大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive91
いつもの道を走っているのだが、心がざわついているせいか、ちょっとした石ころにも気躓く。何かが僕の邪魔をしているように感じて、苛立つ。青嵐が心配して声をかけてくれるが、応えるような気を回す余裕がない。そんな僕の様子を見て青嵐は、ただ事ではないことに気づいたのか、声を掛けなくなった。いつも、弟のようになついている僕の見たことのない表情に、少しおびえているようだった。師範もその様子を見て、僕よりも青嵐を気遣った。ああ、あの大きな杉の木を越えればもうすぐだ。心配そうに青嵐も、家へ帰らずについてきた。僕は、先頭を切って茶園に向かう上り坂を登っていく。道を進むにつれ、だんだん茶畑が見えてくる。その向こうに、ほらもう、うちが・・・あれ?・・・
はっ!・・
誰だよ・・・・黒装束・・・
あいつら・・・あいつ姉さんを・・
村長何してやがる・・・・・なんだあの後ろにいる黄色い帯のやつ・・・あれが役人なのか・・・
走った。力の限り走った。しかし、もう力が・・・
「姐-----姐!」(姉さーーーーん!)
残った力を振り絞って叫んだ。そんな僕の横を師範と青嵐が追い越していく。
姉さんたちが言い争う声が聞こえてきた。父さんや母さんも役人と言い争っている。
「请停止。官吏!村长!你是什么意思。让我住手!」(やめてください。お役人様。村長!どういうつもりだ。やめさせてくれ!)
「请停止。救命!爸爸!」(やめてください。助けて!父さん!)
姉さんの声が聞こえてきた。二人を追いかけ、また叫んだ。
「姐------姐!」 (姉さーーーーーーーーん!)
僕たちに気が付いた姉さんが叫んだ。
「行德!行德!不许来!不要来!」(行徳!行徳!来てはだめ!来ないで!)
えっ!なんだよ!来ないでって。父さん!母さん!
師範と青嵐が姉さんのところに行き黒装束の手から放そうとしている。そこへ村長が来て棒を振り回して二人を追い払おうとしている。青嵐が棒で打たれうずくまる。師範が村長の棒を払いのけ、取り押さえる。しかしそうしている間に、また姉さんが捕まってしまった。もうすぐ、姉さんのところにたどり着く。僕のできる最強の肘打ちを叩き込んでやる。姉さんを掴む黒装束を「鉄山靠」(てつざんこう・体当たり)で打ち放し、守りの空いたみぞおちに肘打ち「裡門頂肘(りもんちょうちゅう)」を・・・
最後の一歩を踏み込み体当たりで黒装束を吹き飛ばした。そしてもう一歩、バンっと!震脚(踏み込み)その力を下肢から肘へつなぐ。右肘を張り、手のひらを上に構えを作る。そして打ち込む。
「不行!住手!行德!」(だめ!やめて!行徳!)
姉さんの叫び声が響く。しかしもう止まらない。八極拳の威力はすさまじく、子供ながら大の大人を吹き飛ばしてしまった。しかし、打った僕は、泣きながら叫ぶ姉さんの姿を見て呆然と立ち尽くしている。それを見た皆が静まり返る。あたりに姉さんの鳴き声だけが響く中、黄色い帯をした役人らしき男が青龍刀を振りかざして言った。
「你们想违抗我们吗!那里的拳术师们,这个女人怎么办才好呢?」(お前ら、私らに逆らう気か!そこの拳法使いたち、この女がどうなってもいいのか?)
そう言って、おびえる母さんの首にギラギラとした青龍刀を当てた。師範たちも手を放し、父さんはうなだれていた。よろよろと村長は棒を拾い上げ、手下のように役人の傍へ寄っていった。3人いた手下であろう黒装束の者たちのうち、一人が僕に打たれて倒れている。それを見た役人が、唇の端を引きつらせながら笑って言った。
「正好。喂,女儿。把倒在那里的家伙治好。」(ちょうどいい。おい、娘。そこに倒れている奴を治せ。)
それを聞いてすかさず父さんが
「官员,我们的女儿怎么能做那种事呢。」(お役人様、うちの娘にそんなことできるわけないじゃないですか。)
「吵死了!喂,姑娘!如果不治好那家伙,就知道你的母亲会变成什么样」(うるさい!おい娘!やれなければお前の母がどうなるか。)
「爸爸!爸爸!我!我该怎么办?」(お父さん!お父さん!私!私どうしたら?)
「官吏,官吏,请不要这样做。」(お役人様、お役人様、どうかおやめください。)
「嘿!吵死了!太麻烦了,这样怎么样。」(ええい!やかましい!めんどくさい、ならばこれでどうだ。)
そう言って、母の首から青龍刀を離してくれたのかと思いきや返す刀で父さんの首を横一文字に切りつけた。無防備な父さんの首からは、おびただしい血があふれ、体はびくびくしている。
「哎哟!哟!哟!哟!」(ぎゃーーーーーーーーーーーーー)
「不快点的话,父亲会死的!哈哈哈!」(早くしないと、父上が死ぬぞ!ははは!)
あふれかえる血に村長は腰を抜かし這いつくばって立ち去ろうとしている。師範も青嵐も立ち尽くし身動きが取れないでいる。そんな中を一人、姉さんがよろよろと父さんに歩みより、傍らにしゃがみこんだ。そして泣きながら両手を広げ天を仰ぐ。手のひらを天に向け大きな丸い板を回すように腕を回し続ける。やがて緩やかな風が円の中心に向かって集まりだし、あっという間に渦を巻く。周りにある大きな木や茶畑の気がざわざわと音を立て始めたかと思うと、風の渦が緑色に光り始めた。姉さんが渦の根元を両手でツボを持つようにはさむとそのツボの底が抜けたように、緑の光が父さんの体に注がれていく。そうまるで液体がとろとろと体に流れる様に。はじめその緑色の液体は全身を包んでいたが、だんだんと首元に集まっていき傷口から流れ出た血液と共に体内に入っていく。そして最後の液体が入った時には傷口がふさがっていた。しばらく見ていると足先や指先がビクビクしてきた。姉さんは父さんの胸に手を当てて目をつむってぶつぶつつぶやいている。するとだんだんと父さんの手や顔の色に赤みが差してきた。ドクン!その心音に反応して姉さんが目を開き、父さんが咳き込むとともに血の塊を吐き、目を開いた。その時、そこにいた誰もが神のごとき力に驚愕し、後ずさりをした。しかし、驚きながら役人は、にやりと笑い手をたたいた。
「这真是太棒了,一定要把这个力量化为我的东西。」(これは素晴らしい、ぜひこの力を私のものに。)
そう言いながら、姉さんを見つめていた。
dive92に続く・・・

