大将のブログ 冒険小説「らーめんダイバー」

2020-05-09 00:52:54

dive16

 次の日、どうにも心配なので中国に行ってくるという紅美を見送り会社に行くと俺にスーツのプロジェクトを一任しっぱなしでお飾りのようにいる普段どこへ行っているのかわからない灰田課長が研究室にいた。 

「あれ、課長おはようございます、珍しいですね。なんかあったんですか。こんな離れ小島の研究室に。」

実際、俺の研究室だけ古い別棟にあり、他は倉庫ばっかり。最初は俺の研究にはあんまり期待していないのかなぁとも思ったが、かえって一人のほうがやりやすいのでありがたかった。

「うーん、そろそろ試作機ができそうだとこの前言ってたからどうかなぁと思ってきたんだけど、どんな感じ。」

「あと2日くらいで試作機をお見せできると思います。できたらすぐに連絡します。」

(あれ、課長あんまり俺の研究に興味なさそうだったのに。ほかにいろんな研究も受け持ってるからなんか間違えてきたのかな。)

「課長、この研究がひと段落ついたらちょっとお休みをいただきたいのですが。身内が体の具合があまりよくないようで。遠方にいるものでまとめて休みをとりたいのですが。」

「あぁそうか。ずっと有給休暇もとっていなかったから今度の夏休みと一緒にとればいいよ。まあこれが完成してからだけどね。じゃあ楽しみにしているよ。」

「有難うございます。では急いで仕上げにかかります。」

後ろ姿にそういうとロッカーのカギを開けた。が、なぜかカギが開いていた。昨日閉め忘れたのだろう。会社用試作機を取り出しちょっと着てみた。なかなかいい出来だ。実はこっちはとっくにできあがっていた。黒石化学のロゴ『kuroisi』という文字が胸に銀色で入れてある真っ黒いスーツ。こっちは温度調節機能がメインのスーツで背中にバッテリーと、ナノマシーンのタンク、あと小型酸素ボンベを背負うことになる。黒石だけにすべてが黒だ。そして銀色のゴーグルに銀色のボンベとけっこうスタイリッシュに仕上げてみた。というのも何度か見かけた此処の社長『黒石銀次郎』にちなんでの色合いだ。自分でも常に黒スーツに銀色のネクタイ。そのせいか社の製品もすべてこのカラーリングだった。まあ依頼された企業のカラーにしてしまうのでこのモデルはこの試作機だけになるかもね。プロジェクト自体ほぼ俺一人でやっていたのでこの特殊な生地の製造もあまり大きなところには頼めず、黒石の元下請け企業の白馬化学繊維工業に依頼した。ここの社長、実は俺たちが通っている道場の師範なのだがいろいろあって黒石が大嫌い。本当はもう仕事は受けないと言っていたが、俺の頼みということでやってもらったのだ。師範にはもう一つお願いしてあった。それはもう俺の家に保管してあるのだが、あとはジミーが作っているゴーグルと接続したら完成することになる。これが完成したら一度中国の村長のところへ行ってこようと思い休みをとるつもりでいる。ようやく一つ大きな問題をクリアーすることができる。早く会社用のものを終わらせてしまわなくては。テストするために一度着てみると、なんだか今までの苦労の思い出が押し寄せてくる。何度やっても温度調節がうまくいかずやけどしたこと、繊維が途中で詰まってしまい爆発して掃除で大変だったこと、バッテリーが発熱して燃えたこともあった。大学在学中から数えると丸5年かかった。しかし会社もよくこんな小僧に任せっきりでやらせてくれたもんだよな。そんなことを考えながらゴーグルを装着しメインタンクとボンベをつけレギュレーターをくわえプールにダイブした。冷却プールにはられたエタノール80%の水溶液はマイナス60度を保つようにできており、ほとんどのものがカッチンコッチンの世界。遠洋マグロの凍結温度だ。その中に入ってスーツの性能をテストする。モーターの音が激しくするのをきくとちゃんと機能していると安心できる。ゴーグルのモニターには外部温度とナノマシーンの温度そして俺の体温と心拍数。バッテリーの残量が残り95%を示している。少し水槽の中で動いてみると確かに液体の抵抗はあるが寒さはみじんも感じない。30分してバッテリー残量も50%になったので一度上がり今度は隣の油のタンクへ。こちらは200度に。カラッと上がる温度だ。恐る恐る入るが、こちらも難なくクリアーした。自分で作って何度もテストしたが、全身入るときはやっぱり怖い。リフトに乗って入っているので緊急ボタンを押せばすぐ上がれるのだが、何が起こるかなんて予想できないから、入るときは結構な覚悟がいる。録画したテストシーンを見直しちょっと休憩した。疲れてちょっと寝てしまった。起きると薄暗くなっていて時計を見たら6時になっていた。明日にはプレゼンができることを課長に報告に行こうと少し離れた本館のほうへ行った。本館に来るのは久しぶりで何回来てもわからなくなってしまう。その上先日、部署の引っ越しがあったものだから迷ってもう一つ隣の特別棟のほうへ来てしまった。するとちょうどそこに課長がエレベーターに乗る姿を見たので追いかけた。しかし扉は閉まってしまい次のエレベーターを待つことになった。13階で止まったのを見て後を追った。なぜか10階でエレベーターが止まってしまい仕方なく階段で上がった。13階に着くと暗い通路の奥に一つだけ明かりのついた部屋があった。なんだか怪しげな感じがしたので息を殺し、足音を立てないようにして近づくと中から課長の声がした。

Today's Schedule
2026.10.30 Friday