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dive76
改札ゲートの一件で意気消沈の麗華をホームのベンチに座らせて、今から行く中華街という場所について二人に教えておいた。中国大陸勢力と台湾勢力の話をしようとすると、あの後の中国の歴史を話さなければならないから面倒くさい。清国が終わるなんて知らないだろうからな。国民党と共産党なんてどうやって説明すればいいんだろうと思いながら
「あの後、清国は日本や西洋諸国に食い物にされたりして滅んで行くんだ。最後の皇帝溥儀は日本によって建国された満州国の皇帝になるがソビエトに滅ぼされ、後にできた中華人民共和国の満州族代表になる。清国の後にできた中華民国という国民党の袁世凱という人物が建てた漢民族の国『中華民国』ができたが、それに反発する共産党の毛沢東たちに国を追われ、国民党は台湾に敗走する。現在は共産党による『中華人民共和国』俗に『中国』という国になっているため、大陸勢力と台湾勢力は今でも仲が悪い。台湾も私たちのものだという共産党と国を返せという国民党。しかし台湾にはもともとの住人達もいたため、国民党一色にはならないという問題もある。そんな問題が此処日本の中華街の中でも行われている。今から行く中華街とは横浜港が開かれ、西洋諸国やアメリカとの貿易の時に通訳など仲介のために雇われた中国人が、此処に住み始めたのが最初で、1920年代から飲食街として発展してきて今に至る。最初に中華街ができたころは大陸勢力が強く、町を牛耳っていたが、その後というか私がいた時代は台湾勢力の方が強くなり、大陸勢力は山の上に追いやられていた。中華民国、中華人民共和国、それぞれに建国記念日(国慶節)があるが、大通りの店に旗が建てられるのは台湾(国民党)の方が多いのが現状。まあ、ざっとこんな感じだ。」
「へぇーーー、清にいたころからいつもそんな感じだったよ。私たち庶民はその時々の支配者たちと「うまくやる」しかないのよ。日本もそうでしょ。国も町も同じ。すべては支配者たちの欲。あなたが申し訳なさそうにすることはないわ。」
美雨の反応は意外だった。こんなに霊力を操ることができる彼女なら、不老不死や長寿を欲しがる支配者たちから重宝されるに違いないと思ったからだ。
「そうね、昔からそういう輩が私を利用しようとしてきたわ。だから同じところに長くは住むことができなかったの。孤独になるわけでしょ。あなたたちと会った街もそろそろ限界だったの。私のことを知らない時代、国に来られてうれしいくらいよ。それに、そんな者たちに加担したら心穏やかに暮らせないでしょ。そんな人に自然界は力を与えない。そんな力は、闇のモノの力よ。」
また、心を読まれてしまった。まあ、隠すようなことは何にもないけどね。
ピロリロリーーーン!と曲が流れ、電車が来ますとアナウンスが聞こえた。確かあの時代の中国にまだ鉄道はなかったはず。初めて見る電車に二人とも目を丸くしている。停車して扉が開く。車も驚いただろうけど、馬車はあったからそれほどでもなかったようだが、こんなでかい箱から人がぞろぞろ降りてくるのを見て、ちょっと引いている。じっと入口から中をのぞいている。ぷしゅーーー。扉が閉まった。今度は二人とも固まっている。一本乗り過ごした。仕方ない。石川町までわずか5,6分。こりゃ、タクシーの方がよかったかな。しかし、何事も経験だ。一度覚えれば、この後、一人でも乗れるようになる。
「落ち着け、みんな乗ってただろ。怖くないから、大丈夫。ただの乗り物だから。」
麗華の息が荒い。目の前に立ち、両肩に手をやり、一緒に深呼吸を繰り返す。瞳孔が開き切ってる。だめだこりゃ。さっきまで冷静だった美雨はどうだ。こっちは両目をつむって、なんかの祈りをはじめちゃった。
「麗華、麗華、いいか、次の電車に乗るから私の腕につかまってなさい。電車とホームの間に落ちないように気を付けないといけないよ。美雨、祈らなくてもいいから、何も襲ってこないから、大丈夫だからね。美雨も反対側の腕につかまって、ね!」
ピロリロリーーーン!また曲が流れる。電車が来た。扉が開いてみんなが降りてくる。さあ!乗るぞ。前に進むが、腕が、腕が前に進まない。ぷしゅーーー。2本目も行ってしまった。中華街が遠い。
「藍生!歩いていけばいいじゃない。そんなに遠くないんでしょ。」
「いやいや、麗華逃げちゃダメ。これぐらいできないと日本で生きていけないよ。」
「じゃあ、もう帰る。清に帰る。」
「美雨、何とか言ってあげて」
「藍生!この国は何かおかしいです。今から祈りを捧げます。」
うわーー、美雨もかよ。もうこうなったら、最後の手段だ。
「そうか、うん分かった。帰るか。でもさあ、麗華、電車に乗ったら、もっと可愛くなっちゃうんだけどな。残念だな。可愛くなった麗華見たかったな。きっとすごくかわいいんだろうな。もったいないなぁ。美雨ももっときれいにになっちゃうんだけどな。しょうがないか。うんじゃあ。でもな・・・」
「藍生!本当ですね。その話。」
「そんなに藍生が見たいって言うのなら、妻として、頑張らなくてはなりませんわ。美雨姉さまよろしくって。」
「仕方ありませんね。藍生がそこまでお願いするなら、わたくしも祈る前にちょっと乗ってあげてもいいですわ。」
ピロリロリーーーン!三度目の正直!電車が来た。二人がひきつった笑顔で腕にしがみつく。ドアが開いて人が降りてくる。さあ!腕に痛いぐらいしがみついて前に進む。下に気を付けて、恐る恐る何とかまたいで乗った。汗びっしょりの二人を座席に座らせる。
やっと乗れたことで気を許してしまったのがいけなかった。気が付くと横浜駅、石川町などとうに過ぎていた。
dive77に続く・・・・
dive75
たどり着いたのはいいが、此処が何処なのか調べないと。近くで地図を見るには、うーーん、あ、そうだコンビニだ。中国生活が長かったせいか日本を忘れ気味だ。あれ?あの人手に四角い板もって話してる。あれはなんだ。20年以上たっていると浦島太郎状態だ。あれ?二人がいない。どこだ!探してみると二人で床屋の赤と青のグルグル看板を見て不思議そうに見ている。
「藍生!これはどうなっているの?下からどんどん出てきて登っていくのに天井まで行ったら・・・」
「ああ、これは理髪店の看板、サインポールっていうんだけど。あれ世界共通らしいけど知らないか・・・回ってるの止めるとただの棒だよ。」
って説明しても一生懸命中をのぞいている。コンビニに行くからついて来てとサインポールから引きはがすように連れていく。コンビニの前の太い通りの標識に16号線のマーク。あれ、ここってもしかして横浜。向こう側にある道路案内標識には真っ直ぐは本牧ふ頭、右は根岸駅って書いてある。やった、わかるぞ、ここは横浜市磯子区だ。昔、この道をバイクで走った覚えがある。そうだ、電話だ。青龍寺に電話してみよう。財布の中に・・・あった。これ使いたくなかったんだよな、斉藤由貴のテレホンカード。でも現金使いたくないしな。財布の中に聖徳太子がいてよかったな。でも電話番号どうやって調べれば・・・あんまり考えてなかった。どうしよう。このままでは、三人で野宿だぞ。うろたえる私を見て二人が落ち着かない。
「どうしたの?大丈夫?」
心配そうに聞いてくる。自分の国に連れてきておいてオロオロしてどうするよ。何か、つてが・・・そうだ中華街、陳さんだ。あの日、最後に石川町の駅で別れたあの陳さん。そうだ店に電話してみよう。恐る恐るテレホンカードを入れる。さらば斉藤由貴よ。
「あの、厨房の陳さんお願いします。あ、陳英明さんです・・・え、オーナー、陳さんが?ああ、そうですか。じゃあその陳さんお願いします。私は守山藍生です。」
待っている間に今度は二人が電話を見て
「あなたは何と話していますか?」
と聞いてくる。麗華は私がおかしくなったのではないかと心配している。そう言っている間に相手が出た。
「あ、陳さん、久しぶり、私です。守山です。元気?」
「あなた誰ですか。守山さんは死にました。私をからかっているのですか?」
「いや、守山です。本物です。信じてください。」
「本物だという証拠を見せてください。できるわけないでしょうが。」
「証拠?証拠と言われてもなぁ。あ、そうだ。いなくなる前のあの日、帰り道で陳さんと話したでしょ。孫が生まれるって。私の名前から一文字とって、藍っていう名前だって。」
「え、あなた、なんでその話を知っているんですか?・・・本当に守山さんなんですか?」
「やっと、わかってもらえましたか。あの、今ちょっと困っていて、それで、今から会いに行ってもいいですか。」
「そりゃぁいいに決まってる。本当に藍生なのか?店はわかるな。表から入って来いよ。」
そう言われて、すぐに中華街に向かった。看板通りに根岸駅にむかい、電車で石川町に。改札を見て私も初めて見てびっくりしたが、前の人が何かをピッとかざすとゲートが開く。なんだろあれ、お上りさんのように三人が眺めてる。何とか切符は買った。自販機の進化というものに驚いたが、二人に悟られないようにするのに必死だった。ゲートを通るだけなのに緊張が走る。まず私が手本を見せる。切符を入れて、通り抜け、切符を取る。長老、70歳の美雨は何とかスマートに通ってきた、成功だ。成功体験は自信につながる。この時代でも私やれるという自信だ。さあ、麗華、心配なのはこいつだ。ドキドキしているのがはた目にもわかる。切符を入れる口を眉をひそめてみている。あちゃー、後ろが閊えてきた。後ろを見て慌てる麗華。頑張れ麗華。泣きそうな目でこっちを見ている。後ろのみんなが麗華をにらみながら他のゲートへ移動していく。
「加油!麗華!」(がんばれ!麗華)
思わず大きな声で叫んでしまった。力が入る。私の声にうなずき、ようやく切符を差し込み口に入れる。機械に吸い取られてびっくりして、ひーー、と悲鳴を上げる麗華。手招きをしてこっちへと促す私。走って駆け寄る麗華。半べそをかいて抱き合う二人を見てよかったとうなずく美雨。しかし、無情にもゲートはブザーを鳴らし私たちをあざ笑う。まだ電車にも乗ってもいないのに、すべてやり遂げたと思って感動している私たちを、最新鋭のゲートがベロを出して私たちを見下すように、麗華の取り忘れた切符を排出していた。まるでお前たちにはまだ早いと言っているみたいに。
dive76に続く・・・
dive74
意図せず若返りを果たした私たちは、美雨にもらった石を小さな袋に入れ、革ひもで結んで首にかけた。こうすることで常に媒介である石を通して自然界の霊力が充填されるらしい。そして昨日、麗華に買ってあげた腕輪と髪飾りについていた青い宝石に、美雨が念を封じ込める。守護の念だそうだ。これで私がいなくても麗華を守ってくれる。こんなすごい人に巡り合えるなんて、これもやはり使命を果たすために出会うべくして出会ったのだろう。誰かが背中を押すように、まるでお膳立てされたように事が進む。ちょっと前までのすべてが奪われていった時期を思うと、なんだか正反対の力が働いている感じだ。あまりに悪いことばかり続いた後、いいことがあるとどこか疑ってしまう。誰かが仕組んだことなんじゃないかって。しかしそれにあらがうような広い見識もない私にとって今が精いっぱいだった。それよりもこれで準備が整った。未来の日本に向かって飛ぶ前に、一応未来の日本について二人に教えておかなくちゃ。今と違って、車やバイク、電車が走っていること、私が持っている腕時計を見せ、未来の日本は時間に縛られていること、水道からトイレのこと、とりあえず教えられることはすべて教えた。後は簡単な日本語。美雨を守護している清華が旅立ちはこの日がいいというので1週間後の朝旅立つことにした。それまで日本語の特訓が続いた。意外と二人とも覚えがよく、しゃべるときはすべて日本語でという遊びにはまっていた。一番好きなことばは二人とも「かわいい」だった。きらいなのは「おばさん」。世界も時代も超えて共通なんだな。二人でキャッキャ言って
「あなたかわいいですね。」
「あなたもかわいいですよ。」
この連続技何回聞いたことか。これが10代の女の子ならほんとにかわいいんだろうな。これが見た目は20代っぽいけど中身は70歳と37歳だもんな。まあ、確かにかわいいけども。霊力って怖い。
日本語もだいぶ板についてきたころに旅立ちの朝になった。いよいよだ。和尚より譲り受けた私の術は乗り物に過ぎない。これを制御し、エンジンとなるのは霊力。今回はエンジンが2台あるようなもの。きっと2018年までたどり着けるだろう。まずはそれからだ。私が真ん中に両脇に麗華と美雨。ここへ来た時と同じようにひもでぎゅうぎゅうに縛る。二人に声をかける。
「じゃあ行くよ。離れないようにしっかり掴まっていろよ」
準備も整い術を発動。大量の霊力のせいで制御がうまくいかない。暴れ馬のようだ。初めてのことに慌てていると美雨に憑く清華が制御を手助けしてくれた。来た!あの時と同じだ。私の中心の穴に吸い込まれるように、周りすべてがねじ込まれていく。なんだ、前の時よりも圧倒的な力で引きずり込まれていく。おおおおおーーーーー。腹に響くこの力。おおおおおおーーーーー。目が開けていられぬーーーーー。
パァーーーーーーーーーーー!クラクションの音とともに目を開ける。車だ。道の真ん中に三人で立っている。慌てて歩道のほうに二人を引っ張る。
「どこ見て歩いてんだ!ひき殺されてえのか!」
二人がおびえている。そりゃそうだ、初めて見る車、アスファルトの道、たくさんの人。そうだここは日本だ。やった、飛べたんだ。とりあえず、紐をほどいて二人を落ち着かせるために近くにあった公園に行った。しかし、そこに向かう道すがら看板があった。そこには『2020年東京五輪まであと5年』と書いてあった。あれ!3年前についてしまった。どうしよう。二人に現状を話すと、
「先回りできたならよかったじゃない。」
若返った二人は私より断然強そうだ。不覚にもこの二人についていこうと思ってしまった。
dive75に続く・・・・
dive73
ひとしきり話が終わると早速、美雨がテーブルの上に何種類かの石を置いて座った。霊力を回復させるには自然界にある霊力を常に吸収するのが手っ取り早いそうで、外の霊力を媒介を通して取り込むことができるらしい。それがこの石。しかし、人それぞれ相性が良い石とそうでないものがあると言う。美雨が送る霊力がどの石を通るのが効率がいいかで判断するらしい。その石を持ち歩けば、常に自然界にあふれる霊力を取り込んで回復させてくれるらしい。そんな便利なものがあるのかと聞くと、特殊な石で滅多にないものなのであることと、その人に合うかどうかという問題もあるという。ここにあるもので合うかどうか試してみないとわからないという。美雨が集中して石に手をかざす。
「蓝生,请试着把手放在那里。」(藍生、手をかざしてみてください。)
なんとなくだが、数個の石の中で気になった黄色い石の近くに手をかざしてみた。
「你在意那个石头吗?」(その石が気になりますか?)
「总觉得很暖和・・」(なんとなく暖かく感じるもので・・
手のひらがだんだん暖かくなり何か炭酸水の泡がはじける様にぱちぱちというかピリピリしてきた。
「果然像那块石头啊。」(やはりその石のようですね)
そう言って美雨が黄色い石に集中したとたん手のピリピリがビリビリにランクアップした。
「可以吗?请考虑将流动而来的灵力储存在腹部深处。穿过脊梁骨。」(いいですか?流れて入ってくる霊力をおなかの底に貯める様に考えてください。背骨を通して。)
言われた通りに考える。手のひらのビリビリした電気が両腕を通り背骨で合流。大量の稲妻が腹の奥底のタンクに溜まっていくイメージで。
「是的。感觉很好。」(そうです。いい感じです。)
だんだん腹の底が暖かくなってきた。いったんそれを感じると何もイメージしなくてもどんどん流れ込んでくる。ああ、なんだか体に力がみなぎってくる。腹の底に太陽があるようだ。
「蓝生!请考虑一下那个力量围绕全身。」(藍生!その力が全身をめぐるよう考えてください。)
力を感じ、そこからあふれてくる流れを右足左足と回り、上に登って腰を通り左腕、左肩、頭右、右肩、右腕を通ってまた足の方へ。何分かしてくると、体を薄い膜のようなものが包んでいる感覚になってくる。驚いたことに目にも回るようにイメージしていたら薄い膜が白い靄のように見えるようになってきた。不思議に思い、まじまじと見ていると美雨が笑って見ていた。
「也看到蓝生了吗?」(藍生にも見えましたか?)
隣にいる麗華には何のことだかさっぱりわからないようで、いったいどうなってるのか聞いてくる。 立ち上がって飛んだり、体をひねったりしてみる。体が軽い。昨日までのだるさが嘘のようになくなってる。振り返った私を見て麗華が驚いている。
「蓝生!你的脸!脸!」(藍生!あなたの顔!顔が!)
顔がどうしたっていうんだ?触ってみるも特に痛いところもおかしなところもない。麗華は何を騒いでいるんだ?慌てて麗華が鏡を持ってくる。なんだよと思って見てみると、そこには若き頃の私の顔が・・・体だけじゃなく顔まで若返っている?
「美雨,这是怎么回事?」(美雨、これはどういうことですか?)
すると、美雨は霊力について詳しく教えてくれた。霊力とは自然界にあふれるエネルギーのこと。人間は皆持って生まれてくるが、大人になるにしたがって減っていく。これは人が社会的な生活をすることで失ってしまう。よく好きなことをして生きている人は生き生きしているというでしょう。あれは自然に霊力を使うことができる人たち。誰から教えられる訳でもなく取り込むこともできる。だからそういう人は若々しく病気を寄せ付けない。この世界はそういう力があふれているのに人間の方から遠ざけてしまっている。自然や動植物から遠ざかることは、この世界の生き物にとって己の首を絞めることに他ならないのである。自然を愛し、惜しみなく自分の霊力を与える者だけに、この世界は霊力というエネルギーを与えてくれる。仏が言う光あふれる世界というのはこの世のことなのかもしれない。そして霊力にあふれる者は老化が遅い。よくあるだろう憎しみで凝り固まった者の顔がしわしわの老人のようなことが。逆もまた然りということなのだ。だから今までよりも霊力を全身に回せるようになった私は体が若返ったのだという。
「麗華、你觉得我比你小吗?」(麗華、私はあなたより年下だと思いますか?)
さっきまで新しく妹ができたみたいに美雨を抱きしめていた麗華が今度は化け物でも見る様に遠ざかる。
「我今年70岁。」(私は今年で70歳です。)
それを聞いた麗華が、私も、私もと美雨に頼んだのは言うまでもない。そう、麗華も化け物の一員になったのだ。
dive74に続く・・・
dive72
「你在说什么?不是单纯的旅行哦。」(何を言っているんですか?単なる旅行ではないんですよ。)
麗華が驚きと怒りを混ぜたような声で言った。
「我知道。我也想帮忙。」(分かっています。私も手伝いたいのです。)
真剣な目でこちらを見る美雨(メイユイ)。私もどういうことなのかわかっているのか半信半疑で尋ねた。すると私の過去のこと、そしてこちらに来てからのこと、大体わかっているようだ。自分も石の被害者として関わってしまった。私たちに逢って自身の運命として受け入れる覚悟を決めたそうだ。しかし、そんな簡単に決められるものなのかな。なんだか他に理由があるのではないかと疑ってしまう。麗華の直感は結構あてになる。野生動物のそれと思って間違いない。その麗華が警戒している。それを見ると、はい、そうですかとはなかなかいかない。しかし、未来に飛ぶためのエネルギーとなる霊力、それを補えるのは彼女しかいない。私がここに来た目的もそれなのだ。迷っている暇はない。こうして、考えていることもどうやら彼女にはわかってしまうだろう。隠し事はできない。この人がどんな人なのかわからない。もしも悪人であったら日本に連れて行くわけにいかない。真っ直ぐこちらを見る美雨の目を見返すことができない。そんな私を見て美雨が
「我明白了。那么,这个人……」(わかりました。では、この者に・・・・)
そう言って、手を合わせ祈り始めた。何かを感じたのか、立ち上がっていた麗華が座って身をすくめている。なんだか部屋の中の空気が変わった。何ともすがすがしい高原にでもいるような緩やかで優しい風が吹く。どこからともなく霞がかかったようになり美雨がいたあたりが光出した。まぶしいというのともちょっとちがう。神々しいと言ったほうがあっているだろう。そこに現れたのはどことなく美雨に似ている感じの姫君のようないでたちの女性だった。なんだ、幽霊か?
「蓝生。我的名字叫清华。我是守护这个人的人。正如你有使命一样,这个人也有使命。不做坏事。愿共同携手完成使命。无论如何拜托你。」(藍生。私の名は清華。この者を守るものです。そなたに使命があるようにこの者にも使命があるのです。悪事は働きません。ともに手を取って使命を果たすことを祈ります。どうか頼みます。)
そう言って微笑み消えて行った。麗華も見たようでポカーンとしている。いったいなんてものを見せてくるんだ。断るわけにいかないだろ、あんな守護霊見せられて。和尚もすごいけど、この人すごいな。本物だ。でも、これだけの力があれば自分で行けそうなのに・・・ああ、これも読み取られてるんだろうなと思って美雨を見ると、ニコッと笑った。麗華もあきらめたようだ。緊張しすぎてぐったりして、私に任せると言っている。行くのはわかったが、詳しいことを隠さず話してほしいと言うといろいろ話してくれた。
彼女には霊力を回復し高める力、それと未来予知の力があるそうだ。それはひとえにあの守護霊のおかげらしいが。自分が病に倒れること、そして私たちに助けられともに行動することもわかっていたそうだ。心を読んだのは、先ほど握手をしたときに霊力の糸を私に結んでおいてそこから伝わってくるそうだ。霊力の高いものの近くにいる者もだんだん霊力が備わってくるらしく、麗華が敏感に反応するのはそのせいだと。しかしあまり強くはないので先ほどのような高級霊に当てられると疲れてぐったりしてしまうらしい。霊力がもっと低い者には先ほどの清華さんは見えないそうだ。見えるだけでも相当な霊力があるという。彼女は幼い時から清華が見え、そのせいもあり孤独だったが、いろんなことを教わって来たそうだ。しかし、そんな力を悪用しようとする輩が近づいてくることも少なくなく、一人、旅に出ては逃れてこの街に来た。彼女には大きな使命があると清華に言われて霊力の使い方を学び、人々を救い、癒すために生きてきたが、ある日、見えた未来に自分が倒れるのが見えたそうだ。しかしそんな自分を救い、その後私たちを助けるためにともに行動することが私の使命なのだと気づき願い出たのだそうだ。そう聞いて少しほっとした。また何か厄介事を背負いこんでしまうのではないかとドキドキしていたが、強力な味方ができたようだ。そう思ってほっとしている横で聞いていた麗華は、号泣しながら美雨を抱きしめていた。
「努力了呢。努力了呢。一起加油吧!」(頑張ったね。よく頑張ったね。一緒に頑張ろうね!)
癒しの力ならこいつにかなう者はいない。そう思ったことは、美雨にも伝わったようで、孤独から解放された美雨も麗華を抱きしめ泣いていた。
dive73に続く・・・