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マック超えのラーメン「山岡家」 コロナ3年、頑固貫く
新型コロナウイルスの感染拡大からほぼ3年。産業的に大打撃を受けたのは言うまでもなく、外食産業だ。
実際にコロナ前の売り上げを超えているのは、日本マクドナルドホールディングス(HD)など数少ない。
そんなレアな成功企業の中で、イートイン(店内飲食)だけでコロナ前を超えたラーメンチェーンがある。
札幌市に本社を置く「ラーメン山岡家」だ。マックもしのぐ山岡家の強さを探った。
イートインで既存店増収1位
山岡家の店舗数は全国に約170店あり、東証スタンダード上場の丸千代山岡家が運営する。
外食専門誌「フードビズ」が掲載している各社の既存店売上高のコロナ前比較をみてみると、山岡家の伸び率に目を奪われる。
2022年1~7月の既存店売上高を19年比の増減率で見ると、プラス企業はわずか13社だ。
トップは日本マクドナルドHDで27.1%と高い伸び率を示す。2位以下はモスフードサービス、日本ケンタッキー・フライド・チキンなどが続き、6位が山岡家の8.8%増。
興味深いのはイートインに限定した企業でみると、山岡家が1位となることだ。ちなみに9月の既存店客数は19年比で25.4%増とマクドナルドも上回る。なぜ山岡家はコロナ下で成長したのだろうか。
トラックドライバーの心も満たす
丸千代山岡家の大島正一経営企画室長は「店舗のほとんどがロードサイドで、コロナ下のリモートワーク増加が追い風だった。
山岡家は国道沿いなど郊外を対象とした店舗が中心で、トラックドライバーの利用が多い店だ。
味もこってりで長距離を走るドライバーたちの食欲をそそる。
しかも約170店のうち、大型駐車場を備えた13店にはシャワー室を完備している。
食事前後にシャワーを浴びて、トラック内でリラックスできるようにするためだ。こうした配慮が口コミでも伝わり、「俺たちの山岡家」という感覚をドライバーに根付かせたのだろう。
特にコロナ下はネット通販が急激に伸び、トラック輸送量も急増した。
国道沿いでドライバーのオアシスである山岡家はリピーターを増やし、22年に入ってからも好調を持続している。
8月以降は19年比20~30%の高い増収率を示している。これだけ伸びているのだから、様々なテークアウトを用意すれば、さらに売り上げが増えるはず。しかしあくまでラーメンはイートインにこだわる。
そこには山岡家独自の「頑固一徹」哲学があり、この揺るぎのなさがコアファンを魅了している。
多くの外食チェーンはセントラルキッチンで主要な食材の下準備や調理を済ませ、店舗に配送する。
これに対して山岡家では麺は共通ながら、ラーメンの味の核となるスープとチャーシュー、野菜類のカットは店内調理でこなす。
とりわけスープ作りは、熟練の技が欠かせない。「早くて3年かかる」(大島室長)といい、新規出店はスープを任せられる店長が育つことを目安に決めている。
かつて無理に年19店を出し、業績に悪影響を及ぼした苦い経験がある。
このため現在は新店を年間7~10程度に抑えている。運営形態も直接指導できる直営店に限定している。
スープに関する技能指導は徹底している。
不定期に店長を集めたスープ講習を開き、店長になってからも熟練度を高める。
さらに創業者の山岡正会長が自動車で全国の店舗を1人で回り、指導していく。ここまでこだわるので、味が劣化しないイートインだけに特化しているわけだ。実は都心部に出店しないのも、ラーメンのこだわりに理由がある。
麺をゆでる時間は7分間。忙しい都心部の消費者には待ち時間が長く感じられてしまうので、山岡家の出店先としてそぐわないとの判断だ。
家では提供できない価値
フードビズ主幹の神山泉氏は「外食の良さとは家では提供できない価値を生むこと」と指摘する。
誰でもできそうだが、手間のかかる味と運営のベースづくりと不断の改善が欠かせず、簡単にまねできない。外食産業の持続的な成長に、山岡家モデルは一つの隠し味になるだろう。
外食産業は流行りすたりが激しいが、やはり専門に特化することと人材育成が大切だと感じる記事である
顧客優位時代の企業戦略 存在感増す「アドボケイト」
企業やブランドを擁護するほど高いロイヤルティー(忠誠心)を持ち、他者に積極的に推奨する顧客を「アドボケイト」と呼びます。
英クランフィールド大学のマーティン・クリストファー名誉教授らの1990年代初頭の著書「リレーションシップ・マーケティング」で、アドボケイトは紹介されています。
見込み客から購買者が生まれ、リピーターとなり、ロイヤルティーが発生すると「支持者」となります。
その中から生まれるのが「アドボケイト」で、企業のためのマーケティングの担い手にもなります。
ソーシャルメディアやスマートフォンが生活に溶け込むデジタル時代では、アドボケイトの存在感が高まります。
米ノースウエスタン大学のフィリップ・コトラー名誉教授らは著書の中で、デジタル時代のマーケティングに有効な「5Aモデル」を示しています。
5Aは、認知、訴求、調査、行動、アドボケイトを指し、デジタル時代では、顧客を認知段階からアドボケイトに進ませることが究極の目標だとしています。
数年前にはインフルエンサーが注目されました。
有名人やソーシャルメディアでフォロワーを多く持つような、他者に影響力がある人々です。
マーケティングに活用したい企業は、こうした人に日用品や化粧品などを使ってもらいます。
その感想を発信すれば、信奉するインフルエンサーの情報として、消費者には一定の効果がありました。
しかし、今では効果は限定的です。
企業からお金をもらい、使ってもいない商品を紹介する案件もあることを、消費者は次第に分かるようになりました。
透明性が高い現代では真実は見抜かれやすいのです。
それよりも、ブランドを愛用するアドボケイトの情報に消費者は耳を傾けます。
アドボケイトが知っているブランド・ストーリーや使用法などを紹介した方が信頼性は高く、情報の価値が高まるのです。
情報があふれるデジタル空間では、消費者は専門性の高い情報を欲しがります。
長期的なブランド構築の観点からも、インフルエンサーよりアドボケイトの活用が有効です。
上司への一票、試される部下の覚悟 忖度いつか死語に カイシャの未来「目覚めるシャインたち」
【このレポートのポイント】
・昇格を同僚や部下の投票で決める企業が現れた
・上司に忖度する者が重用されがちな風土を改める
・伊藤忠は部下の本音を知るため点数制度を導入
機械工具卸大手、トラスコ中山の株主総会は、取締役にとって普通以上に緊張する場となる。
課長や支店長以上の社員、約140人からの平均評価がさらされるからだ。「マネジメント力」「コミュニケーション能力」など6項目合計で24点満点。
2期連続で16点を下回れば降格が待っている。上司のほか同僚や部下も評価に加わる360度評価。
「役員は自分の子分を引き上げたいだけじゃないか」。きっかけは人事会議で中山哲也社長が抱いた疑問だった。
部課長7〜8割が昇格保留
「オープンジャッジシステム」と呼ぶ制度は大胆だ。
昇格候補者を知る社員全員が投票でき、賛成が8割未満、または最低投票数に届かないと昇格は保留。部課長では7〜8割が一度は保留になる。
候補者には投票者が書いた全コメントを伝え、意識改革を促す。
12年からは取締役、15年からはパートに対象を広げた。
労働政策研究・研修機構などの22年の調査でも、50.5%が「同じ会社で長く働き続ける」のが理想と答えた。人間関係が固定されるなか、上司に忠実に忖度(そんたく)する者が重用され、派閥化する弊害もはらむ。
様々な社員の目を、適正な評価に生かす試みが進む。
13の国・地域で500店を展開する眼鏡店、OWNDAYS(オンデーズ、那覇市)の総選挙は10回目になる。
地区統括などの要職が対象で、立候補者は「政見放送」やポスターを用意。
筆記テストの結果や担当エリア内の離職率の低さ、売り上げ実績なども点数化して事前に公表される。選挙当日の質疑応答も社員たちの判断材料だ。
「幹部候補になるほど一個人としての実力・魅力を発揮する必要に迫られるんです」(田中修治社長)。
会社の明日を左右する一票は、部下にも重い責任を自覚させる。
ある店長は「印象だけでは選ばないし、選んだ人には人繰りの応援など役に立ちたい」と話す。
「お利口さん上司」では困る
トラスコ中山の中山社長は手応えの一方で投票制度の弊害を懸念する。
「4〜5年前から厳しい指導をしない『お利口さん上司』が目に付くんです。
優しいばかりでは仕事にならない」。上司が評価を気にして部下に忖度するようになれば、本末転倒だ。
伊藤忠商事は管理職約300人に部下がつけた点数やコメントを伝える制度を持つが、人事評価や処遇には一切反映しない。
必要な指導をためらわせないためだ。「厳しく言うべきときは言わなければ。若い世代も壁を乗り越えて成長実感を得たい人が多いと思います」(考査ユニットリーダーの能登隆太氏)
狙いは部下の本音に触れ多様な価値観を理解すること。
それが「目の前の仕事だけでなく部下の特性を踏まえた育成」につながるとみる。
いずれは匿名コメントに頼らず本音をぶつけ、高め合える上司と部下に。そのとき「忖度」という言葉が死語になるだろう。
西松屋、しまむら・GUへの挑戦に秘策
西松屋チェーンが成長の踊り場を迎えている。
ローコストオペレーションを武器に子供服市場を開拓してきたが、足元では円安で海外から仕入れる衣料や雑貨の利幅が圧迫され2023年2月期は減益見通しだ。
少子化で市場拡大が期待できないなか、小学校高学年まで顧客の年齢層を広げ、活路を見いだそうとしている。
今期の単独売上高は前期比4%増の1700億円と28期連続の増収を達成する一方で、税引き利益は9%減の77億円と3期ぶりの減益になる見通し。
商品の多くを中国や東南アジアから仕入れており、秋冬物の支払いに調達した米ドルのスポットレートが想定より円安になったことが要因。
西松屋の特長は安さとローコストオペレーション。
郊外店では300坪ほどの売り場を数人の店員でカバーし、店内の通路はベビーカー3台がすれ違える幅がある。
一見「ガラガラ」でも効率の良い店作りで子育て世代の支持を獲得し、1月20日時点の店舗数は全国1067店と10年前から3割弱増えた。
22年2月期の自己資本利益率(ROE)は12.1%で、国内アパレルでは別格の収益力を誇るファストリ(22年8月期で20.4%)には及ばないが、時価総額が約4500億円と西松屋の4倍で、利益規模も5倍超のしまむら(22年2月期で8.9%)を上回る。
西松屋は長年無借金経営を続け22年11月時点で607億円の現預金を抱える。
総資産回転率や財務レバレッジは高めにくく、ROEをさらに向上するには売上高純利益率を引き上げることが必要。
値上げでコスト増を転嫁するだけでなく、長期的に利益率を高める取り組みも欠かせない。
西松屋は衣料品や雑貨類のプライベートブランド(PB)商品と小学校高学年向け商品の拡充に力を入れる。
2000年代から関西の電機メーカー出身のエンジニアを積極採用し、ベビーバギーなどのヒットPBを生み出した経験もある。
PBの粗利益率は大手メーカー製品を扱うよりも19年時点で10ポイントほど高かった。売り上げに占めるPB比率は足元で27%ほど。大村社長は「早期に50%まで高めたい」と語る。
高学年向け強化には成長余地を確保する狙いもある。
西松屋の顧客層は0〜9歳が中心で、成長して「卒業」するとGUやしまむらなどに流れる構図がある。
西松屋は10~12歳向けの衣料品を拡充しており、現在は売り上げの数%だが年率3割のペースで伸びているという。
顧客の年齢層を広げ、企業規模では差があるしまむらやファストリ傘下のGUに挑む構図だ。
岩井コスモ証券の饗場大介シニアアナリストは「高学年向け衣料品だけでなく、かばんや文具など新分野でPBを強化する必要がある」とみる。
西松屋には秘策もある。
無借金経営で積み上げた600億円超の現預金と自己株式だ。発行済み株式数に占める自己株の比率は22年2月時点で12.6%と、日本取引所グループがまとめた国内上場企業の保有比率(21年時点で3.85%)を上回る。
大村社長は「たまった資金で人材採用を強化する。
自己株はストックオプションにも活用したい」と語る。
戦中に生まれる戦後秩序 日本、太平洋憲章の起草を
2022年2月24日にロシアがウクライナ侵略を始めてから、まもなく1年となる。
ロシアは市民や生活インフラも標的にし、残忍な攻撃を重ねる。和平はおろか、停戦の道筋すらも見えない。
ただ、より明白になってきたこともある。この侵略は最終的に失敗し、ロシアは歴史の敗者になる可能性が高いということだ。
ならば、ロシアによる侵略戦争の後に、どのような秩序をつくり上げていくのか、主要国はいまこそ青写真を練るときだろう。
米英による「大西洋憲章」
そのような構想は先の大戦を率いた名宰相、チャーチルを生んだ英国でも出ている。
英国・イングランド東部ノリッジ。1月13〜15日、日英の政治家や外交官、識者ら約40人が集まり、定例対話である「日英21世紀委員会」が開かれた。
議論の中心になったのは世界秩序をどう守り、修復したら良いのかという点である。
おおむね、次のような認識で一致した。
■秩序の後退はいまに始まったことではない。14年にロシアがクリミアを併合、10年代には中国が南シナ海で軍事拠点を増やした。今回の侵略はその流れにある。
■米国は国内分断が深まり当面、より内向きになる恐れがある。
日英などの準大国が、米国の対外関与を下支えするしかない。
ロシアによる侵略戦争が続いているとはいえ、決して気が早い話ではない。
国連憲章をはじめとする現秩序の素地がつくられたのも、第2次世界大戦のさなかだった。1941年8月、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相が大西洋洋上で会談し、取りまとめた「大西洋憲章」である。
憲章とは、重要な原則をうたった取り決めのことだ。大西洋憲章では、領土の不可侵や民族の自決権など、秩序の骨格となる8つの原則をうたった。
ナチスドイツが39年9月にポーランドに侵攻し、第2次大戦が始まってから2年足らず。
まだ、米国が参戦すらしていなかった時である。
新興国や途上国の支持も
むろん、当時といまでは多くの違いがある。
ただ、第2次大戦以来、最悪ともいえる侵略が欧州を襲い、アジアでも緊張が高まっている点では似ている。
中国の軍拡で、台湾海峡などでは紛争の火種がくすぶる。朝鮮半島も緊迫している。もし欧州とアジアで同時に戦争が広がったら、第3次大戦になってしまう。
この危ない流れを押しとどめるためには、これだけは譲れないという原則を改めて打ち立てる必要がある。
21年6月、米英はそんな認識から「新大西洋憲章」を発表した。
ただ、世界の重心はインド太平洋に移っている。そう考えると、今後の諸原則はインド太平洋憲章として起草し、多くの国々の署名を得ていくのが望ましい。
その役割を果たす資格と責任が、日本にはある。多くの国々が支持する「自由で開かれたインド太平洋」の概念を、日本は生んだ。
政府関係者によると、岸田政権はこの概念を実現するための計画をまとめたうえで、23年前半にも発表する方向だ。
新憲章に強い影響力を与え、世界の共通規範にするには、新興国や途上国の支持も得なければならない。なかにはサウジアラビアやベトナムのように、王政や一党支配の国もある。西側の民主主義を押しつけたら、それらの国々は離れてしまう。
領土の不可侵、法の支配、航行の自由、自由な貿易……。異なる政治体制の国々も結束できるよう、こうした原則を中心にすえるのが賢明だろう。
いずれも、言わずもがなの原則ではある。
しかし、当然だったはずの国際ルールが踏みにじられ、今日に至っている。新憲章にまとめ、各国が順守を誓い合う意味は大きい。
このままでは、世界はルールではなく、力が支配する状態に向かってしまう。米国の指導力が大きく弱まる中東やアフリカでは、すでに乱世になっている。
シリアやイエメンでは内戦が続き、イランは核開発を進める。イランとイスラエル・アラブ諸国の軍事緊張も高まっている。
エジプトの著名な政治家で、中東専門家としても知られるモナ・マクラム・エベイド氏は警告する。
「米国の関与低下が中東に火種を広げている。もう米国は当てにならない、と各国は思っている。域内の問題を自力で解決しなければならなくなってしまった」
米国が「世界の警察」から退き、1つの超大国が秩序を支える時代は去った。
新しい秩序は、原則をともにする西側諸国と新興国、途上国が協力し、集団で守っていかざるを得ない。