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2021-08-29 23:31:00

dive101

 和尚の術を見てから2か月ぐらいたったころ、久しぶりに白龍師範がやって来た。僕は掃除をしている最中だったが、一目散に駆け寄り家族の無事を訪ねた。駆け寄ってくる僕を笑顔で迎える師範だったが、僕の質問に、苦笑いするのが精いっぱいだった。青嵐にも頼んで何度も茶園に行ってはみたが、誰かが帰ってきている様子もなく、うわさすら聞かないとのことだった。村長はあれからおかしくなってしまったそうで、家に閉じこもっているらしい。茶畑は伸び放題になって荒れている。もし、父さんが帰ってきていたら放っておくわけがない。もう二度とあのお茶を飲めないのか。もう二度とお父さんのあのお茶を。あの甘い香りの蒙頂甘露を。話を聞くたびに体がしびれていく。しびれて、しびれて、すがりついてつかんでいる希望の綱を放してしまいそうだ。僕がこの手を放したら、僕がこの希望をあきらめたら、僕があきらめてこのまま先に進んだら、この世から本当に父さんたちは消えてしまう。みんなの記憶からも消えて、何も無かったみたいに。そしてしびれる度に僕の中の魔を抑えるためだった思いが、奴らに対する怒りが大きくなっていくのを感じる。何だろうこの感じ。今までは、何度も出てくる魔の声を抑えるためのものだったような気がしていたけれど、その魔の声がしなくなったころ、何か小さな炎のようなものが生まれた。いや前からあったのか?何だろう、いつも修行の時にはあまり気にならなかったが、姉さんたちのことを思うと・・・いや姉さんのことを思うというよりは奴らを、奴らのことを考えるとそのたび炎が大きくなる。しかし、その炎は赤々と燃える、あたたかな炎ではなく、どす黒く、重たく、しつこく、すべてを燃やし尽くして何も残さないような、そんなものだ。気持ち悪くて、消えろ、消えろと何度も思うが気が付くとまた燃え広がって大きくなっている。

 白龍師範は2日ほどいたが、何とか暮らしている僕を見て安心したようでまた来ると言って帰っていった。僕は、新たな情報が得られず、苛立っていたが、皆には気づかれないように平静を装った。この2か月の間に、ここにいるみんなに姉さんの術について聞いてみた。それはそこから和尚さんが使っていた術につながる話が、得られるのではないかという期待があったからだ。兄弟子たちに話を聞くと、仙道(仙人になるための修行道)や仏教にも法力なるものが存在することを教えてくれた。和尚がやっていたものは法力による術なのか、僕の知らない世界がこんなにあるなんて驚きだった。しかし兄弟子たちも姉さんがやったような高等な術など見たことがないと口をそろえたように言う。しかし、姉さんはそんな仙道にも仏道にも触れたこともない。なのに、どうやってあんなことができたのか。あの時、姉さんが術の時に言っていた言葉、まるで誰かに語り掛けるようなあの言葉、忘れもしない。そういえば、自然から力をもらうと言っていたことを思い出した。やっぱり和尚のものとは別物のようだ。青仁に和尚様が術を使うところを見たことがあるか、と訊いたがそんな術は見たことがないという。なかなか手掛かりがつかめない。他に何か糸口がないものかと考えた。そうだ、そういえば、和尚はあの時、片手に本を持っていた。きっと、あの本にやり方が書いてあるはずだ。あの本さえ見ることができれば、僕にでも。そう思っていると青仁が

「虽然我没见过,但是要使用法术,首先必须要把佛法做到极致,然后再借助佛的力量。」(僕は見たことはないけれど術を使うにはまず仏法を極めないと、そして仏の力を借りるんだ。)

 やけに自信ありげに言うところを見ると何か知っているんじゃないかと思う。やっぱり見たことあるのかと聞くと、悪霊払いとかなら見たことがあるということだった。ちょっと僕の探しているものとは違いそうだけれど、仕方がない。まずはここからだ。何とかとっかかりができた。そのためには、和尚に近づかなければ。まただ、僕の中の炎が大きくなったような気がした。

2021-08-29 12:23:00

dive100

 あれから、何日経っただろう。僕は毎日水汲み、掃除、読経、功夫(クンフー)、炊事、の繰り返し。青仁に習って小僧になった。はじめのうちはわからないことばかりで、青仁について回るだけだったが、最近はお経もだいぶ暗記してそらで言えるようになってきた。仏さまという存在はなんだかわからないが、毎日ご飯が食べられて、安心して寝られることには感謝している。青仁の歳が近いこともあって、友達が一緒という感じで寂しさもまぎれた。しかし、やはり、夜、一人きりになると思い浮かぶのは姉さんたちのこと。僕が先走ったせいで、あんな目にあわせてしまったのではないかという思いが心の中から吹きあがってくる。それを抑えるために役人たちが悪いんだという蓋を乗せて閉じ込める。毎日、毎日、こんな思いの繰り返し。今更どうにもできないことが故に、失敗という後悔がどんどん大きくなっていく。はじめのうちは覚えることの多さや仕事のことで疲れてすぐに眠ってしまっていたが、日が経つにつれ、体が慣れてくると眠りにつく前にいろいろ考えてしまう。

(ひっひっひ・・お前のせいだ、お前のせいで家族は死んだ。お前が殺したんだ。)と、まるで魔が僕の心を弄ぶようにおそいかかってくる。

(お前が殺したんだ。おまえは人殺しだ。)そんなことはない。僕は悪くない。悪いのはあいつらだ。父さんや母さんを切りつけたあいつらが悪いんだ。

(お前がいなければ姉の力が知られることはなかったんじゃないのか、お前なんかいない方が良いんじゃないか。)うるさい。そんなことはない。お前は誰だ。あっちへ行け!

 毎夜、毎夜、こんなことを繰り返していると睡眠不足になって、修行の最中に居眠りをするようになってしまった。時折青仁が

「行德,你没事吧?睡不着吗。」(行徳、お前大丈夫か?眠れてないのか。)

「没关系。我只是有点困。对不起让你担心了。」(大丈夫だよ。ちょっと眠いだけだよ。心配かけてごめんね。)

「我最初也是那样。很寂寞。但是,过去已经回不去了。现在我是你的家人。和尚也是。那样想的话就不寂寞了。」(僕も最初の頃そうだった。寂しくて。でも、過去はもう戻らないよ。今は僕が君の家族だ。和尚さんも。そう思えば寂しくないよ。)

「谢谢你,青仁。和你是兄弟啊。我会那么想的。」(ありがとう、青仁。お前とは兄弟だな。そう思うようにするよ。)

僕は、そう答えてはいたが、本当は、(勝手に俺を一緒にするんじゃねえ、そのうち僕が救い出して、お前とはおさらばだ。そして、また、本当の家族と一緒に暮らすんだ。)と思っていた。しかし悟られないように、していた。なぜなら、僕は此処に居なければいけない理由が出来てしまった。昨日の夜、ちょっと不思議なものを見てしまったからだ。僕は昨日も魔の言葉に眠れずにいて目がさえてしまい、おしっこに行こうと厠へ行った。僕たちの寝ているところから近い厠は先輩僧たちの部屋の傍で、ごそごそすると何か言われそうだったので、もう一つの和尚さんの部屋の近くの厠へ行った。用を足して帰ろうとしたが、なぜか気になって和尚さんの部屋を見ると、ぼんやり明かりがついているようだった。ん、おかしいなこんな夜中にと思い、ちょっと扉の隙間から覗いてみた。すると和尚さんが片手に書物を持ちながらぶつぶつ言っている。なんだ、とよく見てみると、反対の掌の上にあの時姉さんが見せたような光の球が渦を巻いていた。僕はびっくりしたが、気づかれてはいけないと思い、口をふさいでじっと見ていた。見ていると球が凝縮して光が強くなった。そして、パッと消え、和尚さんは大きく息を吐いた。僕は見つかる前に寝床に帰った。そうか和尚さんたちは僕の姉さんのこと聞いても、そんなに驚かなかったのはこういう事か。和尚さんも術を使えるのか。でもなんか姉さんとは違うような気がした。本を片手にやっていたし、何か自然の力を借りているようにも見えなかった。もしかしたら、修行をしていれば僕にもあの術が使える様になるのかもしれない。どんな術なのかはわからないが、もしかしたら、姉さんたちを助けられるかもしれない。そして術の力でああいう役人たちやそれに加担する悪い奴を一人残らず始末してやるんだ。僕はそう決心した。その夜からだ、なぜだか魔の声は聞こえなくなっていた。

dive101に続く・・・

 

 

 

2021-08-28 14:52:00

dive99

 丁度、もうすぐお昼時だったこともあり、一緒にご飯を食べようということになった。ここでは皆で食事の準備をするのが修行の一つとされているらしく、和尚と言えど例外なく一緒に調理をしていた。僕たちも何か手伝わなくてはと、師範と一緒に食卓の準備をした。下の街でみなしごだった師範は、一時期ここで一緒に修行をしていたらしく食器の位置もやり方もすべて知っていた。しかし、かえって青仁の仕事を奪ってしまったようで青仁がウロウロして困っていた。それを見た師範が面白がって

「青仁,不工作就没饭吃!」(青仁、仕事をしないものには食事はないぞ!)

それを聞いた皆が青仁に注目した。青仁は皆を見てだんだん泣きそうになった。しかし、こらえた。青仁はご飯のためにこらえにこらえ上を向き大声でお経を読み上げた。それを見てみんなが一瞬きょとんとして、和尚が聞いた。

「你在干什么?」(お前何してんの?)

「和尚,我也在修行,能让我也吃点饭吗。」(和尚様、修行をしておりますので、わたしにもごはんを食べさせていただけますでしょうか。)

 がっはははははははははははーーーーー

「来吧!青仁,大家一起吃吧。」(さあ!青仁、みんなで食べよう)

和尚がそう言って、みんなでそろって食べた。

 僕はなんだか複雑な思いでご飯を食べた。あの時の河で生き延びられる確率は、かなり低いだろう。僕たちですら生きていたのが奇跡だろう。姉さんたちのように断ち切られたら、その奇跡すらむずかしい。それは僕もわかっている。でもきっと姉さんなら、とも思っている。いや、思いたいのかもしれない。そうだ、師範も青嵐も、きっとみんな死んだと思っているのではないか。でも、僕はそれを認めてしまった瞬間、ここにいる青仁と変わらない、師範と変わらない、みなしごになってしまう。それが恐ろしい。突然、孤独と悲しみが襲ってくる。あんなに幸せだったのに。僕が壊したのか。こうなったのは僕のせいか。あいつは言った。『お前が来なけりゃ』、それまでは、姉さんのことをしゃべった村長、黒装束、役人たちが悪いんだと思っていたが、大人のあいつに言われたあの言葉でわからなくなった。僕の頭はいっぱいいっぱいだった。何もかもが怖い。恐ろしい。

「怎么了。行德。快吃吧。肚子饿了只会想坏事。我以前也是那样。现在吃了恢复精神。然后大家一起考虑吧。大家都会成为你的力量。所以现在吃吧。」(どうした。行徳。ほら食べなさい。腹が減っていると悪いことばかり考えてしまう。私も昔そうだった。今は食べて元気になれ。それからみんなで考えよう。皆、お前の力になってくれるよ。だから今は食べなさい。)

僕は師範に言われて、背中が温かくなったような気がした。現状も心配事も何も変わらない。でも何だろう、この状態を経験して抜け出した人がいるんだということが、経験したこの人が僕の今の希望のような気がした。僕は食べた。無理やり食べた。そうでもしなけりゃ、希望にしがみつかなければ、おかしくなってしまいそうだった。

 みんな僕が食べ終わるのを待っていてくれた。青仁が皆にお茶を配り、和尚が飲みながら話し出した。

「那么,怎么了,白龙。」(で、どうしたんじゃ、白龍。)

師範が僕の顔を見ながら話し出した。姉のことは僕に聞きながら。話を聞きながら和尚が僕をじっと見つめる。なんだか目を見るというよりも僕の中にあるものをじっと見ている感じだった。和尚さんは意外にもすんなり聞いてくれた。僕は姉さんの力のことをすぐに理解してくれるなんて思ってもみなかった。僕も今までのことをすべて話さないと、何も進まない気がして、和尚さんに打ち明けた。和尚さんはすべて聞いた後、じっと目を閉じ、深くため息をついて厳しい顔をした。そして何かを決断したようで大きく息を吸った。

「好吧,白龙,把这孩子放下你们回去。告诉他家人回来后在这里就可以了。好吗。行德。明天开始在这里修行吧。」(よし、白龍、この子を置いてお前たちは帰れ。家族が戻ったらここにいると伝えてやればいい。よいか。行徳。明日からここで修行じゃ。)

ご飯をごちそうになりに来ただけだったのに、僕もみなしごになったんだ。

dive100に続く・・・

 

2021-08-25 22:32:00

dive98

 「啊,先去我朋友那里吧。」(まあ、俺の友人のところへ行ってからにしよう。)

そう言って師範は、街道のわきに立つ柱の方を指さした。その柱には、「青龍寺参道」と書いてあった。参道に入ると、先ほどのお土産屋や食べ物屋と違い、縁起物屋やお供え物屋が立ち並んでいた。少しづつ山道を登っていくと藍染の原料になる蓼藍が群生しているのが見えた。藍に気を取られているうちに段々と空気が下界のものと違ってきた。なんというか、ほんとに別の世界に入ったようだった。そのころには、わきに羅漢像が立ち並び、僕たちを見定めるように睨みつけていた。僕は弱気になると押し返されそうなものを感じ、睨み返してやった。そうしていると、階段の上の方に山門が見えてきた。先ほど下の街で見た藍染の青とは対照的な赤い山門。大きな山門には、先ほどの羅漢像よりも大きな仁王像が、入ってくる悪を拒絶するように見張っている。山門をくぐると大きな広場があり、奥にはお堂がいくつか見えた。広場に入り、師範が通りかかった小僧さんに話しかけた。

「哦,青仁,龙德和尚在吗?」(おお、青仁、龍徳和尚いる?)

「啊,白龙先生。好久不见。如果是和尚的话就去正殿。」(ああ、白龍さん。お久しぶりです。和尚様なら本堂に。)

小僧さんは、そう言ってお堂の方へ案内してくれた。

「青仁,你长大了啊。打扰一下。」(青仁、大きくなったな。ちょっとお邪魔するね。)

僕と同じ年ぐらいだろうか。この小僧さん、青仁っていうんだ。こんな年の子もいるんだな。ここの子なのかな。和尚さんの息子か?

「喂,你叫青仁吗。我是行德。和尚是你的父亲吗?」(ねえ、君、青仁っていうの。僕は行徳。和尚さんって君のお父さんなの?)

「哎!・・・・不对・・・行德・・我是法师捡到的。」(えっ!・・・・・違う・・・行徳・・ぼくは和尚さんに拾ってもらったんだ。)

そう言って下を向いてしまった。僕はどういうことなのかわからずに、もっと聞こうとしたが師範が止めた。

「这些孩子们,我也是这样,他们是被杀、被抛弃的人。这座寺庙领养了这样的人。」(この子たち、俺もそうなんだが、親を殺されたり、捨てられたりした者たちなんだよ。そうした者をこの寺が引き取ってくれているんだ。)

「哎!师范也是……是的。对不起,我什么都不知道。」(えっ!師範も、・・・そうなんだ。僕、何にも知らなくてごめんなさい。)

「行德。那种事我们不会输的。因为有佛啊。什!青仁。」(いいんだよ行徳。そんなことぐらいで俺たちは負けない。だって仏様がついてるもんな。なっ!青仁。)

そう言って、青仁の肩を抱く。下を向いていた青仁が、師範を見て誇らしげに笑った。僕は、改めて師範の大きさを感じ、誇らしかった。そんなことを考えながら、はっと気づいた。あれ、考えたくないが、もしかしたら僕も・・・・そう思ったら、そのあと何も言えなかった。下を向いて、身につまされた僕の肩を、今度は青嵐が抱いてくれた。なんだか急に不安が体中にまん延したように力を奪っていく。なんだか、体を支えきれなくなって、うずくまり泣いてしまった。突然泣き出した僕を見て、さっきまで笑っていた青仁が心配そうに僕を見ている。青仁にはそんなつもりはないのだろうけど、僕は青仁に仲間と思われるのが嫌で目が見れなかった。僕が諦めたら、父さん、母さん、姉さんが帰ってこないような気がして、下を向いたまま黙っていた。

「哦,好久不见,白龙。怎么了?发生了什么事。嗯,那孩子怎么了。」(おお、久しぶりじゃの、白龍。どうした?何かあったのか。ん、その子はどうしたのじゃ。)

「和尚,真糟糕。但是,在那之前让我吃饭吧!」(和尚、大変なんです。でも、その前にご飯たべさせて!)

「哈?」(はぁ?)

そう言った和尚の顔は厄介ごとはごめんじゃといっているようだった。

dive99に続く・・・

 

2021-08-21 14:27:00

dive97

 濁流の中、何とかよどみから川岸をたどって何とか陸に上がった。僕は、もうどうしていいかわからず、嵐が去って晴れ渡った空を見上げていた。師範は、青嵐と近くにいた人にここがどこか訪ねていた。どうやらかなり川下まで来たらしい。ただ師範はこの近くの町に同じ流派の知り合いがいるらしく、とりあえず事情を話して助けてもらおうということになった。歩いて町まで行く間に、河川港から荷を運んでいる人たちに会った。僕はすぐにその人たちに駆け寄り、尋ねた。

「你知道有人溺水在河里吗。」(誰か川でおぼれていた人を知りませんか。)

「不知道啊。昨天暴风雨很大。就算在也没救了。」(さあ、知らないな。昨日はひどい嵐だったし。もし、いたとしても助からないよ。)

「是吗。谢谢。」(そうですか。ありがとう。)

「啊,这么说来。听说从河里来的船沉了一只。总觉得上面坐着一位很了不起的官员。但是,没救了吧。」(ああ、そういえば。河上から来た船が一隻沈んだそうだな。なんだか偉い役人が乗っていたらしい。しかし、助からないだろ。)

 どこかで僕たちみたいに川岸にたどり着いていないだろうか。そう思って川岸を見ながら歩く。師範が僕に

「就是那个姐姐。一定是有什么办法帮了我。官员们已经死了,也不会再追上来了。大家都能像原来那样生活。」(あの姉さんのことだ。きっと何かの術で助かっているさ。役人たちは死んでしまっただろうし、もう追ってはこない。みんな元通り暮らせるさ。 )

 と言って励ましてくれる。巻き込んでしまった青嵐にも申し訳なくて

「青岚,对不起。我把你卷入了这样的事情中。」(青嵐、ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって。)

「混蛋!别对师兄费心了好啊,你只考虑家人就好了。」(ばか!兄弟子に気使ってんじゃねえ。いいから、お前は家族のことだけ考えてりゃいいんだよ。)

「谢谢你,哥哥」(ありがとう、兄貴)

 周りを気にしながら歩いていると、街が見えてきた。主要な街道は僕たちの居た町よりも広く、大きく、人通りも多い。僕は初めて見る大きな街にびっくりしていた。今日は祭りか何かの集まりがある日なのではないかと思うほど、人がごった返していた。僕と青嵐がビクビクしながら歩いていると師範が

「第一次来大城市吗?人应该很多吧。这里有有名的寺庙,作为门前町很繁荣。」(大きな街は初めてか?人がいっぱいだろう。ここには有名なお寺があって、その門前町として栄えているんだ。)

 師範は街のことをよく知っているようで、いろいろ教えてくれた。街には青い色で染められた着物がつるされた店が何軒もあった。師範に聞くとあれは「藍染め」といい、この街でとれる蓼藍を原料に染められた織物だそうで、お寺のある山にたくさん生えているらしい。この名産品を求めて皆がこの街にやってくるのだそうだ。どおりで遠くから見ても、街の両側に鮮やかな青い看板のお店が何軒かあるのがわかる。近くまで行くと、店の中は真っ青だ。藍染め製品のお店を見ていたら何やら僕たちの鼻をくすぐるような、刺激的な香りがしてきた。どこから匂ってくるのだろうと思い匂っていると、師範が

「哦!这个味道真是担担面啊!对了,等我填好肚子再去吧。」(お!この匂いは担々麺だな!そうだ、腹ごしらえしてから行くか。)

と、教えてくれた。僕と青嵐は腹ペコだったのを思い出して、喜んだ。どんな食べ物だろう、と期待が高まって、店の前まで行った。匂いによだれが出て仕方がない。しかし、匂いに釣られて店に入りそうな僕たちを師範が帯を引いて引き止めた。もう、食べるばかりの僕たちに悔しそうな顔をした師範がボソッと言った。

「对不起。我丢了钱包。」(すまん。財布を無くした。)

僕と青嵐が崩れ落ちたのは言うまでもなかった。

dive98に続く・・・

 

 

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