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サッカー日本代表も学ぶべき、オランダ流PK戦対策
サッカーのPK戦の勝ち負けは運不運なのか、それとも実力の一部なのか――。
アルゼンチン対フランスの決勝戦を含め、昨年カタールで開催されたワールドカップ(W杯)は幾つかの重要な試合がPK戦で決着し、さまざまな議論を巻き起こした。ラウンド16でクロアチアに敗れた日本しかり。
簡単に答えは出ないPK戦の深遠を語ってくれた人がいる。
1月14、15日に神奈川県のパシフィコ横浜で行われた「第13回フットボールカンファレンス」に講師として登壇したフランス・フック氏である。
W杯直後とあって、国の内外から招いた講師陣はW杯をテーマに語ることが多く、カタール大会でオランダ代表のGKコーチを務めたフック氏もアルゼンチンにPK戦で敗れた準々決勝の内側をつまびらかにしてくれた。
オランダ人の同氏は16歳でプロのGKになり、12年間の競技生活を終えた後はコーチとしてキャリアを積んだ。
JFAのゴールキーパープロジェクトでは2018年からテクニカルアドバイザーを務め、日本の若いGKのレベルアップに貢献してくれている。
そんな同氏が明かしたカタール大会におけるオランダ代表のPK戦への用意周到な準備、勝利に懸ける執念には脱帽するしかなかった。
後景として、オランダが14年W杯ブラジル大会で2度のPK戦を戦ったことがあるようだ。
準々決勝のコスタリカ戦の勝利(4-3)と、準決勝のアルゼンチン戦の敗北(2-4)である。
コスタリカ戦では延長後半追加タイムに、GKをそれまでのキャリアで一度もPKを止めたことがないヤスパー・シレッセンから、PKストッパーとして定評のあったティム・クルルに代えた。
するとこれが見事に的中し、クルルはPKを2本止めて準決勝進出の立役者となったのだった。
しかし、続くアルゼンチン戦は同じくPK戦に突入するも、それまでに3人の交代枠をすべて使い切って、シレッセンをそのまま起用せざるを得なくなり、アルゼンチンに敗れたのだった。
フック氏によると今回もPK戦専用のGKを用意すべく、大会前に「6人のGKを呼んでテストをした」という。
それぞれのGKのサイズ、リーチはもちろんのこと、どれほどの跳躍力や敏しょう性を備え、いろいろな種類のPKに対して、どれくらいの速さでどこまで手が届くか、データを採取していったという。
面白いのは、キッカーが蹴る前に先に動くようなギャンブルはしないように約束させたこと
オーディションの結果、U-21(21歳以下)代表だったキエル・スヘルペンにPKストッパーの資質があることが分かった。
身長は2メートルを超えるから、ゴールの前に立つだけで相当な威圧感だろう。オランダにとっての不運の始まりは、最善と思われたスヘルペンがケガをして代表に選べなくなったことだった。
人事を尽くしても天命に背かれるのがPK戦という感じになる。
それでも「練習をすればできる保証はないが、練習をしないと運も引き寄せられない」「成果も大切だが、そのプロセスが大事」という信念を持つフック氏は重ねた努力を無駄とは思っていない。
JFAはカタール大会後、アンダーエージの国際試合で勝敗に関係なくPK戦を行う取り組みを始めた。
親善試合でいくら蹴っても、公式戦の緊張感にはほど遠いという意見もあるが、W杯のラウンド16に4回進み、うち2回はPK戦で敗れた日本としては、無為無策で本番に臨むわけにはいかない。
特にGKに関しては、PKに強いGKは十分に育成可能ではないか。
その場の空気、状況に大きく心理的に揺さぶられやすいキッカーに比べ、GKのPKストップは練習の成果をストレートに発揮しやすいように思えるからだ。
この4年間でそんな人材の発掘、育成を着実に進めておきたい。