大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-07-31 20:59:00

dive44

 テーブルの上にドンと置かれた担々麺。この中に飛び込むなんて馬鹿な話、昭和のアニメにもなかったなぁ。いい大人が4人そろって真面目にそれをやろうっていうんだから、笑っちゃうよな。そう思うと緊張の糸もほどけていく。

「干吧!气势!气势!气势!」(やるぞ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!)

 和尚たちにはわからないだろうが俺は今アニマル浜口を味方につけた。そして心の中で♬クレイジーモンキーをスタートさせ、ジャッキーを憑依!先日とは違い、潜るべき担々麺は目の前にあるのでイメージしやすい。そうだ、あの時を思い出せ。潜れ!潜れ!あの中に!少しずつ体の周りを包む靄のようなものが現れだした。和尚が印を結びながら、タイミングを見計らっている。王さんはこちらを見て異変に目を丸くしている。集中して目を閉じ、思う。救うんだ、みんなを救うんだ、力をくれ、私に力を貸してくれぇー!靄が全体を包み、光だした。そしてどんどん凝縮されるように光が濃くなっていく。激しく渦を巻くように体の周りを巡る光の包みが輝きを増したその瞬間、和尚が、藍生!と叫んだ。その声に麗華さんが一瞬、びくっとして座り込んでしまう。同時に光の渦がギュッと小さくなってどんぶりの中に飛び込んでいく。今度は目が回らないように縮む瞬間に目を閉じ息を止めた。バシャン!と大きな音がして風呂にでも飛び込んだように熱い。足が踏ん張る場所を探すが、宙を蹴っているようにもがもがするだけで力が入らない。手に当たるものがあったので、それを掴んで体を引き寄せる。あれ?息ができる。でも熱い。熱くてもたない。「和尚!」と心の中で叫ぶ。

「没关系吗?看见什么?请找发光的石头。」(大丈夫か?何が見える?光る石を探すのじゃ。)

「好烫!太烫了!」(熱い!熱すぎるよ!)

「不能冷却。冷却后石头就会消失。赶紧!」(冷ますことはできぬ。冷ませば石は消えてしまう。急ぐのじゃ!)

和尚め!帰ったら熱々の風呂につけてやる。そう思いながらも周りを見回して探す。しかし、ゴマや砕いたナッツが行く手を阻む。王さん、もうちょっと少なめでお願いします。あー!でもそうしてケチって作ったら石が出現しないのかも、と思うと複雑な感じだ。早く探さなくちゃ。それにしても視界が悪い。それでも麺の間をくぐっていくと右手の甲にカチンと当たるものがあった。掴もうとするとぬるっと逃げる。あれ、石じゃないのかと思い、目の前になるように泳いで見てみる。青緑に光る宝石、そう、まるでエメラルドのようだった。掴もうとするとすり抜ける。するり、ぬるん、つるっ、何度やってもつかめない。熱くなってきた。もう限界だ。和尚につかめないこと、熱くて限界なことを念で送る。すると、書物には素手でつかんだと書いてあった、まとった霊気が守ってくれると。こんなに熱いのに素手なんて、というと、掴んだ瞬間に術を解くという。じゃあ、桶にいっぱい冷たい水を用意しておいてくれと頼み、準備ができたところで手袋を外した。ぐあーー!熱い熱い、何が守ってくれるだ!めちゃめちゃ熱いじゃないか。早く宝石を!急いで掴む。掴めた。早く術を解いてくれ!

 どんぶりから飛び出ると、冷たい水をジャバジャバかけられた。石を握りしめた手を、桶に張った冷たい水で洗うようにほどいていく。顔にかけられたマスクを外し、急いで石を見る。中から出てきたのは、先ほどガラス越しに見た宝石だったが、先ほどとは段違いに輝いている。見たことのない大きさの宝石の塊を手にして眺めていると。ずぶ濡れの私を心配して、麗華さんが駆け寄り、顔を拭いてくれた。その麗華さんの後ろから、王さんが飛びついてきた。びっくりしてる私の頭をわしゃわしゃとなで

「太好了。干得好!呵呵・・・」(やったな。よくやった!あははは・・・)

王さんが笑うのを見て、ようやく私も笑った。私が笑うのを見て、みんなの緊張も解け笑いあって泣いた。なんか、うれしくて。うれしくて。そしてみんなで約束通り担々麺を食べた。実にうまく、心を軽やかにしてくれる一杯だった。そしてまた皆でおおいに笑った。

しかし、その数日後、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかった。

dive45に続く・・・・

2020-07-30 18:58:00

dive43

 次の日、朝の修行が終わるころに、藍染屋がやってきた。

 「已经做好了,请试穿一下。是最上等的蓝染。」(仕上がりましたので、ご試着ください。最上位の藍染めです。)

 持ってきた包みから丁重に出された衣は夜明けの天空の様に染め上げられ、見る者の心を穏やかにさせ、すべての物を清めてくれる力を持っていそうだった。藍染めとは奥の深いものだと改めて感心する。広げてみると背中にみかん色の文字で『潜航厨師』という刺繍が施してあった。潜る料理人って私のことか?はぁ、やっぱり私がやるんだな。自分で、やると決めてはいたが、人から『さぁ!」と言われるとちょっとしり込みしてしまう。本番に弱いタイプなのかなぁ。みんなやる気になっているのに潜る人がビビッてどうする。でも危険なのは私だけなんだよね。弱い部分が顔を出し私の心を蝕んでいく。いったん染まり始めるともう手が付けられなくなってしまう。気分が重くなり下を向いてしまう。連鎖反応の様に体がこわばり座り込んでしまいそうになる。まるで一人ぼっちで歩く寂しい真冬の夕暮れのようだ。残りかすのような気力を振り絞り、こわばった体にぎこちなく羽織ってみる。すると、肌に触る柔らかな感触に春の風のようなすがすがしさがあった。何だろうこの衣、しなやかで軽く、動きやすい。そうして動いているうちに体のこわばりもほどけていく。さっきまでの弱気が影を潜めていく。私が救うんだ。そう背骨の芯にまで言い聞かせ、喝を入れる。顔や手先、足先まで覆うようになっているので青いスキューバダイビングのスーツのようだ。頭部は生地が分厚くなってい目のところにガラスがはまっている。よし行こう!

 青い衣を背負い和尚と一緒に山を下りる。なぜか今日の和尚は口数も少なく、いやによそよそしい。和尚があまり私の目を見ないような気がして。あんまり気になったので思い切って聞いてみた。すると、何の関係もない私にこんな危険な役目をさせることを考えて、いまさらながら自分のふがいなさに申し訳なく思っていたそうだ。さっきまで悩んでいた自分と同じように悩んでいたとは、話してみて何かすっきりしたような感じがした。気が晴れた私は勢いあまって

 「没关系!交给我吧。结束后一起吃呵呵的担担面吧!」(大丈夫!任せなさい。終わったら呵呵の担々麺を一緒に食べよう!)

そういって豪快に呵呵(アハハ!)と笑って見せた。それを見た和尚は、一瞬呆気にとられたが、一緒になって笑った。二人とも空元気なことなど十分承知の上であったが、ちょっとでも弱気を見せると、ずるずると引き込まれる沼が足元に広がっているような気がして無理に笑った。

 呵呵に着くと『本日休業』の札がかかっていた。三人そろった。王さんも気合十分!麗華さんが心配そうに見守る中、早速調理にかかる。その間に私は衣を装着する。顔のところは和尚に手伝ってもらって準備完了。麺をゆでる王さんの顔も真剣だった。和尚にいつものようにお客さんに出すときの気持ちで作るのじゃぞと言われながら作っていく。ゆであがった麺に薬味とゴマ、ナッツをかけ最後に肉そぼろと辣油の入ったたれをかけ完成。準備はすべて整った、いざ!

dive44に続く・・・・

2020-07-30 00:25:00

dive42

 「和尚,怎么了?蓝生!为什么摇摇晃晃的?」(和尚様、どうしたんですか。藍生!どうしてふらふらしてるの?)

 和尚様が今までのいきさつを王さんに話した。最初はびっくりしていた王さんだったが、全部聞いて真剣な目になり一言だけ言った。

「如果和尚相信的话。」(和尚様が信じてくれるなら)

和尚にそう言うと、今度は私の手を取り

「藍生!拜托了。我也会努力的。」(藍生!頼みます。私も頑張るよ)

と強く握りった。その手は分厚く、温かく、何か大きなものに守られるようで安心感をくれた。

ああ、やっぱりこの人しかいないだろう、こんなことを頼めるのは。そう確信させてくれる手だ。何だろう、温かな何かが流れ込んでくるようで、仏様ってこういう風なのかなと錯覚さえさせるこの人を、今では何の迷いもなく「師匠」と呼べる。料理人としても、人生の先輩としても。私はこんな人に出会えてよかったとしみじみと思った。人生でいろんな人に会う中で、その人の人となりを感じ、あまり深入りをしないでおこうと思うことは少なくない。それは相手にとっての私も同じことだろう。長く生きていればいろんな人に出会ったおかげなのか、そのせいなのかはわからないが、子供の時の様にすぐに友達なれなくなってしまう。何かの欲のせいなのだろう。だまそうとする者、奪おうとする者、意地の悪い者などから身を守ろうとするうちにいろんな鎧を着るのであろう。重くて、身動きの取れない状態で人付き合いをしていくのだから現代社会はストレスがたまるのだろう。身分や立場、年齢や性別、いろんなものでがんじがらめになった場所で生活を続ければ、そこにまた悪いものが溜まっていき、それがまた誰かに向けられるのだろう。私もそんな世界を悲観して生きていた一人だ。そんな人生の中でこんな人に出会えたのは無明地獄に明かりを見るようだ。まさにこれが救いではないだろうか。昔、長野善光寺の胎動巡りに行ったときに、真っ暗闇の中進み、いつまで続くかわからない、何があるかわからない恐ろしい世界というものを体験した後に出口に外の明かりがさしたのを見て救われたと感じた。このとき見た光に王さんの存在が重なる。私もこの人に精一杯応えよう。

 約束して寺に戻る道すがら、あの麺料理屋を見に行った。相変わらず地元の人は見ないがそれでも流行っていた。和尚に、この先もこんなことが起こるんじゃないかと聞いたが、じゃあ、あの店に営業を止めるだけの証拠があるか?と言われ何とも歯がゆい思いをした。現代社会の様に科学的な証拠があるわけでもないのに、皆に行くなというのは単なる営業妨害になる。どうしたら、と思っていたら和尚が

「大家也没那么傻。总有一天那样的店会消失。」(皆もそんなに馬鹿ではないよ。いずれあのような店は消えるでしょう。)

と慰められた。

 寺に戻るとイーチンがお菓子のお土産を期待して寄ってきたが、ないと知るとさっさとみんなのところに帰っていった。申し訳ないことをした。小僧の姿に、自分が小さいころ誰かに買って来てもらうお土産をいつも楽しみにしていたのを思い出す。おばさんが買って来てくれたパンがいつものパンと違ってむくれたり、親父が飲んだ帰りに買ってきた寿司折に好きなタコが入っていなくて悲しんだり。買って来てくれるだけでありがたいのに。今度から山を下りたら必ず買ってこなくちゃと懐かしみながら贖罪の様に心に決めた。

dive43に続く・・・・

2020-07-26 20:54:00

dive41

 目が覚めると薄暗い部屋に寝ていた。ものすごい脱力感と、痛みに襲われた。痛いというのも節々が痛いとか、筋肉痛とかではなく、何かが全身を駆け巡った道が痛いのだ。力づくで何かにこじ開けられた感じで手首から腕を通り、肩、背骨から一方は腰を抜けて足へ、もう一方は首を通って額の奥まで。雷に打たれるとこんな感じなのだろうかと、何十の仏が見守る大曼荼羅の天井画を見上げながら考える。仏はなぜ私をここへ連れてきたのだろう、ああ、藍はもう生まれたんだろうな。会いたかったな。じいちゃんここにいますよー。ああ、あの宝石どうなったかなー。大日如来がすべてを見通すような目でこちらをじっと見ている。すべてのことが必然ならば、いつかここに来た理由もわかるのだろうか。流されるままにここにいるけれど。私の信じる言葉の中に「渦中の人」という言葉がある。本来この表現は騒ぎの中心人物のことだが、私が考えているのはちょっと違う。渦に巻き込まれた状態の人には、今、自分がどんな状況にいるのか、外はどうなっているのかなどの判断がつかない。俯瞰で見ることができないという風にとらえる。そう考えると今自分に起こっていることは大変なことだけれども、時を超えて俯瞰で見れば、これはこの先に意味があることかもしれない、というのを、自分は「渦中の人」だから、今は頑張ってこの問題を解決しようという風に変換している。いつでも目の前にある問題を解決していくことで前に進んでいくと信じている。元の場所に帰りたいが、今はこの時代を乗り切らなくては。

 部屋の隅にある扉が開き、一人の小僧が中の様子をうかがっている。一青(イーチン)である。

「藍生!你身体好吗?」(藍生!体は大丈夫?)と言って駆け寄って来た。こんな子供に心配をかけたくないので必死に起き上がる。

「啊,没关系。一青!和尚在哪里?」(ああ、大丈夫だよ。イーチン!和尚様はどこにいる?)

「请稍等一下。我去叫和尚。蓝染店来了。」(ちょっと待ってて。和尚さん呼んでくるね。藍染屋さんも来てるよ。)

藍染屋?ああ、そういえば、話に聞いた若旦那が藍染屋さんだったな。潜るのにも藍染の衣がいるって言っていたなぁ。いよいよ、潜ることになるんだな。よし、やるか!

 部屋に和尚が藍染屋を連れて来た。衣を仕立てるために採寸するのだ。藍染屋に先祖の話を聞くと、

「我在问祖先那件事。是真的呢。你潜入里面吗?做最好的衣服。」(先祖に話は聞いていました、本当だったのですね。あなたが潜るのですね?最高の衣を作ります。)

 話を聞くと、先祖の若旦那は、この先もし同じことが起きた時にもっといい衣を作ることができるよう、何回も試作品を作っていたようで、型紙が用意されているそうだ。あとは潜る人に合わせて作ればいいようにしてあったので、すぐに作り始めるそうだ。

 後は麺料理だけそろえば潜って取ってくる準備は完了だ。私にはそれを作ることのできる料理人に心当たりがある。和尚も同じだ。そう王さんの作る「呵呵の担々麺」だ。採寸が終わると早速二人で山を下り呵呵に向かった。私には確信があった。あの食べた後の幸福感、きっとあの中にはそういう善意、良心の塊、宝石があるに違いない。同じ料理人としても尊敬できるあの人以外にいないだろう。和尚にそのことを言うと、笑ってうなずいていた。

「王先生!」(王さん!)

dive42に続く・・・

 

 

 

2020-07-25 21:33:00

dive40

 早速、特訓を始めるも、本人的には何の手ごたえもない。和尚の言う『思い』というのも、具体的にあの麺料理の中に入りたいと考える、というくらいで、やってはいるけど、今何パーセントぐらいできているのかとかさっぱりわからない。和尚は、

「完全不行!再集中一点!」(ぜんぜんだめじゃ!もっと集中しなさい)

というばかりで、何がいけないのかもわからない。王、長嶋からバッティングを教わっているよう。グンときてバーーーン的な感じ。

 しかし、和尚には光が見えるらしい。集中して思いが高まっていると、霊力も高まって光り輝くそうだ。今の状態はうすぼんやりした感じらしい。雑念が邪魔してるらしい。そのことだけを考えろと言われるのだけど、もう全然わからない。あーー、誰か助けて。ジャッキーーーー!何度やってもダメな時、私は『笑拳』(クレイジーモンキー)というジャッキー映画の中でも一番好きな映画を思い出す。ジャッキー初監督作品、クライマックスシーンでコテンパンにやられてしまうジャッキー。もう駄目だと思ったときにジャッキーはよろよろと立ち上がり『まだ負けてない、やり直しだ!いくぞ、見てろ!』と奮起するのである。私が幼き頃に見たヒーローは『あきらめない』を教えてくれた。そうだ、まだ負けてない、やり直しだ!初めからもう一回だ!何度でもやってやる。頭の中で映画の曲が流れる。♬クレイジーモンキー、俺を呼べ、お前が必要な時は俺を呼べ!お前のトラブルを解決してやる!アハハ、クレイジーモンキー

集中しろ!集中しろ!集中しろ!

あの中に、潜るんだ!、潜るんだ!、潜るんだ!

信じろ!私は潜って取ってくるんだ。そして人を助けるんだ!

その時、和尚が

「それだ!」と叫ぶが早いか印を結び、気合を入れる。

和尚の気合と同時に、ぐっと体が熱くなる。和尚に言われて結んでいた同じ印に同調して力が流れ込んでくる感じがする。それと同時に体を包むように緩やかな風のようなものに包まれる。 うすぼんやりした白い靄のような光がまとわりつき、まるで繭になってるようだ。潜る、潜る、潜る。それだけを考えろ!中へ!中へ!中へ!周りの空気ごと圧縮されていく感じだ。まとっている光が凝縮してどんどん激しくなっていく。ぐああ、なんだ、まぶしい!一瞬まばゆいばかりの光に包まれたかと思うと世界がゆがむ、回る、回る。酔っぱらったときみたいだ。目をつむってじっと耐えていると少し穏やかになってきた。落ち着け、落ち着け、そうだ深呼吸だ。上を向き胸を開いて深く息を吸い込む。鼓動が激しい。ゆっくり、ゆっくりだ。口から少しずつ息を吐いていく。全部吐ききってから、大きく吸い込む。いまだに靄のような光と緩やかな風がまるで体を守る膜の様にまとわりついている。ようやく目を開けて最初に目にしたものは隣にあった大きな岩だ。こんな部屋の中に岩なんて・・・いやいや砂粒か?おいおい私は、縮んだのか?

(藍生。藍生!没关系吗?听得见吗?)(藍生。藍生!大丈夫か?聞こえるか?)

頭の中というか包んでいる膜の中で和尚の声がする。

「听到了哦。怎么样?进展顺利吗?」(聞こえます。どうですか?うまくいったんですか?)

(大成功。好的,放回去。)(うまくいった。よし、戻すぞ。)

そういって術を解いた。今度は元に戻るイメージで・・・戻るとなんだか急に疲れてその場で倒れて寝てしまった。

dive41に続く・・・・

 

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