大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-07-24 14:12:00

dive39

 和尚の話を聞き、問題点を整理してみた。まず、だれが邪心の結晶を食べさせたのか、次に誰が良心の結晶を作るのか、そして最後にこれが一番の問題点、だれが潜るのか、だ。この3つの問題を解決しないことには治せないし、元を絶たなければ、この人を治してもまた次々と患者が出てきてしまう。しかし、1つ目に関しては、私には心当たりがあったし、和尚もそれは同じだろう。そして2つ目、これに関しても、私も和尚も心当たりがある。問題は3つ目、だれが潜るのかってことだけれども、そりゃ和尚でしょう。でも和尚は私に「手伝ってくれ」と言っていたのを思い出し、まさかと思って聞いてみた。

「和尚会潜水吗?」(和尚様がもぐるのでしょ?)

「你在说什么?请你潜入」(何を言っておるのじゃ?君が潜るんじゃよ)

まったくとんでもないことを言う和尚だ。しかし和尚が言うには、もう年で体力的にも、霊力的にも難しいという。しかも私には時を渡るだけの体力、霊力が備わっておると言うのだ。聞くと時を渡るのには、膨大な量の霊力が必要なのだそうだ。

「没工夫挨磨!一切都取决于你」(ぐずぐずしている暇はない!すべてはおぬしにかかっておるのじゃ)

ずるずると強引な和尚に引っ張られて修練場に。こんなに力があるなら自分でやればいいじゃないか、と思っていたら

「你说了什么?」(何か言ったか?)

そんなの読み取る力もあるのに・・・と思いかけて、また読み取られるとまずいので『頑張ります』ということだけ考えた。早速、秘伝書の通りにやってみようということになった。和尚が言うには術とは『思い』、そう念じることと、『法力』印を結び仏の力を借りるの合わせ技だそうだ。仏の力とは何かの箍を外すことに近いという。人の念じる力『思い』とは本来すごい力が備わっているがそれを抑えられていて、それを仏の力というか、許可を得て解除してもらうという具合らしい。その法力は和尚が補助をしてくれるという。要するに私は強く念じて、和尚(仏の力)に身を任せ潜って石をとってくればいい、ということらしい。こんな話は大体落とし穴があるものだと、大人の私は知っている。よく考えてみた。潜って石をとって帰ってきて・・・ん・・どうやって元に戻るの?心配になって聞いてみた。これで答えがあやふやだったら断る理由になるんじゃないか、と思ったが、法力がきれれば元に戻れるという明快な答えが返ってきて思惑は打ち砕かれた。こうなったらやるしかないのか。人の命もかかっていることだし、何よりも私の一番大事にしている『食』にかかわることだ。しかし決意をしたときに、私は大きな落とし穴に気づいていなかった。そう、人の命がかかっているのは確かだが、何よりも自分の命がかかっていることを考えもしなかったのだ。

dive40に続く・・・・

2020-07-23 18:32:00

dive38

 若旦那も最初は風邪かなと思ったが、ちょっと様子が違った。近所の医者たちに見せたり、煎じ薬を飲ませたりしていたが、一向に良くなる気配がない。医者もさっぱりわからん、と匙を投げる始末。少し大きな町の医者にも相談したが同じ答えだった。そこで当時の和尚のところに相談に来たのだそうだ。その和尚はこの寺始まって以来の霊力、法力の高い人だったそうで、医者でもどうにもならないときに、町の者がよく相談していたのだそうだ。悪いものがついているなら祓ってほしいと相談したが、和尚が奥方を見た途端「私の手では祓えないかもしれん」と言ったそうだ。

「これはとりついているのではなく、何か悪意のあるものを食べたのではないかと思われる。そんなものに心当たりはないか?」

と言われ若旦那は、はっと思った。もしやあの時奥方に食べさせた麺料理が、と。

「これは優しい者、霊力を持つ者に強く作用する。悪意、邪心の結晶のようなものを食べたときにおこる症状だと思う。私も以前聞いたことがあり、治し方を教わった。しかし私ではできなかった。」

「どうしたらいいのですか。」

「よく聞け。悪意、邪心の結晶ならば逆に善意、良心の結晶を食べさせるのじゃ。しかしこれを結晶化させるには、霊力を持つものが心を込めて作らなければならぬ。しかし霊力を持っていればいいわけではない。「思い」なのだ。その域に達した料理人だけが慈愛に満ちた思いを結晶化できるのだ。そしてその料理の中に霊力を持って潜り、取りに行かねばならぬ。」

「潜る?潜るってどういうことですか、和尚。」

「結晶化した石を料理の中に入って取りに行くのだよ。術を使って小さくなるのだ。術だけなら私の法力で何とかできるのだが。そういう料理を作ることのできる者が・・・それから衣を。」

「衣?」

「そう、藍で染め上げた衣だけがこの術に耐え得るのだ。そなたわしに衣を作ってはくれぬか。」

「そんなことでよければ、あとは霊力を持った料理人ですね。心当たりがあります。では、さっそく。」

そういうと都に向かって走って行ってしまったそうだ。そう、都ではやっているあの店の料理人を連れてきたのである。若旦那が理由を話し懇願して来てもらったそうだ。そして、さっそく料理を作ってもらった。いきなり光り輝いて、小さくなって飛び込んだ和尚の術で取り出した青い宝石。それを砕いて奥方に与えた。するとみるみる顔色がよくなり目を覚ましたそうだ。若旦那はすぐに麺料理屋を閉めさせ二度とその行商人を店に入れなかった。それ以来この寺の衣はすべて若旦那の店から寄付されるようになったそうだ。

dive39に続く・・・ 

 

 

2020-07-22 21:15:00

dive37

  和尚が棚から取り出してきたのは、ほこりをかぶっているわけではないのだが、なんだか粉っぽいというのか、虫に食われたのか、ちょっと触りたくないなと思わせる1冊だった。和尚も外ではらってから持ってきたのだが、本人がくしゃみをしている。これを見て私は、ジャッキーチェンの映画「拳精」を思い出す。寺で行方知れずになった「五獣拳」の秘伝書から五獣拳の妖精が出てきて功夫を教えてくれるという物語で、その秘伝書がほこりまみれだったのをオーバーラップさせ、あの本から何か出てくるんじゃないかと期待していた。あの映画、実は本人は気に入ってないらしいが、「蛇拳」以来のジャッキーフィーバーでジャッキーフリークの私たち世代にとってはどの映画もすべていい思い出である。そんなことを考えてぼーっと本を見ている私に、お前もくしゃみをしろと言わんばかりに目の前で本を振ってきた。和尚が笑って見ている。思わず鶴拳のポーズ取ってしまった。今度は無視して本を開いてきた。高々と上げた両手が寂しい・・・・和尚め・・・

 「藍生、不是开玩笑的时候。」(藍生、ふざけている場合ではないぞ。)

そういいながら広げたページを読み始めた。

どうやら過去にも同じようなことが起こっていたらしい。それはこんな話だった。

 何代も前の和尚の時代の話だそうだ。街道に三代続く、たいそう繁盛していた染物屋があった。その店の若旦那が、ある行商人にもうけ話を持ち掛けられた。

「若旦那、都ではやりの麺料理があるのですが、この街道にその料理屋を出してみてはどうですか。いえ、なに、料理人たちは私のほうで用意いたしますので、旦那は店を用意してもらえないでしょうか。儲かりますよ。」

 若旦那は料理が大変好きで、いつも奥方が作ってくれる料理を食べて幸せな気分になるのが好きだった。外で食べるときも気に入った料理人のいるところにしか行かなかった。

「本当かい、それは。しかし料理屋とはおいしく、心を込めて作れる料理人がつくらなければ決して繁盛などしないよ。そんな料理人は、そうそういないものだよ。」

「そこはそれ、お任せくだされば結構ですよ。私も相応、出資するので損をするわけにはまいりません。私はその店に人と食材を下ろさせていただければよろしいので。なんでしたら、都の店を見に行っていただければ。」

ならばと、一度その店を見に行った。なるほどたいそう繁盛していた。食べてみると本当においしかった。なんともいえぬほっこり感に包まれ幸せな気分になった。そこで若旦那は、その行商人の話に乗った。そして街道に大きな店を作った。行商人は料理人と一緒に接客をする若い女中たちもつれてきた。開店した店は、行商人の言うとおりに繁盛した。しかし、最初は町の者も何度か足を運んでいたが、そのうち、よそからうわさを聞いてくるものばかりになってしまった。それでも儲かってはいたので、そんなに気にしてはいなかった。若旦那は、なぜ町の人が来なくなってしまったのか気になり、ちょっと一杯食べてみた。都で食べたものとは、ちょっと違った。なんだろう、入っているもの、雰囲気は似ているのだけど。いつも奥方がくれる気分にも、あの都の店の一杯を食べた時のような感じにもならなかった。奥方にも一緒に食べてもらったが、うーーん、と首をかしげるばかりだった。そんなある日のこと、いつも元気だった奥方が、気分が悪いと店に出れなくなった。ふらふらする日が数日続きついには、寝込んでしまった。

dive37に続く・・・

 

2020-07-20 13:58:00

dive36

 次の日から寺に住み込むように勧められ、王さんに相談すると快諾してくれた。1日のスケジュールはこうだ。朝4時起床、修行僧たちと一緒に掃除、読経、朝食、功夫、昼前には山を下り王さんの手伝いで呵呵に。お昼の忙しい時間を過ぎると、また寺にのぼりようやく時渡りの術の修練に。いくら朝から晩まで立ちっぱなしの調理師という仕事をしていたとはいえ、おじさんの体には少々きつい。山の上り下りだけでも結構な運動で息が上がり、功夫の時なんて何年かぶりに部活に入ったようでついていけない。孤児だとかいろんな理由でここにいる小僧たちにも、笑われてしまっている。その中の一人で一青(イーチン)という男の子が、いろいろ教えてくれた。お礼に時折下の町でお菓子を内緒で買ってきてあげた。そのせいで次第に小僧たちの人気者になった。2,3週間が経って、だいぶ体も慣れてきたころ、一軒新しい麺料理屋が開店した。麺料理屋にしては割と大きめな店で、店員も若い女の子がたくさんいた。にぎやかな街道の一等地に出来たその店はオープンしてすぐに繁盛店になった。王さんの店も今まで流行っていたが、すこし客足が遠のいた。山へ帰る途中にちょっとその店の様子を見に行くと、昼飯時を過ぎてもまだ行列を作っていた。すごいなー、きっとすごくおいしいんだろうなーと思っていると、食べ終わって帰る人たちが出てきた。その人たちを見ていると何か違和感を感じた。今まで厨房の中だけで働いてきた私は、お店でお客さんたちを見ることはなかった。しかし、ここへきて、王さんの店で働くようになってからお客さんたちを見、話し、感じるようになった。そして自分の作ったもので笑顔になって、また元気になっていく人たちを見ると、私もまたやる気になるものだ。それがなんとも、店から出てくる人たちから感じられぬのだ。中には笑っている人もいるのだけれど、なんか違う。妙なものを感じたまま寺に帰り、ことの始終を和尚に話した。すると

「也许是吧。不要太靠近那家店」(さもありなん、その店にはあまり近づかないほうがよい。)

というだけだった。

そういえば、中華街でも休憩中に外へでると観光バスで来ていたお客さんたちが、今しがたどこかのお店で食べて、くつろいで出てきたはずなのだが、疲れているというか、楽しそうじゃないのである。私は、食べることが大好きで、うちで食べるとき、外で食べるとき、そのたびに楽しいというか喜びを感じる。ましてや作ることも好きなので、食事の時間は至福の時である。そんな私からしてみると、楽しくなかったのかな、美味しくなかったのかなと思うと可哀そうになる。そんなものかな、と思ってあまり深くは考えなかった。

 それから2週間ぐらいたったある日、寺に町の者が相談に来た。

「和尚大人,女儿可能被什么缠住了。请帮帮我。」(和尚様、娘が何かにとりつかれたようで、助けてください。」

 聞くと、その娘は今まで元気だったのに、最近急にめまいがしだし起きれなくなって、目を覚まさなくなったそうだ。医者にも散々見せたがわからないと言われたと。困り果てたこの人は、最後の頼みの綱として和尚に相談に来たということらしい。

「果然变成这样了吗?正如那本书上写的那样。」(やはりこうなってしまったか。あの書物に書いてあった通りだ。)

ひとしきり悩むとその者に約束をし帰した。そして私に

「藍生、请帮忙。」(藍生、手伝ってください。)

と言って、書物をひろげた。

dive37に続く・・・

2020-07-19 13:43:00

dive35

 横浜にいる家族のことを思うと、どうにかして戻りたい。しかし、どうやって来たかも、戻り方もわからない。何とかして今を生き抜くよりしょうがない。大体、今いる世界があの時と繋がっているのかどうかすらわからない。前に何かで読んだことがある。この世界は一つではないと、無数の同じような世界が背中合わせになあっているパラレルワールドだと。もしも私が今いる世界と繋がっていたとしても私が歴史を変えてしまったら、あの世界のあの時間は、存在すらしなくなってしまう。そうなると私自身すら存在しなくなるかもしれない。まさにタイムパラドックスである。これも何かで読んだことだが、この世のすべての現象は必然であるということ。ならば、私がここに来たのも何か理由があるのではないか。戻れないと覚悟している私は、そう考えなければやりきれなかった。天を仰いでそんなことを考えていると、

「你是从哪里来的?」(そなたはどこから来たのじゃ?)

和尚は続けていった。

「有着某种重大使命。感到灵力。」(大きな使命を持っている。霊力を感じる。)

 私から何かを感じ取った和尚がじっと私を見ている。何か私を通して奥底にあるものを見るような目で。私はこの和尚ならもしかして力になってくれるかもしれないと思い、

「说了很长的话・・・」(長い話になりますが・・・)

「那么,请在里面喝茶」(では、奥でお茶でも)

 そう言われてお堂の奥の和尚の部屋に通された。

すっきりとした部屋には、不動明王の仏画と法具が置かれ、その横には書棚があり、びっしりと経典らしきものが並んでいる。新しいものもあれば、そうとう古いのか、ボロボロになっているものもあった。背面に品のいい組子細工が施された椅子に座り、お茶をいただく。あまり知られていないが、お茶は古くから四川で栽培され、最も重要な地とされてきた。歴史上、茶の生産は紀元前1066年より生産されていて、皇帝に献上されていた。

 「真是太甜了,好喝的茶啊。」(とてもあまい、おいしいお茶ですね。)                          「这是蒙顶甘露绿茶。」(これは蒙頂甘露という緑茶だよ)

 「四川的茶很有名。特别是这种茶。被皇帝献上了。」(四川のお茶は有名なんだよ。特にこのお茶はね。皇帝に献上されていたんだよ。)

 「那么,那么你是从哪里来的呢?」(さて、それでそなたはどこから来たのじゃね?)

 信じてもらえないかもしれないと思いながらも、私は素直にすべてを話した。たどたどしい切れ切れの中国語と筆談。身振り手振りで一生懸命伝えた。そして最後に、驚いて聞いている和尚に助けを求めた。

すると和尚は、意外にもすんなり受け入れ、壁際にある書棚のボロボロになった書物を持ってきた。なんと、そこには時を渡る術が書いてあるというのだ。しかし、それを行うにはたぐいまれな霊力を持つ者でなければならないという。何代も前の和尚が書き残したものだけに不確かなところも多い。それでも、すがるところはここしかない。家族の顔が浮かぶ、腹をくくった。

 「和尚,请让我修行」(和尚、修行させてください)

dive36に続く・・・・

 

Today's Schedule
2026.10.30 Friday