大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive74
意図せず若返りを果たした私たちは、美雨にもらった石を小さな袋に入れ、革ひもで結んで首にかけた。こうすることで常に媒介である石を通して自然界の霊力が充填されるらしい。そして昨日、麗華に買ってあげた腕輪と髪飾りについていた青い宝石に、美雨が念を封じ込める。守護の念だそうだ。これで私がいなくても麗華を守ってくれる。こんなすごい人に巡り合えるなんて、これもやはり使命を果たすために出会うべくして出会ったのだろう。誰かが背中を押すように、まるでお膳立てされたように事が進む。ちょっと前までのすべてが奪われていった時期を思うと、なんだか正反対の力が働いている感じだ。あまりに悪いことばかり続いた後、いいことがあるとどこか疑ってしまう。誰かが仕組んだことなんじゃないかって。しかしそれにあらがうような広い見識もない私にとって今が精いっぱいだった。それよりもこれで準備が整った。未来の日本に向かって飛ぶ前に、一応未来の日本について二人に教えておかなくちゃ。今と違って、車やバイク、電車が走っていること、私が持っている腕時計を見せ、未来の日本は時間に縛られていること、水道からトイレのこと、とりあえず教えられることはすべて教えた。後は簡単な日本語。美雨を守護している清華が旅立ちはこの日がいいというので1週間後の朝旅立つことにした。それまで日本語の特訓が続いた。意外と二人とも覚えがよく、しゃべるときはすべて日本語でという遊びにはまっていた。一番好きなことばは二人とも「かわいい」だった。きらいなのは「おばさん」。世界も時代も超えて共通なんだな。二人でキャッキャ言って
「あなたかわいいですね。」
「あなたもかわいいですよ。」
この連続技何回聞いたことか。これが10代の女の子ならほんとにかわいいんだろうな。これが見た目は20代っぽいけど中身は70歳と37歳だもんな。まあ、確かにかわいいけども。霊力って怖い。
日本語もだいぶ板についてきたころに旅立ちの朝になった。いよいよだ。和尚より譲り受けた私の術は乗り物に過ぎない。これを制御し、エンジンとなるのは霊力。今回はエンジンが2台あるようなもの。きっと2018年までたどり着けるだろう。まずはそれからだ。私が真ん中に両脇に麗華と美雨。ここへ来た時と同じようにひもでぎゅうぎゅうに縛る。二人に声をかける。
「じゃあ行くよ。離れないようにしっかり掴まっていろよ」
準備も整い術を発動。大量の霊力のせいで制御がうまくいかない。暴れ馬のようだ。初めてのことに慌てていると美雨に憑く清華が制御を手助けしてくれた。来た!あの時と同じだ。私の中心の穴に吸い込まれるように、周りすべてがねじ込まれていく。なんだ、前の時よりも圧倒的な力で引きずり込まれていく。おおおおおーーーーー。腹に響くこの力。おおおおおおーーーーー。目が開けていられぬーーーーー。
パァーーーーーーーーーーー!クラクションの音とともに目を開ける。車だ。道の真ん中に三人で立っている。慌てて歩道のほうに二人を引っ張る。
「どこ見て歩いてんだ!ひき殺されてえのか!」
二人がおびえている。そりゃそうだ、初めて見る車、アスファルトの道、たくさんの人。そうだここは日本だ。やった、飛べたんだ。とりあえず、紐をほどいて二人を落ち着かせるために近くにあった公園に行った。しかし、そこに向かう道すがら看板があった。そこには『2020年東京五輪まであと5年』と書いてあった。あれ!3年前についてしまった。どうしよう。二人に現状を話すと、
「先回りできたならよかったじゃない。」
若返った二人は私より断然強そうだ。不覚にもこの二人についていこうと思ってしまった。
dive75に続く・・・・
dive73
ひとしきり話が終わると早速、美雨がテーブルの上に何種類かの石を置いて座った。霊力を回復させるには自然界にある霊力を常に吸収するのが手っ取り早いそうで、外の霊力を媒介を通して取り込むことができるらしい。それがこの石。しかし、人それぞれ相性が良い石とそうでないものがあると言う。美雨が送る霊力がどの石を通るのが効率がいいかで判断するらしい。その石を持ち歩けば、常に自然界にあふれる霊力を取り込んで回復させてくれるらしい。そんな便利なものがあるのかと聞くと、特殊な石で滅多にないものなのであることと、その人に合うかどうかという問題もあるという。ここにあるもので合うかどうか試してみないとわからないという。美雨が集中して石に手をかざす。
「蓝生,请试着把手放在那里。」(藍生、手をかざしてみてください。)
なんとなくだが、数個の石の中で気になった黄色い石の近くに手をかざしてみた。
「你在意那个石头吗?」(その石が気になりますか?)
「总觉得很暖和・・」(なんとなく暖かく感じるもので・・
手のひらがだんだん暖かくなり何か炭酸水の泡がはじける様にぱちぱちというかピリピリしてきた。
「果然像那块石头啊。」(やはりその石のようですね)
そう言って美雨が黄色い石に集中したとたん手のピリピリがビリビリにランクアップした。
「可以吗?请考虑将流动而来的灵力储存在腹部深处。穿过脊梁骨。」(いいですか?流れて入ってくる霊力をおなかの底に貯める様に考えてください。背骨を通して。)
言われた通りに考える。手のひらのビリビリした電気が両腕を通り背骨で合流。大量の稲妻が腹の奥底のタンクに溜まっていくイメージで。
「是的。感觉很好。」(そうです。いい感じです。)
だんだん腹の底が暖かくなってきた。いったんそれを感じると何もイメージしなくてもどんどん流れ込んでくる。ああ、なんだか体に力がみなぎってくる。腹の底に太陽があるようだ。
「蓝生!请考虑一下那个力量围绕全身。」(藍生!その力が全身をめぐるよう考えてください。)
力を感じ、そこからあふれてくる流れを右足左足と回り、上に登って腰を通り左腕、左肩、頭右、右肩、右腕を通ってまた足の方へ。何分かしてくると、体を薄い膜のようなものが包んでいる感覚になってくる。驚いたことに目にも回るようにイメージしていたら薄い膜が白い靄のように見えるようになってきた。不思議に思い、まじまじと見ていると美雨が笑って見ていた。
「也看到蓝生了吗?」(藍生にも見えましたか?)
隣にいる麗華には何のことだかさっぱりわからないようで、いったいどうなってるのか聞いてくる。 立ち上がって飛んだり、体をひねったりしてみる。体が軽い。昨日までのだるさが嘘のようになくなってる。振り返った私を見て麗華が驚いている。
「蓝生!你的脸!脸!」(藍生!あなたの顔!顔が!)
顔がどうしたっていうんだ?触ってみるも特に痛いところもおかしなところもない。麗華は何を騒いでいるんだ?慌てて麗華が鏡を持ってくる。なんだよと思って見てみると、そこには若き頃の私の顔が・・・体だけじゃなく顔まで若返っている?
「美雨,这是怎么回事?」(美雨、これはどういうことですか?)
すると、美雨は霊力について詳しく教えてくれた。霊力とは自然界にあふれるエネルギーのこと。人間は皆持って生まれてくるが、大人になるにしたがって減っていく。これは人が社会的な生活をすることで失ってしまう。よく好きなことをして生きている人は生き生きしているというでしょう。あれは自然に霊力を使うことができる人たち。誰から教えられる訳でもなく取り込むこともできる。だからそういう人は若々しく病気を寄せ付けない。この世界はそういう力があふれているのに人間の方から遠ざけてしまっている。自然や動植物から遠ざかることは、この世界の生き物にとって己の首を絞めることに他ならないのである。自然を愛し、惜しみなく自分の霊力を与える者だけに、この世界は霊力というエネルギーを与えてくれる。仏が言う光あふれる世界というのはこの世のことなのかもしれない。そして霊力にあふれる者は老化が遅い。よくあるだろう憎しみで凝り固まった者の顔がしわしわの老人のようなことが。逆もまた然りということなのだ。だから今までよりも霊力を全身に回せるようになった私は体が若返ったのだという。
「麗華、你觉得我比你小吗?」(麗華、私はあなたより年下だと思いますか?)
さっきまで新しく妹ができたみたいに美雨を抱きしめていた麗華が今度は化け物でも見る様に遠ざかる。
「我今年70岁。」(私は今年で70歳です。)
それを聞いた麗華が、私も、私もと美雨に頼んだのは言うまでもない。そう、麗華も化け物の一員になったのだ。
dive74に続く・・・
dive72
「你在说什么?不是单纯的旅行哦。」(何を言っているんですか?単なる旅行ではないんですよ。)
麗華が驚きと怒りを混ぜたような声で言った。
「我知道。我也想帮忙。」(分かっています。私も手伝いたいのです。)
真剣な目でこちらを見る美雨(メイユイ)。私もどういうことなのかわかっているのか半信半疑で尋ねた。すると私の過去のこと、そしてこちらに来てからのこと、大体わかっているようだ。自分も石の被害者として関わってしまった。私たちに逢って自身の運命として受け入れる覚悟を決めたそうだ。しかし、そんな簡単に決められるものなのかな。なんだか他に理由があるのではないかと疑ってしまう。麗華の直感は結構あてになる。野生動物のそれと思って間違いない。その麗華が警戒している。それを見ると、はい、そうですかとはなかなかいかない。しかし、未来に飛ぶためのエネルギーとなる霊力、それを補えるのは彼女しかいない。私がここに来た目的もそれなのだ。迷っている暇はない。こうして、考えていることもどうやら彼女にはわかってしまうだろう。隠し事はできない。この人がどんな人なのかわからない。もしも悪人であったら日本に連れて行くわけにいかない。真っ直ぐこちらを見る美雨の目を見返すことができない。そんな私を見て美雨が
「我明白了。那么,这个人……」(わかりました。では、この者に・・・・)
そう言って、手を合わせ祈り始めた。何かを感じたのか、立ち上がっていた麗華が座って身をすくめている。なんだか部屋の中の空気が変わった。何ともすがすがしい高原にでもいるような緩やかで優しい風が吹く。どこからともなく霞がかかったようになり美雨がいたあたりが光出した。まぶしいというのともちょっとちがう。神々しいと言ったほうがあっているだろう。そこに現れたのはどことなく美雨に似ている感じの姫君のようないでたちの女性だった。なんだ、幽霊か?
「蓝生。我的名字叫清华。我是守护这个人的人。正如你有使命一样,这个人也有使命。不做坏事。愿共同携手完成使命。无论如何拜托你。」(藍生。私の名は清華。この者を守るものです。そなたに使命があるようにこの者にも使命があるのです。悪事は働きません。ともに手を取って使命を果たすことを祈ります。どうか頼みます。)
そう言って微笑み消えて行った。麗華も見たようでポカーンとしている。いったいなんてものを見せてくるんだ。断るわけにいかないだろ、あんな守護霊見せられて。和尚もすごいけど、この人すごいな。本物だ。でも、これだけの力があれば自分で行けそうなのに・・・ああ、これも読み取られてるんだろうなと思って美雨を見ると、ニコッと笑った。麗華もあきらめたようだ。緊張しすぎてぐったりして、私に任せると言っている。行くのはわかったが、詳しいことを隠さず話してほしいと言うといろいろ話してくれた。
彼女には霊力を回復し高める力、それと未来予知の力があるそうだ。それはひとえにあの守護霊のおかげらしいが。自分が病に倒れること、そして私たちに助けられともに行動することもわかっていたそうだ。心を読んだのは、先ほど握手をしたときに霊力の糸を私に結んでおいてそこから伝わってくるそうだ。霊力の高いものの近くにいる者もだんだん霊力が備わってくるらしく、麗華が敏感に反応するのはそのせいだと。しかしあまり強くはないので先ほどのような高級霊に当てられると疲れてぐったりしてしまうらしい。霊力がもっと低い者には先ほどの清華さんは見えないそうだ。見えるだけでも相当な霊力があるという。彼女は幼い時から清華が見え、そのせいもあり孤独だったが、いろんなことを教わって来たそうだ。しかし、そんな力を悪用しようとする輩が近づいてくることも少なくなく、一人、旅に出ては逃れてこの街に来た。彼女には大きな使命があると清華に言われて霊力の使い方を学び、人々を救い、癒すために生きてきたが、ある日、見えた未来に自分が倒れるのが見えたそうだ。しかしそんな自分を救い、その後私たちを助けるためにともに行動することが私の使命なのだと気づき願い出たのだそうだ。そう聞いて少しほっとした。また何か厄介事を背負いこんでしまうのではないかとドキドキしていたが、強力な味方ができたようだ。そう思ってほっとしている横で聞いていた麗華は、号泣しながら美雨を抱きしめていた。
「努力了呢。努力了呢。一起加油吧!」(頑張ったね。よく頑張ったね。一緒に頑張ろうね!)
癒しの力ならこいつにかなう者はいない。そう思ったことは、美雨にも伝わったようで、孤独から解放された美雨も麗華を抱きしめ泣いていた。
dive73に続く・・・
dive71
近頃いろいろあって、疲れのせいか眠くてしょうがないのに朝から寝かせてもらえない。麗華が髪飾りをするのに似合う髪型を結う度、これはどう?と聞きに来る。眠気もあってそれでいいんじゃないぐらいの返事をしたら、違うのにしてくるとまた結いなおす。何度目か覚えていないが、これは褒めるまで終わらないと気づき、ああ、それ可愛いね、と言ってあげるとおさまった。大変なものを買ってしまった。要約おさまって、もうちょっと寝ようとしたが、今度は腕輪は右か左どっちがいいか言い出したのであきらめて朝食を食べに行くことにした。いつも私の右手で手をつないで歩いているので左腕にすることにするらしい。これからは二つ同じものを買うことにしよう。両腕にあれば悩むことはない。
外へ出てすぐにあったお店に入った。麗華があそこのお店はいいにおいがすると言うので決めた。麗華の鼻はよく利く。外れたことがない。このおかげであの石の入った饅頭を食べなかったらしい。ある意味犬以上である。麗華はすぐに紅油抄手(辛いワンタン)を頼み、私は、肉包(肉まん)と豆腐脳(おぼろ豆腐をスープで煮込み具を入れ醤油、辣油などで味付けした中国の軽食)を頼んだ。麗華の言ったことに間違いはなく、とても美味しかった。日本人が海外旅行に行くと必ず日本料理が食べたくなると言うが、私は一向にならない。毎日楽しくてしょうがない。逆に考えると中国人である麗華が日本に行ったら中華料理が食べたくなる・・・日本の中華料理店で働いていた時、確かに中国人の調理師は日本料理あんまりたべなかったな。ていうか、みそ汁飲んでるところ見たことないな。天ぷらは食べてたけど、あれ日本料理って言えるのか疑問である。世界各国に天ぷらはあり、当の中華料理にもいろんな種類がある。油を使うのは天ぷら屋が一番みたいに日本人は言うけど、中華料理をやっている私は恥ずかしくてそんなこと言えない。井の中の蛙状態だ。まあ、食材を吟味するとかいろいろ意見はおありでしょうが、『美しく繊細』は突き詰めるのが好きな日本人らしいけど、自分で自分の首を絞めている感じがする。私は本当に日本人なんだろうか。
お腹もふくれたし、一度、宿に帰って占い師のところに行こうかと店を出ると、宿の前に占い師が待っていた。昨日の寝間着とは一味も二味も違う、美しい装飾品をつけ、光沢のある赤い絹の民族衣装は袖や裾に細かい刺繍が入っている。体調も戻ったのか顔色もよく、中国美人とはこういう者かと思わせるような美しさだ。男の私だけでなく、麗華も見とれている。しかし次の瞬間、吸い寄せられそうな私に気づき、手をぎゅっと握ってきた。見とれていた麗華の目が敵を見る目に変わっていた。
「昨天谢谢您了。我叫美雨。」(昨日はどうもありがとうございました。私は美雨(メイユイ)と申します。)
そう言って握手の右手を差し出すので私もと思ったが、右手は麗華が放さない。その光景を見て美雨が笑って左手を出す。麗華はその手があったか、と言わんばかりに悔しそうに見ている。私も恐る恐る左手で握手をした。とりあえず占い館に行って話をすることになった。麗華はずっと臨戦態勢だ。
館に入り、中国らしい格子の装飾が施された木製の背もたれが美しい椅子に案内され、机を挟んだ向こう側に美雨が座る。机と言う境界線を挟んで私の世界を彼女が見ているようである。私と麗華を見ているのだが、何か私たちを透かして後ろにあるものを見ているような視線だった。そして一言
「你不是这个时代的人吧。」(あなたはこの時代の人じゃないわね)
今度は麗華の方が痛いと思うぐらい右手に力が入る。ドキッとして背筋がこわばり下腹に力がこもった。続けて、
「为了完成使命,还要再去呢。」(使命を果たすために、また行くのね。)
どこからどこまで見えているのだろう。この人が味方ならいいが、そうでなかったら・・・
「放心吧。我不是敌人。」(安心して。私は敵ではないわ。)
私の心が読めるのか?
「我有一个请求来代替增加灵力。」(霊力を増やしてあげる代わりにお願いがあるの。)
また麗華が手をぎゅっと握ってくる。まさかあの石?それとも秘術を・・・
「不是那样。请带我去未来。」(そうじゃありません。私も未来に連れて行ってください)
え!ええーーーーー!何言ってんのこの人。どうかしてんじゃない。そう思う私の手をぎゅっと握ったまま麗華が驚いて、急に立ち上がり美雨の方を見て口をあわあわさせていた。
dive72に続く・・・・
dive70
一仕事終えた私たちは、昨日まで使ってきた店を片付けて次の場所、日本を目指す。麗華はあの看板をしっかりと包んで背中にしょっている。たまに来てくれていたあの宿屋の主人も、町を盛り上げるためにずっと此処に居ろと言ってくれたが、そういう訳にもいかない。行徳を追って日本に行くには術もそうだが体力もつけておかなくてはならない。ここに来るのに龍恵の力を借りてきたが、今度は一人でやらねばならん。あの術の本に、時渡りには渡る先の時が近くても離れていても術自体には変わりはないが、持っていかれる霊力、体力は段違いだと書いてあった。体力って点はいっぱい食べてよく寝ればよさそうだけど、霊力ってどうやって高めるんだろう。和尚、そういうこと教えといてくれよ。私はそういうこと初心者なんだからさぁ。そんな悩みもあって、昨日宿屋の主人にこのあたりで不思議な力の湧く場所とか、人がいないか聞いてみると隣にできた大きな町に霊的な力で占ったり、治療をする女性がいることを教えてもらった。町で評判になったその女性も、前はこの街にいて仲良くしていたから自分の紹介だと言えば取り合ってくれるだろうという。未来に行く間に霊力、体力不足で思わぬところに飛ばされても困るので、麗華に相談し、町に行ってみることにした。体力不足を補うためにご馳走を食べようと誘ったら、鼻歌交じりに歩いて行った。あれとこれとと食べたいものをいろいろあげている。飛んで行くんだから鴨を食べようとか、龍の力を得るために鯉を食べたらいいんじゃないかとか、自分が食べたいだけだと思うけど、麗華が元気になるならそれでもかまわない。ひと月間働いてお金は結構たまったが、中国を出るのにこのお金を持っていても使えないので全部使ってしまっても構わない。そうだ。麗華に何かプレゼントしよう。
町に着くとちょうどお昼時、大きめの料理屋に入り、麗華の好きなものを注文していいよと言うと、よだれ鶏やらいろいろ食べ切れないほど頼んだ。故郷とお別れするんだ、これ位させてあげないとな。思い返してみると、ここ数年で麗華は失ったものがたくさんある。その上、故郷まで失うんだ。私は彼女に何をあげられるのだろう。彼女の心の失ったところを新しく、楽しいもので埋めてあげたい。何か、生きていくお守りのような、道しるべのような。私がいなくとも私の代わりに彼女を支えてくれるようなものがいい。私がそんなことを考えながら彼女を見ると、食べるのに夢中だった。そんな彼女が愛おしくてたまらない。できることならもう一度二人でお店をやってのんびり暮らしたい。客席でお客さんと話して笑っている麗華を見ていると、ああ、できることならばこの景色を写真にとって置きたいと心から願う。このまま、行徳たちのことなんか忘れてしまいたい。ついひと月前は行徳のことが許せず、どこまでも追いかけてなんて思っていたが、危険を冒して戦うことの恐ろしさや、毎日の生活の楽しさに戸惑い、悩み疲れていた。許してなどはいないが戦うことでまた何かを失う事の怖さに心がついていけない。私にはあんなハリウッド映画のアメリカ人みたいなヒーロー願望はない。 いつかこの心を鷲掴みにする恐怖から解放されることはあるのだろうか。そんなことを思いながらも体力をつけるためにしっかり食べておいた。
店を出るときに流行りの占い師のことを知らないかと聞いてみた。すると、どうも最近体調が悪いみたいで休んでいるらしい。この店の裏あたりに住んでいると聞き、ちょっと行ってみた。売れっ子が住んでいるにしては薄暗い感じの長屋のようだ。一軒ずつ聞いていくしかないか、とあきらめていたら人が出てきた。なんだか医者のようだ。付き添いの人と一緒に出てきた。二人とも困った表情で話している。そば耳を立てて聞いてみると、原因不明で倒れてしまって寝たり起きたりを繰り返しているらしい。医者は原因がわからずお手上げでうなだれて帰っていった。もしかしてと思い付き添いの人に声をかけ、占い師のことを聞いてみた。やはり倒れたのは本人らしい。宿の主人の紹介で来たのだが症状を聞かせてくれないかと聞いてみた。するとあの石の症状だった。巻き込む恐れがあるので、すべてを話すわけにはいかないがもしかしたら治せるかもしれないと言うと、何でもいいから来てくれと腕を引っ張られた。中に入るといろんな魔除けと思われるものが置いてあり、なるほどそっち系の人とすぐにわかる部屋だった。麗華に前に潜った時にとっておいた石の粉を出すように言う。特に害のあるものではないことを告げ、占い師に飲ませろと言う。朦朧として起き上がり薬を飲む占い師。少し時間がかかるからあとでまた来ると言い残し、部屋を出た。麗華にどこに行くのか尋ねられたが、ちょっと付いて来てと言いごまかした。料理屋に行く途中に見つけたアクセサリー屋に寄った。貴重なものは店先に置くわけがないので奥まで行った。店主の居る奥の棚には高価なものがそろっていた。その中でも目を引くのは青い宝石の付いた銀の腕輪だった。思い出すのは、孫の藍にやるつもりだったあの宝石。同じような色の宝石にひかれてしまった。もう一つ銀細工の髪飾りにはこれにも同じ宝石がついている。目を輝かせている麗華にどっちがいいか聞いてみた。悩んでいる。どっちも欲しいのだろう。店主にいくらか聞いてみた。二つ買うからまけてくれと言ったら喜んで負けてくれた。それでも持ち金の半分くらい持っていかれたが。あと何日此処に居るかわからないから、全部使うわけにもいかんし。満腹の上に腕輪と髪飾りにご満悦の麗華は、いつもの鼻歌を大きめで歌ってる。自慢げだ。かわいいなぁ。すぐに占い師のところに戻り、様子をうかがった。意識が戻ったようで寝床に座っていた。おつきの方に紹介され、話をしようとした。しかし、私を見るなり皆まで言うなという感じで、薬の礼を言い、わかっていますと。私の後ろに何やらいるのかな。準備をしておくから明日来てくれと言う。疲れているだろうから、宿屋を紹介してもらいその日はいったん帰った。
dive71に続く・・・

