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古本屋日誌
2020-04-26 11:46:00
新潮文庫から去年山本周五郎の「季節のない街」の新版が出た。
活字が大きくなり、カバーは川瀬巴水の版画だ。スラム街の話なんだが川瀬の版画は川べりに家屋が張り出して佇む風景で情緒たっぷり、失われたものたちへの郷愁をそそる。
だが周五郎の作品は赤裸々に貧民大衆の日常を描いたもので昭和レトロブームをあざ笑うかのような作風、そのコントラストの鮮やかさに心打たれる。
なかでも「とうちゃん」は秀逸だ。腕のいい刷子職人の良太郎には五人の子がいるのだがどれも父親が違うという噂なのだ。妻のみさおは男グセが悪く、子供の面倒も見ることなく遊び歩いており、そのくせ旦那の仕事ぶりには「もっとちゃっちゃとできないのかい、グズでノロマだよ」と文句をつけてその稼ぎで遊んでいる。
子供たちは口答えもせず父親の手伝いをする健気な兄弟なんだが、外で口さがない大人の言葉を耳にする。やれ「あそこの家はみんな父親が違っている」やれ「お楽しみのことだよなあ」。
ある時次郎が泣きながら帰ってきて良太郎に「とうちゃん、とうちゃんは本当にとうちゃんなの?みんな違う違ういう」と真剣な面持ちで問いただした。
さて良太郎の返事は?
ここが面白いところなんですな。
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