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2020-08-21 01:15:00

dive61

 修練を始める前に呵呵に帰って、麗華に和尚との話を伝えた。麗華にとっても、自分の兄を殺されてとても許すことなどできないことだろうと思い聞いてみると、和尚様に従うと呆気ない返事だった。しかし、その表情を見ると内面にいろいろな葛藤を抱えた影が見える。ああ、この人は私のことまで気遣って自分の思いを吐くこともできずに苦しんでいる。言ったところでどうしようもできない苦しみは私の中にも雪のように降り積もっている。兄からの愛で癒されるはずだった分も私が愛し、この人の中に降り積もった苦しみを溶かしてあげたい。そう思い力いっぱい麗華を抱きしめ、それ以上麗華に問うことはしなかった。何とか我慢していた麗華だったが、糸が切れたように私の胸に突っ伏して叫びながら泣いた。意地っ張りな麗華が愛おしく、なんだかようやく夫婦になった気がした。吐き出した麗華は少しすっきりしたようで笑顔に戻った。ああ、やっぱり麗華にはこの笑顔がよく似合う。パッと咲いた夏の朝顔のような笑顔にどれだけ私が救われてきたことだろう。この笑顔を守りたいという私の思いに迷いはなかった。

 円旺が店にやってきて、早速担々麺を作ることに。まずは王さん直伝呵呵の担々麺。さっきまで心の中にどっかりとあったわだかまりは麗華の笑顔が吹き飛ばしてくれた。迷いなくお客さんに元気になれよという思いを込めて担々麺を作る。出来上がった担々麺には王さんと私の思いがたくさん詰まっている。円旺が藍染めの衣装に着替え術の準備に入る。麗華と桶に水を汲んで待機する。石を掴もうとするとき手袋をしたままだとつかめないという前回の反省により手袋に滑り止めをつけてある。いざ術を発動する。他人が潜るところを初めて客観的に見て、びっくりした。こんな風になるんだ。今までそこにいたはずの場所には靄のようなものが漂い、糸を引くようにどんぶりへと伸びている。なんだこれハリウッド映画か?にしてもシュールすぎるだろどんぶりに糸引く靄って。ああ、そうか、私が潜った時みんなこれを見ていたのか。そりゃ驚くわな。客観的にみるとこんな感じなのか。私たちの時代には漫画も、映画もあるからこんなもんかと思うけど、この時代の人が見れば・・・いやいや私の時代でも現実にはないか。SFX,VFXの時代に生きてきた代償だろうか。魔法が魔法であることを忘れている。エイリアン、物体エックス、死霊のはらわた、映像でこんなものばかり見ていた高校時代を過ごし、現実をあまり驚けなくなってる自分をなんだか残念な人のように思う。知らない場所、行ったことない場所、秘境と呼ばれる場所、普通じゃ見れない宇宙や顕微鏡の世界、そういう映像をテレビや写真で見るのは確かに素晴らしいことなのだろうけども、初めて本物を目の当たりにする感動が薄くなるのは何ともやりきれない。そういう意味では、本当にそういう技術の進歩に疑問すら感じる。本当を、本物を体験するって素晴らしい。そりゃ、オーロラ見に行くわなぁ、海潜って、宇宙を目指すわ。私がどんぶりに潜った時に見たものも誰も見たことないもんな。カメラあったらな・・・いかんいかん本末転倒じゃ。

 そんなことを考えていたら、円旺が戻ってきた。手に石を持って。すぐにマスクを外してやり、水で冷やしてやった。取れた石は王さんの時よりも少し黄色が強い感じの黄緑色の宝石だった。もしかして作る人によって色が違うのだろうか。色が違うってことは作用も違うのかもしれない。いや、作るものにもよって変わるのかも。あるいは作るときの思いによっても。これはいろいろ試す必要がある。仮説を試すために、円旺にあと何回か潜ってくれと頼み、すぐに王さんの担々麺を今度はお客さんに病よ治れという思いで作ってみた。円旺はまたも石を取って帰ってきた。今度は青みがかった緑色の宝石だった。次は頑張れという思いを込めたら赤い宝石。今度は私の新型担々麺で試した。すると先ほどよりも大きく輝きが増した。最後にあまり気が進まなかったが行徳への憎しみを込めて作った。するとすべてを吸い込んでしまいそうな漆黒に輝く宝石ができた。それを確認したときもう二度とこのような気持ちで店には立つまいと決心した。まさか私の気持ち一つでお客さんの健康状態を左右するなんて、自分の力に恐怖すら覚えた。

dive62に続く・・・

2020-08-19 12:59:00

dive60

 一方青龍寺では、和尚が事の重大さに、重い腰を上げた。四天王を集め今までのいきさつをすべて話し、この先どうしていくか決めていた。円炎、円静は千道の今までの行動についてもこれで合点がいくと憤り、円旺は時渡りなど秘伝の術の流出に早く阻止せねばと焦り、円碧に至っては行徳を恐れ、もう何も食べないなどと言っている。和尚もパニックになる四天王をなだめ、まずは最終的にどうなることが最善か、そうなるために何をしなければならないのかを考える様に言いつける。もちろん行徳が改心して一件落着が一番いいだろう。しかし、魔道の道に落ち、人を殺めてしまった今、それはもうできないだろう。改心して助けようにも魔物と契約しておいてただで済むはずがない。奴らにも奴らのしきたりがあるだろう。仏道にも因果と言うものがある。それはもうどうしようもない。しかし、操られているとするならば千道は助けなければなるまい。ただただ親についていく小鴨のように。なんにせよこの青龍寺が発端の一件、青龍寺で始末をつけねばなるまい。そのためには行徳を捕まえなければなるまい。そのためには千道に気づいていないふりをして後をつけ、捕縛するしかないだろう。捕まえてどうするかは、そのあとで考えようということになったそうだ。呵呵の営業を終えて寺に行き、和尚と四天王たちと話し合った。私は行徳と千道を許すことなんてできない旨を伝えると、ではお前は人を殺せるのかと問われ、愕然とした。私は今まで人を喜ばせようとして生きてきた。そんな私には到底できない。でも、奴らは王さんの命を奪ったんだ。それを到底許すことはできない。和尚は言う。王さんは確かに奴らに殺された。だからと言ってそれに引きずられて、私まで魔道に落ちるなと。私には王さんから教えを受け、継いだものがある。人とは脈々とそのタスキを繋げて生きていくものだ。そして良い波動を広め世界を光で照らすのだと。その光である私が闇に落ちてどうするものかと。私はどうすればいいんだ。一体どうしたら・・・

麗華になんていえば、自分の兄を殺した犯人が誰だかわかっていて何もできないだなんて。そう言う私に、和尚は、そんなこと王は望まんよ、麗華も。王はお前たちに幸せになってほしいと願っておるよ、と諭す。それはわかっている、でも、誰かが奴を止めなければ。王さんや私たちみたいな被害者がまた出てしまう。歯を食いしばって黙り込む私を、申し訳なさそうに和尚が慰める。

 話し合う中で、単純に毒がまかれるなら、薬を大量に用意することが手っ取り早く、有効な手段ではないかということになり、術者とダイバー、を育成しようということになった。そこで私は和尚に術を習い、作って小さくして潜ることのできる、一人完結の完全体らーめんダイバーを目指すことにした。王さんとお客さんたちの後押しにより、今なら私の担々麺に石を生み出せそうな気がする。時渡りの術と一緒にこの術をマスターすることが急務だ。円旺と一緒に和尚に習う。和尚が言うには術とは己の力ではなく仏の力を借りるためのきっかけのようなものであり、それ自体は難しいものではないという。難関は仏の気と己の気を同調させることだ。和尚には私たちが術を行っているときに、同調しているかが感じ取れるようで、もどかしい様子だ。私は心が乱れているようでとても出来そうにないらしい。円旺の方はもう少しのようだ。円旺は法力において和尚の次に優れており、あちらこちらに悪霊退治に行っているほどである。修練を続け何日か経った頃、円旺が術を体得し、一度私の作った担々麺で試してみたいと言ってきた。

dive61に続く・・・

2020-08-18 16:40:00

dive59

 私は26年前、20歳の時、調理師学校を卒業しこの中華料理の世界に入った。そして、上を目指して一生懸命にやってきた。下っ端の時、雑用のような仕事をできるだけ早く済ませ、自分たちが調理に携われる唯一の時間、まかない料理を作るのに懸命になった。一日に一回やってくるチャンス。それ以外に調理師と呼べるような仕事は無いに等しい下っ端にとって、明日に向かって積み上げられるものなど何もない。お店を回すための仕事、先輩たちの雑用、材料の準備、機材の準備、洗浄、食器の準備、スープをとる、ごみを捨てる。こういう仕事は調理師たちである先輩たちの仕事がうまく機能するようにする潤滑油のようなもので、とても専門学校へ行く必要などない。そんな毎日の中で一日に1,2回自分でメニューを決めて調理ができるという楽しい時がやってくる。材料は限られている。その日に余っているもの、であったり、安くてまかないように仕入れてもらったものであったり。それまでにできるだけ、その食材を使ったメニューを頭の中に叩き込んでおくこと、臨機応変に材料を変えることができるように、材料の特性、味付けをしっておくこと。調理師学校で習った基本的メニューは確かに本職がお店で出すレシピや調理法であるが、それは役に立たない。なぜならすべての材料を自分の自由にそろえることはできない、またそんな時間も準備もない。短時間で4,50人分のおかずを2品作らねばならない。昔料理の鉄人という番組で食材を指定されて作る番組があったが、あれを毎日やっている感じだ。お題をもらって即興で演じる落語や大喜利のようだ。どうやったらそのメニューを効率よく50人分調理できるか。調理師学校を出たばかりの自分たちにそんな知識の貯金はない。毎日、目の前で作られる先輩の料理をヒントに、休憩中に本屋で料理の本を見たり、先輩に相談してみたり毎日作って失敗して、食材を無駄にしたと叱られたりして得た経験を少しづつためていく。何せ審査員は全員調理師だったり、サービスマンだったりするから厳しさは折り紙付き。毎日戦うこと、いつも調理することを忘れないこと、下っ端はこうして調理師になっていく。

 あれから26年、毎日仕事をしてきたが、私は店で「こなす」ことに慣れてしまって、戦うことを忘れてしまっていた。お客さんが目の前にいない隔離された厨房で作業をするという緊張感のなさが仇になってしまっていたのだ。そういえばお客さんである先輩たちに褒められたりしたときの喜びもいつしか忘れていたのかもしれない。厳しさも同時に。

 そんな時に、厳しさと喜びを思い出させてくれたのが王さんだった。この土地のことも、調理のことも、生き方もいっぱい教えてもらった。『師匠』であり、『兄貴』とよぶにふさわしい人に初めて巡り合った気がする。おっさんが言うのも恥ずかしいが、本当に大好きな人だった。まあ、実際『兄貴』になったわけではあるが。あの人は、私に何を見ていたのだろう。何を伝えたかったのだろう。私はあの人の期待に応えられるのだろうか。この店の前に倒れて、王さんに助けてもらって以来、私にとって心の支えだった。

 王さんの葬儀が終わり、和尚と麗華さんに、王さんの奥さんが亡くなった時のように店を続けることを勧められ次の日から営業した。まだ気持ちの切り替えができないまま、王さんが立っていた場所に立つ。そして王さんがやっていたように、仕込みをし、湯を沸かし、たれを作り、麺をゆで、仕上げ、お客さんに出す。一杯、一杯に思いを込めて。王さんに追いつけるように、王さんにがっかりされないように。何よりもお客さんに笑ってもらえるように。そんなときに、おばあさんと小学生ぐらいの子供が入ってきた。注文が入り2杯作る。こちらから座って待っている二人が見える。それを見て私の母方のおばあちゃんを思い出した。私が小学生の頃、電車で40分ぐらいのところの母の実家に一人でお歳暮を持って行っていた。お使いに行くとご褒美に近所のラーメン屋さんに連れて行ってくれた。おばあさんは味噌ラーメンを食べている私をにこにこしながら見ていた。私はそんなおばあさんに笑って返した。そんな昔を思い出しながら担々麺を出した。他のお客さんのどんぶりが返ってくる。何も残ってないどんぶりを見て、ほっとしながら洗い物をする。疑心暗鬼のまま客席の方を見ると、さっきのおばあさんと子供が笑っている。その姿に自分の子供時代がオーバーラップする。ああ、笑ってくれた。あの日のおばあちゃんのように笑ってくれたよ。王さん、見てますか。私の作った料理で笑ってくれたよ。こんなにうれしいことはない。あの日の自分と同じように、あの子笑ってるよ。

 「那样就可以了。」(それでいいんだよ。)

 今、王さんが・・・・そんな気がした。

ああ、王さん、あなたは、私に教えてくれてたんですね。私に一番大事なことを。やっぱり、かなわないな。師匠・・・私は笑った。呵呵と笑った。上を向いて王さんに見える様に。王さんに聞こえるように精一杯大きな声で。またも泣きながらではあるが・・・

dive60に続く・・・

2020-08-17 15:19:00

dive58

 店に着くと早速作り始めた。和尚と相談して、王さんの担々麺を作り二人で味見する。 

「嗯,总觉得不对。蓝生,你没有忘记什么吗?」(んーー、なんか違うのう。藍生、何か忘れておるのじゃないのか?)

「好好地做着。按照小王说的做。」(ちゃんとやってます。王さんの言うとおりにやってます。)

何度も何度も、作ってようやくこれだと思って、和尚に確認を取り、早速、潜る準備を始める。和尚の気合もろとも光が凝縮し、一気にどんぶりの中に、ダイブ。泳ぐというよりも、もがくに近い動きであたりを探す。ネギやミンチをかき分け、麺の間をくぐり抜け、辣油の赤をよけながら探す。しかし、一向に石らしきものは見つからない。やはり私の作ったモノではだめなのか。和尚に戻してくれと頼み、どんぶりから出る。マスクをはずしもう一度、担々麺を作る。何回か作る。また潜る。探す。ない。また作る。潜る。探す。ない。和尚も私もへとへとだった。王さん・・・・泣きそうになる。・・・どうしたらいいんだ・・・。和尚も手詰まり感が否めない。そこへ、麗華さんがやってきた。王さんの容体にあまり変化がないので、私の様子を見に来てくれたのだった。今までの経緯を説明して、これからまた潜ることを話す。そして、また王さんの担々麺を作ろうとした時、麗華さんが

「蓝生,那可不行。请做你的担担面。请制作你发自内心能笑出来的担担面。刚才哥哥说了。」(藍生、それではだめです。あなたの担々麺を作ってください。あなたが心から笑うことのできる担々麺を作ってください。そう、先ほど兄が言っていました。)

 和尚がそれを聞き、今はそれしか方法がないかもしれないと麗華の言い分に賛成した。私にはまったく自信がなかったが、王さんがそう言うならと踏ん切りをつけた。早速、麗華さんに材料のニラともやし、それも太くて新しい、根や豆の臭みの少ないものを買ってくるよう頼んだ。俺は前の日に何回も試して行きついたものを早速作った。王さんのモノとは似ても似つかない担々麺を見て、和尚も麗華さんも呆気にとられている。白濁したとろみのあるスープからは甘いナッツの香りが、その色に生える様に白いもやしと緑のニラ。その上には、たっぷりうま味を浸み込ませたつやつやの豚ミンチ。そのホンワカした森と大地のようなどんぶりを引き締めるように真っ赤な辣油からは辛い雰囲気はもちろん、何とも甘いエキゾチックな香りが漂う。

「和小王的不一样,这是我的担担面。请尝尝。」(王さんのものとは違いますが、これが私の担々麺です。どうぞ食べてみてください。)

 和尚と麗華さんは、恐る恐る顔を見合わせながらどんぶりを手に取る。麗華さんなんかこっちの様子を見ながら、レンゲでスープをすくっている。匂いを嗅ぎ大丈夫そうだという感じで一口。えっ!っていう感じで二口目。上にのっているシャキシャキのもやし、とニラを食べ、ようやく信用したのか麺に箸を伸ばす。

「丽华,请全部混在一起吃。和尚也。」(麗華さん、全部混ぜて食べてみてください。和尚も。)

二人が覚悟を決めた様子でどんぶりの中を混ぜる。うまみを吸ったミンチがスープの中に入り、先ほどまで別々に味わっていたスープと麺と野菜の間を取り持って、皆がまとまったハーモニーを奏で始める。お酢と辣油がいいアクセントになって。和尚よりも後から食べ始めたのに、スープを残しているとはいえ、先に食べ切ったのは麗華さんの方だった。

「蓝生!很好吃。这是未来日本的担担面吗?」(藍生!すごくおいしかったわ。これが未来の日本の担々麺なの?)

麗華さんが笑顔で聞いてきた。和尚も食べている箸を止め、こっちを見ている。

「不是。新过去的担担面。」(違うよ。新しい過去の担々麺さ。)

麗華さんは不思議そうにこっちを見ながら、それでも名残惜しそうに一口ずつ飲んでいる。そんなところも可愛い人だ。

「我想让哥哥吃这个。」(これを兄に食べさせたいです。)

石を探してからと思ったが、私も出来上がった私の担々麺を王さんにも食べてほしかったので賛成してすぐに作った。家まで運び、王さんを起こして食べてもらった。最初は私の顔とどんぶりを何回も見て「なんだこれ」と言う感じだったが、一口、二口と進むにつれ、「ふむふむ」から「ほーー」に変わり、終いには「うん」に変わった。そして笑った。呵呵と笑ってくれた。

「蓝生!太好了!这是你的担担面吗?太棒了。好吃。那时帮助你是件好事。」(藍生!やったな!これがお前の担々麺か。素晴らしい。うまい。やはり、あの時、お前を助けてよかったよ。)

 うれしかった。本当にうれしかった。喜ばれるって、こんなにうれしいもんなんだと初めて知ったような気がする。おじさんはまた泣いてしまった。

「嗯。现在的你,一定能做我的担担面」(うん。今のお前なら私の担々麺を作ることができるだろう。)

「你在说什么呢,小王快点好起来再做担担面吧」(何を言ってるんですか。王さん早く良くなって担々麺を作ってください。)

「蓝生!最后能见到你真是太好了。这样就可以去妻子那里了。真的非常感谢。」(藍生!最後にお前に出会えて本当に良かった。これでようやく妻のところに行ける。本当にありがとう。)

「哥哥,别说傻话。不要把我丢下。」(兄さん、馬鹿なこと言わないで。私を置いていかないで。」 

「藍生!请照顾丽华。她是个爱撒娇的人。请疼爱她。」(藍生!麗華のことをよろしくな。こいつは甘えん坊だから。可愛がってやってくれ。)

「王师傅,请多教我一些。请稍等一下。哥哥,我还有很多想问的事情。想再一起笑一笑。」(王師匠、もっといろいろ教えてほしいんだ。ちょっと待ってくれよ。兄貴、まだ聞きたいことがいっぱいあるんだよ。もっと一緒に笑いたいんだ。)

そういって王さんの肩を掴もうとする手を和尚が止めた。

「蓝生!小王已经去了。」(藍生!王さんはもう行ったよ。)

王さん、王さん・・・助けてあげられなかった。何もできずに、ただただ泣いた。

dive59に続く・・・・

 

2020-08-15 21:55:00

dive57

 「和尚,请先救一下王先生。来吧!必须做好潜入的准备!」(和尚、まず、王さんを助けなくちゃ。さあ!潜る準備をしないと!)

 「是啊。蓝生,那么呵呵……」(そうだな。藍生、では呵呵に・・・)

そう言って歩き始めたが、すぐに立ち止まってしまった。どうしたのかと思い和尚を見る。和尚がこっちを見て

 「喂,糟了!我忘记了重要的事情。」(おい、大変だ!大事なことを忘れているぞ。」

 なんだよ、早くしろと袖を引っ張るも、振りほどかれる。

 「到底谁来做担担面?是你吗?」(いったい誰が担々麺を作るんじゃ?お前か?)

なっ!なんだーーーー!そうだ。そうだよ。王さん倒れてるのに誰が作るの?私の作った担々麺に石なんかできるわけがないだろ。おい、術者もダイバーもいるのに作り手がいなけりゃ話にならないじゃないか。他に心当たりがないか和尚に聞くも考え込んだままだった。でもこのまま手をこまねいていても仕方がない。和尚に

「知道了!我来做。」(わかった!私が作る。)

と言い、和尚と急ぎ呵呵に向かう。どうしよう、王さんの命が懸かってる。責任重大だ。私に作れるだろうか。王さんの顔と一緒に麗華さんの顔が浮かぶ。麗華さんにも言わなくちゃ。でも心配するだろうな。術が失敗すれば王さんどころか私も・・・麗華さん一人残すことになる。千道め!こうなることがわかってやったのか?後ろで操っている行徳の狙いなのか。もし邪心の石を作ることに成功していたなら、気に入らないやつを片っ端から始末するだろう。この寺の人たちだって狙われる対象だろう。それを止めることができないように王さんを狙ったのか?何の恨みもないだろうに。しかし、狙うなら和尚でも、私でもよかっただろうに、なぜ王さんなんだ?

和尚はともかく、私のほうが始末しやすいだろうに。ん、私の存在、潜っているのが私だと気づいていないのではないか?和尚と王さんの二人で術を完成させているのだと思っているのでは。寺でもこの話はしていないので千道にも気づかれていないはずだ。和尚と王さんの違いとはなんだ。もしかして法力を持っているものには効かないのか?そう考えると、王さんだけが狙われたのに合点がいく。考えたくはないが、行徳たちが本当に狙っているのはこの先ドミノ倒しのように起きる連鎖反応ではないだろうか。王さんが担々麺を作れなくなる、すると善心の石が取れない。善心の石がないとなると病になったものが助からない。邪心の石を大量に作り町の人々の食べ物に入れてしまえば、もともと善心の者は次々と倒れ、もともと邪心の者はより悪くなり、町中で争いごとが増え、収拾がつかないなんてことに。ただでさえこのご時世、海外からアヘンを大量に売り込まれ国自体が立ち行かなくなってきているのに。石とアヘンでこの国はボロボロになってしまう。中間で自国の美術品、工芸品を売って、その払いをアヘンで貰い、自国民に売りまた商売にする奴らがいる、この者たちも、行徳もまさに獅子身中の虫ということである。長い目で見れば、こんなことをしても結局は、自滅していくだけだとわからないのだろうか。ここで一つ疑問が湧いた。もともと邪心の者は善心の石を食べたらどうなるのだろう。疑問だ。改心するのだろうか。仏はこれをすべて救えとおっしゃっているのだろうか。そのために私をここへ来させたのだろうか。この国を、いや、人類を一つの生き物に例えるならば、これは一つの病であり、私は免疫や治療薬のようなものなのか。私と和尚や王さんという物質が化学変化を起こし良薬になると。私は昭和という時代に生まれ、ある程度の教育と倫理を教えられてきた。朝起きると、おばあさんが仏壇に向かってお経を上げているのを見て、なんだかわからないが一緒になってお経を上げていた。仏様の像に頭を下げる。お寺にも幾度か行った。和尚様にも頭を下げ笑っていた。家では一番長老のおばあさんが何度も頭を下げ笑っていたのを見ているうちに、このやさしい世界が好きになった。それを作ったのが仏様なのかなぁ。私はそんな世界を守りたい。これは戦いなのだ。私たちの世界を脅かす者たちとの。これは私の欲かもしれない。欲に善悪とかあるのかどうかはよくわからない。守りたいという欲は、無い者たちが欲しがる欲と変わりはないのかもしれない。それならそれで話し合って両方が笑える世界にしたい。何か道がないのか話し合うほうが争うよりも、もっとこう、呵呵と笑えるじゃないか。王さんと、また一緒に笑いたい。私に石を作れるだろうか。いや、作らなきゃ。作らなきゃ笑えないなら、作るんだ。待ってろ王さん。食べて笑える一杯を。

dive58に続く・・・・ 

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