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食べられるドローンで救命 米やゼラチンでロボット開発
食べられる材料でロボットを作る研究が進んでいる。
電気通信大学などの研究チームはビスケットで翼を作ったドローン(小型無人機)を開発した。災害時に遭難者を発見するとともに自らが非常食となり救命する。
食品工場向けのロボットハンドをゼラチンで作り、金属片などの混入を防ぐといった研究も進める。2050年には「食べられるロボット」が様々な場所で活躍しているかもしれない。
山奥で動けなくなった遭難者をドローンが発見。救助隊が到着するまでにはまだ時間がかかる。食料が尽きているであろう遭難者にすぐに食料を届けられないか――。
電気通信大の新竹純准教授はスイス連邦工科大学ローザンヌ校などと共同で、こんな場面で役立つドローンを開発している。食べられる材料で翼を作り、救助までの非常食にすることで遭難者の生存確率を高める。
積み荷に食料を載せたドローンを使うよりも、届ける食料を多くしたり機体を軽くしたりしやすい。働いたり移動したりできる「ロボットのような食べ物が究極の目標だ」(新竹准教授)。
米のビスケットで試作した翼は全長70センチメートルほどで、食べると約300キロカロリーを摂取できる。積み荷として水を80グラムほど運ぶこともできる。
機体全体のうち食べられる重量は約半分だが、改良で75%ほどに高められるとみている。通常のドローンと比べ、運べる食料の量は2倍以上になる。
ビスケットを六角形に加工してゼラチンでつなぎ合わせ、翼としての使用に耐える強度を実現した。ビスケット製の翼にプロペラやバッテリーなどの部品を取り付け、飛行機型ドローンを作製した。
屋外で性能を試したところ、秒速10メートルほどで飛行させても翼は壊れなかった。今後、耐久性や飛行時間を改良して実用化を目指す。新竹准教授は「将来的には機体全体を食材で作りたい」と意気込む。
食べられるロボットは工場にも活躍の場がありそうだ。新竹准教授らの研究チームは、菓子などに使われるゼラチンを原料に使ったロボットハンドも開発した。
空気の圧力で駆動する。内部に空気を入れて膨らませると曲がり、空気を抜くと元に戻るため、人間の指のように曲げ伸ばしができる。
このロボットハンドを2本使えば、物をつかんで持ち上げたり、別の場所に運んだりすることもできる。ゼラチンをグリセロール(グリセリン)と混ぜて型に流し込むだけで簡単に作製でき、試作品の耐久性はシリコーンゴムと同等だった。
食品工場などで製品を運ぶロボットに応用すれば、金属片などの危険な異物がラインに混入するリスクを減らせる。
新竹准教授はゼラチンのように「食べられる素材なら安全性が高まる」と期待する。
食べられる材料を電気で駆動する技術も開発した。ゼラチンに塩分を混ぜると電気を通すようになり、電極として使える。
研究チームは大豆油を入れた小さな袋の両側にこの電極を取り付け、電気で袋を伸縮させることに成功した。空気で駆動する方式よりも装置を小型化しやすい。
生分解性で環境にも優しく
食べられるロボットは微生物によって分解される生分解性を兼ね備える点も強みだ。新竹准教授は「環境に優しい持続可能なロボットの実現につながる」と力を込める。
例えば、ドローンを環境調査や災害救助に使う場合、より多くの情報を集めるには台数を増やす必要がある。自然に分解する機体を使えば、回収できずに環境を汚染するリスクを減らせる。
ゼラチンなど食べられる材料は化学合成品に比べ生産に伴う環境負荷が小さいという利点もある。
現時点ではドローンの翼やロボットハンドなどの個別部品の開発が中心だが、新竹准教授は「全体が自然に分解するロボットも実現できるだろう」と展望する。
実際、動きを生みだす駆動系(アクチュエーター)だけでなく、プロセッサーなどの制御系や外部信号を受け取るセンサー系も食べられる材料で構成する技術の開発が進みつつある。
ただ、開発はまだ始まったばかりで、耐久性や動作性能などの向上が欠かせない。食材を含め、軟らかい素材で作るロボットは「ソフトロボット」と呼ばれ、世界的に開発が盛んになっている。日本はもともと産業用ロボットに強く、独自の食文化も取り入れたユニークなソフトロボットで存在感を示せるかもしれない。