大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive94
山の天気は変わりやすく、少し暗くなって雲が出てきた。遠くから雷鳴もひびいて聞こえてくる。青嵐が見張っていた街道を荷馬車がやってきた。それも三両も。その後を人を乗せた馬車がついてきた。役人たちがのっているようだ。青嵐が急いで戻ってきた。荷上場に馬車が入っていき、人夫たちが集まってきた。荷物を積み替えるようだ。木箱には、おそらくさっき師範が言っていたような陶器が入っているのだろう。重そうな箱を運んでいる。ちょうど影になりそうな、三両の荷馬車の奥に移動し、その時を待った。師範は人夫に成りすまして船に乗り込もうと言った。大きな船だったので隠れられそうだと。
「喂,天气变差了快点儿啊!」(おい、天気が悪くなってきたから急げよ!)
人夫の親方が大声で皆に言う。僕たちも木箱を持って船に乗り込む。何とか三人とも乗り込めた。荷物を載せ終わると、今度は人がのって来る。荷物の陰に隠れてみていると、役人が姉さんたちを連れて乗り込んできた。姉さんたちは両手を縛られ、三人繋がれていた。今すぐ行って助けたいところだが、船出してから、夜を待って襲撃する作戦を立てていた。いきり立つ僕を師範が抑えている。
すぐに船が出るものだと思っていたが結局、他の乗客を待って出たのは昼過ぎになってしまった。その間に天気はさらに悪化し黒雲に覆われてしまっていた。昼過ぎぐらいだというのにあたりは暗くなってきた。出港して少しすると川が荒れてきた。どうも上流でかなり雨が降っていたらしい。濁流に近くなってきた。船も揺れが激しくなってきて足元もおぼつかない。このままだと夜を待ってなんて言ってられなくなってきた。そうこうしてる間に雷鳴もとどろき、あちこちに閃光が走る。
「现在不去的话就无法挽回了。师父!」(もう、今行かないと取り返せなくなる。師範!)
「是啊,现在就袭击在中途的港口下车吧。」(そうだな、今襲撃して途中の港で降りよう。)
そういって、役人たちが休んでいる場所に行こうとした時、カッと稲妻が光って周りを照らし、一瞬にして皆を凍り付かせた。飛び出したその場所に黒装束たちも出てきていたのだ。飛び出したぼくたちも師範の後ろでドギマギしていた。あちらもこんなところで鉢合わせするとは思っていなかったのだろう、後ろにいる黒装束の手下の何人かはこちらを認識していないようだ。
「没办法。请开始战斗。」(仕方ない。やるぞ。)
そう言って師範が突撃した。さすが八極拳の師範。一撃必殺の踏み込み。相手に猶予を与えない動き、よどみなく次の攻撃に移る瞬間に、相手の攻撃を払いのけ、体勢を崩し、隙を作りその守りの空いたところに的確に打ち込む。拳法とはこういう一連の動きのことなのだと、確認できる。初めて見る実践に興奮して見とれてしまう。師範と敵の動きを見ていると、攻撃してくる瞬間こそバランスを崩すのだ。構えていた時から打つ瞬間までの間、相手の方へ、前のめりに重心が移る。その不安定な、打ち込みの時の踏み込みの軸を少し崩してやると、重心を戻そうとする、そこに隙ができる。そこを打つ。敵が攻撃を当てようとする場所を少しずらしてやるだけで威力が半減し、次の攻撃に移ることができる。ああ、なんて動きだ。流れる、水の流れのようだ。美しさすら感じる。
「行德!快点儿!」(行徳!早くいけ!)
ハッ!として姉さんたちを探しに行った。僕を止めようとする黒装束を今度は青嵐が止めに来る。しかし、もう一人黒装束が青嵐の後ろに来た。
「青嵐!后面!」(青嵐!後ろ!)
僕の声より前に青嵐は後ろから来た敵にも対応していた。やっぱり、兄貴はすごい。ここは任せてみんなを探しに行かなくては。船の倉庫の方へ行こうとすると外につながれた父さんたちがいた。
「爸爸!妈妈!现在救助。」(父さん!母さん!今助けるよ。)
「行德!不能来这种地方。你逃走吧」(行徳!こんなところに来ちゃダメじゃない。あなたは逃げて)
母さんの後ろにいた姉さんが言った。僕は何も言えなかった。それでも、かまわない。姉さんが何と言おうと僕は姉さんを、みんなを守るんだ。つないである縄と枷を外し、師範たちの方へ行った。
「行德!我已经没事了。」(行徳!こっちはもう大丈夫だ。)
青嵐の声がして、僕たちは急いだ。しかしその行く手を阻むように、稲妻の光を跳ね返す青龍刀が僕の目の前に振り下ろされた。
dive95に続く・・・
dive93
ひんやりとした山の朝、船着き場の近くの荷揚げ所が見通せる場所に三人は身を伏せていた。師範は僕を一人にすると何をするかわからない、という理由で青嵐に街道からの通行人を偵察に行かせた。その間に師範は役人たちのことを教えてくれた。彼らは西方の国の者たちと繋がっていて、自国の工芸品、特に陶器や絹織物、それに茶葉などを売って利益を得ているそうだ。それも国宝級のものを密輸しているらしい。その代わりに銀をもらっていたのだが、近頃はアヘンを仕入れて、国中でさばいている。国民から金をとりアヘン漬けにしている。国はそれを取り締まるはずなのに、あいつらは表では取り締まって、裏でそれをまた売っているという。まさに獅子身中の虫というわけだそうだ。清国は今、外国に食い物にされ、国民たちは大変な時だという。しかし、西方諸国に軍隊、最新の武器にかなわない。師範たちはそれでも、少しでも抵抗しようと皆に功夫(クンフー)を広めて対抗しようとしているらしい。そんな師範たちをあの役人たちは、難癖をつけては投獄しようとしてくるのだそうだ。あの役人もこの街にアヘンを売りに来ていた一人だという。おそらく、それをさばく連中のところに、姉さんの話を金目当てで流した奴がいたのではないかという。僕はパッと村長の顔が浮かんだ。いつでも、悪い奴らは繋がっているものだと教えてくれた。
「行德,不能原谅这个国家腐败的官员们。这样下去会被外国统治。」(行徳、この国の腐った役人どもを許してはいけない。このままだと外国に支配されてしまう。)
そう師範は言って、僕を見た。しかし、僕はただただ、家族を取り戻したいだけで、国なんてどうでもよかった。師範の言うことがわからないわけではない。町に行くと、時折アヘン中毒者であろう朦朧とした人を見ることもあったし、父さんにもあんな風になっちゃいけないよとさんざん言われていた。しかし、うちのお茶も買ってくれているのかもしれないと思うと複雑な気分だ。そのお金があって初めて僕は道場に通えていたのだから。僕は心の中のモヤモヤしたものを感じていた。良いことと悪いこと、強い人と弱い人、奪うものと奪われるもの、国の偉い人や町のお金持ちがみんな悪い人ではないだろうし、かといっていい人でもないだろう。そんなことをどうこう言うつもりはない。僕はあの優しい姉さんを、おいしいお茶を一生懸命作る父さんを、みんなをやさしく包んでくれる母さんを守りたい、そのためになら僕は、えらい役人に逆らっても、何ならあいつが父さんを切ったように、僕も・・・そう思っている僕の表情を師範がどうとらえたのか
「八极拳是战场上的拳术。拥有一击必杀的破坏力。弄错使用方法的话会很麻烦。请只为了保护什么而使用。绝不是为了伤害别人。」(八極拳は戦場の拳法だ。一撃必殺の破壊力を持つ。使い方を間違えると大変なことになる。何かを守るためだけに使いなさい。決して人を傷つけるためのものではないよ。)
と道を外れないようにとくぎを刺した。
dive94に続く・・・
dive92
切られたはずの傷口を驚いて触る父さんは、姉さんをまじまじと見ながら
「美雪,是你治好的吗?你从什么时候开始这样的事美雪・・・」(美雪、お前が治してくれたのか?お前いつからそんなことが・・・)
姉さんは、泣きながら父さんに抱きつき
「对不起。对不起我没说话。」(ごめんなさい。黙っていてごめんさい。)
と繰り返すばかり。そんな二人を引きはがすように黒装束の男が姉さんを連れて行こうとする。にやにやしながら役人が姉さんに言った。
「你应该老老实实地听我的命令。听好了,不要再反抗了。明白了吗。」(お前が素直に私の言うことを聞いていればよかったのに。二度と私に逆らうな、わかったな。)
姉さんはうつむいたままおびえている。僕はどうしていいかわからず、ただ、じっと姉さんを見ていた。どうしたらいい。役人の刀にかなうものはないし、また父さんたちに手を出されたら・・・状況に驚いていた師範も手が出せずににらみ返すのがやっとだ。青嵐は僕を気遣って肩に手をかけて落ち着かせようとしている。自分の方が戸惑って足が震えているのに、兄貴だからと強がってくれている青嵐には、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。連れていかれる姉さんは、僕の前を通るときに少しだけこちらを向き、僕だけに聞こえる様に小声で言った。
「拜托,逃走吧」(お願い、逃げて)
僕は、はっとして我に返った。今はどうやっても勝ち目がない。師範たちに目配せをして一緒に逃げるようにしなくては。もう一度機会を待ってみんなを取り戻しに来よう。青嵐に小声でバラバラに逃げて道場で待ち合わせることを言い、師範にも伝えさせた。黒装束に腕を引かれる姉さんが、こちらを少し振り返って僕を見た。僕は小さくうなずき、僕たちはいっせいに散りじりに逃げた。走り去る前に振り替えると父さんが
「逃走吧!」(逃げろ!)と叫んだ。
黒装束の一人が姉さんを後に任せ、僕だけを追って来ようとする。すると今までうなだれていた姉さんが役人に向かって言った。
「如果伤害了我的家人,就再也不听你的命令了。咬住舌头去死。」(私の家族をきずつけたら、二度とあなたの命令は聞かない。舌を噛んで死んでやる。)
一瞬、苦い顔をした役人が僕を追ってくる黒装束に
「回来吧。孩子不用追了。」(帰って来い!ガキは放っておいていい。)
僕は姉さんの方を振り返り、必ず助けるからと誓い、全速力で走った。そして、途中で青嵐と合流して師範の待つ道場へ向かった。悔しい、許せない。あの役人たち、村長も含めて、憎い、憎い、憎い、憎い。ぶちのめしてやる。僕の中で何かどす黒いものが燃え上がってくるのを感じた。僕の大事な家族を・・・優しい姉さんを・・・父さんを切りやがって・・・母さんに手を出しやがって・・・道場に向かう間、青嵐がいろいろ話しかけてくれていたのだが、僕はこのどす黒い靄のような思いにとりつかれて何も答えなかった。
道場に着くと師範が待っていた。師範はこの地域の地図を広げ話してくれた。あいつら役人はこの国の都に行くはず。それには陸路で何日も歩くよりも、必ず川を船で移動するはずだ。少人数で戦うなら、そこを狙って襲うしか手がないだろうということだった。今日はおそらくもう船は出ない。明日の朝出る船を待伏せしようということになった。あらかた、作戦を話すと師範は姉さんの力のことを話した。師範の話では遠い昔に神仙たち(仙人のこと)が自然界の力の源、その使い方など研究しその力を自在に使うことができたという。しかし、湖北省、武当山の道教寺院でもあそこまで使えるものなど聞いたことがないそうだ。姉さんにそんなこと聞いたことがない。僕たちは、明日に備えて船着き場の近くまで行き待伏せできそうな場所を探し、あたりを警戒しながら朝を待った。
dive93に続く・・・
dive91
いつもの道を走っているのだが、心がざわついているせいか、ちょっとした石ころにも気躓く。何かが僕の邪魔をしているように感じて、苛立つ。青嵐が心配して声をかけてくれるが、応えるような気を回す余裕がない。そんな僕の様子を見て青嵐は、ただ事ではないことに気づいたのか、声を掛けなくなった。いつも、弟のようになついている僕の見たことのない表情に、少しおびえているようだった。師範もその様子を見て、僕よりも青嵐を気遣った。ああ、あの大きな杉の木を越えればもうすぐだ。心配そうに青嵐も、家へ帰らずについてきた。僕は、先頭を切って茶園に向かう上り坂を登っていく。道を進むにつれ、だんだん茶畑が見えてくる。その向こうに、ほらもう、うちが・・・あれ?・・・
はっ!・・
誰だよ・・・・黒装束・・・
あいつら・・・あいつ姉さんを・・
村長何してやがる・・・・・なんだあの後ろにいる黄色い帯のやつ・・・あれが役人なのか・・・
走った。力の限り走った。しかし、もう力が・・・
「姐-----姐!」(姉さーーーーん!)
残った力を振り絞って叫んだ。そんな僕の横を師範と青嵐が追い越していく。
姉さんたちが言い争う声が聞こえてきた。父さんや母さんも役人と言い争っている。
「请停止。官吏!村长!你是什么意思。让我住手!」(やめてください。お役人様。村長!どういうつもりだ。やめさせてくれ!)
「请停止。救命!爸爸!」(やめてください。助けて!父さん!)
姉さんの声が聞こえてきた。二人を追いかけ、また叫んだ。
「姐------姐!」 (姉さーーーーーーーーん!)
僕たちに気が付いた姉さんが叫んだ。
「行德!行德!不许来!不要来!」(行徳!行徳!来てはだめ!来ないで!)
えっ!なんだよ!来ないでって。父さん!母さん!
師範と青嵐が姉さんのところに行き黒装束の手から放そうとしている。そこへ村長が来て棒を振り回して二人を追い払おうとしている。青嵐が棒で打たれうずくまる。師範が村長の棒を払いのけ、取り押さえる。しかしそうしている間に、また姉さんが捕まってしまった。もうすぐ、姉さんのところにたどり着く。僕のできる最強の肘打ちを叩き込んでやる。姉さんを掴む黒装束を「鉄山靠」(てつざんこう・体当たり)で打ち放し、守りの空いたみぞおちに肘打ち「裡門頂肘(りもんちょうちゅう)」を・・・
最後の一歩を踏み込み体当たりで黒装束を吹き飛ばした。そしてもう一歩、バンっと!震脚(踏み込み)その力を下肢から肘へつなぐ。右肘を張り、手のひらを上に構えを作る。そして打ち込む。
「不行!住手!行德!」(だめ!やめて!行徳!)
姉さんの叫び声が響く。しかしもう止まらない。八極拳の威力はすさまじく、子供ながら大の大人を吹き飛ばしてしまった。しかし、打った僕は、泣きながら叫ぶ姉さんの姿を見て呆然と立ち尽くしている。それを見た皆が静まり返る。あたりに姉さんの鳴き声だけが響く中、黄色い帯をした役人らしき男が青龍刀を振りかざして言った。
「你们想违抗我们吗!那里的拳术师们,这个女人怎么办才好呢?」(お前ら、私らに逆らう気か!そこの拳法使いたち、この女がどうなってもいいのか?)
そう言って、おびえる母さんの首にギラギラとした青龍刀を当てた。師範たちも手を放し、父さんはうなだれていた。よろよろと村長は棒を拾い上げ、手下のように役人の傍へ寄っていった。3人いた手下であろう黒装束の者たちのうち、一人が僕に打たれて倒れている。それを見た役人が、唇の端を引きつらせながら笑って言った。
「正好。喂,女儿。把倒在那里的家伙治好。」(ちょうどいい。おい、娘。そこに倒れている奴を治せ。)
それを聞いてすかさず父さんが
「官员,我们的女儿怎么能做那种事呢。」(お役人様、うちの娘にそんなことできるわけないじゃないですか。)
「吵死了!喂,姑娘!如果不治好那家伙,就知道你的母亲会变成什么样」(うるさい!おい娘!やれなければお前の母がどうなるか。)
「爸爸!爸爸!我!我该怎么办?」(お父さん!お父さん!私!私どうしたら?)
「官吏,官吏,请不要这样做。」(お役人様、お役人様、どうかおやめください。)
「嘿!吵死了!太麻烦了,这样怎么样。」(ええい!やかましい!めんどくさい、ならばこれでどうだ。)
そう言って、母の首から青龍刀を離してくれたのかと思いきや返す刀で父さんの首を横一文字に切りつけた。無防備な父さんの首からは、おびただしい血があふれ、体はびくびくしている。
「哎哟!哟!哟!哟!」(ぎゃーーーーーーーーーーーーー)
「不快点的话,父亲会死的!哈哈哈!」(早くしないと、父上が死ぬぞ!ははは!)
あふれかえる血に村長は腰を抜かし這いつくばって立ち去ろうとしている。師範も青嵐も立ち尽くし身動きが取れないでいる。そんな中を一人、姉さんがよろよろと父さんに歩みより、傍らにしゃがみこんだ。そして泣きながら両手を広げ天を仰ぐ。手のひらを天に向け大きな丸い板を回すように腕を回し続ける。やがて緩やかな風が円の中心に向かって集まりだし、あっという間に渦を巻く。周りにある大きな木や茶畑の気がざわざわと音を立て始めたかと思うと、風の渦が緑色に光り始めた。姉さんが渦の根元を両手でツボを持つようにはさむとそのツボの底が抜けたように、緑の光が父さんの体に注がれていく。そうまるで液体がとろとろと体に流れる様に。はじめその緑色の液体は全身を包んでいたが、だんだんと首元に集まっていき傷口から流れ出た血液と共に体内に入っていく。そして最後の液体が入った時には傷口がふさがっていた。しばらく見ていると足先や指先がビクビクしてきた。姉さんは父さんの胸に手を当てて目をつむってぶつぶつつぶやいている。するとだんだんと父さんの手や顔の色に赤みが差してきた。ドクン!その心音に反応して姉さんが目を開き、父さんが咳き込むとともに血の塊を吐き、目を開いた。その時、そこにいた誰もが神のごとき力に驚愕し、後ずさりをした。しかし、驚きながら役人は、にやりと笑い手をたたいた。
「这真是太棒了,一定要把这个力量化为我的东西。」(これは素晴らしい、ぜひこの力を私のものに。)
そう言いながら、姉さんを見つめていた。
dive92に続く・・・
dive90
道場に通うようになってから2年ぐらいたったころ、いつものように朝の修練をしてから青嵐の家に行った時のことだった。青嵐が僕に心配そうな顔をして聞いてきた。
「在你家发生了事件吗?可疑的男人们在看你的家。」(お前の家で何かあったのか?怪しそうな男たちがお前の家を見ていたぞ。)
「可疑的男人们?是什么感觉的人?」(怪しい男たち?どんな感じなの?)
「总之感觉很可疑。但是,村长也在一起啊。」(とにかく胡散臭いんだよ。でもなぁ、村長も一緒だったんだよな。)
「村长也在吗?」(村長もいたの?)
僕は、道場に着いてからも気になって修練にも身が入らなかった。そのことに師範も気づいたようで、檄を飛ばす。早く帰って父さんたちに聞いてみよう。落ち着かない。いやな予感がする。集中できない。姉さんに何か・・・
「喂!行德!过来一下。」(おい!行徳!ちょっと来い。)
帰ろうとする僕と青嵐を師範が呼び止めた。
「行德!怎么了?总是筋好的你。发生了什么事?说吧。」(行徳!どうした?いつも筋のいいお前が。何かあったのか?話してみなさい。)
僕は師範のことは信用していたけれど、姉さんのことは内緒にしたまま、青嵐から聞いた怪しい男たちのことを話した。すると、師範は、
「青岚,难道那些男人没有带黄色的带子吗?」(青嵐、もしかしてその男たちは黄色い帯をしていなかったか?)
「啊,对了对了,这么说来只有和村长说话的了不起的家伙戴着黄色的带子。师傅,你怎么知道的?」(ああ、そうそう、そういえば村長と話していたえらそうなやつだけ黄色い帯をしていました。師範、どうして知っているんですか?)
「他们是领主的部下。最近听到过传闻。传言说有少女会使用诡异的术。」(そいつらは領主の手下だ。最近、うわさで聞いたことがある。怪しい術を使う少女がいるという噂話。)
バクン!僕の心臓が破裂しそうなほどの拍動をした。『少女』という単語を聞いたとたんに、体中の血がぐるぐる回っているのがわかった。なんだ。どうしてだ。どこから漏れた。村長?あいつ、まだ疑ってやがったのか?僕の顔色がみるみる変わるのを師範が気付いた。
「你知道吗?是吗,原来是你的家人啊・・・」(お前、知っているのか?そうか、お前の家族なんだな・・・」
しまった!師範にもばれてしまった。僕は早く冷静さを取り戻そうとしたけど、どうにもならなかった。頭の中がぐるぐる回って、いまにも発狂しそうだ。どうする?師範をどうやって黙らせる。僕にそんな力あるわけない。どうしたらいい。姉さん・・・早く帰って姉さんにこのことを知らせなければ・・・息が荒くなって、目を見開いている僕をなだめる様に師範が言った。
「冷静点,行德。虽然不知道情况我知道你是为了什么而变强的。是为了家人啊・・・」(落ち着け、行徳。事情は分からないが私にはお前が何かのために強くなろうとしていることは知っている。家族のためだったんだな・・・)
ああ、知られてしまった。もう駄目だ。どうしよう。どうしよう。どうしよう・・・なんでだ・・どうして放っておいてくれないんだ。姉さんは、ただただ心の優しい人。それだけなのに・・子供である自分が悔しい。大人たちが憎い。なぜ、なぜ・・許せない。許せない。諦めと怒りとがまぜこぜになって、僕の心の底から湧き上がる。どうしようもない感情に、泣きながら怒っている僕の肩をしっかりとつかんで、まっすぐ僕の目を見て師範が言った。
「行德,弟子和我的家人一样。要说家里人的大事,我也得努力啊。」(行徳、門弟は私の家族も同然。家族の一大事とあっては私も協力せねばならんな。)
えっ!僕は、呆気にとられた。師範が言った言葉にも。そして、僕の心を姉さんのように見透かしていたことにも。そして怒りを忘れ、一人でこのことを背負い込んでいた小さな心の境目が解き放たれ、水玉が割れる様に涙があふれた。今まで意地を張って、一人で頑張ってきたすべてをかなぐり捨てて泣く姿を見て、師範は笑いながら僕を抱きしめてくれた。
「那么,赶紧回家吧。」(さあ、では、急いで家に行こう。)
師範も一緒に家に行くことになった。道すがら師範が話してくれた。昔師範のお父さんがいわれのないことでつかまりそうになった時師範の師匠が助けてくれたそうだ。『拳法は人を守るためのものだ。門弟と言えば家族も同然、家族を守らないでどうする。』と言われたそうだ。そう言ってくれる師範でも、姉さんのことはどこまで話していいものだろうか。父さんたちにも話してないのに。
そんな心配をしていると、師範が続けて話してくれた。拳法をやっていると気に対して敏感になり、操ったりすることもできるようになるという。それを人が見ると怪しげな術にも見えると。それに気によって人を見抜くこともできるようになるそうだ。僕を見て色々感じるところもあると教えてくれた。
dive91に続く・・・

