランス留学中の私小説風の佳品だ。
学生時代の知り合いで、その後演劇仲間と結婚して一児をもうけたが夫の羽振りがよくなると捨てられてしまい傷心をかかえてフランスに来ているという堀清子の噂を山田は耳にする。
やがてパリの街角で17年ぶりに彼女と再会するが、容貌の衰えはもちろん、生活苦や心労に苛まれる様子が痛々しくて周り背けてしまう。
しかし清子の瞳にも驚愕の影がありありと浮かんでいるのを見て、山田自身も今やうらぶれた1中年男に過ぎないことを思い知らされる。
山田はフランスで盛んな結婚相談所のパンフを取り寄せることに熱を上げていて、料金のかなり安い「幸福へのパスポート」にパンフを申し込むが、なぜか届かない。
やがて新聞に「幸福へのパスポート」の社主が男女250人から申込金だけを詐取して行方をくらましていることが載った。
青春時代に夢多き男女がそれぞれに抱いたであろうイメージは時を経てかなわず、今や老残の身と変わり果ててしまった。すると今までそれぞれ別々の容貌を示していた男女が「それぞれの姿、それぞれの形を失って同じ相貌をおびはじめる。おなじ位置を占めはじめる」
なかなか大人でないとわからない苦味のあるいい小説ですね。
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