大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-06-28 21:13:00

dive24

港町につくと海の匂いとごった返した人の熱気でなんだか興奮してきた。

「アオイ、レイユームンは初めてか?海鮮はここが一番だぞ!」

ホウウンがそういいながら先頭を切って水槽がいっぱい並んだ路地をどんどん奥へ進んでいく。

「ホウウン、これ全部魚屋なのか?すごいな、なんだよここ!ナポレオンフィッシュまでいるぜ。これも食べちゃうの?こんなでっかい伊勢海老見たことないよ。」

「蘇眉魚(ソーメイユイ・ナポレオンフィッシュ)は広東料理の最高峰さ!だがこんなの高くて食べられないよ。大丈夫任せておけ!これから行くところのコックは凄腕だぞ。」

「アオイ、今から行くところのコックは昔ホウウンと一緒に働いていたのよ。私ともそこで出会って付き合いだしたの。オウリンもそこで働いていてみんないつも一緒だったの。」

「ここだここだ!林記海鮮酒楼。さあ入って入って。ンコイ(すいません・広東語)」

「あっ!入口の黒板に予約の黄紅運先生って書いてあったよ。コウウンって偉い人だったの?それとも教師なの?」

「アオイ、中国語の「先生」は日本語の「さん」とか「様」という意味でコウウンは偉い人でも何でもないの。」

「オウリン、いいじゃないか偉い人だと言っておけば。何でもないはひどいだろ、おお、林が来たぞ」

「ようこそ、みんな久しぶりだね。そろってくるなんてなんかあったのか。」

「よう!元気だったか?今日はたまたま町であった日本人に香港のうまいものを食べさせてやろうと思って誘ったら、なんでか知らないけどオウリンとズーウェイがくっついてきたんだ。こいつアオイっていうんだ。今日は例のやつあるか?」

「ホウウンが来るっていうからちゃんと仕入れておいたよ、初めまして、アオイ、俺は林白龍(ラムバイロン)ここの店主だ。今日はいっぱい食べていきなよ。ホウウンがご馳走してくれるなんて滅多にないんだから。」

「初めまして、守山葵です。今日は楽しみにしております。よろしくおねがいします。」

「さあさあ、ファイティー(早く)、ベーチャオ(ビール・広東語)ベーチャオ!」

そういって席に案内されたとたんテーブルの上には『生力』と書かれた缶ビールがいっぱい用意された。

『生力(サンリッ・広東語』という名前のビール、本当の名前はサンミゲール。会社自体はフィリピンの会社だけれども、醸造所自体は香港にあるという不思議なビール。これが飲んでみると日本のビールより軽めで暑い熱帯のこの地では飲んでも汗ですぐ出てしまう感じ。後で聞いて知ったことだが香港ではアルコール度が低いお酒、ビールには酒税がかからないから水を買うより安いビールも存在するとか。ガンガン注がれる生の力をいっぱいいただいた。なんだか楽しくなってきたところにお待ちかねの料理が運ばれてきた。なんだか白いペロンとしたものが山積みされたお皿と、魚のあらが入った白濁したスープを火鍋用の鍋にいっぱいにして持ってきた。コンロにかけると火をつけて沸くまで待つ。すると皆が小皿に醤油を入れたっぷりのワサビをチューブから絞って入れる。えーーーーと思うぐらい山盛りのワサビだ。5人しかいないのにチューブを2本空にしやがった。オウリンに聞くと即答で『これが香港スタイル!』ときめ顔で言われた。これで何をするのかと思ってみていると、ホウウンが白いひらひらしたものを箸でガサッとつかむと鍋の中にいれた。おお!これはしゃぶしゃぶだ。でもこれ何、肉じゃない、白というか乳白色でペロンとして・・・

「アオイ、日本じゃこんな食べ方しないだろ?これは象拔蚌(白ミル貝)のしゃぶしゃぶさ。うまいぞ!食ってみろ!刺身でもうまいぞ。」

ああ、さっきここへ来るまでの魚屋の水槽のなかに象の鼻みたいな貝がいたのを思い出した。ちょっとグロい感じのお姿からは想像できないお肌の白さですこと。ホウウンはコックだし、みんなもうまそうに食べているんだからきっと大丈夫だろうと箸ををつけしゃぶしゃぶしてみた。ワサビたっぷりの醤油にちょこっとだけつけて恐る恐る食べてみる。

「うまい!なんだこれ、むちっとしてやわらかいんだね。それでもってあまい!この貝にほんにもあるよね?なんで日本でこうやって食べないのか不思議だよ。」

「そうだろ!うまいだろ!これが此処の名物さ!他では食べられない。このスープがいいんだ。刺身でたべてもおいしいんだけどな。さっと火を通すと触感も味も変わるのがこの貝のいいところさ。さあ、いっぱい食べろ、ほかにもまだまだ来るぞ。」

そう話しているそばからゆでエビやら蒸した赤ハタ、海老みそで炒めた空心菜に、揚げた烏賊にはさっぱりしたソースがかかり、大きな蝦蛄はぶつ切りにして山椒塩で炒めてある。その合間を縫うように注がれるビールを飲む。なんとも楽園の宴のような夜はここのところのざわざわした日常を忘れさせてくれた。

「アオイ、無理して全部食べなくていいのよ。中国では宴席のお皿が全部からになるのは招待主の恥なの。お客さんを満足させられなかったということでね。だからあまって当然なの。日本の風習とはちょっと違うでしょ。」

「オウリン、それは知ってるんだけどさ、此処の料理ほんとにおいしくて、残すなんてもったいなくてできないんだよ・・」

ちょうどそんな話をしているところへバイロンが入ってきて

「そんなことを言ってくれるなんて、本当にうれしいよ。アオイ。俺の料理が日本人にも喜ばれるなんて。」

「俺が日本人の代表なんてわけじゃないけど、俺こんなおいしい料理作れるバイロンはきっと日本人、いや世界のみんなを幸せにできると思うよ。今日は本当にありがとう。」

なんだろうバイロンを見ていると温かい気持ちになり、なぜか両手までもがジンっと熱くなるのを感じた。あれっと思い意識を手に移すと両手のひらの真ん中のあの十字がジンジン熱くなってくる。なんだろう、こんなことは初めてだ。あの日あの村で村長たちの儀式以来、修行の時以外で意識するようなことはなにもおきなかったのに・・・・

dive25に続く・・・

2020-06-16 17:36:00

dive23

...ホテルで待っている間に朱さんにラインでメッセージを送ってみた。するとすぐに返事が返ってきた。

”アオイ、用事が早く終わったので、よかったら夕食を一緒にどうですか?”

事情を説明してリーユイメン(鯉魚門)に行くことを言うと私も行きたいと言ってきた。俺は大勢のほうが色々食べられてうれしいので断る理由もなく、5時にホテルまで来るように言うと近くにいるからすぐにこっちに来ると言ってきた。5時まであと1時間、ちょっと休もうかと思っていたのに・・・まあ仕方ない。暑い香港の町を歩き回ってべたべたしていたので、シャワーを浴びて服を着替えた。朱さんが下に着いたというので休む暇もなく降りて行った。

「早かったね!あれ、後ろにいる女の人は・・」

「友達の黄紫薇(ウォン・ズーウェイ)、彼女もいっしょにいってもいい?レイユームン(鯉魚門・広東語)行きたかったのよねー」

「いいけど、どんどん増えてきたね。あ、ヲーシー(我是・私は・北京語)・・・」

「あ、日本語で大丈夫ですよ。わたしも日本で働いていたので日本語話せますから。私も行ってもいいんでしょうか?桜綾(オウリン)強引だから・・・」

「ああ、いいと思うけど、聞いてみるよ。俺は人数が多いほうが楽しいからいいけど。あ、そうそう、俺はアオイ。守山葵。朱さん、明日は何時の電車で深圳に行くの?」

「東鉄線で香港の端っこ羅湖(ローウー)まで行って歩いて国境を渡るのよ。朝10時ぐらいでいいんじゃない。それじゃあ早すぎる?」

「そうだね、朝起きられるかが問題だけど。どうせチェックアウト10時だから大丈夫だと思うよ。」

そうこうしているうちに黄さんが迎えに来た。

「待たせたな、アオイ。さあ行こうか。これ俺の嫁さん静麗(ジンリー)」

「こんにちは、初めまして静麗(ジンリー)です。アオイさん今日はいっぱい食べましょうね。」

「あれ、ズーウェイ(紫薇)ここで何してるんだ。」

「えっ!兄さん、兄さんこそ何?あれ、まさかアオイさん誘ったのって兄さんだったの?」

「何々、二人兄弟だったの?なんだよ、びっくりしちゃった。でも、じゃあ一緒に行ってもかまわないよね?こっちは飛行機で一緒だった朱さん、彼女もレイユームンに行きたいっていうんだけど。」

「えっ!朱、なんだオウリンも一緒だったの?彼女は俺が働いていたホテルのスタッフだよ。いいよ、いいよ。なんだよ知り合いばかりだよ。アオイえらいのにひっかかったな。こいつ強引だろ。気をつけろよ。いやなことは断っていいんだぞ。」

「ホンウン、余計なことは言わなくていいの。それよりどこの店に行くの?レイユームンの。」

「林(リン)のところだよ。人数増えるって電話しとかないと。あーーもう腹減ってきた、早く行こうか。さあアオイ車に乗りな。まあ、今日は宴会になっちゃったな。」

「よかった、ズーウェイもオウリンも一緒なんて久しぶりじゃない。アオイに感謝しなくちゃ。さあ、行きましょう。」

ジンリーがそう言って二人を連れて車に乗り込んだ。

dive24に続く・・・・

 

 

 

 

 

2020-06-15 01:29:00

dive22

香港まで約4~5時間くらい、ついたらすぐにスマートフォンを中国用のシムに切り替える。これで中国に入ってもローミングで日本にいるときと同じようにSNSが使える。早速ジミーに無事に香港に着いたことを連絡してみた。

 せっかく香港に来たのだからちょっと食べ歩きをと思い、ぶらぶらと尖沙咀(チムサーチョイ)の町をぶらぶらとあるいてみた。空港を出てから日本とは違うニオイにすこし酔ってしまっているようだった。何のニオイだろうか?中国に行った時のニオイとはまた違う感じで何と、何とも言えない、例えるならずっと中華料理屋にいるような、香辛料と油が混ざったような感じだ。前に中国に来た時にも最初に感じたことだが不思議なことに食事を一回とってしまうとなぜだか気にならなくなってしまうのである。早速飲茶でも食べようかと思ってお店を探してうろうろしていると地元の人達がたくさん入っていく店を見つけた。「粵廚點心專門店」という看板がなんとも「ちょっと、寄ってけよ!」と言っているような感じがしたもので・・・入ってみると意外と外国人も多い。そりゃ香港はハブ都市だもんな。国際交流都市ってすごいなー、と感心してしまう。日本語のメニューまであるよ。入って1人だと言うと大きい相席テーブルに案内された。すぐに「ポーレイ」(プーアルの広東語)とお茶も頼み周りを見てみた。いろいろおいしそうだけど、みんな「腸粉」を食べていた。やっぱりみんな好きだよねー。「シャオジェ」とお姉さんを呼びチャーシュー入り腸粉とハーカウ(蝦餃、蝦蒸し餃子)を頼んだ。定番は安定したおいしさでいいねー、日本の横浜中華街の萬珍楼や菜香を思い出す。ちゃんと点心を作るってこういうことなんだよね。豚足のトウチ蒸し、鶏足などもそろってるし、おかゆもいろいろ。米粉(ビーフン)も河粉(ホーフェン)もうまそうだなー。食べていると地元民らしき人が一人入ってきて同じテーブルに座った。

 「ヤップンヤン?」(広東語の日本人?)座るとすぐに話しかけてきた。

 「シャンマ?」(なに?)

 「プートンファ(普通語・北京語)?リーベンレン(普通語の日本人)?」

 「ヲーシーリーベンレン、ツェンマラ?」(日本人だよ、なんか用?)

 「腸粉うまいだろ?ハーカウも。香港には観光か?」

 「うまいねー。やっぱり本場は。深圳に用事があってね。」

 「そうか。いやあんまりうまそうに食べていたから日本人にしては珍しいなー、と思ってな。深圳に?IT系の仕事か何かか?」

 「いやいや、仕事じゃないよ、知り合いに会いに、友達というか、まあ親戚みたいなもんなんだけどね。あれ何で日本語?」

 「昔日本のホテルで働いていたことがあってね。広東料理のコックでね。嫁さんも日本人なんだ。今はこっちで暮らしてる。日本人にはいろいろ世話になったから今でも日本人を見るとついつい話しかけちゃうんだよ。」

 「へー、そうなんだ。明日深圳に行くから今晩どこでご飯を食べようか考えてたんだけど、どこか知らないかなー。一人でも行けそうなおいしいところ。」

 「もしよかったら俺の友達のところに行かないか?鯉魚門(リーユイメン)にあるんだ。俺と嫁さんと一緒に。ご馳走してやるよ」

 「いいの?鯉魚門ってあの漁港市場だろ?おおー!お魚いっぱいかー!楽しみだなー。どこで待ってればいい?」

 「どこのホテルにいるんだ。ん!ウィンザーか。じゃあ5時にフロントに迎えに行くよ。」

 「ピータンのお粥頼もうと思ってたけど、夜に備えてお腹すかせておかないとな。町をぶらぶらして腹を空かせておくよ。じゃあホテルで待ってるよ。えーーと。俺は守山葵。アオイって呼んでくれ。あなたは?」

 「黄紅運、ホンウンって呼んでくれアオイ。じゃあ後でな。」

dive23に続く・・・・

2020-06-14 01:30:00

dive21

 昨日のうちに準備しておいた荷物を1階に下ろし、さくらに黄さんたちが心配だからお世話になった中国の村に行ってくることを話した。どう繕っても話のつじつまが合わなくなり嘘だとばれてしまうので、半分本当で半分うその話を昨日ジミーと作っておいた。さくらの知ってる黄さんなら世話になったのだから文句も出ない。何回も会っている紅美のことも聞いてくると言えば俺の心配より二人の方が心配になるだろう。しかしやっぱり鋭いことを言ってきた。

「黄さんも紅美さんも心配だけど・・お兄ちゃん何でそんなに荷物が多いの?それに1週間って長くない?」

「ん?あーこれ、これは前に向こうでかわいがってた子達にお土産だよ。あー、それからなんか困ったらジミーに相談するんだぞ。まあ中国でもlineは通じるしメールもできる。いつでも連絡取れるんだからそんなに心配すんな。」

ピンポーン!

「おーい!藍準備できたか?」

「さくら、じゃあ、行ってくるね!」

「お兄ちゃん、これ、持って行って」

そう言って小さな手作りの人形を手渡した。桜色の小さな女の子のマスコットは剣道着を着て竹刀を持っていた。

「おい、飛行機の時間に遅れるぞ、さくらちゃんあとでまた来るね!」

藍は逃げるように、でも名残惜しく車に乗る。ジミーがさくらに何か言っている。運転席にジミーが乗り、車を出す。振り返らない様に我慢している姿を横目に見ながら

「会社はどうだった。何か言ってきたか?社長は?」

「ああ、プレゼンを見に来たのはブラストンの奴らだった。社長も来たけど俺には関心なさそうだった。休みを普通にくれたから別に何も感づいてないようだ。それよりお前のほうにはなんか来たか?」

「いや、コネクトシステムのことでちょっと聞かれたくらいかな。スーツの管理システムのことは深くは聞いてこなかったかなー。まあ俺に直接聞いてくるってよりは、灰田課長から上司に連絡が入って間接的に聞かれる程度だから・・・」

「そうか、じゃあまだ俺たちに分があるな。あと黄さんと紅美だな。スーツのこともあるし、直接成都に飛行機で行くと怪しまれそうだから一度香港に行って鉄道で四川に向かうことにしたよ。もし何かあったらサポート頼む。」

「ああ、でもそっちには俺の代わりにキッドがいるからな。普段はイヤホンをしておけばBluetoothでつながるし、Wi-Fi環境下でアップデートもできるし、何かあればこちらにも送信されるようになっている。心配ないよ。」

 さくらのことは心配だけどジミーもついているし、師範の会社である白馬化学繊維工業に勤めていて、何かあったら師範やおじさんが守ってくれる。あの会社には師範が剣道部を作っていて県内の強いやつをスカウトしては道場で戦わせている。というより自分が戦いたいようだ。さくらはその中でもまれてどんどん強くなっているらしい。最近、切れというかスピードが増してるというか。師範に聞くと先の先だとか先の後だとか言ってたな。最近居合とかもやってるらしい。そんな奴守るっていうか・・・・

 空港についてチェックインを済ませ、紅美に電話をしてみる。相変わらずつながらない。黄さんもダメだ。香港までは大丈夫だけどそのあとはどうしよかと考えていた。とりあえず深圳(しんせん)まで行ってからだ。

 飛行機に乗ると緊張が少しほどけた。何かに狙われてる感が少し緩んだからだろうか。窓の外を見ていると隣の人がしゃべりかけてきた。

「一人旅ですか?」

 俺より少し年上かな、ちょっと中国人なまりというかイントネーションが気になった。細めの体にフィットしたタイプの濃紺スーツに黄色いスカーフがお姉さん感を増していた。

「はあ、旅ってほどではないんですけど、ちょっと知り合いに会いに。」

「そうなんですか、私は実家に帰るだけなんですけど。深圳まで。ちょっと香港によってから。」

「深圳ってことはやっぱり広東料理ですね、ぼく好きですよ。点心とかも。腸粉とか大好きです。」

「本当ですか?あなたは日本人ですか?初めてです。腸粉好きっていう人。おいしいですよね。朝食によく食べますよ。どちらまで行くんですか。」

「とりあえず香港によってから深圳に」

「へー、じゃあ一緒ですね。よかったら腸粉のおいしいところ教えますよ。腸粉が好きってことは米粉も好きよね?」

「はい、はい、はい好きです。大好きです。いいですねー、もしかして生ビーフンですか?ぜひ教えてください。いやーやっぱり地元の人の情報はいいですよね。でも、香港で用事があるんですよね?」

「たいした用事ではないので1日で終わります。明日には深圳に行けますよ。明日一緒に行きますか。」

「楽しみが増えました。よろしくお願いします。僕は守川藍と言います。チムサーチョイのウィンザーホテルにいます。何かあったら連絡ください。」

「私は朱桜綾(シュウ ヨウリン)と言います。楽しみにしていてください。」 

そう言って連絡先を交換した。

dive22に続く・・・

 

2020-06-13 01:31:00

dive20

 翌日、プレゼンをするために朝早く会社にいって準備をしていると灰田課長がやってきた。

「守川君、今日のプレゼン頼むよー、直々に社長が来るんだから失敗は許されないぞ、資料はそろっているようだね。」

「課長、大丈夫ですよ。それより僕これが終わったら連休とらせてもらうって話大丈夫なんですよね?もう予定いれちゃってるんですけど。」

「ああ、その話ね。それはプレゼン次第だ。」

「じゃあ、頑張ります。」

課長の背中に声をかけた。まあ、会社用のスーツはだいぶ前にできてたんだけどね。材質もだいぶ違うし、つなぐAIも温度、人体管理が中心でうるさいほどしゃべってこない。でも消防隊とかレスキューならこれでも十分だと思う。それより会社をどうやって辞めるかだ。怪しまれないようにやめないと俺殺されちゃうんじゃないか。こんな時に紅美がいてくれたらよかったのに。そういえば紅美大丈夫だったんだろうか。黄さんも電話がつながらないし、ほんとに状況がつかめない。でももしあの社長たちの話が本当だったら早く俺も行動を起こさなければ・・・

 完成品と資料をもって本館のほうに移動する。プレゼンルームについて資料をテーブルに置きパソコンをつなぐ。早く終わらせたいというか逃げ出したいという方が正確だろう。準備していると何人かが部屋に入ってきた。見たことない人たちだ。だいたい別棟の俺はこっちの棟のお偉いさんたちのことはあまり知らないけど社内のネットワークをのぞいて顔ぐらいはだいたい知っていた。でもこの人たちはうちの会社の人間ではなさそうだ。あんな怖そうな外人とか見たことないよ。なんだよこれ、どいつもこいつも悪党に見える。襟のバッジにBSのマーク、あれはブラストンの社章。おいおい俺ここで何かされるのか?それでもやり遂げないと先に進めない。

 最後に社長が来て皆がそろった。灰田課長が俺を紹介して始まった。

「レスキュースーツ開発担当の守川です。私が開発したスーツは特殊な炭素繊維で出来ており、繊維の中を液状のナノマシーンが巡り外部温度の影響を受けずに作業ができます。例えば氷点下60度の世界でも、高温の揚げ油の中でも。現在はこの程度ですがこのまま研究を続ければ宇宙服にも転用できることでしょう。そしてこのスーツのシステムをつかさどるAIがゴーグルに搭載されていてゴーグルのグラス部分に映し出され、口頭で命令すればネットなどにもつながり瞬時に答えを出してくれます。インカムに直接AIが指示を出してくれるので視界が遮られても大丈夫です。GPSもつかえますので災害地での作業に役立ちます。ゴーグルに搭載されている2台のカメラで撮られた映像はすぐに本部に送り解析されその場所の地図、現場の障害物などの位置などを立体的に描くことができ、何人かで一帯の状態を共有することにより本部もより判断しやすくなります。これは大規模な災害現場で個々だけの判断による2次災害を防ぐことができる画期的なシステムです。その名もコネクトアイシステム(CIS)です。このスーツシステムを導入することにより隊員の人命も被害者の人命も確実に救うことができます。ご説明は以上です。何かご質問があればどうぞ。」

「このスーツ衝撃にはどうですか。例えば瓦礫が落ちて来たり、何かがぶつかってくるとか」

「先ほど言ったスーツの生地である特殊な炭素繊維というのは超高度のチューブ状になっておりその繊維をハニカム構造にし、また烏賊の身の部分のような何層もの垂直に重なる構造になっているため衝撃に強く、一点にかかる力も分散します。」

それからいくつかの質問に答え、結構いい手ごたえにこれからのことを忘れそうになったころ、最後に社長が質問してきた。

「先ほどの衝撃にも強いというところ、一点に力がかかるシチュエーションというのは銃弾に対してもということかね。」

「実際に試してはないですが・・・・数値上問題はないと思われます。」

その言葉を聞くと社長は席を立った。そして他の人たちも資料をもって部屋を出て行った。最後に灰田課長に

「よかったよ、皆の反応は明日会議にかけてからじゃないとわからないけど。とりあえず明日から10日間休んでいいよ。ご苦労様。研究棟のカギは預かっておくよ。今日はもういいよ。」

俺は言いたいこともあったけど疲れたふりをして早々に帰った。

dive21に続く・・・

 

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2026.10.30 Friday