大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-08-05 20:39:00

dive49

 一晩明けて、目が覚め天井を見上げる。えらいことになった。再婚するのか。息子たちなんて言うだろうか。何の相談もなく、なんて言っても電話もできないもんな。突然言われて考える暇もなかったけど、時渡りの術で元の時代に帰ることになったら、どうしたらいいんだろう。一緒に連れていく・・・なんてな。でもそういえば担々麺の時、和尚の術に同調させることによって小さくなって潜ることができた。ってことは、俺が二人分頑張れば・・・いやいや、和尚に手伝ってもらって・・・和尚に聞いてみよう。とりあえず今日も術の修練だな。起き上がって、朝の修練に向かう。そういえば、昨日の帰り道、和尚に冷やかされながら、一緒に暮らすのかとか聞かれたけど、そういうことも考えないとな。それより、麗華さんのこと、何にも知らないけど・・・お見合いってこんなものかな。そういや、日本も昔は知らない人のところへ嫁入りするとかあったらしいけど、それよりはいいんだろうか。『可愛いな』だけでもあれば、いいほうかな。すごい鬼嫁だったり・・・まあ、そんなことはなさそうだけど。一緒に暮らすって、私の収入源、呵呵 のバイト代しかないんですけど。寺ではお金いらないし、まあ、一青のお土産代ぐらいだな。所帯持つなら働かなきゃな。でも俺のできることなんて、調理ぐらいだしなぁ。呵呵の2号店なんてどうかな。そうすると麗華さんが2人いるなぁ。そんなことを考えながら上の空でお経を読んでいたら、和尚に叱られた。

 朝の修練が終わり、山を下り呵呵へと急ぐ。昨日の今日で麗華さんに会うのにどんな顔をしたらいいんだろう。そう思いながら大きな声で

「早上好!」(おはようございます!)

と店に入ると目の前に麗華さんが。一瞬2人とも黙る。

「早上好!藍生。我一会儿有话要说。」(おはよう!藍生。後ではなしがあるのだけれど。)

「我也想说。」(私も話したかったんだ。)

ようやくいつもの麗華さん笑顔になった。よかった。やっと落ち着いた。

 厨房に入って手伝いを始める。王さんはいつも通りに黙々と仕事をこなしている。相変わらず手際がいい。

 「欢迎光临!几位?」(いらっしゃいませ!何名様ですか?)

 麗華さんの声がする。お昼の忙しい時間が始まる。

 「担担面4人份」(担々麺、4杯)

 どんぶりを用意する、お湯を入れどんぶりを温める、麺をゆでる、

 次々入ってくる注文をさばく。2杯、5杯、1杯と続く。下がってくるどんぶり。また入る注文。まるでテトリスみたい名ゲームをやっているみたいだ。淡々と作っていく王さん。盛り付ける間に次の麺を入れる。出す。次のどんぶり、次の麺。グラグラととわく麺ゆで窯、その前にずっと立ち1杯ずつ仕上げていく。同じリズムで出来上がるそのどんぶりに王さんの思いが詰まっているのが見えるようだ。前に一度、王さんに習って作ってみたのだが、なぜか王さんのものほどおいしいと思えない。何だろう。何が違うのか、王さんに聞いても、「なんだろうね?」という。仏作って魂入れずってことなのかな。私も今まで調理師として20年以上の経験があり、これに近い経験がないわけではない。何と説明していいか、『自分のモノ』になっていないという言い方が一番近いのではないかと思う。先輩が作ったモノ、どこかのおいしいお店のモノを食べて、自分というフィルターを通してできたモノには特別な説得力にも近い力がある。どう、これうまいでしょ、とか、これ食べてみてとか。まねはまねなのだ。しかし自分なりの解釈の上に表現しようと出したまねは、まねを超えるのだ。何かで聞いた話だが、『真似る』は『学ぶ』の語源だという。そう、そのモノを学んで、出した私なりの答えの中には、私の思いが宿っているということだと思う。脈々と受け継がれていく伝統文化にもにたところだろう。先代のモノを今の代の人が習い、学びながら解釈し、自分なりに再構築する過程で新しいものが足されていくというまさに遺伝子的なものである。自分のモノになるのはいつのことやら、と思いながら出来上がったどんぶりを麗華さんに渡す。笑顔で受け取る麗華さん、かわいいなぁ・・・。

 お昼が終わると、麗華さんに呼ばれた。

「喂,昨天的话是真的吗?你喝醉了吗?」(ねえ、昨日の話は本気?あなた、酔っぱらってたの?)

ちょっと、困ったような、

「是的,我是认真的。但是我很为难。」(はい、本気ですよ。でも困っています。)

私は正直に答えた。私の現状を知らないと向こうだって困るだろうし、それについて向こうの気持もわからないと。今までの私の人生のことこれからのこと、術の修練のこと、むろん仕事、収入、住まいなど現実的なことも忘れずに。すると、私の心配をよそに、彼女は、

「你真的考虑了很多呢。但是,我想问的不是那样的事。」(いろいろ本気で考えてくれたのね。でも、私が聞きたいのはそんなことじゃないの。)

「嗯,什么?」(え、なに?)

「蓝生!你喜欢我吗?」(藍生!私のこと好き?)

「是的。当然喜欢。」(はい、もちろんすきです。)

「那就好了。其他的事情没有问题。那种事,两个人一起努力就好了。」(それならいいわ。他のことは問題ではありません。そんなこと、二人でがんばればいいのよ。)

呆気にとられた。でも、好きになった。二人で頑張ればいいか、そうだね、その通りだ。頑張ろう、二人で。

dive50に続く・・・

 

 

2020-08-05 01:02:00

dive48

 「哥哥!你突然说什么?蓝生很为难。」(お兄ちゃん!突然何言ってんの?藍生さん困ってるじゃない。)

 「蓝生!你讨厌丽华吗?丽华也讨厌蓝生吗?」(藍生!麗華のこと嫌いか?麗華も藍生のこと嫌いか?)

 「虽然不讨厌・・・」(嫌いじゃないけど・・・)

 「那好吧。蓝生,你有夫人吗?」(じゃあ、いいじゃないか。藍生、お前奥さんいるのか?」

 「王先生,请冷静一下。虽然现在不在・・・」(王さん、落ち着いて。今はいないですけど・・・)

 過去というか未来というか、なんと言ったら良いかわからないけど、今までの事情を話した。そしていきなりどうしたのかと尋ねた。すると今まで興奮して立っていた王さんが、我に返って椅子に座って話し出した。王さんは昔とある大きな中華料理店で働いていたそうだ。そこのオーナーに気に入られ料理長にまでなった。そして人が足らなかったホールに麗華を誘った。料理長になるまでの努力を尊敬していた麗華さんは王さんの料理が大好きだった。お兄さんの作る料理にはお客さんに対する思いが詰まっていたからである。だからいつもお客さんに自信満々で料理を勧めていた。オーナーはそんな麗華さんを気に入り息子の嫁にと婚約をさせた。王さんもオーナーやこの店のことが気に入っていたので妹の将来を考えて結婚に賛成していた。その時一緒に働いていたホールの先輩でオーナーの娘が、のちに王さんと結婚することになる香月(シャンユエ)さんだが、結婚の話が決まったくらいの頃に突然オーナーが倒れ亡くなってしまった。そしてオーナーの代わりに経営に入ってきたのがオーナーの息子の香陽(シャンヤン)、香月のお兄さんで麗華さんの婚約者だった。香陽はオーナーの今までの経営方針を否定し、もっと効率よく、もっと儲かるように、材料のランクを落とし、原価を抑え、効率だけを考えるようになった。そして王さんともめることが多くなった。王さんはとても自分のお客さんに勧められない、と悩み、結局お店を辞めてしまう。そんな王さんを見て香月さんも香陽ともめ、店を辞めてしまった。麗華さんも新オーナー香陽にこんな料理お客さんに勧められない、とけんかになり婚約を破棄して辞めてしまった。婚約を破棄された香陽は怒って麗華さんの悪い噂を町中に広め、ほかの店でも働けないようにしてしまった。それから麗華さんは人間不信になり、人目を恐れ、あまり笑わなくなってしまった。そんな時香月が、知り合いの麺料理屋さんが歳で辞めるので代わりにどうかという話を王さんに持ち掛けた。王さんはどんなことでもいいから料理を作りたいといい、店をやることに決めた。家を出てきた香月さんと正式に結婚し、二人で店を始めることにした。その店がこの『呵呵』だ。王さんは、一人ではいろいろできないので担々麺に絞った。麗華さんは、まだ人前に出ることができず、家にこもっていた。半年がたち少しずつお客さんもついてきた。常連さんもつき、このお客さんたちが食べて元気になり、明日も頑張れるように一生懸命に作った。皆が『呵呵』と笑えるように。そのころになると麗華も調理場や洗い物の手伝いが少しづつできるようになり、人と話せるようになってきた。それでも笑うことはなかった。それから5年、お店は繁盛するようになり町で評判の担々麺屋になった。しかし、またもや災難が王さんを襲った。香月さんが倒れたのだ。お店を休み看病をする王さんに、香月さんは、

「みんなが、お客さんが待ってるからお店を開けて」

と言ったそうだ。香月さんに言われ戸惑ったが、

「大丈夫です、すぐ良くなるから」

と言われ、麗華さんにホールを任せ店を開けることにした。三日たって香月さんも復活しこれからと思ったが、すぐにまた倒れそのまま帰らぬ人になった。復活した香月さんが、

「やっぱりお店でお客さんに喜んでもらえるときが一番幸せだね。」

と麗華さんに言っていたそうだ。王さんは、やる気がなくなって寺のお墓にばかり来ていた時、和尚に諭されまて、またお店を始めるようになった。香月さんの代わりに接客を任せ、少しずつ昔を取り戻してきたが、麗華さんは以前のような笑顔ではなかった。そんな日々に、麗華を幸せにしてやりたいという思いが高まっていった。それから6年たったある日、店の前で倒れている人がいると麗華さんが言いに来た。水を持っていくとがぶがぶ飲んでまた倒れた人を、すごく心配そうにしていた。それが私だった。それから少しずつ元気になった私と一緒に働き、話して、生活している間に王さんと打ち解けていく様子を見て、信頼し、初めて昔と同じように笑うようになった。王さんも一緒に働いて、笑い、私を料理人として、人として信頼し、妹が笑う姿を見て、この人しかいないと思ったそうだ。その話を聞いて恥ずかしそうにしている麗華さん。私はまた泣いていた。見ず知らずの私を助けて、こんなに信頼してくれている二人を前に号泣していた。自分が尊敬している人にこんなに信頼されて、任されて、断る理由が見つからないが、本人の気持ちは・・・・と麗華さんのほうを向くと恥ずかしそうに笑ってこっちを見ている。そんな顔されては野暮なことはいえないよ。麗華さんに一言だけ、

「我会努力让你呵呵大笑。」(君が呵呵と笑えるようにがんばるね。)

と言った。

dive49に続く・・・

2020-08-04 20:35:17

dive47

 山を下りていく途中で和尚が

「有什么好吃的吗?」(ごちそうはなにかな?)

生臭坊主め!あっちこっちで御馳走になってるな、こいつめ!一仕事終えた感たっぷりに笑う和尚、しかし笑っている端に何か心配事でもあるような影を潜めていた。千道のことだろうか、それともこの石の一件のことだろうか。来たばかりの私にわかるわけないか。そういえば、霊力、体力ともに衰えて来たなんて言っていたのも気になるな。四天王のうち誰を次の和尚にするつもりなのかな。もめるような人たちじゃないだろうけど、法力の円旺が順当なんだろうけど、功夫の円炎は軍部、医薬と財務の円静、芸術、建築の円碧、それぞれ独立できそうだけど、どの世界もみな力を持てばそれぞれに、自分の船が欲しくなるものだ。どう渡っていくも、どんなふうに大きくするも、どこに行くのかも船長になればこそであり、それ以外はただ人の船に乗る作業員であり、従者だ。しかし、如何に寺であろうが、存続するための信者獲得など経済活動なくして、寄付のみで人は食べていけないのが現実。CEOさながら、かじ取り次第でどうなるか。経営、そして他の寺やスポンサーとの付き合い、それがしたい者もいれば、そんな煩わしいことにはかかわりたくない人もいるだろう。和尚も自分がそれをやってきて、その苦労を弟子にさせるのも気が進まないのもわかる。中小企業の社長みたいだな。そりゃ、たまには憂さ晴らしも無いとな。そういえば呵呵でほかの料理なんて食べたことないな。何が出てくるんだろう。私も楽しみだな。

 呵呵に着くといつもとは違い、肉や魚の料理がたくさん用意されていた。おお、四川名物水煮牛肉(シュイジューニュールー、めちゃ辛唐辛子いっぱいゆで牛肉)、蒜泥白肉(スァンニーパイルー、ゆで豚の四川ニンニクソース)、口水鶏(コウシュイジー、よだれどり)、紅油餃子(香辛料香る濃厚甘醤油がけ水餃子)、魚香茄子(ユイシャンチェズ、甘辛酸っぱい茄子煮込み)干焼鮮魚(ガンシャオシェンユイ、揚げ魚の香味醤油煮込み)おおおおーーーーこれは四川名物の大宴会だ。

 「来吧!大家吃吧。丽华,请给大家斟酒。干杯吧。」(さあ!みんなで食べましょう。麗華、みんなにお酒を注いであげて。乾杯しましょう。)

 麗華さんが皆にお酌する。ではでは、麗華さんの盃には私が注ぎましょう。皆が盃を持ち、王さんに促されて和尚が一言、

「大家辛苦了。多亏了大家,人的生命才得救了。大家都很幸福,真是太好了。干杯!」(皆お疲れさまでした。皆のおかげで人の命を救うことができました。皆がとても幸せで大変良かったです。乾杯!)

「干杯!」

 皆で盃を掲げて飲み干した。なんか日本の癖で拍手してしまったら、みんなが一緒にしてくれた。いやぁ、なんかうれしいね。それではいただきます。おお、やっぱり本場は辛いねー。ビールほしいけど、ないよねー。水餃子、やっぱり皮は手打ちが一番だね。皮うまいなー。魚は川魚だな。そりゃ四川だもんな。おお、ザーサイや干しえびで煮込んであるのか。うまい、何を食べてもうまい。やっぱり、王さんはすごいなー。盃を空けると麗華さんが老酒を注いでくれるので、知らないうちに飲みすぎちゃって、いい気分。久しぶりにこんな楽しい宴会、お酒を注いでくれる麗華さんが死別した妻のことを思い出させる。二人の息子が中学生ぐらいの時に学生の時から好きだった冬山登山に行ってそれっきり帰らぬ人になった。妻は一度きりの人生好きなことをしたいというタイプだったので、後悔はないと思うけど。麗華さんにお酌してもらいながら、彼女も笑顔のかわいい人だったな、としみじみ思いだしていると、王さんが、

 「蓝生!我有个请求。你能嫁给丽华吗?」(藍生!頼みがあるんだ。麗華を嫁にもらってくれないか。)

 えっ!

dive48に続く・・・

 

2020-08-03 11:49:00

dive46

 寺には龍仁和尚を含め総勢21人が暮らしている。成人僧が15人、千道、一青たち小僧が5人。皆、普段は修錬の傍らこの寺の収入源である、藍染めの原料の蓼藍採取、畑仕事、加持祈祷をしている。成人僧の中でも4人が四天王の様に長になりそこに3人づつ弟弟子たちがついていて、それぞれが切磋琢磨している。食材や薬剤に長けた円静、功夫に秀でた円炎、法力に優れた円旺、建築全般、こと彫刻に至っては国宝級仏師の円碧の四天王は、小僧の時から龍仁の元で世話になり親子ともいえる間柄。それぞれに着く弟子たちもその属性に長ける者がついている。小僧たちは寺の雑用全般をこなし、先輩僧たちの世話もしている。その中でも千道は一番年上の16歳。和尚の世話をしながら小僧たちを仕切って面倒を見ている。一番下の一青は11歳、功夫が好きで円炎にあこがれている。

 さて、いつも一緒に修練をしているが、あまり話したことなかったから、何かとっかかりがないかな、と考えていると円旺が話しかけてきた。

 「你在向和尚请教什么术吗?我从你那里感觉到了强大的灵力。如果能借助佛的力量的话・・・」(あなたは和尚様から何か術を習っていますか?あなたからは強い霊力を感じます。もしも仏の力を借りることができれば・・・・)

 「你一看就明白吗?你知道我的未来吗?怎样才能借助佛的力量呢?」(君は見るだけでわかるのか?私の未来が見えますか?どうしたら仏の力を借りることができますか?)

 矢継ぎ早の質問攻めに円旺は手を見せろと言ってきた。両手を差し出すとじっと手のひらを見ている。どうやら手相を見ているようだ。

 「你的双手有十字纹呢。这是祖先保护的纹饰,继承了力量。这双厚而厚的手,还有大拇指根部的膨胀是灵力丰富的证明。」(あなた両手に十字紋がありますね。先祖に守られ、力を受け継いでいます。この肉厚な手、親指の付け根のふくらみは豊富な霊力の証拠です。)

 へー、そうなんだ。と他人事の様に感心していると、

 「这个手相的人做很大的工作。」(こういう手相の人は大きな仕事を成し遂げます。)

 そうだね、もうしたけどね。和尚に断らないと今までのことを話していいのかわからないので、この続きは次の機会にして、千道のことを聞いてみた。すると、私は和尚様にも認められているからと念を押され、話してくれた。器用だし筋もいいのだが何か隠している、2面性が強い、と。あれでは仏は力を貸してはくれん、貸してるれるのは闇のもの、そう魔物だ。しかし闇に落ちれば自分自身も・・・などと結構えぐいことも。いくら先輩が教えても表面上を取り繕っている状態なのだそうだ。一青たちに悪い影響が出なければいいが。和尚は知っているのかと聞くと、それとなく言ってはいるが和尚の前ではいい子を演じているようだと。どうも前の寺でも何か事件があったとか、よその寺に移った者のうわさで聞いたことがあるそうだ。いろいろ教えてくれたので、思い切ってこの前の一件について言ってみた。すると、気を付けて見張っておきます、とのこと。また、法力について教えてくれと言ってわかれた。きな臭い話ばかりだな。ちょっと見張っていたほうがよさそうだな。そう思いながら廊下を歩いているとき、そうだ、帰りに買ってきたお菓子を一青にあげなくちゃ、と思い出した。

 一青を探していると野菜で籠にいっぱいにした円静がやってきた。うまそうな青菜がいっぱいだ。おっ!パンパンに張った茄子もある。ずっしりして濃い紫、さすが円静が育てたものだけある。ここの毎日の食事のうまいことったらない。

 「圆静,今天也有很多看起来很好吃的蔬菜呢。」(円静さん、今日もうまそうな野菜でいっぱいですね)

 「今天有很多茄子,所以做鱼香茄子。」(今日は茄子がいっぱいなので魚香茄子(ユイシャンチェズ)を作ります。)

 「是我最喜欢的东西。期待着。」(私の大好物です。期待しています。)

土まみれの笑顔は私の期待を裏切ったことがない。店を出していたなら通いたいくらいだ。いやいや、一青を探さなくちゃと思ったら、土まみれの小僧が籠を持って走ってきた。

 「蓝生!点心呢?」(藍生!お菓子は?)

 一青だった。

 「有啊!洗手之后!」(あるよ!手を洗った後な!)

一青は何も言わずに台所のほうへ全速力でかけていった。円静も笑っている、ちょうどいいので千道のことを聞いてみた。円静の顔が一瞬にして曇った。

 「千道吗?又做了什么?」(千道ですか?また何かしでかしましたか?)

また?やはり、何か前にもあったのだろうか。聞くと他の寺に使いで連れて行ったときにその寺の書庫に無断で入ろうとしたり、私の薬草庫に入って盗んだりしてどうにも困っていまして。和尚にはそれとなく言うのですけど、和尚の前では・・・そのあとは円旺と同じだった。ちょっと和尚に言ったほうがいいのかもな、そう思ったが王さんのところに行く時間になってしまったので、手を洗って戻ってきた一青にお菓子をあげて、和尚とまた山を下りた。

dive47に続く・・・

 

2020-08-02 14:08:00

dive45

 王さんたちと別れ、和尚と二人、寺に戻る道すがら、明日これを砕いて薬にしてあの夫婦のところに持っていこうという話になった。相変わらず疲労感は強いが、前回とは違い倒れるほどではなかった。王さんの作ったおいしい担々麺のおかげだろうか。王さんも自分の作ったものにこんな力が宿っていたとは思ってもみなかっただろう。あの石を食べることによって健やかな幸福感にあふれ、呵呵と笑ってしまうのではないか、と私は推測していた。やっぱり王さんはすごい!そう思っていると、和尚が、あれを作るには多分な霊力、思いが必要なのだ、と教えてくれた。修行と同じく、毎日繰り返し練習する。何度も、何度も。それも思いを絶やすことなく、それでいていいものを作るという修正作業も忘れずに。焦らずゆっくり、正確に同じことを毎日やり続けるそれは、まるで念仏を唱え、祈るそれであり、武術における突き、蹴りのそれと同じことだと。達人とは一滴、一滴落ちる水が岩を穿ち、進むように、ただ一点に向かって思いを極め続けることで達する者のことであろう。思いを達するという行為は魂、霊力の修行に等しいと和尚は言う。ゆえに達人とは霊力の高いものが多い、というのは必然であろう。法力というのは印や真言で仏の力を借りたものでこれとはまた別の修行、仏門の力であると言う。

 寺に戻り、二人で石を見てみると書物にあった石の色とは少し違うようだった。先代の和尚の時にはもっと青みがかった石だったらしい。もしかしたら石にもいろいろあるのかもしれない。私が潜って取ってきた石の他にも、あの場所にはあったのではないだろうか。その時思った。では邪心の塊、すなわち石はどんなものだろうと。あの流行りの麺料理屋のどんぶりに潜ったら・・・私自身が作ったものに潜ったら・・・考えるだけで、口にするのはなぜかためらった。石を砕くのが力仕事のため、和尚の弟子の千道を呼んだ。まず、布でくるみ、石の上に置いて金槌でたたいた。意外とすぐに割れ石粒ぐらいになった。それを石臼の中に入れて引いていく。粉になった。これを薬の様に飲ませればきっとよくなるだろう、そう願いながらすべて粉にした。和尚とそれを持ち、また山を下り病人の家に行った。すぐにこれを飲ませなさい、と渡すと夫は妻を起こし飲ませた。少し様子を見よう、と3人でお茶を飲みながら待った。1時間ぐらいたっただろうか、

「老公!老公!」(あなた!あなた!)

妻のよぶこえがする。三人はっとする。椅子を倒し駆け出す夫。後を追う私たちが見たのは、顔色もよくなり抱き合う妻の姿だった。泣けた。年を取ったせいだろうか。すぐ泣いてしまう。夫が和尚に土下座をしようとして止められる。妻は何のことだかわからずに夫を見ている。泣きながら礼を言う夫を見て慌ててお辞儀をする。知らない人である私がボロボロ泣いているのを見て、不思議そうに困惑しながら、またお辞儀をしている。夫に何がどうなっているのか聞きたいが、そんな雰囲気じゃなさそうなのを見て自分が寝ている間に大変なことがあったのだと察知したのだろう、黙ってもじもじする。和尚が礼を断り、また何かあったらいつでも来るように告げ、一緒に家を出た。寺に帰る前に王さんにも報告をして一件落着。麗華さんも嬉しそうだった。笑顔の可愛い人だ。王さんの手伝いを懸命にしている。誰か嫁に欲しがるだろうに、王さんが心配なのかなぁ。いろいろ思いながら見ていると目が合って、またにこにこしてくれる。私も満面の笑みで返す。そんなとき急に王さんが、

「今晚开酒宴吧。蓝生也有拜托。」(今夜祝杯をあげよう。藍生にお願いもあるんだ。

「那太好了。一定去拜访。那么,我晚上再来。」(それはいいですね。是非とも伺います。では夕方にまたお邪魔します。)

そう言って寺に戻った。和尚の部屋でお茶でもしようと言うので行ってみると、

「有奇怪的事情。没有那本书!蓝生,不得了!」(おかしい。あの本がない!藍生大変じゃ!)

和尚は寺の者たちに、誰かここに入ったか確かめるため、千道を呼んだ。慌てて千道がやってきて、和尚に本を知らないかと尋ねられたが、和尚が出て行って以来だれもここに近づいていないと言う。落としたのかもと思い、書棚の後ろを探す和尚。その時、一瞬、千道の口元が緩んで笑ったような気がした。ん、探すふりはしているけれど目線は和尚を気にしているようだ。おかしい。素知らぬふりをして千道を見張っていると、懐から本を出して

「和尚在这里。掉在了茶棚下面。」(和尚様ここにありました。茶棚の下に落ちていました。)

と言った。おいおい!こいつ何者だ。和尚は

「哦,在那里吗」(おお、そんなところにあったか。)

千道に感づかれないように和尚の近くに行きお茶の用意を促した。用が済んだ千道はさっさと部屋を出て行った。私はそれとなく千道の素性を聞いた。何でも他の宗派の寺にいたのだが、そこの寺が廃寺になり、和尚が引き取ったという。小僧の中では一番年上だったので和尚の傍仕えとなったそうだ。他の寺への手紙や外の用事などで外へ出る機会も多いという。なんかあやしい。興味本位で本を見ていたにしてはやけに和尚の応対が手馴れている。それにあの笑みはなんだ。一仕事すんだし、ちょっと寺の中を探ってみるか。

dive46に続く・・・・

 

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2026.10.30 Friday