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2020-08-22 13:07:00

dive62

 できた石をそれぞれ持って寺へ戻り、和尚のところに皆で集まって報告と話し合いを始めた。私の見解としては料理を作る人の霊力や念を込める力によって大きさが変わり、込める思いによって色が変わる。まだ試してはないが色の違い、輝きの違いによって効能が変わってくるのではないかと。つまるところこの石は霊力や思いを具現化した霊薬なのではないかと。そう言うと円静の目が輝いた。ぜひそれを寺にも常備薬として置いておきたいという。薬学に精通した者にとっては格好の研究対象だ。私は続けて思いによって色が変わったことに注目してほしいと付け加えた。元気になれという思いが強いほど黄色に近く、治癒、癒しに関して思うと青に近く、頑張るという情熱に近い思いは赤く、そして憎しみは漆黒になっていったと。おそらく三原色と同じように混ざり具合によって黄緑になったり、紫になったり、オレンジになったりするのではないかと思う。他にもいろいろ仮説を立てた。よくある話だが、神様が一つだけ願いをかなえてくれると言ったらどうする、という問いに何でも願いが叶う魔法の杖をください、とかなんでも思い通りになる能力をください、とか言う罰当たりな回答がある。例えば霊力が上がれという願いで作った石を私が食べて、その上で作った石はスーパーパワーアップした石になるのか。私が元気な時、元気になれという思いで作った石とあまり元気でないとき、例えば風邪を引いている時に作った石とでは効能に差が出るのか。治癒に関していえば、毒などに侵されている時、怪我をした時など特性があるのだろうか。そもそも石には賞味期限があるのだろうか。なんだか円静が興奮してきた。薬物オタクの心に火をつけてしまったようだ。円静が円旺にもっと潜って取ってきてくれと言い出した。落ち着かせるためにお茶でも飲もうと提案し、皆お茶を飲んだ。和尚によると前に潜った話が書いてあった秘伝の書には何種類か石について書いてあるという。しかしこの術自体が外に出回らないようにしていたため、あまり深くは研究されていないようだ。私はもし未来の私の時代にこの術が残っていたら、精密に研究されどこぞの製薬会社が高値で、いやいや、秘薬としてセレブの間で・・・あるいは漆黒の石を利用して世界に広め、特効薬として高額で治療薬を売りつけるなど、考えたら恐ろしくなってきた。いや、もしかしたら私の時代にあったのに知らなかっただけかも。始皇帝の時代から不老長寿の秘薬など霊薬と呼ばれるものを欲しがる権力者はたくさんいた。今だって人間の最後の欲は死なずに我が世の春を楽しむことに尽きる。医学が発達し寿命が延びたのも、ある意味この欲があったからであろう。それに伴い薬も発展し、ある少数民族が使っていた薬草、民間医療で使っていた漢方薬などを発展させたのがあのプラスティックケースに入った白い錠剤になったのだ。私の作った石がのちに解析され化学物質を合成して作れるようになる日などあっという間に来そうな気がする。あの漆黒の石のほうが先かも。そう思うと、この術は未来に残さない方がいいのではないかとも思う、そう和尚に言うと、ため息をつきながらうなずいた。実に人の欲とは恐ろしいものだ。行徳もろともこの術を封印できないものか、というとたった一つだけ手はあると和尚が言う。それは私の習っている時空を飛び越える術。その術で時空の裂け目に落とすこと。しかしそれには術者も一緒に落ちなければならんという犠牲がついてくる。和尚はその役目は自分がやると皆に言った。急な発言に一同が緊迫する。和尚は言う兄弟子はもともとそんなに悪い奴ではなかったのだという。しかしこうなってしまった以上、自分の代で終わらせたい。なに、あやつもわしと一緒なら諦めるじゃろうて、といって笑った。四天王の顔が硬直している。そして、最後に自分の次の和尚を仏道に精通し、法力の高い円旺に頼みたいがどう思うか皆に尋ねた。円旺は和尚を見て黙っている。円静は皆の信頼も厚い円旺なら異存はないと。円炎は自分が円旺の盾になろうと。円碧は和尚の発言に涙を流し、仏のお導きのままにといった。皆の意見を聞き円旺は和尚に謹んでお受けし、精進いたしますといい、よろしく頼むと四人で肩を組んだ。

dive63に続く・・・

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