大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive9
パチンっと大きな音を立て合掌し額の位置まで掲げたとたん、ものすごい力が湧いてくるのを感じた。体中を力の激流が巡り熱くなり、逆に体の表面には涼やかな風の薄い膜のようなもでおおわれているかのようだった。
「うわー!なんだこれ。体が熱い。でもなんか守られてるっていうか、どうなってんのこれ。」
「わかった。これから当分修行してもらうからね。私のことは先生と呼びなさい。」
「先生、俺どうなっちゃったの?俺は妹を助けたいだけなんだけど。こんなつもりじゃなかったんだけど。」
「もう遅いわよ、あなたは知ってしまったんだから。そしてもっと重大なことをこれから知っていくことになるのよ。・・・あれ、気を失っちゃったわ。ほんとに大丈夫かなぁ。でも、驚いたのはあなたの両手の真ん中に十字の印があったことよ。ご先祖様と同じように。やっぱり運命の人なのね。」
まあ、こんな感じで俺は巻き込まれてしまったんだけど、ほんとジャンプでも読んでいるみたいだろ。でもマジなんだわ。なんか俺ライダーみたいに改造されちゃったみたいだけど、良いものなのか悪者なのかどっちなんだろうか。まあでも妹が助かるならとりあえず乗っからなきゃ。それが終わったら抜けさせて・・・くれそうもないかなぁ。こんな性格あーもーやんなっちゃうなー。大体日本でのほほんと生きてきたのになぁ、いきなりこれだもんなぁー。なるようになるでしょ。
それから二週間毎日特訓を受け俺は日本に帰ることを許された。しかし薬のこともこれからのことも村長に何を聞いても、
「心配ない。任せておけ。お前は帰ってからも修行をおこたるな。それさえやっておけばあとはご先祖たちが守ってくれる。」
と、言われるだけで、ほんとに不安だった。紅美に聞いても
「また、すぐに会えるから大丈夫。」
としか言わないし。まあ、じゃあおまかせってことで帰ることにした。村の人たちにも別れの挨拶をすませ、村を出るときにはなんかちょっと寂しい気分になってきた。たまに遊んだ子供たち、中でも元気いっぱいの男の子、紅雷(ホンライ)。こいつがなかなかかわいくて、兄ちゃん、兄ちゃんと慕ってくれて、弟ができたみたいだった。小学校4年生ぐらいだろうか、今度来るときには何かお土産でもかってきてやろうかな。一番近いバス停まで車で送ってもらって、そこからは一人。なんだかさみしくなった。此処にいる間何一つ日本食というものを口にしていなかったが、まったく気にならなかったし、学校のことすら頭によぎらなかった。もしかしたら、自分が中国人だったんじゃないのかと思うほどだった。
dive10に続く・・・・
dive8
焦りまくって起き上がり他に何かされていないか体中を調べていると扉の向こうに人の気配がした。ノックの音が響き、びくっと驚きながら振り返ると
「起きた?あなた結構重いのね。私じゃ無理だったからみんなに運んでもらったのよ。」
(運んでもらった?やっぱり昨日のことは現実だったのか。じゃあ….)
「ねえ、昨日俺はあれから……村長から話を聞いてそのあとどうなった・・・・っていうか何がどうなって俺は…えっ、そんでこの手は….」
「ぜんぜん覚えてないの?あなた泣きながらみんなと乾杯していたのに。どうしよう、おじいちゃんに言って来なくっちゃ。」
(乾杯しまくったって?俺が?あれっ、そうだ。あちこち探していた妹の治療法の手がかりがようやく見つかったことにうれしくて調子に乗ってついみんなと。あー、そのあと祭壇の前でなんか誓って両手を出して・・・・そうそう変わった形の短剣みたいなので・・・村長がなんか呪文みたいなのを言いながら・・・・)
「ちょっと待って、なんか思い出してきたよ。そのーあれだ。ご先祖に誓いを立てて儀式をしたんだよね。でぇ、俺は何を誓ったんだっけか?」
「あきれた人ね、こんな人に私たち一族の運命任せちゃって大丈夫なのかな。いーい、あなたはこれから一族の秘密を守り、伝説の潜士を探すこと。そしてあなたが新しい潜士になるの。」
「えっ、潜士って。俺が何?潜るの?どんぶりに?あれ、宝石を分けてくれるんじゃないの?」
「ほんとに覚えてないのね。でももう遅いわよ。あなた両手に一族の加護印を入れっちゃったでしょ。それただの傷じゃないわよ。先祖たちの霊的なパワーを受ける誓いの印。誓いに背くとえらいことになるっていうよ証よ。」
「待ってよ、霊的パワーって、そんな。今時いくらこんな中国の秘境だからって、そんなものがあるなら・・・」
「あら、疑ってるのね。じゃあ、その両手を合わせて頭のところにつけてごらんなさいよ。」
あほらしいと思いながらも、あんまり自信たっぷりでいうので言われるがままにやってみた。
「はいはい、じゃあやるよ。えー、こうやって・・・」
dive9に続く・・・
dive7
「お父様、私が病になったのも運命なら、これも受け入れるしかありません。せっかく助けていただいたこの身、この世のためにならなくてどうしましょう・・・和尚様一度村に帰って身支度をしてから修行に来させていただきたいと存じます。」
「寺の者もみなその戦いに備えて修練しておる。御仏のお導きであろう。感謝せねばなるまい。」
そうしてその娘は寺で修業を始め、術を体得したのだそうだ。
娘はその後も彼らを探し続けたが、彼女が生きている間には見つからなかった。その後も子孫の中で秘密に伝えられてきた。今の村長もその一人だという。村人はみなその子孫たちで今は一族でその秘密を守っているのだという。今までも何人かその噂を聞いてやって来る者がいたのだが、みな金儲けの類の奴らばかりでとても教えることのできるものはいなかった。大体そういう輩は知らないといえば来ない。それにこの村はそんな宝を持っているような裕福な村には見えない。万が一、二度目に来ても変わらず知らんと言えばもう二度とこない。手っ取り早く宝を手に入れようとするような横柄な無礼者はこれで退治できる。でもなんで秘密にしているのにうわさが俺のところまで広まっているのか聞いてみた。実はこの噂を教えてくれたのはこの村の出身者でその青い衣の人物を探しているのだということだった。だが妹のうわさを聞いてもしかして何か縁があるのでは、と思い村長に相談していたのだという。他人に言ってはならない話をなぜ俺に話してくれたのか聞いてみると、俺の妹の症状が先祖にそっくりだということ、料理屋の主人の特徴が俺とそっくりだったことから、何かあると感じた村長が三回目に訪れたときに、お国柄礼節を重んじる一族にあの劉備のように三顧の礼を尽くしてくれた青年にいたく感銘を受けていたようだ。そんなことでというと
「君のことも大体調べさせてもらっているから」
(えっ?どういうことだ。俺のことを知っていたのか。結局俺はここへ導かれて来たのか?)
そんなことをあれこれと混乱した頭で考えていたのだが、いろんなことがありすぎて疲れてしまい、いつの間にか酔って寝てしまった。どれぐらいたっただろうか、何とも安らぐようなお香の香りがする中気がつくと元の部屋だった。なにか薬でも飲まされたかのように意識がどんよりしていた。此処へ来てずっと建物の中にいたので時間の経過がよくわからない。ゆっくり体を起こしあたりを見回した。
(もしかして寝ている間に夢を見ていたのかな。それにしちゃやけにリアルな夢だったな。紅美もきれいだったなー。イタッ、あれっ?何だこれ。手のひらの真ん中に十字の傷が。どこかでひっかけたのかなぁ。イッテ、あれ左手にもあるぞ。両手同じところにあるなんておかしいな。ちょっと待てよ、もしかして寝ている間に何かされたのか?えっ、あれなんかおぼろげに祭壇のところで…)
dive8に続く・・・・
dive6
「知っています、ここで修業を共にした者です。彼らは下の村の住人であった。ここに来る前に彼らの友人がそなたの娘と同じ病にかかりこの寺に相談に来た。先代の和尚龍仁が話を聞きあの術で石を出そうとしたが失敗し、まもなく友人は亡くなってしまった。そしてこの病の治療法、その原因を学び、術をある程度習得した後に町に降り、自分で店を切り盛りするかたわら修行に励んだ。なぜならあの術は術だけでは完成しない。特殊な霊力を持つ料理人がその霊力を込めた麺料理にしかあの石は現れない。料理人自身はその霊力に気づいてはいないだろうが、毎日心を込めて料理を作っている間に知らずと出来るようになるのだそうだ。仏師が仏像に魂を込めるようなものだろう。その料理には霊力の結晶のような石が現れるようになる。石は普通の人の大きさから考えれば目にも見えない大きさなのだが、自分をその世界に送り込むあの術を使えばつかみとることのできる大きさになる。しかしあの石にはその作り手の霊力が込められているので、善き心のものが作れば善き石となり、悪しき心のものが作ればいくら美味しい料理でも恐ろしいものになる。よくあるであろう、どんなに売れている店に行って食事をしても全く持って幸せな気分にならないということが。普通に人が食しても少なからず影響は出るものじゃ。人を幸せにするものを作るということは、すべて作り手の気持ち次第なのじゃ。ここで一つ問題がある。悪しき心の持ち主が作ったものに現れる石はどんな作用があるかということじゃ。人の持つ悪い部分を結晶化したようなものじゃから病にもなるし、争い、暴力など様々な悪しき影響が出てくる。そなたの娘が病になったのもそのせいじゃ。おそらくどこかでその結晶を飲まされたのであろう。こういう悪の結晶というものは心優しき者には強く影響を及ぼす。彼らの友人もそのひとり、そなたの娘もまたその一人ということじゃ。あの石には作り手たちの思いにより数種類存在することがわかってきている。善きものほど光り輝き、悪しきものほど漆黒になってゆく。石については簡単に言うとこれくらいじゃ。もう一つ彼らについてじゃが、彼らはこの寺の秘術をもう一つ体得していった。それは時を渡る術じゃ。まだ自由に使えるわけではないが霊力が高みに達すればある程度の移動は可能であろう。その彼らが少し先の世界に行って視てきたことを私に警告してきた。『この寺の秘術を知る者がほかにもいる。悪しき石によって混乱を招き世界を破滅させようとする。霊力も強く、このままでは未来が危うい。新たな心清き潜師を育てるべきではないか。』ということであった。そこでそなたたちに頼みがある。娘よ、そなたここで修業をして潜師にならぬか。おいそれと体得できる術ではないが、石に縁がある者は霊力も高いという。そなた手を見せてみなさい。」
そういうと娘の両掌を見て驚いた。
「そなた、両の手に十字が・・・もはや迷いはない。それは先祖に守られ、たぐいまれな霊力を持つものに生まれ持って記されるもの・・・・・彼らが言ったことでまだ伝えてないことがある。『手に十字を持つものがここを訪れる。その者こそ未来を救う礎となる一族のものだ.。」と』
「和尚様、そんなこと突然言われても、娘はそんな・・・なあ、おまえ・・・・」
dive7nに続く・・・
dive5
それから待つこと2日、この前の修行僧と比べると身なりも顔つきも数段上の位であろう藍染の衣を着た僧侶がやってきた。
「李さん、私は青龍寺、龍恵の弟子の円鶴と申します。お待たせして申し訳ありませんでした。師龍恵は行の最中だったもので知らせることができず、遅れてしまいました。どうかお許しください。よろしければ寺のほうへお越しいただいて師と直接お話しいただければと思いますが、いかがでしょうか。」
即座に了解し、身なりを整えて娘と二人で寺に向かった。寺までの道には藍染の原料である蓼藍が群生しており、この寺が収入源として藍染をしているであろうことを容易に悟らせた。迎えに来た円鶴という僧侶が着る藍染の衣もその色はほかで見るより鮮やかなものだが、あの時の主人が着ていたものと比べると大分見劣りしてしまう。藍染とはこれほどまでに奥が深いものかと、考えながら山道を登っていくとようやく山門が見えた。円鶴の姿が見えたのだろうか門がゆっくりと開いていく。重そうなその門は一切を拒絶するかのように分厚く頑強で、また入ったものは外に漏らさない意思を感じさせた。門に近づくとその向こうに羅漢像が立ち並ぶのが見える。屈強な羅漢たちのにらみに気の弱い者たちなら逃げ出してしまいそうであった。綺麗に掃き清められた参道を見るだけで背筋が伸びそうなこの風景にさらに気を引き締められる巨大な仁王像が奥に待ち構えているのが見えた。ようやくその洗礼が終わると寺の玄関口に何人かの僧侶が並んでいるのが見える。みな揃いの藍染の衣を着ているので赤い柱によく映えて見える。その一列に並んだ青い塊がバラバラになりこちらへやってくる。その中でも最も鮮やかな藍を着ている僧侶が
「ようこそお越しいただきました。さあ奥で和尚がお待ちです。」
そういわれて本堂をよけて奥の小さな庵に案内された。そこへ着くまでの間どこからか武道訓練のような音が響いていたのを聞いた。そうかと思えば読経の声、またずしんという地響きに驚き、何か得体のしれないものが近くに居そうな恐ろしさすら感じびくびくしながら案内されるままに建物に入った。入るとなぜかその中は静寂に包まれ、一人佇む小柄な人物に目を丸くした。あの主人と同じ鮮やかな藍色の衣を着てそこにいるその人物からはなぜか軽やかで暖かな春の風を思わす風が吹いていた。
「待っていましたよ、あなたが来るのを。私にはあなたがここに来るのがわかっていました。あのものに会ったのですね。そしてあの石を使ったのですね。これからあなた方一族の宿命についてお教えします。そして戦いの準備を。」
「あの、いったい何の話ですか、娘の病を治したあの石に何かあるのですか。あの方のことも知っておられるのですか。」
dive6へ続く・・・

