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年収の壁」を壊すということ 立ちはだかる年金制度 パート時給上げれば就労時間が減って、仕事が回らない現実
非課税最低賃金をいくらにするのか?
基準を保険料でなく、税金として徴収するのか?
などいろいろな課題がある問題ですね。
給与が一定額を超えると社会保険料が天引きされるようになって手取りが減る「年収の壁」問題。
岸田文雄首相が「対応策を検討する」と国会で答弁したことで、当面の政治課題に急浮上した。
この問題が改めてクローズアップされた背景には、2022年10月に実施された2つの政策変更がある。
一つは最低賃金の引き上げだ。
週20時間以上働くパートタイム労働者は、給与が月8万8000円(年換算で約106万円)を上回ると、社会保険料を納める必要がある。
「106万円の壁」と呼ばれるものだ。ラインぎりぎりで働く主婦の時給が最低賃金の上昇によって上がると、保険料負担を避けるために就労時間を減らす人が出てくる。
もう一つの政策変更は適用対象者の拡大。
これらの変更は新型コロナウイルス禍の行動制限がかからなくなり、経済活動が活発化する時期に重なった。
特に観光・飲食業は訪日客も戻って「さあ、これから」というタイミングだ。
パート依存度が高い業界だけに就労調整の影響は大きく、需要はあるのに客室の稼働率を下げたり、営業時間を短くしたりといった対応を余儀なくされた。
「人手不足で時給を上げると働き控えがさらに進む。無間地獄になっている」。
1日の衆院予算委で自民党の平将明氏はこう訴え、保険料納付で手取りが減る分を国がパートに給付する時限措置の導入を求めた。
この案は収入増でパート主婦の手取りが社会保険適用前の金額に回復するまでの間、手取り減少分を国が約6000億円をかけて補塡する内容だ。
確かに就労調整を止める即効性は期待できる。
だがこれは主婦が納めるべき保険料を国が実質的に肩代わりするものだ。
主婦は自ら保険料を納めることなく、報酬比例の厚生年金や、国民健康保険より手厚い企業健保に加入できることになる。
ただでさえ「第3号被保険者」として国民年金や健康保険の保険料を納付していない専業主婦には、夫婦それぞれが保険料を納める共働き世帯などから「優遇されている」と強い批判がある。
一定の収入がある主婦の保険料まで肩代わりするのでは、この構図が一段と拡大してしまう。
ではどうしたらよいのか。
適用基準の月収ラインを8万8000円から引き上げれば足元の就労調整を抑える効果はあるだろうが、これは専業主婦の優遇拡大と同義だ。
逆に月収ラインを下げたらどうか。
大きく下がるほど手取り急減の「崖」は小さくなり、働き手は壁を意識しなくなるだろう。ただその場合、自営業らの国民年金との公平性の問題が出てくる。
厚生年金の保険料は報酬に連動するので、月給が少ない人は国民年金の保険料よりも明らかに少ない負担で報酬比例年金まで得られる矛盾が生じる。
月収8万8000円という適用開始ラインの保険料は1万6104円となり、すでに国民年金(定額で月1万6590円)との均衡を保つギリギリの水準。
つまり現行制度の維持を前提にすると対策は手詰まり状態なのだ。
年収の壁を壊すには「保険料を納めた人だけが給付を得られる」という社会保険の原則に立ち返った上で、国民年金との矛盾を生まない制度改革を考える必要がある。
日本総合研究所の西沢和彦氏はこうした条件を満たす改革案として基礎年金を税方式に移行するプランを挙げる。