大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-09-21 20:09:00

dive77

 行ったり来たりを繰り返し、ついに中華街にほど近い、石川町駅に着いた。現在2時半、11時ぐらいに根岸の駅に着いてから3時間余りを電車移動に使ってしまった。たった5,6分の移動のはずが、長旅になった。3人ともぐったりだった。お昼時もとうに過ぎ腹ペコでの移動は心を弱らせる。とぼとぼと中華街へと続く裏道を歩き大通りの交差点へ。ここを渡って高校を過ぎればそこはもう中華街。さっきまでのほとんどがグレーのビルと違い、極彩色の建物が、所狭しと立ち並ぶ異空間が広がる。世界を区切る入口には善隣門と書かれた真っ赤な門が人だけでなくモノノ怪の出入りを見張っている。何というか『腹いっぱいになるまで返さねーぞ』と言っているような大きな口を開けて、飲み込んでいるようだ。そんな門に飲み込まれるように、よろよろとした三人が入っていく。門をくぐると大きな声の売り子たちが次々と現れる。香ばしい香りを漂わせる揚げたての芝麻球(ゴマ団子)、湯気をもうもうと上げる蒸籠の中には、生肉包(豚まん)、豆沙包(あんまん)、叉焼包(チャーシューまん)がつやつやの真っ白い肌で私たちを呼んでいる。こんな誘惑に負けている場合じゃない。陳さんを待たせている。早くいかなくちゃと思っていると二人がいない。麗華は天津甘栗の甘い匂いにつかまっていた。試食に満面の笑みだ。美雨は焼売の試食の列に並んじゃってる。

「麗華、美雨、早く行くよ!もうすぐそこだから。そっちに行ったらご飯食べるから。」

「藍生~~だって、この栗すごく甘いんだよ~。ちょっと買っていこうよ。」

「藍生!あと3人です。あと3人待ったら、次私ですから。それからでいいでしょ。」

何も聞こえないふりをして二人を引きずっていく。

「藍生!妻をなんだと思っているの?もっと甘やかしてよ。」

「藍生!あなた、いつからそんな鬼になったの、そんな風に育てた覚えはありません。」

ぎゃーぎゃー、あんまりうるさいから

「今から行くところは、ものすごくおいしいんだよ。だから腹ペコで言ったほうがいいと思うんだよ。薬膳もあるから美容にもいいんだよ。」

「早く言いなさいよ。」

「行きますわよ。ふん!焼売なんてみんなに譲ってあげますわよ。」

誘惑につかまりそうな気持をぐっとこらえて少し歩くと着いた、そうここが私が勤めていた「桃園酒楼」。懐かしいと言いたかったが、建物が大きく、新しくなっていた。扉も2重扉になって高級感が増している。入るとすぐにチャイナ服のお姉さんが案内に来る。お姉さんは私たちの格好を見て少し怪しんでいた。そうか気が付かなかった。私たちあの町でも一番よさそうな服を着てきたつもりだったが、まごうことなき本物のチャイナ服。そんなの着ている日本人なんていないもんね。

「いらっしゃいませ、ご予約の方ですか。」

「すいません、陳オーナーに会いに来たのですが、守山藍生と言います。」

「あ、はい、伺っております。今オーナーをお呼びいたします。」

そう言って内線電話を掛けている。電話口で私たちの身なりのことを聞かれているようだった。あーー!陳さんまだ疑ってるな。しょうがないか。でも22年前に失踪したあの頃46歳だったおじさんがこんな若くなって現れたんじゃ、疑うのも無理はない。そう諦めかけていたら、本人が降りてきた。うわーーー!お爺ちゃんだ。

「久しぶり、陳さん、お爺ちゃんになったね。」

「あなた本当に守山さん?そんな若いのおかしいね?守山さんの息子、いや孫?」

「違うよ、本当に本人だよ。ちょっと、頼みがあって来たんだ。ここでは話しにくいから・・・」

そう言うと個室に連れて行ってくれた。そして、中国人特有のあいさつが飛び出した。

「あなた、ご飯食べた?」

ありがたい。中国ではあいさつ代わりに「吃饭了吗?」(ご飯食べた?)と言われることが多い。空腹が一番よくないということから相手を気遣う一言だ。実にいい挨拶である。

「まだです。朝から何も食べてない。」

というとすぐにいろいろ手配してくれた。出てきたものはどれも美味しく3人とも一言もしゃべらず黙々と食べた。陳さんが満足そうにしている麗華を見て、娘か?と聞いてきた。すると

「王 麗華と言います。藍生の妻です。この度は本当にありがとうございます。」

それを聞いた陳さんが急に慌てだした。びっくりして、私を見ながら

「藍生?あなたもしかして、王 藍生なのか?お前が、あの青龍寺の王藍生なのか?」

満腹状態の3人は慌てる陳さんをよそに食後のお茶をゆっくり楽しんでいた。

dive78に続く・・・・

 

 

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