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古本屋日誌

2019-09-27 12:08:00

新潮文庫から山本周五郎の「季節のない街」の新版が出た。

市井もので「青べか物語」につながる作品です。季節も何もなくいつも同じ暮らしぶりが延々と続き、そこから抜け出すきっかけも何もない街、つまりスラム街の人間模様を丹念に描いた作品だ。

中でも「プールのある家」は心打たれる。それは40がらみの父と6、7つほどの男の子の乞食の話で、変わっているのはこの2人が道端に座って「右や左のだんな様〜〜哀れな乞食にお恵みを〜〜」てなことをやらない、物欲しげなところの全くない点です。

その秘密はやがて明らかになるのだが、2人は始終これから建てる自分たちの家の設計を語り合っている。場所は小高いところがいいとか言うのだが、父親の話はそこでは終わらない。

「日本は台風やら地震が多い、それで強い風が当たらない山の陰とか谷間に住むようになったんだ、他にも淡い光を大切にしたいという日本的な美意識もあった」とかわけのわからないうんちくをたれます。

ここが周五郎の面白いところでうかうかしていたら読んでるこっちが「あーなるほどねー地震が多いから谷間に住んだ方がいいんだあ〜〜」と説得されてしまいます。

もちろんそんなことはない。谷間に住んだら地震の際の山津波で飲み込まれてしまいますよ。

それはそうと2人の食料は子供が夜中に飲食店や飲み屋を回ってもらってきた残飯なんです。

親父はローストビーフの切れ端を食べながら「このねー生の肉なんだけど、ドイツやフランスでは牛の肉は生で食うんだぜ、玉ねぎや月桂樹の葉をレモン漬けにしておいてその中に肉を押し込んで、玉ねぎのみじん切りとスパイスを乗せて黒パンと一緒に食べるんだぜ」とか無意味なことを言う。

まああれですね、これはつげ義晴の「無能の人」みたいな話なんですね。大した能力もないくせに普通の生活には馴染めない、他の人とは打ち解けられない、まあエセインテリみたいな人たちですよね。