栄月日記

2023 / 06 / 07
22:00

ヤモリとウグイス、それからカッコウ

 冬のある時期、すっかり外が暗くなった17時から18時のころに決まってやってくるヤモリがいた。そのヤモリは道路に面した窓ガラスの網戸にしがみついていて、街頭の明かりがぼんやりと光るガラス越しに体のシルエットが浮かんでいて、ちょっと気味が悪い。

 仕事の後片付けをしていて、床をほうきで履いているとき、ふと顔を上げると爬虫類独特のしっぽの長いシルエットが窓に張り付いている。

 窓を開けている日なんかは、腹の面が見えて、やっぱり気味が悪い。

 体をくねらせ、短い四本足でふんばり、指先がぷっくりとふくらんでいて、いかにも「掴んでいる」といった様子で、じっと動かない。

 

 その窓はちょうど焼き場の上にあって、仕事が立て込んだときなんかはヤモリのシルエットが表れて時間を知ることもあった。

 決まった時間に同じ窓にそのヤモリは来る。家を守る、縁起のいい生き物。招き猫のようなその存在は2週間ほど毎日表れて、いつのまにか来なくなっていた。

 

 春になると裏の木に必ずウグイスがやってくる。子どもウグイスは泣くのがへたっぴだ。親のきれいな、ともすれば遊びがないほどに額面通りの「ホーホケキョ」に続いて、調子はずれの鳴き声で啼く。

 毎日聞いているとその上達度合がわかる。「ホーケ」とか「ホーケッキョ」とかいうのはなくなり、そしていつのまにか一羽で啼いている。遠くで共鳴するように鳴く声もあるが。

 栄月の裏の木を拠点にしているのは、巣立ったわが子を見送った親なのか、はたまた親から家を引き継いだ子なのか、そんなことはわからないけれど、来年もまた聴けるといいなと思う。

 

 今日の朝、早く起きなくてもいいのになんとなく意識が覚醒してしまった。目はつぶっているけれど自分はもう起きてしまっていると気づいている、あの感覚。休日に思う存分寝坊もできない悲しさに対する、悪あがき。それでもなんとか眠気を手繰り寄せて一時間ほど睡眠を延長させてから起きたときに、そういえばさっきまで外でカッコウが「カッコウカッコウ」と啼いていたな、と思い出した。

 一度目は鳥のさえずりで目覚めていたのだろう。なかなかに耳に張り付いている。

 カッコウ。なんて名前をつけられたものか。ニワトリだってコケコッコーとは名づけられてない。うぐいすだってホーホケキョではない。ホーホケキョはとなりの山田くんだけだろうに。了)

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