大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive19
ついにこの時がやってきた。そう、あの日さくらが病気になって中国にわたってから7年とうとうここまでたどり着いた。俺のスーツとジミーの頭脳が一つになる。この先の戦いになくてはならないこのスーツ、左足右足と入れていくたびに覚悟を決めていくがふるえて仕方がない。そんな俺を黙ってジミーが見守っている。今までのテストの時とは違う緊張感に息が詰まる。部屋の空気が張り詰めていて身動きが取れないみたいだ。だがそでを通し終え頭まですっぽり着た時にはもう帰れないと腹をくくった。ジミーがゴーグルのコードをマスクにつなぐ。そんな親友を見るとついさっきまで泣いていてのだと気づいた。あまりの状況にひと声もあげられなかったのだろう。戦争に行くってこういう感じなのかなと他人のことに意識を回すとなんだか自分を客観視できるのだろうか。ちょっと落ち着いてきた。バッテリータンクとナノマシーンタンクを背負いレギュレーターをつけるとすべてがつながる。起動音が高揚感を生む。緊張の糸を切ってAIのキッドが話し出す。
『起動完了、システムオールクリア―、エネルギータンク100%、藍、命令を』
興奮からか体が熱い。拍動が早くなっているのが自分でわかる。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせジミーを見る。ジミーもまっすぐに俺を見ている。何も話していないのに二人が同時にうなづいた。気合を入れなおし一声、
『ご先祖様とうとうここまで来たぞ、俺に力を分けてくれ――――』
その声と同時に両の手を合わせ額にもっていく。無限のようにあふれ出る力はこの時を待ちわびていた一族の者たちが呼応しているようで、見えるはずのないジミーにも何かに包まれていることを容易に悟らせた。やがてその幕のようなものは穏やかなものになり、藍の心も落ち着きを取り戻した。呼吸を整え、躊躇なく印を結び呪文を唱える。
そして最後の不動の印を頭上に掲げたとき藍を包んでいた幕が淡く光りだした。それをじっと見ていたジミーが息をのむ。すくみながら唾をのむ。そしてもう自分が帰れない道を進んでいるのを腹の底に叩き込まれるようだった。覚悟をきめ始めていたジミーを驚きの表情に変えるように光が小さく強く輝きを増していき、まるで濃縮されていくようだった。目を奪われているジミーを現実に引き戻すようにジミーの鞄から声がする。『ジミー・・・ジミー・・・』気をとられていたジミーがはっとして鞄からインカムを出しセットした。
『ジミー・・・』
『ああああ、藍、大丈夫なのか、お前これって・・・さっき言っていた・・・術なのか?』
『そうだ。これで信じたか。お前に見せるのはもっと先になるはずだったけど・・・すまんもう時間がない。』
『わかってるよ、それよりもお前、スーツとキッドは?』
『ジミー私は絶好調です。あなたに創造してもらったので感謝していますが、なかなか困難なシチュエーションみたいですね。藍の世話ならもう慣れましたので大丈夫です。・・・あれ?えっ?なんで?どいうことですか?ジミー?私、なんか小さくないですか?それともあなたが大きく・・・いや他のものも・・・やっぱり私たちだけが縮んだんですね。ありえない。ジミーあなたの作った私が間違っているなんて、こんなデータはどのネットの中の論文にもありません。こんなのがあるのは学研の雑誌・・ほら藍が大好きな・・ミー・・・』
『[ムー]だよ。おまえやっぱりジミーみたいだな。キッド。こういう系統には免疫がないようだな。でもお前が雑誌の名前を間違えるなんて・・・・・あーーー!くそっ!お前またやりやがったな。またからかいやがった。ジミー、これ未完成品だな。バグってやがる。』
『藍のバグを言い出したら直せる技術をさがすより作り直した方が早くないですか。』
『おいおいジミー君、こいつを黙らせるスイッチをつけてくれないかなー』
『ちょっと二人とも真面目にやってくれ!キッドお前自分の状態が確認できるか。あとスーツの機能を管理できてるのか?藍も体に異常はないのか?』
『はいジミー。スーツのコンディションはオールクリア―です。ナノマシーンの温度調節機能、メタモルフォーゼ機能もクリアーです。小さくなっただけでシステムはすべて正常に動いています。ジミー驚きです。藍にこんな力があるなんて。先ほどの二人の話はケースの中で聞いていましたので状況は把握しました。ジミー、私たちはチームですね。チーム名はそう『インディゴプロテクト』なんてのはどうでしょうか』
『うん、いいね『インディゴプロテクト』』
『キッド・・・・頼む、力を貸してくれ。』
dive20に続く・・・
dive18
無理やり食事を終わらせずるずると強引に二階の部屋に連れて行った。ジミーもさくらに何の事だかさっぱりわからないけどとりあえず行ってくるというしぐさを見せながらついてきた。俺はさくらがついてきていないことを確認するとドアを閉め小声で言った。
「ジミーこれから言うことは冗談でも何でもない。本気で言っている。急なことなんだけど、俺、会社を辞める。それから少し中国に行ってくる。」
「えっ!あっそう、そんなこと。なんだいつも決めたら急に行動するお前のことだからそんなことじゃ驚かないけど、何、今度は中華料理でも勉強しに行くの?お前の料理の腕もなかなかだもんなー」
「そんなことじゃないんだ。ジミー、プログラムのほうはできたか。」
「ああ、やっと完成したよ。お前の『キッド』。」
「おまえにも関係のある話なんだ。よく聞いてくれ。さくらが中学の時に奇病で入院していたの覚えてるよな。」
「ああ、でもよくなって今は元気じゃない?まさかまた悪いのか?」
「いや、さくらはもう大丈夫だ。あの病気の原因のことなんだが・・・・・・」
俺は今までのいきさつを何もかも話した。高2の夏休みに中国に行ったこと、そこで出会った村長の話、隣に越してきた紅美のこと、そしてスーツのこと、会社のこと。順を追って話すたびにジミーの顔が深刻になっていくのがわかる。そしてジミーもこれはマジなんだということに愕然としていく。最後に今日あった社長たちのことを話した時にはもう俺もジミーも喉がカラカラになっていた。ジミーに話を整理して理解する時間と水分補給のために一息入れ、下に水を取りに行った。さくらは洗い物をしている。その背中が寂しげに小さく見える。何とかさくらだけでもかかわらないでいられる方法はないか考えようと決意し水をもって上に戻るとジミーがもう限界だと言わんばかりにペットボトルを俺からむしり取る。飲んでも飲んでも喉が渇く。最後のダメ押しで俺が体を小さくする術をやって見せようとするとジミーが止めた。
「いいよ。今それやらなくてもお前の言ったことは信じるよ。で、紅美から連絡はないのか?黄さんは?会社辞めるにしても明日課長に提出してプレゼンしなけりゃ怪しまれないか。首にするって言ってるんだったらそれを待ったほうが自然じゃないか。お前がこの件を知っているなんて奴らはしらないんだろ。」
「ああ、おそらく。お前を巻き込んじゃって悪いんだけど、俺にはお前しか頼るやつがいないんだ。だけどお前もプログラムのことで何かやつらに調べられないか?お前も何か理由をつけて会社を辞めたほうが・・・」
「いや、待て俺が辞めたらあいつらの動きを調べられる奴がいなくなるじゃないか。曲がりなりにもグループ会社の社員だし、このプログラムを作ったのは俺だ。出入りするのも疑われることもないだろう。会社にも特にお前とつながりがないと思わせておいたほうが、こっちにとっては有利だ。うん、俺は内部情報をお前に逐一報告してやる。そのほうがおまえも戦いやすいだろ。」
「ああそうだな・・・・いやお前何言ってんのかわかってんの?あんな危険なところに残るっていうのか?村を焼き討ちにするような奴らだぞ。俺はさくらも大事だけどお前も大事なんだ。できれば二人ともにげてほしいんだよ。」
「馬鹿かお前は、お前ひとりで何ができるんだよ。さくらちゃんはともかく俺はおまえの相棒だろ、もっと信頼しろよ。俺には何でも頼めばいい。お前にとって俺が大事なように、俺にとってもお前が大事なんだ。まあどちらかというとさくらちゃんのが大事だが。こんな時になんだけど俺も大事な話がある。いずれお前をお兄さんと呼びたいと思っている。この意味わかるな。」
「えっ!何!お兄さん、なんでお前タメじゃん。誕生日だって俺よか後だし。」
「おまえほんとに鈍いな。俺この前さくらちゃんに告ったの。そんで一応『いいよ。』って。だからいずれおまえのことを・・・」
「なにーーーーー。お前がさくらと・・・・・。そうだったの・・・・さくら『いいよ』って。そんであいつ『幸せだよ』って言ってたのか・・・・・。俺どんな奴が妹のいい旦那さんになるのかいろいろ考えていたけど、俺の想像できる範囲で・・お前以上の奴はいないと思う。・・・・ちょっと早いけどさくらをよろしくな。っていうか兄弟そろってお世話かけるなー。そうかさくらお前のことを・・・・あいつ見る目あるなー。じゃあ二人でさくらを守るってことでいいな、ジミー、いや弟よ。」
「でだ、明日はちゃんとプレゼンするんだ。それから休みを取るって言ってあるんだろ。だったらとりあえずそういって休めばいい。首にしてもらったほうが好都合じゃないか。そのほうが関係が切れるから怪しまれずに行動できるだろ。それよりお前、紅美さんだよ。もう家族が殺されているかもしれないんだぞ。早く中国に行ったほうがいいんじゃないのか。それに戦うったってどうしたらいいのかわかんないだろ。それにお前一度その寺ってところに行って、和尚に会ってきたらどうだ。社長たちに情報が漏れた原因も探らないと、誰か裏切りものがいるんじゃないのか?」
「やっぱりお前は頼りになるな。パニックになっていてそんなことまであたまがまわらなかったよ。よしそれで行こう。じゃあこの話はそういうことにして、早速スーツとキッドを接続してみよう。」
そう言ってさっさとスーツを着出す俺を見て心配そうにジミーがゴーグルを手渡した。
dive17
「内密に進めていた例のスーツ、明日には試作機ができるようです。あれができればまた石に一歩ちかづけますね。あれさえあれば人の不安、猜疑心、妬み、病などを誘発し薬も売れ、兵器も売れうちの会社はぼろもうけ。」
「おい灰田あんまりそう急ぐな、すでにあの四川の村は焼き払った。これであの石の秘密を知るものはもういないのだから。しかしあの村長ときたら最後まで口を割らなかったな。まあいい、こちらにもそれなりに手はある。これでスーツができればもうあの小僧にも用はない。何か理由をつけて首にしてしまえ。」
この声は黒田社長か?
「製造データなどはもうコピーしておきました。いやぁ、社長もやることが早いなぁ。スーツができそうだと言ったらすぐに村を襲っちゃうんだもんな。あとはあの僧侶の術さえあれば・・・まあ明日が楽しみだ。しかしまさかこの会社があの軍事と製薬の『ブラストン』とつながっているとはね・・・」
「あれは祖父が作った親父の会社だ。だが、いずれは俺がすべてをいただく。親父のやり方ではまだなまぬるい。ただし戦争なんか起こさせない。生産性が落ちるからな。ぬるま湯のような世界であの石を使い、穏やかな笑顔で優しく親切にきりきりと搾り取ってやる。病の前にはどんな金持ちでも、どんなに頭がいいやつでも、どんなに強いやつでも平等に無力だ。」
「社長を見ているとほんとに思いますよ。『悪魔は善人の顔をしてやってくる』ってやつをね。」
(ちょっと待てよ。紅美が言っていた敵ってうちの会社?なに、おれ敵のためにスーツ作っちゃったんじゃないの。四川の村を焼いたって!どうなってんだ。紅美は無事なのか。村長は、紅雷は。もしかしてさくらの病気もこいつらのせいなのか。それより今はここを出なきゃ。どうすりゃいいんだ、俺。)
来た道をそろそろと引き換えし自分の研究室に戻るとパソコンの履歴をすぐに調べた。まさに俺が出勤する直前に開けた跡がある。監視カメラを見るとロッカーも開けている映像が残っていた。何かあからさますぎないか。でも石のことも知ってるってことは、村か寺の関係者がかかわっているってことなのか。どうすればいい。でも幸いなことにもう一つのスーツの機能、人工知能のことはここには置いてない。もう会社用のスーツのことは仕方がない。対策を考えなきゃ。まずここはこのままにしておかないとかえって怪しまれる。このまま帰ろう。
帰る途中に紅美に」電話をしたが何度かけてもつながらない。黄さんにもかけたがつながらない。こうなったらしょうがない、俺の味方といえばこいつしかいない。今までできるだけ言わないできたがこんなに近くに敵がいたんだから、というか敵の中にいたんだからしょうがない。あいつにも事態を知ってもらっておかないと。さくらにはどうしよう。えーい、それもあいつに相談しよう。もう早く出ろよ。
「おー、藍さっきできたばかりで、今電話しようとしたとこだったよ。もう家に着いたか?」
「おおー。お前ってホント頼りになるな。もうつくからお前もすぐに来てくれ。大事な話があるんだ。お前にも、さくらにも関係のある話だ。」
「なんか怖いな、まあ急いでいくよ。」
興奮する俺に驚いているようだが、話を聞いたらそれどころじゃなくなることだろう。きっと紅美も許してくれると信じよう。ご先祖たち俺たちにご加護を。
家に着くとさくらがご飯を作っていた。ジミーも来ることを伝えると予想していたようで、慌てる様子もなく冷蔵庫から食材を出している。話は食べてからじゃないと、おそらく食欲がなくなってこれからのことも考えられんだろう。今まで打ち明けようかどうか何度も考えてきたが、話がこんなに大きな事態になるだなんて、もう俺だけの問題じゃなくなった。止めなきゃ、さくらみたいな子がたくさん出てしまう。これかあの村長の言っていた店主が警告していた話って。でも『黒石化学』だけじゃなく『ブラストン』だって、あんな世界的な軍需産業&製薬会社が敵だなんて。でかすぎるでしょ話が。
「お兄ちゃん?何深刻な顔してんの。ジミー来るなら着替えてきたら。もうご飯できるよ。」
「うんそうだな。」
ぼんやりと答えたその声はさくらの背中越しに届いたのだろうか。様子のおかしい兄に振り向くさくら。じっとさくらの顔を見つめ、やっと病気から解放されて楽しく生活できるようになったのにこんなことに巻き込んでいいのかという葛藤。武道が好きで正義感の強いさくらのこと、事情を話せば一緒に戦うというかもしれない。でも兄として、母を早くになくして幼いころから気丈に頑張っている妹をこれ以上辛い目に合わせたくない。早くに結婚していい旦那さんと幸せに暮らしてほしい。こんなに普通に暮らしている世界が俺の一言で一気に闇の世界とつながってしまう。何度も言葉を飲み呆然と立っている兄を見てさくらはなにかをかんじとったようで手を止めて、
「大事な話?があるの?」
「さくら・・・おまえ・・今困ったことないか、幸せか」
「うん。幸せだよ。急になによ。うーん、困ったことか・・・兄がずっと何か隠し事をしてることかな。」
ピンポーン~
「あ!ジミーだ。」
そういってはぐらかし玄関に行くとジミーを迎えた。泣きそうな目をしている俺を見て入るのをためらっているジミーを引っ張りあげた。
「さあ、とりあえず食べよう。いただきます。」
まずこいつに話してからだ。さくらに話すかどうかはそれからだ。怖い顔をして食べる間中ジミーを見ているものだからなかなか食も進まないようだ。
「お兄ちゃん、それじゃジミーが食べれないよ。もう、かわいそうに。」
「もう食べたよな、じゃあ俺の部屋に行こう。」
dive16
次の日、どうにも心配なので中国に行ってくるという紅美を見送り会社に行くと俺にスーツのプロジェクトを一任しっぱなしでお飾りのようにいる普段どこへ行っているのかわからない灰田課長が研究室にいた。
「あれ、課長おはようございます、珍しいですね。なんかあったんですか。こんな離れ小島の研究室に。」
実際、俺の研究室だけ古い別棟にあり、他は倉庫ばっかり。最初は俺の研究にはあんまり期待していないのかなぁとも思ったが、かえって一人のほうがやりやすいのでありがたかった。
「うーん、そろそろ試作機ができそうだとこの前言ってたからどうかなぁと思ってきたんだけど、どんな感じ。」
「あと2日くらいで試作機をお見せできると思います。できたらすぐに連絡します。」
(あれ、課長あんまり俺の研究に興味なさそうだったのに。ほかにいろんな研究も受け持ってるからなんか間違えてきたのかな。)
「課長、この研究がひと段落ついたらちょっとお休みをいただきたいのですが。身内が体の具合があまりよくないようで。遠方にいるものでまとめて休みをとりたいのですが。」
「あぁそうか。ずっと有給休暇もとっていなかったから今度の夏休みと一緒にとればいいよ。まあこれが完成してからだけどね。じゃあ楽しみにしているよ。」
「有難うございます。では急いで仕上げにかかります。」
後ろ姿にそういうとロッカーのカギを開けた。が、なぜかカギが開いていた。昨日閉め忘れたのだろう。会社用試作機を取り出しちょっと着てみた。なかなかいい出来だ。実はこっちはとっくにできあがっていた。黒石化学のロゴ『kuroisi』という文字が胸に銀色で入れてある真っ黒いスーツ。こっちは温度調節機能がメインのスーツで背中にバッテリーと、ナノマシーンのタンク、あと小型酸素ボンベを背負うことになる。黒石だけにすべてが黒だ。そして銀色のゴーグルに銀色のボンベとけっこうスタイリッシュに仕上げてみた。というのも何度か見かけた此処の社長『黒石銀次郎』にちなんでの色合いだ。自分でも常に黒スーツに銀色のネクタイ。そのせいか社の製品もすべてこのカラーリングだった。まあ依頼された企業のカラーにしてしまうのでこのモデルはこの試作機だけになるかもね。プロジェクト自体ほぼ俺一人でやっていたのでこの特殊な生地の製造もあまり大きなところには頼めず、黒石の元下請け企業の白馬化学繊維工業に依頼した。ここの社長、実は俺たちが通っている道場の師範なのだがいろいろあって黒石が大嫌い。本当はもう仕事は受けないと言っていたが、俺の頼みということでやってもらったのだ。師範にはもう一つお願いしてあった。それはもう俺の家に保管してあるのだが、あとはジミーが作っているゴーグルと接続したら完成することになる。これが完成したら一度中国の村長のところへ行ってこようと思い休みをとるつもりでいる。ようやく一つ大きな問題をクリアーすることができる。早く会社用のものを終わらせてしまわなくては。テストするために一度着てみると、なんだか今までの苦労の思い出が押し寄せてくる。何度やっても温度調節がうまくいかずやけどしたこと、繊維が途中で詰まってしまい爆発して掃除で大変だったこと、バッテリーが発熱して燃えたこともあった。大学在学中から数えると丸5年かかった。しかし会社もよくこんな小僧に任せっきりでやらせてくれたもんだよな。そんなことを考えながらゴーグルを装着しメインタンクとボンベをつけレギュレーターをくわえプールにダイブした。冷却プールにはられたエタノール80%の水溶液はマイナス60度を保つようにできており、ほとんどのものがカッチンコッチンの世界。遠洋マグロの凍結温度だ。その中に入ってスーツの性能をテストする。モーターの音が激しくするのをきくとちゃんと機能していると安心できる。ゴーグルのモニターには外部温度とナノマシーンの温度そして俺の体温と心拍数。バッテリーの残量が残り95%を示している。少し水槽の中で動いてみると確かに液体の抵抗はあるが寒さはみじんも感じない。30分してバッテリー残量も50%になったので一度上がり今度は隣の油のタンクへ。こちらは200度に。カラッと上がる温度だ。恐る恐る入るが、こちらも難なくクリアーした。自分で作って何度もテストしたが、全身入るときはやっぱり怖い。リフトに乗って入っているので緊急ボタンを押せばすぐ上がれるのだが、何が起こるかなんて予想できないから、入るときは結構な覚悟がいる。録画したテストシーンを見直しちょっと休憩した。疲れてちょっと寝てしまった。起きると薄暗くなっていて時計を見たら6時になっていた。明日にはプレゼンができることを課長に報告に行こうと少し離れた本館のほうへ行った。本館に来るのは久しぶりで何回来てもわからなくなってしまう。その上先日、部署の引っ越しがあったものだから迷ってもう一つ隣の特別棟のほうへ来てしまった。するとちょうどそこに課長がエレベーターに乗る姿を見たので追いかけた。しかし扉は閉まってしまい次のエレベーターを待つことになった。13階で止まったのを見て後を追った。なぜか10階でエレベーターが止まってしまい仕方なく階段で上がった。13階に着くと暗い通路の奥に一つだけ明かりのついた部屋があった。なんだか怪しげな感じがしたので息を殺し、足音を立てないようにして近づくと中から課長の声がした。
dive 15
「そうだ、紅美、そろそろ俺の研究が成果を上げそうなんだ。あとはジミーが作っている人工知能が完成すれば試作品が完成するんだが。なんか最近変な噂を聞くんだよなー。どうもスーツの秘密を狙っているやつらがいるっていう。会社のセキュリティーは完璧だからそんなに心配はしてないのだけど。明日ジミーにも聞いてみよう。さあ練習、練習」
そういいながら
ジミーの開発している人工知能の試作品を俺の試作品のスーツにつないで作ってみたのだが、これがまたジミーらしいものになっていやがる。スーツにつけるゴーグルスタイルにしてあるのだが、ゴーグルのスクリーンにマシーンの状態が一目でわかるようになっている。そこまでは良しとしよう、だが、すげーしゃべるんだよね。俺がちょっと
「やっぱ人工知能と言えばナイトライダーのキッド。」
といったのが間違いだった。siriにしてもらうべきだった。なんか結構な割合で突っ込んでくるんだよね。
「じゃあ、俺流のキッドにしといてやるよ。」
なんて言葉を信じた俺が悪かった。
なんか俺の考えてることも読むようになってんだよね、っていうか嫌味まで言うんだよ。心拍、血圧、発汗、目の動きなどあらゆることを感知して管理されてるって感じ。この前なんかスーツ着てゴーグルつけてテストしてるときに窓越しにかわいい子を見ていたら、急にブザーが鳴り
「それ以上は法に触れる恐れがあります。」
「まだ何にもしてねーだろうが。」
「いやいやいやいや・・・・・」
「先の先まで読みすぎなんだよ。」
「今のは28%アウトだったからー」
「妄想ぐらいいいでしょ。」
「そのニヤニヤがやべーっつってんの!」
「うぅうう、そこはすみませんでした。気を付けます。」
「わかりゃいいんだよ、わかりゃ。」
「ぐすん・・・」
「・・・・・さっきはちょっと・・・・」
「なんだよ今度は、どーしたんだよ。」
「だってーー今ちょっと『ジミーに言ってプログラム替えたろか』って思ったでしょ・・・」
「あーも―めんどくさい。ちょっと思っただけだよ。お前って本当に微妙なのな。まあ人間なんてそんなもんだ。思っていても抑制できるのが人間のすごいところなんだぜ。」
「それって自分で自分を・・・・あなたの中には何人もいるってことですか。」
(おっ、ちょっと俺のことすげーと思ってるんじゃねえの、それならそうしとこうか、)
「まあ、そんな感じだ。」
「・・・・一度病院に行って精密検査したほうがいいんじゃないですか。」
「ちげーよ、そういうんじゃねーよ。も―わかんねーかな。」
「はは、ちょっとからかっただけですよ。わかりやすい人だなー」
「なにー!」
「ちょっとスリープしまーす・・・・」
「おいこらちょっと待て、お前・・・」
てな感じなんだよね。でもいざって時には役に立つから替えれないんだよね。この前なんて研究所でテストしていたら横に置いておいたコーヒーがこぼれて俺にかかりそうになったんだ。アッと思うが早いか、手からナノマシーンが出て扇状に広がり俺を守ったんだ。間一髪。まあスーツ着ていたから大丈夫なんだけど。これが敵からの攻撃であったらと思うと心強いよね。そんなところも全部ひっくるめてまさに『ジミーブラウン』あいつそのもの。あいつがスーツに入って俺を守ってくれているみたいだ。だから何とも言えない安心感がある。いつも思う、なんであいつあんなに頭がよくて見た目もハーフでそこそこもてるのに、いつも俺と一緒にいてくれるんだろう。彼女でも作ればいいのに、いつも俺の家に来て俺の馬鹿話に突っ込んでくれる。さくらもいつもこのお兄様じゃなく、ジミーになんでも相談してやがる。まるでうちの長男みたいだ。俺も頼りにしているからしょうがないか。ようやく明日「キッド」が完成するらしいしほんと頼りになるやつだ。
dive16nに続く・・・・

