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2020-09-29 20:37:00

dive81

 数日後、白龍さんに案内されて名古屋に行くことになり、電車に乗って新横浜駅へ。二人は、あれだけ電車での移動の練習をしたのでもう大丈夫。しかし、新幹線はまだ知らないだろ、と二人の反応を楽しみにしていたら麗華に感づかれたらしい、にらまれた。早々に席に着き、座っていると白竜さんが横浜名物シウマイ弁当を出してくれた。久しぶりに見るこのシウマイ弁当、横浜に来ましたっていう感じがするよね。包みを開けると、出ました~~『ひょうちゃん』と名付けられたヒョウタンの形をした陶器の醤油さし。可愛らしい絵柄は私の時代とは違っている。どうやら初代の絵柄が復活したらしい。私だけだろうか、どうも物に顔が書いてあると捨てられないのは。このひょうちゃん、移動するたびに、家に増えていく。家に何個あっただろうか。家族が移動するたびに増えていったので、ひょうちゃんだらけだった。白龍さんにそんな話をしたら、家に何個かあるらしい。麗華はさっそくみんなの分をかばんに入れた。

 そんなこんなしてるうちに浜松、三河安城を通過してもうすぐ名古屋。寝ていた麗華たちも起こし、荷物を降ろして降りる準備。白龍さんも慣れていないようで看板を見ながらの移動。新幹線のホームを下り在来線の方へ。駅員に聞いて中央線多治見、高蔵寺方面にと指示され、各駅停車に乗って約13分、大曾根駅に到着。駅を出るとすぐにまた別の乗り物に頭上にあるのは高速道路?いやモノレールかなと思いきや、なんとバス専用道路。これが最新なのか?ガイドウェイバスというらしい。確かに見てみると走るバスのタイヤの横にガイドのようなものが。乗ってみると普通のバスと変わらないけど、見える景色はモノレールという不思議な乗り物。渋滞知らずは結構いいかも。多い時には7,8分おきに走っているなんて地下鉄、山手線並みじゃないかな。大曾根駅から川村駅まで約10分。町を見下ろす乗り物ってあんまりないよな、と思っているうちについてしまった。駅を出ると幹線道路沿いにバスが走っているのがわかる。幹線道路にはまた別のバスも走っている。どうやら近くのJR新守山駅から出ているバスらしい。大曾根、新守山どちらからもバスで来られるのか、便利なところだな。幹線道路を東に向かい徒歩1分の松川橋南交差点の角に白いタイル張りの3階建てのビルがありその一階の角がお店だ。意外と名古屋駅からも近かったな、という印象。

 白龍さんがカギを開け入ってみると、カウンター5席、テーブル席が4人用が2つと6人用が一つの小ぢんまりとしたお店だった。横はガラス張りの明るい店内は突き当りにも窓があり風通しもよさそうだ。厨房は、4枚扉の大型冷凍冷蔵庫が1台、それを中心にL字型になっている。冷蔵庫の横には作業台と食器棚がある。この作業台にはご飯ジャーと電子レンジを置こう。奥には左からフライヤー、中華レンジ、スープレンジ、蕎麦ゆで、餃子焼き機、フライヤーの対面にはボイラーがあり蒸籠で蒸し物ができる。うーーん、結構コンパクトにそろっている。カウンターのこちら側には作業台兼食器棚に大型2層シンク。なんとなく実際に稼働させたときのイメージができた。お客さんとカウンター越しに向き合った作業台には丸形の中華まな板を置いて仕込みをすれば、全体を見渡せる。此処に居ればお客さんたちとコミュニケーションもとれる。しかし、バックヤードもないし、飲み物用の冷蔵庫もない。仕方がないのでテーブルを一つつぶして棚と縦型のドリンク用冷蔵庫、その奥にはストッカー冷凍庫を置こう。こうして営業に至るまでのイメージをしていると、白龍さんが

「ところで、看板を作るのにあたって先にお店の名前を考えないと・・・」

と聞いてきた。すかさず麗華が

「呵呵」というが、ここは中国ではないので中華料理屋と分かるように私が冠をつけた。その名は

『チャイニーズダイニング呵呵』

ここでまたみんなに笑ってもらおう。

いつだって、どこだって、私たちの思いは変わらない。

麗華が大事そうに持ってきた包みを開け、カウンターにあの看板を誇らしげに置いた。

dive82に続く・・・・

 

 

2020-09-27 13:14:00

dive80

   白龍さんに現在の行徳たちの状況を聞いてみると、今のところ大きな事件は起きていないが、何軒か石の影響を受けた者たちの報告を受けています。しかし、場所がばらばらで原因を特定することができずにいる状態らしい。黄龍さんが医療関係者に特徴的な症状を伝え、合致するものがあれば連絡をもらえるようにしているが、その前に亡くなっていることもあるだろうから、正確な数はわからないそうだ。行徳が関係しているのかどうかもわからず、手掛かりがないそうだ。私に見えた未来も2018年であったとするならあと3年の間に何か起こるのかもしれない。行徳が表立って出てくるのはその時だろう。

 しかし、それまでここでぶらぶらしているわけにもいかないので、どこかでまた麗華とお店をやろうと思っていると話すと美雨がどこがいいか占ってあげると言ってきた。横浜の地図を持ってきてもらったがここにはないという。仕方なく日本地図を持ってくると、即座に指をさした。ちょうど日本の真ん中あたりに指をさし

「ここに竜神の加護を受けた寺がある。この近くにしなさい。」

指をさした先には『龍泉寺』の文字が。白龍がその寺を先ほどのスマートフォンなるもので調べるとその住所にびっくり。何と愛知県名古屋市守山区。守山の名を冠する地を一発で指した美雨にもびっくりだけど、私、守山家の先祖はここの出身なのかな。不思議なつながりを感じ、美雨の言うことを聞くことにした。どのみち横浜にいては息子や孫に被害が及びそうだし。そのあたりのことを考え、五龍たちに一つお願いをした。私のことは孫たちには内緒にと。もし存在を言わなければならないときになっても祖父だということは内緒にしておいてほしいと言づけた。会いたい気持ちはあるが、もしもの時、身内を失う思いはさせたくないと言うと、皆、承諾してくれた。

 店の話をしていると美雨が 

「これを売ってお金に換えてください。藍生、これをお店の開店資金にしてください。」

 そう言って自分の懐に入れていた袋からいくつか宝石を出した。見るからに高価そうな、輝く大きな塊には五龍たちも驚いた。中でも黒龍は宝石に詳しいようで

「美雨さん、これだけあれば、店どころかビルが建ちますよ。」

「ビルというのは、此処のようなおおきな建物のことですか?間借りできればいいですよ。ねぇ、藍生。後は私たちの住まいがあれば・・・」

「わかりました。早速手配いたします。後、皆さんに連絡が取れる様にスマートフォンも用意しておきます。準備にしばらくかかりますのでそれまではこのホテルでお過ごしください。何かありましたら、ここの支配人か、私のところに連絡をしてください。」

 白龍さんが、すべてうまくやってくれるようだ。この混沌とした街を束ねる長だもんな、やっぱりすごい人なんだろうな。ちょっとほっとしていると、今まで黙って聞いていた麗華が堰を切ったように話し出した。

「五龙的各位、谢谢你听了我的任性。我们不熟悉这个时代,可能会给你添麻烦。今后请多关照。为了杜绝石头的危害,大家一起合力加油吧。」(五龍の皆さんわがままを聞いていただき感謝いたします。私共はこの時代に疎い故、皆様にご迷惑をかけるかもしれませんが、今後よろしくお願いいたします。石の害悪を絶つため力を合わせて頑張りましょう。)

 冷静に挨拶だけで済まそうとしたようだが、我慢できずに泣きながら思いを吐いた。

「我哥哥被石头杀死了。照顾过我的和尚也。我来这里是为了不让任何人感到痛苦。请给我大家的力量。」(私の兄は石に殺されました。お世話になった和尚さんも。私はもう誰も苦しまないようにするためにここに来ました。どうか皆さんの力をください。)

五龍が悲痛に叫ぶ麗華の手を取り涙した。私も麗華の言葉に王さんや龍仁和尚のことを思い出し、とうとうここまで来たよと報告した。

dive81に続く・・・

 

 

 

 

 

 

2020-09-24 19:48:00

dive79

 宴会が和やかに進んでいく。白龍さんに李家と青龍寺のつながりを聞いてみた。すると、

 「私の先祖があの石の作用で病になった時のことです。病になった娘はその村の村長の娘でした。村長はほうぼうの街の医者に訪ね歩いたが病は治らずに困っていた。そしてあきらめかけて村に帰る途中にあったある麺料理屋に寄ったとき、そこの店主に石をいただいて飲ませたところ、たちどころに治ったそうです。その時に青龍寺に行けと言われたらしく、娘の完治後に青龍寺の龍恵和尚を訪ね、娘は寺で修練することになりました。娘は数年後、術を会得し、村に帰り一族のものに伝授していった。今でもその村には秘術を守り続ける一族が住んでおります。私の先祖はその子孫の一人で、2018年までの日本に、悪の元凶を絶ちに救世主『王藍生』が現れるという言い伝えを受け、日本に移住してきた。私の代になり、いつ来るのかと待ち遠しく思っておりました。」

 その話を聞き、麗華と目が合い、驚いた。

 「あなたが、あの人の子孫なのね!娘さん、いや、ご先祖さんは助かったのね。よかったわ。心配していたのよ。つい、ひと月ぐらい前の話よ。」

 麗華のその言葉に、白龍がびっくりして

 「え!最近の話なんですか?」

 「そうですよ。李さんに会ったのはひと月くらい前で日本に着いたのはついさっき、陳さ・・・いや赤龍さんに電話したちょっと前です。ところで黄龍さん藍の話を・・」

 「そうでしたね、これもやはり運命と言わざるをえないでしょうが、あなたのお孫さん、藍君はもうすでに李家とつながりがあります。藍君には妹さんがおりまして、その妹さんが例の石によって病になってしまったのです。妹を救うために治療法を探しているのを私の教え子の医師から聞き、もしやと思い、李家の村のことを教えました。どことなく言い伝えの『王藍生』に似ていたものですから。そして李家に伝わる治療薬、つまり石ですね、を手に入れ、妹を助け、同時に新しい麺潜師にスカウトされました。彼は今、化学系の会社で潜るためのダイバースーツを開発しています。術も訓練中です。血筋ですかね・・・とても誠実ないい青年ですよ。」

 「あの時助けた李家の子孫に、今度は私の孫が助けられたってことか。白龍さん、黄龍さん、長い付き合いになりそうですね。孫を助けていただいてありがとうございました。これからも彼らをよろしくお願いいたします。」

 さっきからしゃべりたくてしょうがないという感じの陳さんが黄龍を押しのけて話し出す。

 「守山さん、あの日、あの後どうなったんですか。私もあの日あなたに会った人物として色々聞かれましたよ。」

 「陳さん、申し訳ない。あれから横浜駅の宝石店に行って、家に帰ろうとホームで電車を待っていた時に、突然タイムスリップして1840年の成都に行ったんだ。それから・・・・」

 五龍たちに今までのいきさつをすべて話した。そしてなぜ王藍生という名にしたかも。そして行徳が2018年に何かを起こすことも。その前に止めなくてはならないということも。

 「藍生さん、あとで写真を何枚か取らせてください。麗華さんも、美雨さんも。こちらで暮らすにあたって身分証明書がないと不便でしょう。後で手配しておきますので。」

 黒龍さんが申し出てくれた。そう言い懐から四角く、平たい板切れのようなものを触っている。そうだ聞いてみよう。

 「ところで皆さん、ちょっと聞きたいのですが、皆さんが先ほどから持っている、その板切れのような機械は何ですか。町でも見かけたのですが。」

 「守山さん、そういえばあの頃はなかったね。これはスマートフォンと言って電話ができる携帯型コンピューターですよ。」

 なにーーー、携帯電話なんて、なんかニュースで見たような記憶が。なんか、ショルダーバッグみたいなやつだったはず。進化ってすごいな。ついていけるかな。貸してもらったスマートフォンを見てびっくりしている両横から熱い視線を感じる。お前も田舎者の仲間じゃったか、と言いたくて仕方がない二人のニマッとした顔は行徳よりも恐ろしかった。

dive80に続く・・・

 

 

2020-09-22 14:31:00

dive78

 「陳さんが、なんでその名前を知っているの?」

 「それはこっちのセリフだよ、藍生。ずっと一緒に働いていたあなたが、あの王藍生だなんて。なんで言わなかったんだ。」

 なんだか、話が見えない。

 「あなたが王藍生ならば、すべてお話ししましょう。私たちの親のもっと前の世代、此処に中華街ができた当時、料理屋や問屋、貿易商など中国人たちを束ねるリーダーがいました。その人の名は李白龍、四川出身の料理人でした。李さんの一族は四川省の青龍寺とつながりが強く、『未来の日本に王藍生という救世主がやってくる。』という言い伝えを信じていた。その者が来たら青龍寺の和尚に知らせ、丁重に世話をし、協力するようにと言われている。今ではこの中華街を治める五龍会の長たち、5人だけがこの教えを受け継いでいる。五龍とは王を守る5体の龍を意味し、私はそのひとりで料理界の赤龍。あとリーダーの白龍は李家の子孫、青龍は青龍寺出身者の子孫、医師の黄龍、暗部を取り仕切る黒龍がいる。私たちはそれぞれを取り仕切り、皆を守っている。にわかには信じられないが、こうなったら五龍会の長たちを集めそこで判断してもらおう。それでいいですか。」

 おいおい、いつの間にか、私が『伝説の救世主』になってるぞ。えらいことになっちゃったな。青龍寺に電話したかっただけなんだけど。あっちも驚いただろうけど、私だって陳さんがそんなにえらい人になっちゃっていたとは、思いもしなかったよ。まあでも、こっちに来てあてもないし、息子たちに近づくと巻き込みそうだから連絡取りたくないしな。この人たちに世話になっておいた方がよさそうだな。麗華たちも、半分中国のここの方が住みやすいだろうし。

 「じゃあ、まずは長老たちに逢いましょう。陳さんよろしくお願いします。」

 陳さんの計らいでとりあえず今日のところは五龍会の仕切るホテルに泊まれるように手配してくれた。そして夜にはそこの最上階にあるレストランで長老たちと接見し食事をしようと言うことになった。麗華たちも、くたくたなので時間までホテルで休ませてもらうことにした。

 ホテルに着くとまずは、風呂に入った。麗華と美雨にシャワーやふろの使い方を教えてやると、とても喜んですぐに入った。シャンプーやリンスなんてなかったから、教えたら興味深々だった。ホテル仕様の分厚いタオルに驚いて、本当にこんなものを使って体を拭いていいのか聞いてくるぐらいだ。そういえばこっちで新しい服、買ってあげなきゃな。陳さんに頼んでみようかな。風呂から上がった二人の髪をドライヤーで乾かしてやると、毎度ながら魔法でも見るような目で見ている。髪も体もさっぱりしたら、すぐに三人とも寝てしまった。真っ白いシーツとふかふかの枕にちょっと緊張していた二人だったが、やっぱり疲れたんだろう。

 プルプルプル、プルプルプル、電話の音で目が覚めた。3時間も寝ていたのか。陳さんからの電話で30分後に最上階の『成都』という四川料理のレストランへ来てくれと言われた。麗華たちを起こし、準備するように言った。まあ、準備と言っても髪を結うだけだけどね。髪を結った麗華は、美雨に守護の念を込めてもらった銀の髪飾りと腕輪をつけ戦闘態勢だ。

 三人でドキドキしながら最上階に行くと、そこは大きな窓から港町の夜景が見える素敵なレストランだった。奥の個室に通されたが、どうやらここが一番いい部屋らしく先ほど見た場所よりさらにきれいな夜景が広がっている。二人ともはしゃいでいたが、ここが地上からかなり高いところにあるということがわかると窓から離れた。そうこうしていると部屋に5人の男が入ってきた。一人は先ほどの陳さん。いや赤龍だったな。てことは、これが五龍か。この人がリーダーかなと思われる男が話し出した。

 「赤龍から聞きましたが、あなたが王藍生さんだと。詳しい話を聞かせてほしいのですがよろしいですか。とりあえず座りましょうか。まずはお茶でも。」

 そう言うと、ウェイトレスがお茶を用意した。

香りのいいお茶だ。甘い香りがする。これはあれだ。和尚の好きな。

「これは蒙頂甘露ですね。龍仁和尚が大好きだったお茶です。」

三人とも久しぶりのに四川のお茶を飲んでほっとしていた。しかし五龍は龍仁和尚の名前を聞き動揺している。追い打ちをかける様に美雨は

「でもこれはちょっとあの頃のものより甘味が弱い気がします。」

 と言って五龍をけん制。さすが心を読める女は強い。何か試されているなと感じたのでこちらから正直に言ってみた。

「青龍寺の方の子孫の方は・・・」

 そう言うときれいな藍染めのネクタイを締めた男が応えた。

「私が青龍です。龍仁和尚のことは聞いています。」

 ちょっと攻めてみた。

「そのネクタイは青龍寺の藍ですね。どなたの子孫ですか。どことなく一青に似てますが。」

「一青・・・・その名は先祖の幼き頃の名。ではあなたが山を下りるたびに・・」

「ええ、下の街でお土産にお菓子を買ってあげてました。いつも畑で泥だらけでしたよ。」

 すると、横にいた黄色いポケットチーフをした男が、

「私は黄龍。あなたは日本人ですよね。日本名は?」

「守山藍生です。」

「守山藍生・・・ご家族に守山藍という一文字違いの方が見えますか。」

「え!そ、それは私の孫です。孫に何かあったのですか。」

 今度は真っ黒なシャツを着た怖そうな男が

「で、あなたはここへ何をしに来たんですか。」

なんか、尋問が激しくなってきたのではっきり言ってやった。

「龍仁和尚、王さんの仇、行徳を倒しに。」

その言葉を聞くと五龍が一斉に立ち上がり後ろに並び出した。そして跪き、手を合わせ言った。

「先ほどまでのご無礼、謹んでお詫び申し上げます。以後あなた様の手足となり、御使命を果たされるまで尽力いたします。この五龍以下中華街のものすべてがあなた様に協力いたします。私共を救済に来ていただき心より感謝しております。」

 おいおい、青龍寺に電話したいだけなんですけど・・・どんどん話が大きくなってきてるんですけども・・・・あの黒い人ほんとに怖かったんですけど・・・

 白龍さんがウェイトレスに言付けをし料理が運び込まれてきた。先ほどまでと雰囲気ががらりと変わり和やかに食事会が始まった。急に敬われて威厳を保ちたかったが、先ほどまで澄ましていた二人が人の分まで食べようとしていたのを見て苦笑いをするので精いっぱいだった。

dive79に続く・・・・

 

 

 

 

2020-09-21 20:09:00

dive77

 行ったり来たりを繰り返し、ついに中華街にほど近い、石川町駅に着いた。現在2時半、11時ぐらいに根岸の駅に着いてから3時間余りを電車移動に使ってしまった。たった5,6分の移動のはずが、長旅になった。3人ともぐったりだった。お昼時もとうに過ぎ腹ペコでの移動は心を弱らせる。とぼとぼと中華街へと続く裏道を歩き大通りの交差点へ。ここを渡って高校を過ぎればそこはもう中華街。さっきまでのほとんどがグレーのビルと違い、極彩色の建物が、所狭しと立ち並ぶ異空間が広がる。世界を区切る入口には善隣門と書かれた真っ赤な門が人だけでなくモノノ怪の出入りを見張っている。何というか『腹いっぱいになるまで返さねーぞ』と言っているような大きな口を開けて、飲み込んでいるようだ。そんな門に飲み込まれるように、よろよろとした三人が入っていく。門をくぐると大きな声の売り子たちが次々と現れる。香ばしい香りを漂わせる揚げたての芝麻球(ゴマ団子)、湯気をもうもうと上げる蒸籠の中には、生肉包(豚まん)、豆沙包(あんまん)、叉焼包(チャーシューまん)がつやつやの真っ白い肌で私たちを呼んでいる。こんな誘惑に負けている場合じゃない。陳さんを待たせている。早くいかなくちゃと思っていると二人がいない。麗華は天津甘栗の甘い匂いにつかまっていた。試食に満面の笑みだ。美雨は焼売の試食の列に並んじゃってる。

「麗華、美雨、早く行くよ!もうすぐそこだから。そっちに行ったらご飯食べるから。」

「藍生~~だって、この栗すごく甘いんだよ~。ちょっと買っていこうよ。」

「藍生!あと3人です。あと3人待ったら、次私ですから。それからでいいでしょ。」

何も聞こえないふりをして二人を引きずっていく。

「藍生!妻をなんだと思っているの?もっと甘やかしてよ。」

「藍生!あなた、いつからそんな鬼になったの、そんな風に育てた覚えはありません。」

ぎゃーぎゃー、あんまりうるさいから

「今から行くところは、ものすごくおいしいんだよ。だから腹ペコで言ったほうがいいと思うんだよ。薬膳もあるから美容にもいいんだよ。」

「早く言いなさいよ。」

「行きますわよ。ふん!焼売なんてみんなに譲ってあげますわよ。」

誘惑につかまりそうな気持をぐっとこらえて少し歩くと着いた、そうここが私が勤めていた「桃園酒楼」。懐かしいと言いたかったが、建物が大きく、新しくなっていた。扉も2重扉になって高級感が増している。入るとすぐにチャイナ服のお姉さんが案内に来る。お姉さんは私たちの格好を見て少し怪しんでいた。そうか気が付かなかった。私たちあの町でも一番よさそうな服を着てきたつもりだったが、まごうことなき本物のチャイナ服。そんなの着ている日本人なんていないもんね。

「いらっしゃいませ、ご予約の方ですか。」

「すいません、陳オーナーに会いに来たのですが、守山藍生と言います。」

「あ、はい、伺っております。今オーナーをお呼びいたします。」

そう言って内線電話を掛けている。電話口で私たちの身なりのことを聞かれているようだった。あーー!陳さんまだ疑ってるな。しょうがないか。でも22年前に失踪したあの頃46歳だったおじさんがこんな若くなって現れたんじゃ、疑うのも無理はない。そう諦めかけていたら、本人が降りてきた。うわーーー!お爺ちゃんだ。

「久しぶり、陳さん、お爺ちゃんになったね。」

「あなた本当に守山さん?そんな若いのおかしいね?守山さんの息子、いや孫?」

「違うよ、本当に本人だよ。ちょっと、頼みがあって来たんだ。ここでは話しにくいから・・・」

そう言うと個室に連れて行ってくれた。そして、中国人特有のあいさつが飛び出した。

「あなた、ご飯食べた?」

ありがたい。中国ではあいさつ代わりに「吃饭了吗?」(ご飯食べた?)と言われることが多い。空腹が一番よくないということから相手を気遣う一言だ。実にいい挨拶である。

「まだです。朝から何も食べてない。」

というとすぐにいろいろ手配してくれた。出てきたものはどれも美味しく3人とも一言もしゃべらず黙々と食べた。陳さんが満足そうにしている麗華を見て、娘か?と聞いてきた。すると

「王 麗華と言います。藍生の妻です。この度は本当にありがとうございます。」

それを聞いた陳さんが急に慌てだした。びっくりして、私を見ながら

「藍生?あなたもしかして、王 藍生なのか?お前が、あの青龍寺の王藍生なのか?」

満腹状態の3人は慌てる陳さんをよそに食後のお茶をゆっくり楽しんでいた。

dive78に続く・・・・

 

 

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