栄月日記

2020 / 05 / 26
16:00

ゾッとしない話

 先日の山梨日日新聞に「1円玉の天気」についての寄稿文があった。

 不勉強で知らなかったけれど、なんでも「1円玉の天気」というのは、5円以上のお金は崩せるが1円はこれ以上崩れないーーつまり「これ以上崩れようのないほどいい天気」ということだそう。なるほどたしかに。トンチのような捻りが効いている。面白い言葉だ。 

 毎日使っているのでもはや新鮮味などない日本語の新しい一面を見つけると、途端にうれしくなる。日本語は奥が深い。

 

 日本語の奥深さ、みたいなものには常にアンテナを張っていたいと思っている。いままでに英語や韓国語を勉強したけれど満足に読み書きできないから、日本語くらいは使いこなしたい。

 

 アンテナを張っていたら、あるとき『ゾッとしない』って変な言葉だ、と思った。小説に書いてあったのだ。

『ゾッとしない』は「おもしろくない・あまり感心しない」という意味なのに対して、『ゾッとする』は「恐ろしい」という意味だ。「〜ない」は否定で使うので、大抵もとの言葉の反対の意味になるが、『ゾッとしない』は『ゾッとする』の反対の意味になっていないのだ。

 これっておかしいではないか。

 そのことに気づいたとき、新たな発見にうれしくなったと同時に、ゾッとした。それはちょうど、『ポケットモンスター・サファイア』でレジロックのもとに通じる入り口が出現したときの感覚と同じだ。なんでここで「かいりき」を使うと入り口が出てくるんだ、やっと捕まえに行けるのはうれしいけどなんだか気味が悪い、というような。

 

 言葉だけでなく表記についても同様に興味は尽きない。

 たとえば、「ゾッとしない」と「ぞっとしない」では受ける印象が違う。個人的には、カタカナで表記した場合だと「ゾッ」という鳥肌が立つときの擬音の印象が強いのに対し、ひらがなだと「ぞっとしない」の一括りで慣用句のように捉えている気がする。人それぞれ、使い分けているのだと思う。「そのこと」を「その事」とするかもしれないし、なんなら「そ」を二画で筆記するかもしれない。こういう使い分けの部分にその人の個性とかこだわりが出るのかもしれない。

今回の文では『「ゾッとする」の反対の意味ではない』という話題なのでカタカナ表記の「ゾッとしない」を用いているけれど、普段使いならひらがなの「ぞっとしない」で表記する。これも使い分け。でも結局のところ、どちらで表記しても意味は通じるからどちらでもいいのだけれど。だからこその、こだわり。

 

 ところで、当店の商品でも表記問題が(私の中で)話題になっている。

 当店の煎餅、『厚焼木の実煎餅』『厚焼木の実せんべい』『厚焼木乃実煎餅』、どの表記が正しいのだろうか。

 

 結論としては、わからないのです。

 なぜならすべて使っているから。混在しているから。

 煎餅の小袋と箱の外装は『厚焼木乃実煎餅』、店の外看板は『厚焼木の実煎餅』、祖父が昔いただいたという表彰状は『厚焼木の実せんべい』とあるのです。

 

 商品名に表記のブレがあるというのは、あまりゾッとしない話だ。いつか表記を統一したい。

 さすがに表彰状を訂正するわけにはいかないけれど。(了 

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