栄月日記

2023 / 05 / 25
17:33

【自問自答】後出しジャンケン戦法(仮) ver1.0.2

 前回のあらすじ。

 理屈と膏薬はどこにでもつく。私の好きな言葉です。

 

  さて。

 栄月製菓は今年で創業から58年となり、私は幸運にも100年目に立ち会えるかもしれないのです。創業100年ということは今から新規事業を立ち上げても100年経たなければ100周年には立ち会えないわけですから。

 100年目を迎えるにはあと42年は存続しなければなりません。

 そのためにも栄月製菓の強みを見出したいと思います。

 

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの収益を回復させたことで有名な株式会社 刀の森岡毅さんは著書『苦しかったときの話をしようか』で自分の強みを活かすことを説いています。ここでは森岡さんがご自身の娘さんに対して、就活に際してのアドバイスのテイをとっているわけですが、これはそのまま私にも活かせそうです。

 

 曰く、「TCL」に自分の特徴を区分し、その傾向を可視化することで強みを見出す方法を説いています。「TCL」は、Thinking Communication Leadership の頭文字。このエクササイズの方法は著書を読んでいただくとして、私なりに区分していくとどうやら「T」に傾向が現れるようです。まあ、どうやらもなにも、こうして誰にも頼まれていないのに文章を書き留めているわけですし、なんなら創造性を小説として表現したかったから文学部に進学したのですからむべなるかな。

 自己認識と分析結果が同じなのは、なんとなしに強みを把握しているとも捉えられそうです。

 

 さらに細分化して武器にできそうなものを言語化してみたいと思います。

 前回のハイライトのすべて、「理屈と膏薬はどこにでもつく」はまさに私の"Thinking"の根幹です。私が標榜するそれには私なりの味付けをした解釈があります。

 

「物事はいくらでも良いように考えられる」ということ。前回も書いたように、これは最強の後出しジャンケンです。

 ……。

 ふと思いましたが、そもそも負けるわけがない「後出しジャンケン」に最も強い「最強」を冠すのは、「腹痛が痛い」のような意味の重複がありますね。

 概念としての後出しジャンケン、というのを思いつきましたがそれもなんだかしっくりこない。後出しジャンケン理論、というのも大仰すぎる。後出しジャンケン戦法、くらいがちょうど良いでしょうか。ズルそうで弱そうで、でもそれなら確かに勝てるわなぁ、という感じがしていいですね。

 

 閑話休題。

 私は、理屈と膏薬はどこにでもつく、をマイナスな結果や気持ちをプラスに転換するためのおまじないにしています。

 

 スマホスタンドのサイズを間違えて買ってしまった、自分のバントミスで決定機を逃した、肉に塩をかけすぎてしょっぱくなってしまった。そんないくらでもある失敗を素早く反省に切り替える力。メンタル・リセットの方法。

 そんなふうに、もともとは思い悩みすぎないよう緊急回避として使っていました。

 

 ここで「理屈と膏薬はどこにでもつく」に対して再度、理屈をくっつけてみます。

 そんなこと考えていなかったけどそう解釈しても良さそうだ、という思考の柔軟性です。

 

 具体的にします。キッチンの引き出しにカトラリー類を整理して入れるために百均で平たい箸入れを買ったのですが、引き出しに入らないサイズを買ってしまいました。この無用の長物になってしまった箸入れが国民年金や自動車保険なんかの封筒を入れるのにちょうどよかったのです。そんなこと(封筒入れになるのは)考えていなかったけどそう解釈しても(ぴったりサイズだからこうやって使っていけば)良さそうだ、という思考の柔軟性。センスメイキングというか終わりよければすべてよしというか、そんな後出しジャンケン戦法です。

 

 この後出しジャンケン戦法、栄月製菓にも使えそうです。

 すでにあるお店、すでにある業務、すでにある需要、それらをふんわりと包み込むことができる「栄月製菓の強み」を後出しジャンケン戦法を使って少しずつでも言語化していきたいと思います。

 

 

 まさか自分が持っている経営者としての強みが後出しジャンケン戦法のみ、といことはないです。ええ。きっと。たぶん。(続

 

2023 / 05 / 08
21:00

【自問自答】考えることについて考える Ver.1.0.1

 そもそも何を考えればお店のためになるのか、ということからして難しいなと思う今日この頃。

「考えることについて考える」と銘打ってみると、哲学的というかニワトリが先かタマゴが先かというか、頭が混乱しますが、ここでは「何について考えることが栄月製菓にとってプラスになるか」と考えてみたいと思います。

 

 

 栄月は祖父が始めたお店であり、従業員も祖父と祖母の二人。小さなまちの小さなお店ですから、そこに大層な経営理念はありません。起業するきっかけはあったでしょうし、お店を続けていく上での矜持はあったでしょうが、言語化された栄月製菓の存在意義というものはないと思われます。少なくとも、私は知りません。個人商店というのはそういうものなのかもです。おしゃべり好きの祖父でしたが、孫に言うようなことではない、言うような場面がなかった、ということもあるかもしれません。

 

 いずれにしてもわかりません。

 であれば、お店を継いだ私としては栄月製菓の存在意義を考えてみるのもいいかもしれないと思ったのです。

 お店の在り方を「ビジョン」や「ミッション」というのであれば、それを考えてみると自ずとお店として進みたい方向、あるいは進めていきたい方向が見えてくるのではないでしょうか。

 そういうアプローチ、結構好きなのです。

 

「理屈と膏薬はどこにでもつく」という言葉があります。私がモノを考える時に頼りにしている言葉です。

 膏薬(湿布のようなもの)が体のどこにでもつけられるように、理屈をつけようと思えば、どんなことももっともらしい理屈がつけられる。というような意味です。

 意味からするとなんだかマイナスに聞こえるのですが、そこはあえて「理屈と膏薬はどこにでもつく」と言わせてもらいましょう。「マイナスな言葉もプラスの意味に置き換えられる」という魔法の言葉に、私には聞こえるのです。最強の後出しジャンケンです。

 米澤穂信『氷菓』で使われていた諺で、京都アニメーション制作のアニメ版の「心当たりのあるものは」で印象的に使われます。この言葉に出会った時の衝撃と言ったら。小説やアニメ、漫画から学べることはたくさんありますね。閑話休題。

 

 祖父が作った栄月製菓に、祖父から引き継いだ私がもっともらしく「理屈」をつけていこうと言うことです。続)

2023 / 04 / 02
23:00

【自問自答】情報発信の「文法」ついて考える Ver.1.0.0

 栄月製菓をどうしていくか。

 2023年はこのことについて考えていく年にしようと思っています。

 

「栄月製菓」をでっかくして全国に売り出していくぞ! ということはいまのところ考えてはいないのですが、かといって何もせずこれまで祖父が積み上げてきたものをそのまま踏襲しようとも、思ってはいません。同じことをしていればそのまましぼんで、いつかはなくなってしまうだけでしょう。

 

 これまで「煎餅を焼くことが私の仕事」と考えていました。それは技術を継承するという至上命題があったからですが、これからは「栄月製菓を経営していくことが私の仕事」というマインドも必要なのではないかと考えたわけです。

 

 栄月製菓をどうしていくか。

 私は経営について明るくありません。大学時代は文学部で小説の書き方、物語論、音韻学、文化人類学なんかを学んだ根っからの文系なので、「どうしていくか」は文章に起こしながら、自分に問いを投げかけて自分で考えて答えを出したり、あるいは新たな問いを出したりと、少しずつ整理しながら深めていきたいと思っています。

 

「ひとりブレスト」という言い方もあるようですが、ここはシンプルに「自問自答」として進めていきます。

 そして、その行為自体が「栄月製菓」を紐解いていくものになればいいなとも思っています。

 

 

 

 手始めに情報発信について考えたいと思います。

 いま栄月製菓はこのブログ「栄月日記」とTwitter、Instagramを細々とやっています。

 それぞれの媒体にはそれぞれの強みとユーザーの傾向があり、それとマッチしていないとうまく情報が伝わらないでしょう。

 

 ブログの強みは、文章によって伝えられることでしょう。そこでは文字数制限がないので長文であってもいい。考えをつらつら書くにはちょうどいい。

 このページ「栄月日記」に関して言えば、ECサイトにリンクをつけたうえで別タブによって表示されるようにしていますので、なかなかに読むハードルが高くなっているのではと思います。ECサイトにおいて注文完了までのクリック数が増えることは離脱(注文をやめてしまう・サイトから離れてしまう)につながりかねませんが、逆に、商品をまずは見てほしい、「栄月日記」は二の次で良い、という狙いがあります。まあ、狙いが的中しているかはわかりませんが、少なくともここは読まれなくても読まれてもよくて、それでも活動している・稼働していることを目に見えるようにしたいと思ったのです。

 別タグで表示されるこのサイトは「グーペ」というサービスで作成したもので商工会会員は無料で使うことができ、「おしらせ」を更新すると連動して大月市商工会の「会員からのおしらせ」にアップされます。(私は「おしらせ」のタイトルを「栄月日記」に変えてブログとして使ってはいますが)

 ここまでたどり着くにはECサイトの「栄月日記」リンクを踏むか、大月市商工会の「会員からのおしらせ」からやってくるか。この文章を読んでいるとしたら相当なもの好きかもしれませんね。

 

 Twitterの強みは、短い文章と画像を手軽に発信し、他のユーザーと交流しやすい点でしょうか。

 140字の制限はあれど、発信のしやすさは圧倒的。個人と企業がまぜこぜになっていることで様々なコミュニケーションが生まれます。

 私がTwitterを始めたのは高校生のころでしたが、その当時からいま現在では、その利便性とは別にリスクもあるのが顕在化しているように思います。個人アカウントではなくお店のアカウントとして使っていくうえで、ここのところ考えているのが、「中の人にならない」ということです。

 栄月製菓は個人事業主であり、「栄月さん=私」になりますので、そこに齟齬を生みたくないのです。企業がつぶやくのと店主がつぶやくのでは受ける印象も変わってくる気がしています。

 そんな考えがあってもともと「栄月製菓」としていたアカウント名を「ヒロキ@栄月の二代目」にしてみました。【今日はあついなぁ】とつぶやいたとして受ける印象が柔らかくなっていればいいのですが、はたして。私としては、そんなくだらないつぶやきをつぶやきやすくなっています。

 

 Instagramの強みは、画像主体の投稿によって視覚的に良さを、文字数制限もないので自由な文章と多くのユーザーに触れられる機会が得られるハッシュタグでの繋がり、といった点でしょうか。

 また、利用ユーザーの年齢層がある程度低いのではと思われ、当店のコアな顧客層ではないところにアプローチできそうです。

 ただし、これは魅力ある画像や映像が前提となるのがなかなかに難しいですので、私としては別の意味付けとして、映像を毎日投稿(リール)することで回転頻度を無理にでもあげるようにしています。もちろん、魅力的な投稿を上げられればいいのですが、どの写真をどんな文章で、と考え始めるとインスタに見合うような、見栄えがするような投稿が思いつかないことになりかねないのです。使われていない企業のインスタ垢は悲しいですからね。最近では海外のユーザーからフォロー通知が届いて、全世界に開かれていることを実感するとともに、アプローチしたい層に届けられているのかはなかなか難しいところです。

 

 それぞれの媒体ではそれぞれの「文法」が必要だと思っています。どの企業だかは忘れてしまったのですが、ある企業がTwitter、Instagram、そしてFacebookで同じことがらの宣伝をしたんですが、それぞれが違う言葉使いで投稿していました。

 コミュニティにはコミュニティの言葉遣いがある、というのが「文法」だと思ったわけです。

 5ちゃんねるのスレッドでの言葉遣いとニコニコ動画のコメントは一見、似ているところもあるかもしれませんが、「キリ番」は5ちゃん独特ですし(今現在の姿を知らないので2ちゃんねる当時の文化だった可能性も微レ存)、「888888888」はニコ動でなけれ文脈が捉えられず(弾幕薄いよー)、コミュニティ内での独自性や文脈・文化も含めての「文法」があると考えています。

 

 ただ、「コミュニティの文法」を捉えるのも難しいなと思うわけです。ですのでやったことのないFacebookはやっていません。にわか知識ではコミュニティに馴染めないでしょう。Instagramに関しても私はなかなか使いこなしている自身がありませんので妻に監修してもらいながら回していますし、毎日リール投稿をすることで「文法」から外れてしまわないように立ち回りをとりあえずのところ固定してみました。言葉にしてしまうと情緒がないかもしれませんが、リールに付随する楽曲に関しては毎日頭を使っている部分で、楽しく悩んでいます。

 ここ最近、Twitterを更新できていませんが、23年4月を契機に上記の通り個人名のアカウント名にしましたので気軽に気楽に軽率につぶやいていこうと思っています。投稿するとき、「いまどうしてる?」と表示されるTwitterですので、原点回帰ですね。高校生のときの自分に戻る気持ちでいきたいと思います。

 そしてブログ「栄月日記」では、こうした考えの整理に使っていくことを「文法」として固定して定期的にまとめていきたいと思います。そしてときどきは「日記」として日々のことを書き出してみたいと思います。もともと書くことは好きなので。

 

・ブログ「栄月日記」では思いに触れてもらう

・Twitterでは〈私〉を通してお店を知ってもらう

・Instagramでは当店の魅力に興味をもってもらう

 

 そんなことを意識していきたいと思います。

 人格を切り替えて構造的・記号的に運営することは、ある種「冷たさ」を感じるかもしれないのですが、家庭では部屋着でだらだらしてプレゼンではジャケットを羽織るように、TPOやコミュニティに合わせて着替えていくことは必要なことでもあるように思います。高校ジャージでゲームしている私も、イオンモールのショップで買った一張羅で交流会に行く私も、どちらも私ですし。

 

 ともあれ、この「栄月日記」を定期的に更新することを、まずは習慣にしようと思います。n回目の宣言。(了

2023 / 03 / 14
21:00

『BLUE GIANT』

 3月7日火曜日、TOHOシネマズ甲府にて21:30から『BLUE GIANT』を観てきました。

 平日のレイトショーには私のほかに、7組ほどいたかと思います。公開から3週目に入っていることもあってあまり大きくないスクリーンでしたがまあまあの入りです。私と同様、方々で評判を聞いているのかもしれません。

 

 もともと原作者・石塚真一の『岳』を読んでおり新連載となった『BLUE GIANT』も読みはじめました。これが大変面白い。作品に関連するジャズのアルバムを買って聴き込みました。ジャズを題材にした漫画作品ですが、その表現力は凄まじいものがあります。音圧が伝わってくる、唯一無二の漫画です。

 その作品が映像化したとなれば一も二もなく駆け付けなければならないのですが、しかし、仕事が立て込んでしまい映画館に足が向きませんでした。なんとかすれば映画に行く時間も作れたのですがこう疲れていると「心の柔軟性」とでもいうべきものが失われていき、上手くエンタメを享受できなくなります。そんなおり、普段から試聴している『佐久間信行のオールナイトニッポン0』と『アフター6ジャンクション』で立て続けに話題にのぼり、これはいますぐに行かなければ後悔すると気づき、先日観に行けたわけです。

 

 異なる人物から計3回キュレーションされたら摂取する。

 

 これは私が26年のうちに学んだことです。佐久間さん、ライムスター宇多丸さん、3回目のキュレーションを必要とするまでもなく、過去に漫画を読んで自分が好きになった作品です、それで十分観に行く理由になるのです。

 以下は作品内容に触れます。 

 

【ストーリー】

 ジャズの世界に魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大。

 雨の日も風の日も、毎日たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。

 卒業を機にジャズのため、上京。高校の同級生・玉田俊二のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト。沢辺雪祈と出会う。

 

https://bluegiant-movie.jp/story.html より引用

 

【作品についての感想】

 この物語は宮本大という一人の天才が世界に羽ばたいていく過程を追った青春ジャズドラマを描いたアニメーション映画です。

 

 物語の大枠として、作品世界から時間軸が飛んだ数年後、関係者が当時を思い浮かべて語るシーンがあります。大がサックス・プレイヤーとして大成し、そのルーツに迫る上でインタヴューに答えているという、ドキュメンタリー番組の体がとられているのです。映画では要所でそれと判るようにシーンが差し込まれ、漫画では巻末のおまけのように掲載されていました。

 つまり、「宮本大が成功した現在」という大枠の中で「宮本大のサクセスストーリー」を描いているフレームストーリーなのです。この物語構成としての枠組み(フレーム)によって、この作品独特の感動が得られます。

 

 大は圧倒的な天才です。周囲の観客を惹きつけるだけでなく、自身が所属するバンド内にも影響を与えます。それは全くの門外漢であった友人・玉田をジャズ世界に引き込みますし(大のバンド ‘JASS’ のドラマーになります)、腕の立つピアニスト・雪祈の自尊心を脅かすほどです。大を中心とした引力が、物語を推し進めます。

『BLUE GIANT』は上映時間の(私の体感で)2/3が演奏シーンで構成されている、音・演奏技術をどのようにアニメーションとして表現するのか真摯に向き合った意欲作です。正直に言って、アニメしては昨今の作画や3DCG技術の向上を鑑みると物足りないです。これは上映開始から第一印象として拭えないものではあります。が、その一点のみで作品の評価を落とすのは野暮でしょう。作品全体の良質さの前には、私としては、瑣末なことであると断言できます。これは間違いなく良い映画です。

 劇場の音響設備から奏でられるテナーサックスやピアノ、ドラムスは圧巻で、演奏技術の良し悪しがわからない我々観る側に優れた映像演出で明瞭に表現してくれます。画面内でキャラたちが、時に荒々しく、乱れ、発光し、燃え上がる。色を変え、作画タッチを変え、幾何学でサイケデリックな世界を行き来できるアニメーションならではの表現が作品世界とマッチし、実写ではできない演出が成功しています。入れるべきところに力を入れた結果、みごとに成し遂げられたのでしょう。あまりに高温となった恒星は青く光るとは、作品内でも語られることですが、まさに、それが表現されていると感じることができるのです。

 

 ここに物語の要素として描かれるのが観客です。大の活躍を見守る観客にこそスポットライトを当てるのが『BLUE GIANT』の特徴であり、最も心揺さぶられる独自性であると私は考えます。

 先に述べたように、玉田はまったくの門外漢でした。初ライブでは大と雪祈についていけずにスティックを持つ手を止めてしまいます。才能ある二人と同じ舞台に立つのはあまりに酷であると思えますが、玉田は己の技術を磨き続け、何度もステージに立ちます。その姿を、観客のうちのひとり、白髪の老人が見ているのです。ずっと、ずっと。彼はあるライブの後、玉田に声をかけます。上手くなった、と。彼の歩みを、成長を、ライブの演奏姿を通して見てきていた老人は玉田の上達をぶりを知っているのです。それはまさに我々観る側と重なり合わさる部分です。私は、主人公に感情移入するのではなく観客の老人と感情共有してしまいました。そしてその他にも多くの観客がJASSの姿を見、揺さぶられ、そこに感情を乗っけてしまうのです。天才の感情はおよそ想像できませんが、それを眺める人の感情は等身大ということかもしれません。

 

 映画を観終わって感想をつらつら綴っている私もまたフレームに組み込まれているかもしれないです。まさに、当時を振り返る観客そのものですね。

 

【評価】

☆☆☆☆☆(星5)

 

【余談】

 作品単体の評価とは関係なく、この映画は原作漫画の再解釈が行われた上で、大胆に再構成されたストーリーとなっており、ある要素がなかったりなかった要素が現れたりしていますが、この効果によって漫画原作が映画作品としてまとまりあるものになったと、私は大変好意的に捉えています。漫画をそのままやっていれば、要素としては作品に厚みをもたらすでしょうけれども、120分の上映時間においてはノイズとなっていたでしょう。物語は表現媒体によって最適な形があると私は思っていて、例えば大友克洋『AKIRA』の漫画と映画ではストーリーが異なるけれどそれぞれが疑いようのない名作であるように、『BLUE  GIANT』もまた、異なる媒体に適した変化を遂げることで作品の純度を高めることに成功させたと思います。なので漫画も映画も、どちらも体感してほしいと思っております。

 

 デイミアン・チャゼル監督『セッション』を彷彿とさせるエンドロールの入りと余韻の耳鳴りが忘れられません。了)

2023 / 03 / 02
21:00

インプットとアウトプット

 

煎餅を焼くことはインプットとアウトプットを絶え間なく交互に繰り返す行為だと感じます。

 

 バーナーの上に並べられた十二丁の金型を動かし、匙で生地を盛り付け、カン(留め具)を閉じてまたバーナーに並べる。

 3時間から4時間の間に同じ作業を繰り返し繰り返し、繰り返す。何度も何度も。

 

 その中では、型を返す速度や匙を盛る量、挟みこむときの力加減によって煎餅の焼き上がりが変わってしまいます。

 一度の動きに「(型を送る)手が早くなっているな」「少し生地の量が多いな」「生地が広がりすぎたな」という反省をしていて、そうしている間に型を返す作業をすることになります。

 

 インプットの直後にアウトプットがあり、それそのものがインプットの機会であり、アウトプットの成果が試される。

 

 文字に起こすのはなかなか難しいのですが、ようはキャッチボールのようなものだと思えます。

 ボールをどう握り、腕をどう動かして、どの位置でスナップし、フォロースルーを行えば相手の構えたミットに投げることができるか。足のあげ方に開き具合、腰の回転と軸足の蹴り上げ。うんぬんかんぬん。

 思ったところに投げられなくても、改善点を考えているうちにボールがこちらに帰ってきて、また投げなければならない。問答無用で訪れるインプットとアウトプットの繰り返しはまさに厚焼木の実煎餅を焼くことと同じです。 野球の基本的な練習でありウォーミングアップであるキャッチボールですが、野球を構成する要素の半分(打撃・守備)を体得することができる奥深いものであり、頭をフルに使って行うと学べることが多くあります。

 

 私はこの「インプットとアウトプットの繰り返し」が体質に合っているのだと思います。

 

 今日も「インプットとアウトプットの繰り返し」を感じながら、考えながら、煎餅を焼きました。また明日も「インプットとアウトプットの繰り返し」を感じながら、考えながら煎餅を焼きます。そしてたぶん、明後日もその先も。無限ループ怖い。了)

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