大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」
dive24
港町につくと海の匂いとごった返した人の熱気でなんだか興奮してきた。
「アオイ、レイユームンは初めてか?海鮮はここが一番だぞ!」
ホウウンがそういいながら先頭を切って水槽がいっぱい並んだ路地をどんどん奥へ進んでいく。
「ホウウン、これ全部魚屋なのか?すごいな、なんだよここ!ナポレオンフィッシュまでいるぜ。これも食べちゃうの?こんなでっかい伊勢海老見たことないよ。」
「蘇眉魚(ソーメイユイ・ナポレオンフィッシュ)は広東料理の最高峰さ!だがこんなの高くて食べられないよ。大丈夫任せておけ!これから行くところのコックは凄腕だぞ。」
「アオイ、今から行くところのコックは昔ホウウンと一緒に働いていたのよ。私ともそこで出会って付き合いだしたの。オウリンもそこで働いていてみんないつも一緒だったの。」
「ここだここだ!林記海鮮酒楼。さあ入って入って。ンコイ(すいません・広東語)」
「あっ!入口の黒板に予約の黄紅運先生って書いてあったよ。コウウンって偉い人だったの?それとも教師なの?」
「アオイ、中国語の「先生」は日本語の「さん」とか「様」という意味でコウウンは偉い人でも何でもないの。」
「オウリン、いいじゃないか偉い人だと言っておけば。何でもないはひどいだろ、おお、林が来たぞ」
「ようこそ、みんな久しぶりだね。そろってくるなんてなんかあったのか。」
「よう!元気だったか?今日はたまたま町であった日本人に香港のうまいものを食べさせてやろうと思って誘ったら、なんでか知らないけどオウリンとズーウェイがくっついてきたんだ。こいつアオイっていうんだ。今日は例のやつあるか?」
「ホウウンが来るっていうからちゃんと仕入れておいたよ、初めまして、アオイ、俺は林白龍(ラムバイロン)ここの店主だ。今日はいっぱい食べていきなよ。ホウウンがご馳走してくれるなんて滅多にないんだから。」
「初めまして、守山葵です。今日は楽しみにしております。よろしくおねがいします。」
「さあさあ、ファイティー(早く)、ベーチャオ(ビール・広東語)ベーチャオ!」
そういって席に案内されたとたんテーブルの上には『生力』と書かれた缶ビールがいっぱい用意された。
『生力(サンリッ・広東語』という名前のビール、本当の名前はサンミゲール。会社自体はフィリピンの会社だけれども、醸造所自体は香港にあるという不思議なビール。これが飲んでみると日本のビールより軽めで暑い熱帯のこの地では飲んでも汗ですぐ出てしまう感じ。後で聞いて知ったことだが香港ではアルコール度が低いお酒、ビールには酒税がかからないから水を買うより安いビールも存在するとか。ガンガン注がれる生の力をいっぱいいただいた。なんだか楽しくなってきたところにお待ちかねの料理が運ばれてきた。なんだか白いペロンとしたものが山積みされたお皿と、魚のあらが入った白濁したスープを火鍋用の鍋にいっぱいにして持ってきた。コンロにかけると火をつけて沸くまで待つ。すると皆が小皿に醤油を入れたっぷりのワサビをチューブから絞って入れる。えーーーーと思うぐらい山盛りのワサビだ。5人しかいないのにチューブを2本空にしやがった。オウリンに聞くと即答で『これが香港スタイル!』ときめ顔で言われた。これで何をするのかと思ってみていると、ホウウンが白いひらひらしたものを箸でガサッとつかむと鍋の中にいれた。おお!これはしゃぶしゃぶだ。でもこれ何、肉じゃない、白というか乳白色でペロンとして・・・
「アオイ、日本じゃこんな食べ方しないだろ?これは象拔蚌(白ミル貝)のしゃぶしゃぶさ。うまいぞ!食ってみろ!刺身でもうまいぞ。」
ああ、さっきここへ来るまでの魚屋の水槽のなかに象の鼻みたいな貝がいたのを思い出した。ちょっとグロい感じのお姿からは想像できないお肌の白さですこと。ホウウンはコックだし、みんなもうまそうに食べているんだからきっと大丈夫だろうと箸ををつけしゃぶしゃぶしてみた。ワサビたっぷりの醤油にちょこっとだけつけて恐る恐る食べてみる。
「うまい!なんだこれ、むちっとしてやわらかいんだね。それでもってあまい!この貝にほんにもあるよね?なんで日本でこうやって食べないのか不思議だよ。」
「そうだろ!うまいだろ!これが此処の名物さ!他では食べられない。このスープがいいんだ。刺身でたべてもおいしいんだけどな。さっと火を通すと触感も味も変わるのがこの貝のいいところさ。さあ、いっぱい食べろ、ほかにもまだまだ来るぞ。」
そう話しているそばからゆでエビやら蒸した赤ハタ、海老みそで炒めた空心菜に、揚げた烏賊にはさっぱりしたソースがかかり、大きな蝦蛄はぶつ切りにして山椒塩で炒めてある。その合間を縫うように注がれるビールを飲む。なんとも楽園の宴のような夜はここのところのざわざわした日常を忘れさせてくれた。
「アオイ、無理して全部食べなくていいのよ。中国では宴席のお皿が全部からになるのは招待主の恥なの。お客さんを満足させられなかったということでね。だからあまって当然なの。日本の風習とはちょっと違うでしょ。」
「オウリン、それは知ってるんだけどさ、此処の料理ほんとにおいしくて、残すなんてもったいなくてできないんだよ・・」
ちょうどそんな話をしているところへバイロンが入ってきて
「そんなことを言ってくれるなんて、本当にうれしいよ。アオイ。俺の料理が日本人にも喜ばれるなんて。」
「俺が日本人の代表なんてわけじゃないけど、俺こんなおいしい料理作れるバイロンはきっと日本人、いや世界のみんなを幸せにできると思うよ。今日は本当にありがとう。」
なんだろうバイロンを見ていると温かい気持ちになり、なぜか両手までもがジンっと熱くなるのを感じた。あれっと思い意識を手に移すと両手のひらの真ん中のあの十字がジンジン熱くなってくる。なんだろう、こんなことは初めてだ。あの日あの村で村長たちの儀式以来、修行の時以外で意識するようなことはなにもおきなかったのに・・・・
dive25に続く・・・

