大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-04-04 21:57:46

dive4

「碧緑目石(ブルーアイズストーン)だ。これを削って娘に飲ませなさい。必ずよくなる、あきらめるな。」

と荒い息を落ち着かせながら店主は言った。いくつかの忠告と予言めいたことを言われたが娘のことで頭がいっぱいで紙に走り書きをし、簡単な礼だけを言い夜通し走った。意識がもうろうとしながら街道から外れ森の中の近道を走ったのであちこち傷だらけになり二日がかりでたどりついたころには着ていた衣服はもうボロボロだった。おどろく村人たちをよそに店主に言われたとおりに宝石を削り娘に飲ませた。こんなことが果たして効くのかという疑問はあの店主がどんぶりに潜ったという時点でもうなくなっていた。ようやく飲ませたことにほっとしたのか力尽きて落ちるように眠ってしまった。誰かに揺り起こされ、気づいた時にはもう次の日の昼過ぎだった。眠い目をこすり、聞き覚えのある声に我に返ると、そこには起き上がって元気な娘の笑顔があった。村人には約束通り『どうして治ったのかはわからない』と言ってごまかしたが、さすがに娘には訳を話し一緒にお礼を言いに行くことにした。そしてあの日行ったはずのあの街に行ったのだがその場所にあの店はなかった。

「おかしいな、確かにここだったはずだが、店の名前が思い出せない。確か笑い声のような・・・呵・・。」

靄がかかったように記憶がよどむ。なくなっていたというよりも痕跡すらないのである。町の人に尋ねても聞いたこともないという。仕方なしに村に引き返した。

自分が物の怪に騙されたのかともと家に帰ると

「そういえば・・・」

と懐の返しの中にねじ込んでおいた一枚の紙きれを思い出し、手に取った。あの時に走り書きにした紙だ。いくつか忠告を受けたのにまともに読める字はこの字、『青龍寺、龍恵和尚』とだけ書いたその紙をもって村長は近くの寺に走った。その寺の和尚に聞くとそれは中国密教の総本山の和尚の名だということが分かり早速娘とともに青龍寺を訪ねることにした。

たいそうにぎわう寺のふもと町に着くと早速町の人に寺と和尚のことについて何か知らないか聞いてみた。どうもこの町は寺のおかげで各地から人がひっきりなしにやってくるらしく、宿屋などたいそう繁盛していた。食べ物屋、特にあの時食べた麺料理に似たものが名物のようで、聞くその料理は「担々麺」というものであることが分かった。しかし記憶にあるあのミカン色の看板も、あの時嗅いだあの匂いにも会うことはなかった。店を探しても見当たらないのでてっきりあの店主が和尚だと思い聞いてみると風貌も背格好もまるで違っていた。すぐに寺に向かおうとしたが、密教だけに秘密なことが多いらしく山門には門番がいて部外者は一切入ることを禁じられているという。どうしようかと悩んでいると町の人が何か寺に頼みごとがあるなら町に買い出しに来る青龍寺の修行僧に伝言すると言うのでそれらしき人に和尚にこれまでのことを書いた手紙を渡してくれるように頼み、この町の宿屋に泊まることを伝え返事を待った。

dive5に続く・・・

2020-04-03 20:18:40

dive3

 昔々、その村長の何代も前の御先祖の時代にその時の村長の娘が奇妙な病にかかった。医者に診せたが一向に良くならない。煎じ薬をいろいろ飲ませたが日に日に弱っていき目眩をおこし倒れることもしばしばになっていったという。「これは、もう時間の問題じゃ、助からん。」という医者を見限り、あきらめきれない村長は村人を四方の大きな町に行かせ、片っ端から名のある医者に症状を話し何か治療法がないか尋ね廻らせた。そして、村長は,伝手をたどって都に行き、大金をはたいて御天医にまで尋ねたのだが、いい返事は返って来なかった。それどころか占星術師、風水師、道師、などが大金のうわさを聞いて群がり「祈祷してやる」、「家の向きを変えろ」、「先祖の墓を立て直せ」と押しかけるのを追い返すのでほとほと疲れてしまった。あきらめと疲れでとぼとぼ村へ帰る道すがら立ち寄った山間の町で流行っていた料理屋に目がいった。ほんわかした雰囲気と何とも言えぬ匂いに落ち込んでいた気持ちを元気づけられるようだった。みかん色の看板に笑顔のよく似合うぽっちゃりした店主の風貌が食欲をそそる。だいぶ日も暮れてきて店も閉める間際に入ったので村長が最後の客だった。人気の麺料理を待っている間に接客をしていた女将さんにため息を吐くようにポツリポツリと今までのいきさつを話した。料理を運び終えると女将さんが奥に戻って店主と何やら話し込んでいた。深刻そうな顔が気にはなったがそれよりも食べたことがないうまさの麺料理の虜になり、箸が止まらず一気に食べてしまった。空腹であったこともその理由の一つだろうが、濃厚な胡麻のスープにシャキシャキの野菜、何とも言えぬ香りのラー油にうまみたっぷりの挽肉。「こんなうまい料理は都にもなかった。」あまりのうまさに呆けて娘のことを忘れそうになったその時、奥から店主が現れ、女将さんが外の通りを見回し誰もいないことを確認して扉を閉め鍵をかけた。店に閉じ込められ何が起こるのかと一瞬たじろいだが、満腹感と治療法が見つからない失望感でどうでもよくなっていた。近づいた店主が目の前に座りおかしなことを話し出した。娘の病状を聞かれたあと、何かを決意した顔をして

「誰にも言わないとお前のその娘に誓えるか」

と一言言った。何だかわからないがすがる思いで大きく首を縦に振った。すると店主は何も言わずに奥に戻りまた先ほどの麺料理を作った。そして目の覚めるような青い衣に着替え料理を持って出てきた。使い込まれた衣の背中には『潜航厨師』と書いてあった。そしてどんぶりを机の上に置いたかと思ったその瞬間、店主が何かをぶつぶつ唱え始め手で印を結んだと思うと、閃光とともにどんぶりに飛び込んだのだ。何が起こってるのかもう訳がわからなくなり呆然としている村長が腰を抜かすのと同じ頃に店主がどんぶりから飛び出てきた。
大急ぎで女将さんが水をかけ一生懸命主人の体を布で拭いている。所々火傷を負っているようで赤くはれ上がっていた。

「なんてことを!大丈夫ですか?」

と聞く村長に店主は拳を突き出し開いて見せた。そこには新緑の森に流れる清らかな小川のきらめきのような青緑に輝く見たこともない宝石があった。

dive4に続く・・・

2020-04-03 20:01:00

dive2

dive2

そう娘に言いつけるとゆっくりとしてしかし無駄のない動きで自分は外に出て行ってしまった。こじんまりとしていて清潔感というよりどこか凛とした部屋に案内されほっとして横になり休んでいると先ほどの娘、紅美が呼びに来た。さっきは普段着のようだったが、今度はとてもきれいな民族衣装に身を包み髪にも飾りがいっぱいでちょっとびっくりしている俺を微笑みながらじっと見て

「お待ちしておりました。」

といった。

(なんだ『、お待たせしました』の間違いじゃないのか)

と思いながら気の抜けたようにふらふらついていった。寝起きでぼーっとしていたというよりその美しさに見とれていたのだ。

(いいにおいだな。日本にはいないタイプでなんかいいなー)

と思っていた俺の心を背中で感じ取ったのか急に振り返って

「びっくりしないでね」

と言い最初に通してくれた部屋よりもさらに通路を奥に進み、突き当りの壁にかかる龍の口の中に手を入れると何かが動き出した。おどろいてる俺をよそに紅美は先ほどまでの愛らしい顔つきとは変わり、真剣なというかちょっと怖いぐらいの表情だった。木の軋む音と振動が止まると真っ赤な横の壁が割れ中から村長が出てきた。村長まで民族衣装を身に着けていた。おそらくこれがこの村の正装なのであろうがこんな豪華というか、美しい衣装を見たのは初めてだ。さらに驚くのは表から見た村長の家の大きさからは考えられないほどの広さの広間にこの村の住民すべてが正装をしてひざまづいているのだ。あっちにいるのは今朝話したおっさん。こっちにいたのは畑にいたおばあさん。川で野菜を洗っていたお姉さんに俺を追いかけまわしていた子供。みんな普段着というか野良着に近いような格好で不愛想だった人たちがさっきの紅美のような顔つきをしてこっちを見ている。何が起こっているのかきょとんとして紅美を見ると俺の手を取り上座の中央の席に案内してくれた。そろそろと座る俺の右には村長、左には紅美が座り皆も席に着いたときには静まり返っていた。村長が盃を持ち立ち上がって皆の期待を受け、静けさを割って厳かに話し出した。

「我ら一族の恩を返す時がやってきた。一同のもの今こそ我らの宿命を果たすとき。この若者にわれら一族の力を与えようぞ。」

そういうと盃を高々と掲げ一気に飲み干した。村人たちも一斉に立ち上がり覇気とともに盃を開けた。紅美が一人席を立ち中央に行くとゆっくりと歌い出した。なんと美しい声だ。清らかなその歌声からは何とも言えぬ温かさと光を感じた。歌っている歌詞は全く理解できないのになぜだか村人と一緒に俺まで泣いていた。それを見た村長は俺の肩を抱き、酒を注いだ。そこでふと我に返った俺は思い出した。上座近くにいる村人たちは前にこの村に来た時にそっけなく俺を追い返した人たちじゃないか。どういうことだ。そんな風に怪訝な顔をしている俺に村長がこの村の伝説をじっくりと話してくれた。

dive3nに続く・・・

2020-04-03 18:25:00

Ra-men Diver (らーめんダイバー) dive-1

 俺は、黒石化学という会社で耐熱繊維を研究している一人の化学者だ。いや、だった、が正しいか。このての研究においては、世界でもトップクラスの会社である。その中でもあるプロジェクトを任せられていて、近年、大いに成果を上げていた。軍事にも応用できるくらいの代物なので、デリケートなところだが。
 ある理由があってこの研究を続けてきた。それは、俺が、17歳になって間もない梅雨入り間近の6月のことだった。当時中学生になったばかりの13歳だった妹が、不治の病に侵されていると言われたのがきっかけだった。これが青天の霹靂というのだろうか、田舎でのほほんと暮らしていた17歳の俺には、目の前の白衣を着たおっさんが、何を言ってるのかよくわからなかった。妹はいつもと変りなく、毎日元気に学校に行き、好きな剣道をやるために部活だけでなく、道場にも通うぐらいだったのに、突然そんなことを言われても、(アニメかよ)と思うぐらいだった。
 しかし、その日を境に妹は時折目まいがすると言い出し、学校も休みがちになり、道場にも通うことができなくなった。医者のすすめで大学病院に入院させたが、症状を遅らせるのがやっとだった。医者に聞くと病名すら特定することができないらしい。対処療法で症状を抑えるのがやっとということだった。その医者に紹介してもらい、他の有名な医者たちにも症状を伝え、治療方法を探したが現代最新医学をもってしても胸のつかえをとってくれる答えは返ってこなかった。14歳の時に両親亡くしていた俺は、妹を守らなくてはと必死だった。医者に希望を持てなくなった俺は、オカルトに走った。神社、寺、教会、ブードゥー、心霊手術、噂を聞いたら何でも行った。変な水も飲ませた。何だか知らない布でバリアーも張った。あきらめかけていたころ、ある情報を入手した。またか、と思いながら飛びついたその話とは、およそ眉唾物であろう伝説の秘薬の話だった。
それは、中国四川省に伝わる秘薬で、ある山奥の集落の村長の李家に代々受け継がれるものだ。見たこともない青い宝石を削り薬として飲ませると、たちどころに治ったという。しかもその薬で助かった少女は、妹とそっくりな症状だったという。胡散臭い話だとは判っていたけど、今はそれしか頼れるところがない。必死に叔父に頼み込み、中国に飛んだ。

 今も成都から少し離れた山間の村に、ひっそりと暮らすその村長の一族は、人情に厚く礼節を第一にする、と情報を流してくれた人物から聞いていた。初めて行った時には「知らない」と追い返された。態度が悪かったのだろうか、と身なりを整え行った二回目には、村長はいなかった。もうやめようかと思いながらもすがるところがほかにない俺はしつこいと思われてもしょうがないとやけになりながら三回目も村中を回った。もう帰ろうかと思いながら途方に暮れていた俺の様子を遠くで見ていた村長が自宅の奥の間に通してくれた。そして優しい香りのする温かいお茶をそろそろと注ぎながら俺の話をまっすぐ俺の目を見つめながら真剣に聞いてくれた。俺は堰を切ったように今までのいきさつを話した。片言の中国語に筆談、身振り手振りと汗だくになって説明する俺を見て奥で覗いていた娘さんが微笑みながらタオルを渡してくれた。村長にも何とか伝わったのか、一休みするよう言ってくれた。

「話は大体わっかた。少し時間をくれ。知り合いに聞いてきてやる。今日はもう遅いからうちに泊まると良い。おい、紅美(ホンメイ)食事の用意をしなさい。あとこの若者に部屋を用意してやりなさい。」

dive2に続く・・・

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2026.10.30 Friday