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同族企業の強みは長期視点で戦略を考えられること
4月に会長になるトヨタ自動車の豊田章男社長には在任期間中、曲げなかったことがある。「数値目標」を口にしないことだ。
トヨタにはかつて「グローバルマスタープラン」という社外秘の長期指針があり、細かく数値目標を規定していた。
だが数字が会社と社員を縛り、さらには拡大路線に拍車をかけてリーマン・ショックでたいへんなしっぺ返しを受けた。
もっとも周囲は大変だった。同氏は数字の代わりに「もっといいクルマを」とだけしか語らず、当初は「何をしていいのかわからなかった」という社員も多かった。
だが、トップが細部を語らないことで「末端の社員が自分の頭で考え、働くことができたのも事実」とある幹部はいう。
同社は典型的な同族企業だ。
同族経営の利点は短期主義の弊害を免れ、長期の視野に立ったかじ取りができることだとされる。
豊田氏以外の歴代創業家出身者もスタイルは同じで、「自分は会社と一生のつきあいになる。来年、再来年の利益より、立派な会社に育てて次の世代に渡すのが役目」と考えてきた。
持ち時間の長さと構想の遠大さこそ、同族経営の強みだとのこだわりだ。
長期経営を貫くには四半期ごとの成果を求める株主や取締役会の追及から戦略を守り、一方で社会の要請にもこたえる必要がある。
研究者の調査によれば、同族経営がいわゆるサラリーマン経営より財務的な成果を出しやすいとのデータがある。
京都産業大学の沈政郁教授が日本の上場企業を対象に経営の効率性を表す総資産利益率(ROA、利益は営業利益を採用)を追ったところ、直近の17年実績に基づく調査(3492社)で同族企業は平均5.25%、非同族企業は同4.77%だった。
一時的な現象ではなく、データがある1956年からの61年間でも非同族企業が同族企業を上回ったことはない。
「わかりやすく一貫したビジョンと意思決定の速さが理由では」と沈氏はみる。
日本の上場企業といえば、6割が採用しているとされるのが中期経営計画だ。
中計といえば多くは期間が3~5年。うまく使えば成果は出るが、サラリーマン社長の任期と連動していることが多く、連続性に問題が起きがちだ。
ある種の短期主義だろう。もちろん同族経営でも優劣の差は大きいのだが、調査の結果から教訓を引き出すなら、長期経営の強さと良い点は映し鏡のように参考にして、「学ぶべきところは学べ」ということだ。
オランダの経営学者ポール・ルイ・イスケ氏の著作「失敗の殿堂」に、米テスラや宇宙ベンチャーのスペースXを率いるイーロン・マスク氏が事業で何度も失敗しつつ、巨額投資を続ける理由の分析が出てくる。
「マスク氏が失敗を恐れない人物だから」というより「失敗で集まる長期のデータが財産だと考えるから」だという。
日本で技術革新が生まれなくなって久しい。
重要なのは長期の視点で失敗を許容し、成長にこだわる経営があるかどうか、ではないか。
同族企業と言えば、あまり良くないイメージもあるが、長期的視野にたって物事を見るということなら、とても素晴らしい組織なのだということがわかりました。
日本電産は「同族企業にしない」とはっきりと言っている。短期的、長期的両方での成長を求められるので日本電産の社長は大変だと思う。
トップがぶれなければトヨタのように長続きするし、トップがぶれると長続きはしないでしょう