大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive104
和尚たちが三方に分かれ、娘であったであろう黒い塊を取り囲んだ。そして、和尚の真言が聞いたことがないものに変わった。両脇に分かれた、円信兄たちが壁に呪符を張り結界を張っていく。徐々に距離を詰め、呪符のついた縄で娘の両腕を縛った。苦しそうにする娘から何かがずれて見える。なんだ、二重に見える片方は若い娘、そしてもう一方は鬼のようだ。苦しむ鬼の隙をついて、円信兄が娘の額に呪符を張った。より一層鬼は苦しみ、激しく暴れだした。先ほどまで二重に見えた娘と鬼がさらに分かれてきた。そして先ほどまでの唸りが二つに分かれ、娘の声ともう一人の女の人の声だということがわかる。泣き叫ぶ娘、そして怒りに震える女の人の叫び声。今までこれが合わさっていたのか?誰だ?この女の人は。その時、後ろでそれを見ていた旦那さんが、悲鳴を上げてへたり込んだ。
「你,你是秀玲。你跟着自己的女儿了吗。不要来这里。快点成佛!」(おまえ、おまえは秀玲。おまえ、自分の娘にとりついたのか。こっちへ来るな。早く成仏しろ!)
それを聞いた和尚が、旦那さんを一瞥し、鬼の方の女の人に話しかける。
「你是这家的夫人吗。」(あんたはこの家の奥方なのか。)
「呜呜・・・呜呜・・・痛苦」(ううう・・・・ううう・・・・く・・苦しい)
なんだ、女の人の方がしゃべった。しかし、なんだこの苦しそうで、恨みのこもった声は。奥さん、この人の奥さんなのか?じゃあ、あの一緒に寺に来た若い女の人は?自分の娘にとりつくって、いったい何があったの。
「痛苦……你…用你喝下的毒药……杀了你……杀了你,那个女人也一起」(苦しい・・・お前・・お前に飲まされた毒で・・・お前を殺してやる…殺してやる、あの女も一緒に・・・)
「你被毒死了吗。然后怀恨……女儿知道那个吗。」(あんたは、毒で殺されたのか。それで恨みを持って・・・娘はそれを知っているのか。)
「妈妈,妈妈,可怜的妈妈。不能允许那个女人作为后妻进这个家。不能原谅。我要杀了那个女人。」(お母さん、お母さん、かわいそうなお母さん。あの女が後妻としてこの家に入るなんて許せない。許せない。あの女、殺してやる。)
「是吗,于是两个想法合为一,变成一个身体的鬼来表现。但是,教唆那个的不是在那后面的你。」(そうか、それで二つの思いが一つになって、一つの体に鬼となって表れたのじゃな。しかし、それをそそのかしたのはその後ろにいるお前じゃな。)
和尚がそう言って右手に持った三鈷杵(さんこしょ・密教の法具であり、これを持つことにより悪霊、悪神を払う)で鬼の方の女の人、奥方の額のあたりを突く。すると奥方が二重になり、娘と別れたように奥方と魔物に分かれていく。先ほどまで鬼のようだった奥方の顔が女の人の顔になった。なんだ、いったい何体が重なっていたんだ。そうか、この魔物がこの二人をそそのかし、恨みを増幅させてこんな風になったのか。人の恨みの力というのは何という力だ。しかしあの魔物がその心の隙間に入り込んでいたとは。和尚たちはそこまで見えていたのか。
dive105に続く・・・
dive103
それから10日後、街に降り,あの夫婦が住む大きな屋敷にやって来た。伝統的な四合院の作りで、表門を通り外院(外壁と内壁の間に作られた間。風水的に表門から入った気をここで穏やかにし、収束させるための場所。)に入るとそこには従者が待っており、主人のところまで案内してくれる。従者について行くと豪華で華麗な第二の門、垂花門(すいかもん)が待っている。垂花門とは屋敷の主人の地位や趣味を表すもので美しく精巧な作りをしている。外にひけらかさないことが重要な意味を持つ。軒下の両端にある短い柱の下に蓮の花をあしらってあるので垂花門という。上面には吉祥図案が彫ってある。こんなに豪華な門を見るのは初めてだ。この家の経済力をうかがわせる。奥様やお嬢様は『大門不出,二門不邁』(表門を出ない、二の門を跨がない。)というのがお屋敷の定番。あの時、寺に来たのはよっぽど困っているのだろうということがわかる。門には衝立になる四枚戸がついており、奥まで見通せなくなっている。垂花門をくぐるとようやく中庭に入る。四合院の作りは内院にたどり着くのに中庭を通り抜ける方法と、左右に屋根のある塀が続くのでそこをたどっていく方法がある。中庭には主人が待っており、挨拶もままならないうちに早くしろと言わんばかりに内院に連れて行こうとする。和尚も、僕たちもどんなものが待っているのか緊張しながら奥に進む。扉の前に立つと主人が
「请想办法。我无能为力。」(なんとかしてください。私には手に負えない。)
ふと、僕は庭の花に目をやる。濃い紫に黒い筋が入っている。こんな色の花見たことがない。なぜだか急に気になって。そういえば、なんだかやけに静かだ。僕はなんだか花を見て緊張が解けてしまった。主人に促され、和尚さんが部屋に入ろうと扉に手をかけた瞬間、ガタ、ガタ、ガタガタっと僕たちを拒絶するように震え出した。厳しい顔になった和尚と円信、円仁が阿吽の呼吸で目を合わせて印を結び真言を唱え始める。
「ノウマク・サンマンダーバーザラダン・センダン・マーカロシャーダーソワタヤ・ウンタラ・ターカンマン」
僕は、円信兄に習って知っていたのでこの真言を聞いてすぐに印を結んだ。これは不動明王の真言。怒りの形相で強大なお力を持つ守護尊・不動明王よ、私の迷い・障害を取り払い願いを成就させたまえという意味の言葉。その真言を唱え続けるとガタガタいっていた扉や窓が少しずつおさまっていく。なおも、真言を唱え続けるとビタッと震えが止まった。恐ろしさと緊張で身が縮こまっていたが、ほっとして力が抜ける。だが、間髪を入れずして円信が叫ぶ。
「不要解开标记。不要放松。会来的。」(印を解くな。気を緩めるんじゃない。来るぞ。)
バーーーーン!という音とともに両脇の窓が吹き飛ぶ。僕らの前の扉は印を結んだ和尚が抑えていたが、枠の隙間から何か得体のしれない煙が漏れ広がって来る。和尚が
「哎呀哎呀,哎呀,真麻烦啊」(やれやれ、ちと、厄介じゃのお)
と声を漏らし、扉を開ける。
先ほどの煙で充満した部屋は向こう側に何がいるのか見渡せない。しかし、奥に何かいることはわかる。なぜなら、地を這うような低く、暗く、湿った声、いや唸りと言った方が良いだろう。煙と共に地を這いながらやってくるのだ。娘だと言っていたはずだが、とてもそんな風には聞こえない。両脇の窓が吹き飛ばされ、正面の扉も開け放たれたせいで少しずつ煙が外に出て見通せるようになってきた。なんだこれは!着ている物は確かに娘のものらしいあでやかな色の織物だが、そこから出ているのは、鬼。そう僕の乏しい知識の中では仏典に出てくる鬼以外の言葉が見つからない。黒く太い腕は娘の腕が変形したものだろう、割れた皮膚から滲む血が何ともおぞましい。鎌のように伸びた指の先に刀の刃の光を見せる爪。瞳は真っ黒でどこを見ているのかわからない。先ほどから聞こえる唸りは、煙と共に顎が避けた口から吐かれたものだった。もはや、娘の部分など残してはいない。仏画に書いてある鬼なんて生易しいものではない。腕、頭、背中から垂れる肉片、乾いて固まってしまった血の塊。恐ろしくて、もう見ていられない。さっき円信さんから印を解くなと言われ結んだままだったが、怖くて動けないだけで僕の意思によるものではない。逃げ出したい、だが何だろう。あの鬼、いや魔物の禍々しいまでの力を見て、僕の中の炎が呼応して燃え盛るのを感じ興奮してしまった。
dive104に続く・・・
dive102
月日は川のようで、僕の思惑をものともせずに勢いよく流れていく。和尚の部屋を掃除する当番を買って出ては見たものの、なかなか手掛かりが見つからず、気が付くと1年経ってしまっていた。その間、蓼藍の収穫や法要など下っ端の仕事は覚えること、こなすことが主で、ついて行くのがやっとだった。仏の教えも、経典も覚えることだらけ。藩部(清王朝が統治していた中国本土以外の地)の西蔵(チベット)から伝わる仏教は、首領であるダライ・ラマ(釈迦の生まれ変わり)から伝わる。この青龍寺では、その中でも、秘密の教え、密教を教える。仏教が説く4種の基本的な真理、四聖諦(ししょうたい)または苦集滅道(くじゅうめつどう)。苦諦(くたい) - 迷いのこの世は一切が苦という真実、集諦(じったい) - 苦の原因は煩悩・妄執、求めて飽かない愛執であるという真実、滅諦(めったい) - 苦の原因の滅という真実、無常の世を超え、執着を断つことが、苦しみを滅した悟りの境地であるということ、道諦(どうたい) - 悟りに導く実践という真実、悟りに至るためには八正道によるべきであるということ。僕はこの教えを学んでいるときに、はっとした。そうか、そうなのか、この世は苦しみばかりなのか。最初の苦諦(くたい)の話を聞いてぞくぞくした。『四苦八苦』この言葉が忘れられない。根本的な四つの思うがままにならないこと、出生・老・病・死である。これが四苦。愛別離苦(あいべつりく) - 愛する対象と別れること。怨憎会苦(おんぞうえく) - 憎む対象に出会うこと。求不得苦(ぐふとっく) - 求めても得られないこと。五蘊盛苦(ごうんじょうく) - 五蘊(身体・感覚・概念・決心・記憶)に執着すること。これを入れて八苦。後の四苦は僕の今の状態そのものじゃないか。この世のすべてなのか。家族との別れ、憎むべき人たち、秘術に会得できない現状、すべては執着によるものという事実。まるで自分を見透かされているようなこの感覚。なぜだろう、この事実を覆い隠さんとする黒い炎がより一層燃え盛る。僕の中に矛盾がある。事実をありのままに認め、受け入れ明日に進もうとする心、そしてどんなに真実だと言われてもそれを力でねじ伏せようとする心。どちらも自分の中に在って、正しいとか間違っているとかではないような気がした。どっちであれ欲しい結果にたどり着ければいいような。そう、すべてを欲するというなんだかよくわからないものの塊が僕の中にあるのだ。しかし、この仏の教えを受け入れない限り、執着を捨て悟りに至らない限り、仏の力を借りるという術にはたどり着けないだろう。しかし、執着を捨てるということは、家族のことはあきらめて前に進むこと。到底僕には悟りの境地にたどり着けない。じゃあどうすれば・・・
そんなことばかり考えていたある日のこと、寺に客人がやって来た。小太りの見るからに裕福そうな男と美しい着物を着た若い女。どうやら奥さんのようだ。境内の掃除をしていた青仁が和尚のところに案内した。僕はあまり見かけない客人に興味がわき、青仁に何の用だか聞いてみた。すると、どうやらあの家の娘に悪霊、魔物の類が取り付いているので祓ってほしいという事らしい。青仁にこういうことはちょくちょくあるのか尋ねると,、普段は魔物、悪縁断ちのいわゆる魔除け的な儀式をすることはあるが、退魔の術を使うのは年に数回ぐらいだと言った。僕はどんなことでもいいから、退魔の術というのを見てみたっかった。和尚さんたちの話が終わったようで、客人たちが帰っていった。和尚さんが弟子の中でも退魔術を得意とするものを呼んで話をしていた。兄弟子の円恵、円信、この二人は和尚さんたち長老の信頼も厚く、この寺の仁王のような存在で、頼れる兄貴という感じだ。この一年、僕も相当お世話になった先輩だ。円恵さんには姉さんの術に関してもいろいろ教えてもらったし、円信さんには仏教界の明王についていろいろ教えてもらっている。それぞれの真言、印の結び方などを教えてもらい先生のようだった。僕はこの二人が行くのなら何とか連れて行ってもらえないかと考え、二人に頼んでみた。その頼みに円信さんが
「是啊。什么都要体验一下啊。跟青仁一起来。」(そうだな。なんでも経験してみないとな。青仁と一緒についてこい。)
やっと、細い蜘蛛の糸をつかんだ。前に進むぞ。
dive103に続く・・・
dive101
和尚の術を見てから2か月ぐらいたったころ、久しぶりに白龍師範がやって来た。僕は掃除をしている最中だったが、一目散に駆け寄り家族の無事を訪ねた。駆け寄ってくる僕を笑顔で迎える師範だったが、僕の質問に、苦笑いするのが精いっぱいだった。青嵐にも頼んで何度も茶園に行ってはみたが、誰かが帰ってきている様子もなく、うわさすら聞かないとのことだった。村長はあれからおかしくなってしまったそうで、家に閉じこもっているらしい。茶畑は伸び放題になって荒れている。もし、父さんが帰ってきていたら放っておくわけがない。もう二度とあのお茶を飲めないのか。もう二度とお父さんのあのお茶を。あの甘い香りの蒙頂甘露を。話を聞くたびに体がしびれていく。しびれて、しびれて、すがりついてつかんでいる希望の綱を放してしまいそうだ。僕がこの手を放したら、僕がこの希望をあきらめたら、僕があきらめてこのまま先に進んだら、この世から本当に父さんたちは消えてしまう。みんなの記憶からも消えて、何も無かったみたいに。そしてしびれる度に僕の中の魔を抑えるためだった思いが、奴らに対する怒りが大きくなっていくのを感じる。何だろうこの感じ。今までは、何度も出てくる魔の声を抑えるためのものだったような気がしていたけれど、その魔の声がしなくなったころ、何か小さな炎のようなものが生まれた。いや前からあったのか?何だろう、いつも修行の時にはあまり気にならなかったが、姉さんたちのことを思うと・・・いや姉さんのことを思うというよりは奴らを、奴らのことを考えるとそのたび炎が大きくなる。しかし、その炎は赤々と燃える、あたたかな炎ではなく、どす黒く、重たく、しつこく、すべてを燃やし尽くして何も残さないような、そんなものだ。気持ち悪くて、消えろ、消えろと何度も思うが気が付くとまた燃え広がって大きくなっている。
白龍師範は2日ほどいたが、何とか暮らしている僕を見て安心したようでまた来ると言って帰っていった。僕は、新たな情報が得られず、苛立っていたが、皆には気づかれないように平静を装った。この2か月の間に、ここにいるみんなに姉さんの術について聞いてみた。それはそこから和尚さんが使っていた術につながる話が、得られるのではないかという期待があったからだ。兄弟子たちに話を聞くと、仙道(仙人になるための修行道)や仏教にも法力なるものが存在することを教えてくれた。和尚がやっていたものは法力による術なのか、僕の知らない世界がこんなにあるなんて驚きだった。しかし兄弟子たちも姉さんがやったような高等な術など見たことがないと口をそろえたように言う。しかし、姉さんはそんな仙道にも仏道にも触れたこともない。なのに、どうやってあんなことができたのか。あの時、姉さんが術の時に言っていた言葉、まるで誰かに語り掛けるようなあの言葉、忘れもしない。そういえば、自然から力をもらうと言っていたことを思い出した。やっぱり和尚のものとは別物のようだ。青仁に和尚様が術を使うところを見たことがあるか、と訊いたがそんな術は見たことがないという。なかなか手掛かりがつかめない。他に何か糸口がないものかと考えた。そうだ、そういえば、和尚はあの時、片手に本を持っていた。きっと、あの本にやり方が書いてあるはずだ。あの本さえ見ることができれば、僕にでも。そう思っていると青仁が
「虽然我没见过,但是要使用法术,首先必须要把佛法做到极致,然后再借助佛的力量。」(僕は見たことはないけれど術を使うにはまず仏法を極めないと、そして仏の力を借りるんだ。)
やけに自信ありげに言うところを見ると何か知っているんじゃないかと思う。やっぱり見たことあるのかと聞くと、悪霊払いとかなら見たことがあるということだった。ちょっと僕の探しているものとは違いそうだけれど、仕方がない。まずはここからだ。何とかとっかかりができた。そのためには、和尚に近づかなければ。まただ、僕の中の炎が大きくなったような気がした。
dive100
あれから、何日経っただろう。僕は毎日水汲み、掃除、読経、功夫(クンフー)、炊事、の繰り返し。青仁に習って小僧になった。はじめのうちはわからないことばかりで、青仁について回るだけだったが、最近はお経もだいぶ暗記してそらで言えるようになってきた。仏さまという存在はなんだかわからないが、毎日ご飯が食べられて、安心して寝られることには感謝している。青仁の歳が近いこともあって、友達が一緒という感じで寂しさもまぎれた。しかし、やはり、夜、一人きりになると思い浮かぶのは姉さんたちのこと。僕が先走ったせいで、あんな目にあわせてしまったのではないかという思いが心の中から吹きあがってくる。それを抑えるために役人たちが悪いんだという蓋を乗せて閉じ込める。毎日、毎日、こんな思いの繰り返し。今更どうにもできないことが故に、失敗という後悔がどんどん大きくなっていく。はじめのうちは覚えることの多さや仕事のことで疲れてすぐに眠ってしまっていたが、日が経つにつれ、体が慣れてくると眠りにつく前にいろいろ考えてしまう。
(ひっひっひ・・お前のせいだ、お前のせいで家族は死んだ。お前が殺したんだ。)と、まるで魔が僕の心を弄ぶようにおそいかかってくる。
(お前が殺したんだ。おまえは人殺しだ。)そんなことはない。僕は悪くない。悪いのはあいつらだ。父さんや母さんを切りつけたあいつらが悪いんだ。
(お前がいなければ姉の力が知られることはなかったんじゃないのか、お前なんかいない方が良いんじゃないか。)うるさい。そんなことはない。お前は誰だ。あっちへ行け!
毎夜、毎夜、こんなことを繰り返していると睡眠不足になって、修行の最中に居眠りをするようになってしまった。時折青仁が
「行德,你没事吧?睡不着吗。」(行徳、お前大丈夫か?眠れてないのか。)
「没关系。我只是有点困。对不起让你担心了。」(大丈夫だよ。ちょっと眠いだけだよ。心配かけてごめんね。)
「我最初也是那样。很寂寞。但是,过去已经回不去了。现在我是你的家人。和尚也是。那样想的话就不寂寞了。」(僕も最初の頃そうだった。寂しくて。でも、過去はもう戻らないよ。今は僕が君の家族だ。和尚さんも。そう思えば寂しくないよ。)
「谢谢你,青仁。和你是兄弟啊。我会那么想的。」(ありがとう、青仁。お前とは兄弟だな。そう思うようにするよ。)
僕は、そう答えてはいたが、本当は、(勝手に俺を一緒にするんじゃねえ、そのうち僕が救い出して、お前とはおさらばだ。そして、また、本当の家族と一緒に暮らすんだ。)と思っていた。しかし悟られないように、していた。なぜなら、僕は此処に居なければいけない理由が出来てしまった。昨日の夜、ちょっと不思議なものを見てしまったからだ。僕は昨日も魔の言葉に眠れずにいて目がさえてしまい、おしっこに行こうと厠へ行った。僕たちの寝ているところから近い厠は先輩僧たちの部屋の傍で、ごそごそすると何か言われそうだったので、もう一つの和尚さんの部屋の近くの厠へ行った。用を足して帰ろうとしたが、なぜか気になって和尚さんの部屋を見ると、ぼんやり明かりがついているようだった。ん、おかしいなこんな夜中にと思い、ちょっと扉の隙間から覗いてみた。すると和尚さんが片手に書物を持ちながらぶつぶつ言っている。なんだ、とよく見てみると、反対の掌の上にあの時姉さんが見せたような光の球が渦を巻いていた。僕はびっくりしたが、気づかれてはいけないと思い、口をふさいでじっと見ていた。見ていると球が凝縮して光が強くなった。そして、パッと消え、和尚さんは大きく息を吐いた。僕は見つかる前に寝床に帰った。そうか和尚さんたちは僕の姉さんのこと聞いても、そんなに驚かなかったのはこういう事か。和尚さんも術を使えるのか。でもなんか姉さんとは違うような気がした。本を片手にやっていたし、何か自然の力を借りているようにも見えなかった。もしかしたら、修行をしていれば僕にもあの術が使える様になるのかもしれない。どんな術なのかはわからないが、もしかしたら、姉さんたちを助けられるかもしれない。そして術の力でああいう役人たちやそれに加担する悪い奴を一人残らず始末してやるんだ。僕はそう決心した。その夜からだ、なぜだか魔の声は聞こえなくなっていた。
dive101に続く・・・

