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2011-05-12 23:30:00

 知人に、食物の採集に野山を駆け回った縄文人の遺伝子を色濃く引き継いだかのような男性がいます。四季折々、季節の七草、木の芽、木の実、そしてキノコを求めて、海辺から深い山の奥まで分け入るのです。

 そんな彼が太くて生命力に満ちたコゴミを、大きな袋いっぱい持ってきてくれました。中越地方の、今は耕作する人も無く放置されたままの棚田跡で採取したそうです。コゴミは湿り気のある日当たりのよい窪地を好むといいます。春の太陽をいっぱいに浴びることができる棚田跡は、コゴミの楽園なのでしょう。しかも土壌は肥沃です。

 早速、12日から天ざるや天丼の一品として盛り付けました。コゴミの名は、株から伸びてきた芽が人間の「前こごみ」になった姿に似ているところから付けられたといいます。これまで揚げてきたコゴミはどこか控えめでしたが、今回頂いたものは立派で、たくさんの天ぷらと盛り合わせても、しっかりと存在感があるのです。

 今週末はコゴミのほかに、フキノトウ、山ウド、タラの新芽、ノビルなどが提供できそうです。

 山菜の多くが持っている繊維質のほろ苦い味について、懐石料理「辻留」の辻嘉一さんが書いています。「冬の間の運動不足でこわした胃腸の働きをよくし、便通を整えるのに格好のものであります。なんともいえないほろ苦さは、まさに自然が恵んでくれた季節の美味であり、保健薬でもあります」(「食味」PHP)。

 そのことを、山の生き物たちもよく知っているのでしょう。山梨県にある三ツ峠山荘の近くにすむ熊は、冬ごもりから出てくると、まずタラの芽を食べるのだそうです。「動物の体力回復にはもってこいのものなのだろう。鹿もフキノトウやタラの芽を好んで食べるらしい」と「四季の博物誌」(荒垣秀雄編)はいいます。

 熊や鹿も、ほろ苦さを楽しむ味覚を持っているのでしょうか。