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古本屋日誌

2019-07-14 10:38:00

新潮文庫の最新刊で山本周五郎の「季節のない街」が出た。活字も大きくなり、カバーもメルヘンなようで不気味なものを宿している感じで素晴らしい。

周五郎はその文体が優れていて、読むものをその気にさせてしまう。高倉健の「網走番外地」みたいなものです、それをみてから相撲大会に出たら優勝してしまうくらいのパワーがあるのだ。

例の「青べか物語」は浦安の名もない無教養な連中相手に作者がおちょくりたおす話で川が実は下流から上流に流れているのであって、当然転がっている石も下流から上流に流れていくんだと主張し、バカがその気にするのはさもあらんだが、読んでいるわれわれも説得されてしまう。

この「季節のない街」でも頭の弱い主人公が街中に繰り出して市電の運転をするシーンのディテールは事細かくて、本当にやっているようなリアリティがある。もちろん頭の中で運転の諸動作を繰り返しているだけだから道ゆく人には何も見えない。近所の連中は「あ〜またかあ〜」てな具合にニャニャしたり罵声を浴びせる程度なんだが、災難なのは知らない人たちで、「電車は急にはとまらへんやろ‼️飛び出すな‼️」と怒鳴りつけられて眼を白黒させる、面白い。