大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-09-02 21:51:00

dive69

 お店を開けて一か月が経った。街道を往く人たちの中で立ち寄ってくれる人も、今まで食べたことのない担々麺にとっつきにくそうだが、食べてみるとおいしいことがわかって完食してくれる。中にはこんなの担々麺じゃないという人もいるがそれはそれ。新しいモノとは、いつもそういう人との戦いを余儀なくされる。しかしそこを通り過ぎるまで我慢していかなければ浸透しない。いつだって新参者はたたかれるものだ。自分が今まで正しいと思ってきたモノを否定されているようで、自分が間違っていると言われているようで腹が立つのだろう。何でも一番と決めたがる人が陥りやすい、エゴと呼ぶに値する話だ。なぜ、あれもいいけど、これもいいねにならないのか。結局はそれが争いの始まりになっていることが多いのは、歴史が証明している。その人が気に入ってる人がおすすめするモノを自分もこれが最高だと信じ込み、他のモノは否定する。自分で判断しない、考えない人に多い話だ。宗教、政治みたいに難しい話ではない。自分がおいしいと思うかどうかだけなのに、皆の判断が気になるのは日本人特有の感情だと思っていたがそうでもないのかな。そんな感情がなければもっと笑えるのに、食べるときに難しい顔して食べてる人を見るとちょっと悲しくなる。食べるってもっと楽しいことだと思う。私が吟味してやる的な人たちを見ると誰のために?と思う。誰もそんなこと望んでないのに。みんな、違うところで生まれ違うところで育ってきた。家の味があり、それぞれに伝統がある。私の家の味があなたの家の味と違ったらどうだというのだろう。それでもいいじゃない。それはそれで美味しいじゃない。美味しいは調和である。好き嫌いではない。味のバランス、材料のバランスをどうやってとるかが調理師の腕の見せ所。昨今、全国展開されるファミリーレストラン、スーパーマーケットに並ぶ食品メーカーのたれやソースなどの普及により日本の味の画一化が進み、あろうことか料理屋を名乗るところでも冷凍食品やたれ、ソースをそのまま使っているところも増えている。知り合いの結婚式などでは初めから最後のデザートまでほぼ冷凍食品だったことを見るに、もはや何が正解なのかわからなくなってきている。調理場で作業している姿が目に浮かぶ。果たしてこの冷凍食品を切って器に盛っている調理師は笑えるのだろうか。晴れの舞台に呼ばれたお客さんに胸を張って今日はおめでとうございます、と言えるのだろうか。こんなことをするために調理師学校へ行ったのだろうか。調理師にもいろんな悩みがある。自分が最終的にどういう調理師になりたいかによって吸収すべきものも変わってくる。どんな道を歩み、何を思いどうするか。何かに流されれば、気づいた時にはこんなはずじゃなかったと自分の人生に後悔ばかりすることになる。おっと、調理師の愚痴が出てしまった。毎日作る自分の担々麺にこんな思いを乗せてはいかん。美味しくなるよう、みんなが喜んでくれるような一杯を明日も作ろう。

 麗華も慣れてきて元気な笑顔を取り戻してきている。私の体もこの調理場に慣れてきてお客さん、一人一人の顔も見えてきた。日本にいた時のことを思い出すと、もっと早く自分でやればよかったなんて思うようになってきた。今日も一日、精一杯やって日が暮れていくのを見ると、日本で働いていた時よりも充実感がある。今日も頑張ったので片付けて帰ろうとした時、

「欢迎光临!」(いらっしゃいませ!)

 麗華の声がする。見ると元はいい服なのだろうが、着倒したというか暴れまわったというか、あちこち擦れて敗れかかった服を着た汗と土埃にまみれた男が入ってきた。歳は私より少し下ぐらいだろうが、疲れ切った顔はまるで老人のようだ。この時代に来た時の私のようにふらふらと入ってきた男は腹が減っているようで何か食べさせてくれと言う。うちにはこれしかないので担々麺を進めると残る力でゆっくりとうなずく。麗華の注文の声で私は湯を沸かす。準備を始めていると、麗華が心配そうな顔で大丈夫かと尋ねた。すると男が最後の力でぼそぼそと話し始めた。実は男はこの街道を抜け、二山向こうの村の村長だという。娘が病にかかり医者という医者に診てもらったが一向に良くならない。それでこの先の川を渡った大きな町の有名な医者に相談に行ったのだそうだが、駄目だったそうだ。もう祈祷師などにも何度も祈ってもらったが効果がないのでどうしようかと、とぼとぼ歩きながら考えていたのだが、ここ2日ろくに食べてなかったもので力尽きるところにいい匂いがして飛び込んだそうだ。麗華が娘の症状を聞くと、王さんたちと同じ症状だった。ちょっと待っていてくださいと言い、麗華があわてて厨房に飛び込んでくる。

「怎么了?」(どうしたの?)

「蓝生!来了!终于来了!」(藍生!来た!とうとう来たわ!)

ちょうど担々麺ができたところで麗華に渡し男に出した。そして、すぐに客席の男のところに。出された担々麺をがっついて食べている男に

「这话是真的吗?」(その話は本当か?)

男は泣きながらうなずく。とても作り話とは思えない。来るとわかっていたものの、あの時見た男の顔、こんな顔だったかな?おっさんの顔って見分けつかないんだよねぇ。食べている男の顔を覗き込む。泣きながらのくせにもう食べ終わりそうだ。まあ、でも嘘ついても何の得もないし。麗華を見てうなずくとすぐに藍染めの衣を用意し、外の通りに誰もいないことを確かめ店の扉を閉めた。閉じ込められて、たじろいでいる男に

「你能保守秘密吗?」(お前、秘密を守れるか?)

確か、あの時こう言っていたよな、歴史を変えるわけにいかないしな。

男は、今度 ばかりは力強く大きくうなずく。男を待たせ、麗華に藍染めの衣を着させてもらい、担々麺を作る。病よされ、体調がよくなるようにと願いを込めて。そして、できたての一杯を男の前に差し出す。男は何が始まるのか、どんぶりと私を何度も交互に見ている。いよいよだ、和尚、王さん力を貸してくれ、と頼み、術を発動する。麗華はもう何度か見ているので驚きはしないが、男は椅子から転げ落ちてびっくりしていた。慣れたもので麗華が桶に水を用意して出てきた私の手を冷やしてくれる。

「緑碧目石!」(ブルーアイズストーン)

男に石を渡し、砕いて娘に飲ませろと言った。そして私たちのことは誰にも言うなと、わからないことや何かあったら『青龍寺』の龍恵和尚を訪ねろと。男は紙に『青龍寺 龍恵』と走り書き、何度も頭を下げると薄暗くなった山道をかけて行った。よし、これでこの時代でやることは済んだ。次に行くのは2018年の日本。気合いを入れようと思ったら、麗華が悔しそうに地団太を踏んでいた。どうしたのか尋ねると

「忘记收货款了!」(お代をもらうの忘れちゃった!)

さすが、わが嫁、頼もしい限りである。

dive70に続く・・・

 

2020-08-31 21:41:00

dive68

 どうも、もう少し手前に大きな宿場町ができたため、こちらの街は人が少なくなってしまったらしく閑散としている。街道を往来する人はいるものの一日に移動する距離的にも隣の新しい街の方が便利なことと、河川からの荷上場にも近いため荷役の人たちにも便利なことが理由で古い方を使う人がいなくなってしまった。建物はまだ残っているものの、人の気配がしないところが多い。宿屋があったのでその日はそこに泊まることにした。宿屋の店主に町のことなど少し聞いてみると、空いてる建物は所有者もわからないところが多く、朽ちていくばかりで困っているそうだ。それならちょっと借りてもいいかと、聞くと、何をやるのかと言うので、担々麺屋だと。それなら、3軒向こうの店が元麺料理屋だったから、そこを使えばいい、前のやつは、隣町に行ってしまったから好きに使えばいいよと言う。願ったりかなったりだ。未来のことを見てきたからとはいえ、こんなにとんとん拍子に進むと何か罠でもあるんじゃないかと疑ってしまう。罠?罠を張ってるのは私ではないのか。そうだ。ここで私は未来に種をまくのだ。しかしその後がどうなるのかまでは見ていない。誰がこの種を育て花を咲かせるのか。未来で石を作り敵の襲撃に備える。私たちの意志を継ぐ者が現れることを祈るばかりだ。

 次の日、早速麗華と店の掃除に行った。

「虽然只是一会儿,这是我们第一家店」(少しの間だけど、私たちの初めてのお店ね。)

 楽しそうに掃除をしている麗華を見ていると、なんだか昨日ここへ過去から飛んできた時のことを忘れてしまっているようだ。私たちの店、そう、それならば、あの新しく作った私の担々麺を出すべきだ。麗華に相談すると二つ返事でそうするべきだと言ってくれた。あらかた掃除を済ませ材料を買いに行き、早速第一号を作ってみる。あーー、なんだか落ち着くんだよね、調理してると、と言うか調理場に立つとかな。いつか自分の店を持ちたいなぁ、なんて思っていたけど、成り行きとはいえ、こんな形で開店させることになるなんて人生何があるかわからないものである。でも、何かきっかけがないと自分で始められないものなのかもしれない。誰かが、『もういいよ』と言ってくれないといつまでも修行してしまう。全部自分の気持ち一つなんだよね。いつか、いつか、なんて言ってるうちに時期が過ぎちゃうんじゃないかな。私にとってはいい機会なのかも。

 客席に座ってこっちをのぞきながら麗華が待ってる。掃除でおなかがすいたのか足をバタバタさせている。またこっちをのぞいてる。あまりお客を待たせてもいけないので、急いで作る。麺をゆでている間にスープを用意する。ゴマとナッツのいい香りだ。もやしとニラをゆでておき、麺を上げてスープにドボン。茹でたもやしとニラをドカッと乗せる。肉みそをどっさり掛けたら、辣油をたらたららららー。できあがり。さあ、客席へ。

「让您久等了。」(お待たせいたしました。)

 着いたとたんに、どんぶりを抱えて混ぜ出す麗華。無言。ただただ無言で食べている。こっちには目もくれない。ねえ、ちょっとなんか言ってくれないかな、なんて思いには触れもしないでがっついている。たまにレンゲでスープをすくって飲んでは、また麺を食べる。お茶漬け屋のコマーシャルでも見ているかのようだ。あーー、もうなくなっちゃうよ。

「啊,谢谢您的款待。很好吃。」(あー、御馳走様でした。美味しかったです。)

そう言われて少しほっとした。これで準備はできた。後はあの男が来るのを待つだけだ。そう思い麗華にも片付けて帰ろうと言うと、

「等一下,有没有忘记?」(ちょっと待って、忘れてない?)

そう言うと、荷物の中から持ってきたものを表に持って行った。そして店先に打ち付けた。そうそれは少し焼け跡の残ったあの看板。打ち付けられた看板はまるで開店を祝って笑っているようであった。そう、あの時王さんが笑ってくれたように。

dive69に続く・・・

2020-08-28 22:28:00

dive67

 術の最終確認をし、体調を整え、明朝決行することにした。皆で話し合い、まずは3年後の成都へ。あの映像の中で言っていたあたりに店を出してそれらしき男が来るのを待つことにした。その後、今度は2018年を目指して時を渡る。私も知らない未来へ。孫の藍はもう成人して社会人か。会いたいな。でもこんなことに巻き込むわけにいかないから、遠くから見るぐらいにしておかなきゃならんか。そう言えば、あの宝石どうしたかな。あの宝石屋にずっと置いてあるのかな。私が失踪した世界はどうなってるのか。調べても、まさか過去の中国にいるとはおもわないわなぁ。でもあの日の行動を追跡調査しても、とても失踪する人の行動ではないものなぁ。そうだ、向こうに着いたら身分証明とか、住む所とかどうしよう。未来の青龍寺の和尚に何とかしてもらおう。明日、龍恵に・・・考えていたら寝てしまった。

 翌朝、龍恵に話してみた。未来の日本の状態と共に。未来では電話と言うものができて連絡が取れるようになることを説明して、青龍寺に電話を掛けることにした。日本の戸籍を作ることが難しければ、中国籍でもと頼んだ。その時の名前は「王藍生」でと。

 さあ、制限時間いっぱいだ。麗華と離れないようにひもで二人をぐるぐる巻きにしてもらった。麗華が私にしがみつく。印を結び準備をする。あれだけ強がっていた麗華が目をつむって震えている。私もドキドキして心臓が飛び出しそうだ。そんな鼓動を感じて麗華が怖がりはしないか心配でギュッと力強く抱きしめ、

「我爱你、麗華」(愛してるよ、麗華)

麗華の震えが止まり、口元が緩んだ。

補助で真言を唱えていた龍恵が

「现在。」(今です。)

その掛け声とともに私たちを中心にして竜巻のような風が吹く。まるで私たちの中心に穴がありそこに引きずり込むように。徐々に速度を増していく。風の密度が濃くなってだんだん龍恵たちが見えなくなる。麗華のしがみつく力が強くなった。私は真言を唱え必死に仏に願う。真っ白な光に包まれ、周りには何も見えない。1843年の成都を目指して。もし仏が私を導くのならばそこへ連れていくと信じて真言を唱え続ける。もう何回唱えたかわからない。気が付くと目を閉じてしまっていた。あれ、そういえば風がやんだ。恐る恐る目を開けると、そこは見知らぬ街道であった。周りには誰もいなく、元は栄えた町であっただろうが今はさびれてしまっている。何軒か営業している店はあるが、大半の店はもぬけの殻のようだ。

「蓝生!现在可以睁开眼睛了吗?」(藍生!もう目を開けてもいい?)

麗華も無事のようだ。二人を結ぶひもをほどいていると

「再这样就可以了。」(もう少しこのままでもいいよ)

そう言われて、もう一度麗華を抱きしめた。

「丽华!哪里不痛吗?」(麗華!どこか痛くないか?)

あちこち確かめているが、どこも痛くはないようだ。今が何時で、此処が何処なのか、すぐに町の人に確認しなくては。ひもを撒きながら歩き始めた。一軒店が開いていたので、そこの人に聞いてみる。

「1843年4月9日」

成功だ!時を渡ったぞ。

dive68に続く・・・

 

  

2020-08-27 22:01:00

dive66

 焼けてしまった呵呵を整理し、あとのことを寺の者に任せた。あの火災の中なぜか焼け残った小さな木製の看板。麗華に聞くと、この看板は、木に王さんが書いて、彫ったものだという。思いを込めて作ったこの看板にも王さんの霊力が宿っているのだろう。この看板だけは持っていこう。看板とあの麺棒、今まで貯めておいたお金持って寺へ、麗華と二人、覚悟を決めて登った。何度も通ったこの道、もうこれが最後かもしれない。こんなことでこの道をのぼることになって、さぞ深刻な顔をしているだろうと麗華の顔をのぞいてみると、意外なことに笑っていた。さすがに何を考えているのか不思議に思い聞いてみた。すると、

「因为是第一次旅行,所以是新婚旅行。」(初めての旅行だから、新婚旅行ね。)

といって笑った。恐れ入った。あなたと結婚してよかったと思わず言ってしまった。知らないところに行くのに不安はないのかと聞くと、

「你来自未来的日本。两个人去有什么不安?」(あなたは未来の日本から一人で来ました。二人で行くのに何の不安がありましょう?)

驚いた。確かにその通りだ。私は何も知らないこの時代この地に一人で来て何とか生き延び、自分のことだけでなく、他人事に首を突っ込み、結婚までして、挙句悪人退治までしようと言う人に、このまま生きても向かうであろう未来に、先乗りするくらいなんてことない人が、心配される覚えなどないのである。しかも今度は二人連れ。麗華は続けた。

「在比自己紧张的人面前,不能紧张。」(自分より緊張している人を前にして、緊張なんてできないわ。)

 私は、今わかった。我が家は、かかあ天下だ。あはははは。そうか、そうだな。うん、それでいい。いやそれがいいな。麗華、最高だ。

 笑いながら寺に入ってきた二人を見て、龍恵たちがぽかんとしていた。事情を話すと、龍恵も笑ってしまった。これが麗華の力なのかもしれないと龍恵が言った。あれから秘伝書を読み返し、複数人の時渡りの記述のところを読んでいたところ、別の書物に書いてあることがわかり、探して見つけたそうだ。早速読んで可能性が見えてきたと言っていた。何とか行けそうだ、私たちの新婚旅行へ。

 術の最終確認と注意事項を聞いているときに、千道のことを聞いてみた。すると、使い先にはいったものの、その後は行方不明で帰ってきていないそうだ。きっと行徳に合流したのではないかと龍恵は言う。ここ青龍寺には各地に別院、分院がある。今までここで修練してきたものたちがたくさんいる。今回の一連の騒動のことは皆に連絡しておくとのこと。千道がもしまだいるなら、いずれここにも連絡が来るので、未来の寺に寄ったら聞いてみればわかるはずだと。

 時渡りのことについて考えたことを龍恵に話してみた。いつの時代に渡ったかわかっているなら、そんなに急がなくてもその時代のちょっと前に飛べば先回りできるのではないか、と言うと、私がここで過ごしている間に私が年を食って体力が衰える。衰えれば時を渡ることに耐えられないかもしれない。ましてや戦うなど・・・と。何度も行うには霊力も体力も使う、それ相応に消耗するだろうと。どうやって時渡りの術の実験をしたと書いてあるのか、と聞くと少し先へ飛ぶというものに一匹の印をつけたオタマジャクシを持たせた。そして3か月後の同じ場所に渡り、そのオタマジャクシを確認する。3か月もの間オタマジャクシのままでいられる訳はないから、入れ替えていないことの証拠になる。その後犬や猫でも試したと自慢げに言ってきた。ちょっと待て麗華はオタマジャクシか?人では試してないのかと聞くと黙ってしまった。麗華には黙っておこうと思ったが、後ろで目を丸くして聞いていた。

 「哥哥和和尚一定会保护我。」(兄さんと和尚様が必ず守ってくださる。)

麗華が自分に気合を入れてるのを見て、うろたえていられないと覚悟を決めた。

dive67に続く・・・

 

 

 

2020-08-26 17:12:00

dive65

 和尚から法力を移植された時に不思議な映像を見た。場所はここ青龍寺だった。しかし和尚は今の和尚ではなく円旺が、いや龍恵が年老いた感じだった。そこにある男とその娘が人探しで来ていたようだった。走り書きで『青龍寺』と書かれた紙を握りしめこの寺に来たと言っていた。娘が病で倒れ、治療薬を探し回っていたが見つからず、ほとほと困っていたそうだ。遠くの町まで探しに行った帰り道、ある食べ物屋の店主夫婦に青緑に輝く薬石をもらい、これを砕いて飲ませたところ、たちどころに娘は回復した。その店主は藍色の衣に湯麵潜師と書かれていた。記憶を頼りに探したが見当たらず、ただ一つの手がかりであるこの紙切れに書かれた『青龍寺』という名前を頼りにここまでやってきた。そしてあの店主に礼を言うために会いたいと言っていた。円旺が娘にここで修行をすることを進めている。娘の両手に十字紋が入っていた。その娘は術を体得し、村に帰りその数代後の子孫たちが救世主と会うことになる。その少年にも両の手に十字紋があった。そしてもう一つこれはまた違う時代、私がいた世界より少し先の話。私が飛んできたのが1993年。2018年冬の平昌オリンピックという文字が見えた。そこで行徳が銀色のスーツに黒いネクタイの男と石について話している姿が。その男はどこかの会社の社長らしく、まさに欲望の塊のように見える。男の会社に黒石の文字が・・・そこで意識を失った。目が覚めた時にはもう和尚は亡くなった後だった。この世界に来て恩人二人を亡くしてしまった。仏の力によってこの世界に飛んできて、皆を助ける役目ではなかったのか。そうだとしたら、もはや私はお払い箱だ。しかしそれでもここにいるのはまだ何かしなければならないからだろう。私の役目とは何だ?悲しみに暮れている龍恵に映像のことについて話す。すると龍恵は、それはもしかしたら、これから起こる未来を見てきたのではないかと言うのだ。私の霊力と和尚の法力が合わさり、和尚が行徳を探す思いと、私が時を渡る思いとがその未来を垣間見させたのではないかと。龍恵は続けて私に行徳を追ってくださいと言った。私に時渡りを行えと言うのだ。もしそれが仏の導きだというのなら、あるいはそれが私の役目だというのなら仕方があるまい。しかし、仏よ、ではなぜ麗華に逢わせた。このまま置いて行けと言うのか。その別れはあまりにも残酷すぎる。もしこのまま麗華を一人残し旅立てば、麗華の頼れるところはもうどこにもないではないか。ようやく笑えるようになったというのに、ひどすぎる・・・遠ざかる解決の道と愛する者を悲しませるやりきれなさに絶望する。いや待てよ。そういえばあの映像の男は『店主夫婦』と言っていたな。もしかしてそれが私と麗華なら・・・まだ可能性はある。龍恵にこのことを聞いてみると、あの書物には複数人で時を渡ったという記録もあるから、あるいはと。和尚の葬儀はその日の夜に行うこととなり、一度、山を下り、急ぎ麗華を迎えにいった。すべての事情を麗華に話すと、目にいっぱい涙を浮かべて、一言

「无论到哪里都和你在一起。」(どこまでもあなたと共に。)と。

その日の夜、寺のある山では悲しみに暮れ、遠吠えにも似た鳴き声と、遥か三千世界の果てまで届けとばかりの読経がやまなかった。

dive66に続く・・・

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