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古本屋日誌
このところ酔っ払いが駅のベンチで居眠りをして、次の電車が来るというアナウンスに飛び起きて、そのままフラフラホームの先端から足を踏み外して落ちてしまう事故があったためなのか、その予防のためなのか、ベンチの向きを線路と平行に変えるようになった。
京阪電車でもうちの最寄駅の萱島と土居駅がそうなっている。萱島駅はご丁寧に通過列車が走る線路に面したホームには紅白のウォーニングペインティングまで施してある。
ただ萱島から京橋までをみてみたらこの形になっているのは萱島、土居、京橋の3駅だけで他は従来通り線路に直面する形になっている。
中野孝次はもともと千葉の工務店の息子だったが、なぜか勉強が好きで、親の意志にも反して千葉から出ていくことを目指して一浪して東大文学部に入りドイツ文学者として「ブリューゲルへの旅」などをものした。
完全な西洋かぶれであり、大東京の至便な利点を思いっきり享受していたが、日本のインテリの通弊として老境にさしかかると田舎がいいと言い出して、現代文明の毒から逃れたいなどと「清貧の思想」なるものを唱え本はベストセラーとなった。
中野は犬好きで柴犬をこうていて、しかし十分にしつけられず散歩を強制されては、ルートも犬の思うがままになり、危険な国道も中野の制止を振り切って犬は堂々と渡ってしまう。中野は「可愛いだけの愛玩犬よりも自主性のある犬の方がいいんだ、可愛いだけの犬を求める日本の風潮には嫌気がさしている」という。
まああれですね、私は中野の言うことは全く賛成できませんな。犬の話は単にだらしない飼い主だというだけで、もっと真面目にやらないと散歩中に他人を噛んだり、他の犬と悶着になって困るだけだ。「清貧の思想」なるものは散々放蕩を尽くした若旦那が遊び疲れていだく感慨みたいなもので、ごく普通の大多数の人には思いもよらない話だ。
古本でいえば中野の最後を伝える「ガン日記」は単行本も文庫本もかなり高い。
中野は末期の癌だと診断されて、初めはもうこれで命も終わりなんだし、無駄な最新治療なんかに頼ることはしないと治療を拒絶しようとしたが、やがて痛みに耐えかねて標準治療を選んだ。
まあこの辺りは「清貧の思想」とか言ってたけどいざとなると全然違うじゃないとかの批判もあるようだが、そうとばかりもいえないし、なかなか難しい問題だな。