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拾ったロストボール 「持ち帰ったら窃盗」の真偽
ゴルフのプレー中に、キャディーさんが「ロストボールを拾いました。
きれいだからお客さんどうぞ」と声を掛けてきました。
受け取ろうとしたところ、同伴者から「ロストボールを持って帰ったら窃盗罪になるのでは」と言われました。本当でしょうか。
林や深いラフの中にボールを打ち込んでしまうと、なかなか見つかりません。
ルール上、ボールの捜索時間は3分以内と定められていますので、見つからなければ見つからないボールをそのままにして別のボールでプレーを継続します。これがゴルフのルール上の「ロストボール」です。
捜索断念で所有権は放棄
さて、ロストボールの「所有権」は誰にあると考えるべきでしょうか。
もともとは各プレーヤーが持参したボールであり、所有権はプレーヤーにあります。
ルールや時間の関係上、一定の時間で見つからなければ捜索を断念し、新しいボールで打ち直すことになります。
その場合、捜索を断念した時点で法律上、ボールの持ち主は所有権を放棄したものと解釈されます。
では所有権を放棄されたボールの新たな所有者は誰になるのでしょうか。
実際、ゴルフ場は人工池などの底に沈んだゴルフボールを定期的に回収し、併設された練習場の練習用ボールにしたり、ロストボール業者に販売したりしています。
ロストボールの回収を断念したときのプレーヤーの意思は、そのボールを将来、発見し拾得するであろう不特定の者に対して黙示的に贈与する旨の申し込みの意思表示を含んでいるとする考え方がありえます。
これを発見し拾得した者はその申し込みを承諾してその所有権を取得する関係に立つというわけです。
次に、民法には「無主(持ち主のいない)の動産」は所有の意思をもって占有することにより、その所有権を取得するとの規定があります(「無主物先占」といいます)。
これに従い、一番先に占有した者がその所有権を取得するという考え方があります。
その場合、「一番先の占有者」は誰かが問題になります。
ロストボールを最初に見つけた人が「一番先の占有者」なら、発見者がボールの新たな所有者になるという解釈になります。
最高裁判決の事件は悪質
実は、ゴルフ場内の池からロストボールを盗んだとされる件について最高裁まで争われた刑事事件があります。
人工池に打ち込まれたボールはゴルフ場が回収・再利用を予定しているものであって、所有権はゴルフ場にあるというのが1987年に出された最高裁の判断です。
なお、最高裁は「本件ゴルフボールは、無主物先占によるか権利の承継的な取得によるかは別として、いずれにせよゴルフ場側の所有に帰していたのであって無主物ではなく、かつ、ゴルフ場の管理者においてこれを占有していたものというべきである」としました。
前述の無主物先占か黙示的な贈与かの判断はしていませんが、少なくとも、最高裁はロストボールの「一番先の占有者」がボールの発見者であるとの解釈は採用しませんでした。
この最高裁判決の結論が「ロストボールを盗んだら窃盗罪」と要約されて伝わっているようです。
最高裁の判断を広く解釈すれば、ロストボールが物理的に周囲を区切られたゴルフ場という施設内に存在している限り、プレーヤーがボールを紛失した時点でロストボールの所有者はゴルフ場ということになります。
それでは、池以外の、通常なら発見が困難な崖や斜面、深い森の葉の下などに隠れていたボールについてもゴルフ場の占有下にあるといえるでしょうか。
この点に関し、最高裁調査官による1987年の判例解説では、
①この事件で問題になったのはウオーターハザードである人工池であり、見方によってはロストボール回収装置ともいえるような場所であって、占有を肯定しやすかったが、ロストボールが散在している林や崖の場合も同様に考えてよいかどうかは議論のあるところである
②正規に料金を払ってプレーしているゴルファーがたまたま見つけた少数のロストボールを拾った場合などについては、ゴルフ場側がこれを容認しているとみられることも多いのではないかと思われる――と述べています。
ということで、
私は今まで多少ロストボールは頂いたこともありますが、それ以上にロストボールを提供しているので、あまり悪いことをしたとは感じてはおりません。
だいたいロストボールを見つけるということは、そういうところに打ち込んだということの反証であり、決して誉められることでないとも思うのであります。